第15話
ロマはファイルをクリックして、中身を見ようとする。
しかしながら、案の定そのファイルにもパスワードがかけられており、中身を見ることは敵わない。
「ねえ、オール・アイ、このパスワードを――」
解いて欲しいの、という言葉が出る前に。
オール・アイは彼女の額に手を当てていた。
「何を……」
「あなたは知るべきではない。知るべきではなかった、この世界の真実に」
黒い靄が彼女の額から出てきて、それがオール・アイに吸い込まれていく。
「あ……あ……」
「まさか、ここでまた眷属の力を使うことになろうとは、思いもしませんでしたよ。……ま、あなたには知る必要もないことでしょうが」
「あ……がは……っ」
白い泡が口の端から吹き始める。そこで漸く彼女は手を離した。
同時にパソコンを思い切り地面にたたきつけ、そして基盤からパソコンは破壊された。
「……あれ? 私、なんでここで……」
「何をしているのですか、ロマ。あなたは『ロケットを探しに来た』。ただそれだけの話ではありませんか。それ以上、何を求めるというのですか?」
「ロケットを……探しに……」
「そう。ロケットを探しに来たのです」
「そこにある……パソコンのようなものは、」
「これはただのジャンク品ですよ。あなたが気にすることではありません。さあ、探しに戻りましょう。急がないと、彼らが先に『剣』を手に入れてしまう。それだけは避けなくてはならない。そうでしょう?」
それを聞いたロマはぱんぱん! と頬を叩き、
「そうね、ここで狼狽えるわけにはいかないわ。ありがとう、オール・アイ。あなたのおかげで、一瞬忘れかけていたようにも思えたようなことを、取り戻せた気がする」
「そうならば、それで構いませんよ」
そうして、ロマは再び捜索を開始する。
一人残されたオール・アイは、壊れたパソコンの基板を踏み潰しながら、呟く。
「まさか、電子データとして未だ残されているものがあるとは……。不味いですね、計画の修正は早々に行わなくてはなりません」
「オール・アイ! 何をしているのかしらー!」
ロマの言葉に、笑みを浮かべるオール・アイ。
「何でも御座いませんよ、何か見つかりましたか? 今、そちらに向かいますね」
そうして、何事もなかったかのように彼女はロマの居る場所へと向かうのだった。
そう、気持ち悪いぐらいに何事もなかったかのように。
彼女が見つけたのは、小さな扉だった。
「扉……ですか」
「そう。彼らが、ここにある科学技術を踏みにじるように全て持ち去ってしまったけれど、確か、ここの扉だけはどんな細工をしたのか知らないけれど、開かなかったって聞いたことがあるの」
「それは……誰に、ですか」
「リュージュ様よ、勿論」
リュージュは、表向きに言えば世界を滅ぼし、世界を我が物にしようとしていた人間であった。百年前にその野望は打ち砕かれ、今やその封印していた技術は世界のために使うべきということで、各国が合同で設立した『世界政府』が牛耳っている。
「世界政府には、勇者一行である、アドバリー家が参入していると聞いたことがあるわ。あいつら、結局勝者になりたかっただけなのよ。私たちから全てを奪い去りたかっただけなのよ。そして、奪い去った後は利権を意のままにする存在になった。結局は、リュージュ様と変わらないじゃない。勇者だって、行方不明だなんて言っているけれど、ほんとうはどこに消えたのかなんて誰も教えちゃあくれない。だからあんなに立派な墓を作っているけれど、勇者がどこに消えてしまったかを考えることなく人々は平穏を送っている。平穏な日々を、送っているのよ。このような犠牲に、見て見ぬふりをしながらね!」
「……だから、戦うと、そう決めたではありませんか。ロマ」
オール・アイは彼女の意見に賛同する。
それは、間違ってちゃいなかった。勘違ってちゃいなかった。
結局は、オール・アイの意志に、進みたい方向に、彼女の心を染め上げているだけに過ぎない。
けれど、それを誰も教えようとはしない。理解しようとはしない。わかり合おうとはしない。
結局の所、無駄ではない。
だが、しかしながら。
それが理想であるならば。
それが現実であるならば。
それを変えようと願うのは、可笑しいことなのだろうか?
それを思うのは、間違っているのだろうか?
たとえ操られているとしても、兄を救いたいという思いと、兄とともに過ごしたいという思いは――変わらない。変わらないだろうし、変わってはいない。それは彼女の意志であり、彼女の思考であり、彼女自身の判断だ。
だからこそ、なりふり構わず、今は前に突き進んでいる。
遠回りをしながら、それでも前に進んでいる。
「……開けますよ」
オール・アイはゆっくりと扉を開けていく。
今まで誰も開けることが出来なかったその扉を、オール・アイはゆっくりと開けていく。
そこに、理由は思いつかなかった。
そこに、価値は見いだせなかった。
ただ、オール・アイが居て、彼女がキーとなった扉があった。
ロマはそうとしか認識出来ていなかった。認識させられていた、という意味になってしまうのかもしれないが。
扉を開けたその先に広がっていたのは、彼女たちの予想以上に広い空間だった。何でこんな空間があったのか、ということに関してはロマも知らなかったのだが、それが何のためのものであるかは直ぐに分かった。
「……ロマ、目の前にあるのは、何でしょうか?」
オール・アイが疑問符を浮かべて問いかける。
ロマも気にはなっていたが夜目が効くわけではなく、それが何であるのか確認することは敵わない。
ならばと思い、壁に手を当てた。見立ては直ぐに的中し、彼女はそれを押し込んだ。
「眩しっ……。あまり使われていなかったのかしら。ここが閉じてから大分経つと思うのだけど、電気がつくだなんて」
空間が照らされたのは、人工的な光だった。その光を浴びたのは、別に彼女たちだけではない。
そこにあった何か、それがはっきりと見えてきた。
「これは……飛行機?」
それには翼が付いていた。そして車のような車輪がいくつも付けられており、それで支えられている形だ。四十人ぐらいは収納出来そうな巨大なそれは、明らかにロマが呟いたその単語と一致していた。
オール・アイもそれを見て、呟く。
「こんなものが、こんな奥深くに隠されていたとは……」
「でも、動くのかしら? 流石にずっと放置していたとなると燃料とか問題になりそうだけれど」
「……どうでしょうね。それは中を見ないとなんとも言えないと思いますが。でも、大成功じゃないですか、ロマ! あなたの想像通り、地下倉庫に飛行機が……いや、それ以上の何かがあるだなんて!」
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