第14話
ラグナロク本部。
「恐らく、剣を手に入れるために彼らも行動を移すことでしょう」
オール・アイは、ロマの隣に立っている。それがオール・アイの役割であり、ロマに進言するときは必ずオール・アイもその言葉を聞いていることになる。
オール・アイの話は続く。
「そして、彼らが先に剣を手に入れることで、世界を意のままにすることが出来るでしょう。それだけは避けなくてはなりません。あなたのお兄様を蘇らせるためにも」
「お兄様を、蘇らせるためにも……!」
ロマはすっかりオール・アイの発言には頷くだけの人間となっていた。
それをラグナロクの人間は知っていた。知っていたけれど、強く言えるはずもなく、ロマ自身が強い魔法を放つことの出来る人間である以上、それに逆らうことも出来ないのであった。
「……オール・アイ。あなたは何でも知っているのね。そして、何でも私に提供してくれる。それはどうして? 何故私に協力してくれるの?」
「……それは、世界を救いたいからですよ。前も言ったじゃないですか」
「世界を、救う?」
「そうです。アンダーピースは『平和』を手に入れようとはしていますが、それはあくまでも形だけ。実際は、世界を滅ぼす程の力を手に入れようとしています。そうなってしまえば、世界はどうなってしまうでしょうか? 答えは……火を見るよりも明らかです。私はそれを止めたい。だから、私はあなたに協力しているのですよ、ロマ・イルファ。まあ、それ以上に、もっと思っていることはありますが……」
「思っていること?」
「あなたが兄を思う、その気持ちです」
オール・アイは言葉を紡ぎ続ける。
「あなたが世界をどう思おうとも、兄のことを思い続けているということ。それはとても素晴らしいことだと思った。だから私はあなたに協力したいと思ったのですよ、ロマ・イルファ。あなたが兄を救うこと、それはあなたの使命でもあり私の使命でもある。……って、これは何度も言ったような気がしますけれどね」
「そうだった……かしら。そうだったかもしれないわね。けれど、確認したいことだってあるのよ。何度か確認して、そして、情報を確かなものとする。……それが私にとって一番大切なことなの。それはあなたも理解してくれていたはず、だったけれど?」
オール・アイは何度も頷くと、
「そうですね、そうでございました。忘れていたつもりはありません。けれど、あなたが本当にそのような意志を持ち続けているのかということについて欺瞞を抱きましたものですから、少し確認したかっただけのことです」
「そう。なら良いのだけれど」
「ところで、剣に関してはどうしますか?」
「私たちが行っても良いのだけれど、ロケットを持ち合わせていないのよね……。もしかしたら、このアジトの中に使われていない機体でもあれば良いのだけれど」
「あるのですか? そんなものが」
「リュージュ様が隠し続けてきた『遺産』に近いものよ。正確には、科学技術を隠蔽し続けてこの世界の成長を妨げ続けていた、とでも言えば良いかもしれないけれど」
リュージュ。
かつてこの世界を統べた人間。或いは祈祷師とでも呼べば良いだろう。予言を神から賜ることで、その地位を確保し続けた人間であり、長命であったと言われている。
その彼女もまた、ある野望を抱き、それに呪われていた人間だった。
彼女の野望は百年前に砕かれ、リュージュそのものも息絶えた。彼女の異常な長命は、エネルギーをオリジナルフォーズという生命体から得ていただけに過ぎず、その根底を排除すればあっという間に人間として生きていくことが出来なくなる。だから、彼女は死んだ。
死んだことにより、リュージュがスノーフォグの奥底に隠していた技術遺産が発掘された。それにより技術レベルは千年以上格段に上昇したと言われている。彼女が残していたのは旧時代の資料であり、一万年以上昔にかつて人類が生きていた時代のものであると言われている。
その遺産はすべてメアリー・ホープキン率いる多国籍軍に撤収されたはずだが――。
「まさか、未だそれがあるというのですか?」
「あくまでも可能性の一つよ。無いかもしれないし、あるかもしれない。けれど、可能性の一つに縋るのも悪くないでしょう?」
そう言ってロマはポケットに入れていたカードキーを取り出す。
それはこの施設のすべての扉を開けることの出来るカードキー――いわゆるマスターキーだった。
「マスターキーを使えば、きっとどこかに何か隠されているはずだろうしね。じゃあ、向かってみましょうか、オール・アイ」
「わ、私も向かうのですか?」
「当然でしょう? あなたも行って貰わないと、幾ら予言官としての役目があるからとしても動かないと運動不足で直ぐに太ってしまうわよ。……ま、食糧不足のこの時代ですもの、そんなことは滅多にあり得ないことなのだけれど」
そうして、オール・アイの手を取るとロマは駆け出していく。
オール・アイは若干引っ張られる形になるが、そのまま彼女に従うこととした。
◇◇◇
地下倉庫。
その一つに彼女たちはやってきた。途中出会った団員達にはオール・アイが出歩いていることに物珍しさを感じたがそれ以上の詮索はしてこなかった。
オール・アイははあはあと息を切らしながら、
「……や、やっと着きましたね……。それにしても、こんなにも地下の構造が入り組んでいるとは思いもしませんでしたよ」
「うーん、そうかな? 私はずっとここに暮らしていたからあまり気づかなかったけれど……、それにしてもここもガラクタしか落ちていないわね……」
「めぼしいものは多国籍軍が没収したからではありませんか?」
「うん。それもそうなんだけれど……。あ、このパソコン、使えそう。電源、入るかな?」
「電源を供給するコードがなければ、意味が無いのでは? ……例えば、このような」
「おおっ。流石『全てを見ることの出来る眼』って名乗ってるだけはあるねえ!」
「……そういうことのためにこの力を使うわけではないのですが」
「……コンセントはここにあるし、プラグを差し込めば……。おおっ、着いたよ! 着いた、着いた!」
どうやらこの地下倉庫にも電源は通っているようで、パソコンが起動するのを見て彼女はぴょんぴょんと跳ねて喜んでいた。
オール・アイはそれを微笑ましい様子で見つめていたが、
「パスワード?」
直ぐにその表情は曇ってしまう。
どうやらパソコンにはロックがかかっているようで、パスワードを求められているようだった。
「どうしたのですか?」
「あ、うーん……どうやら誰かが使っていたパソコンらしいのよ。だからパソコンにパスワードがかけられていて。どうすれば解くことが出来るかなあ、って。ねえ、あなたならこのパスワードを『観る』ことって出来ないの?」
「予言の力を何に使おうと……。まあ、出来ない事ではないですが」
「やたっ! じゃあ、よろしくね」
パソコンをオール・アイに手渡し、彼女はさらに捜索を再開する。ロケットがもしあればそれを使おうという算段らしいのだが、ガラクタだらけの場所にそんなものがあるというのだろうか?
そんなことを考えることもしていないように見えるロマを見て、オール・アイは深い溜息を吐く。
しかし、溜息を吐いている暇も無い。
今の彼女にはやらねばならないことがある。
電子機器に対して『観る』力を使ったことはないが、理屈は同じだ。
そう思って、彼女はパソコンの画面に手を当てた。
すると、彼女の視界に文字が浮かび上がる。
それがパスワードであることを理解したオール・アイは、文字を打ち込んでいく。
「……出来ましたよ、開きました」
「ええっ? 早くない?」
オール・アイの言葉を聞いて、大急ぎでそこに戻ってくるロマ。
そしてロマにパソコンを手渡すと、ロマは画面を見て目を丸くしていた。
「何、このパソコン……。デスクトップにファイルが一つしか置かれていない……」
そして、そのファイルのタイトルには、こう書かれていた。
「『人類種保存計画とその遂行プランについて』……?」
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