第21話 不思議な魅力
「じゃあ、最初はジェットコー「メリーゴーランド乗りましょう!」
「はい」
「そうですね、いきなりだとちょっときついなーって思っていたので」
「朝ご飯食べたばっかだから、気持ち悪くならないようにっていう詩織の配慮だよ」
「そりゃあ……どうも」
出鼻をくじかれ、落ち込んでしまっている赤城の背中を委員長が優しく撫でている。その様子はまるで。
「お母さんみたいですねっ!」
「ボクもそう思う」
「お、お母さんって。そんな」
「は? 親よりも……の方が嬉しいっていうか」
ゴニョゴニョと小声で呟く赤城に、瀬戸と詩織の表情が、みるみると緩んでいく。
「んー? 何の方が嬉しいって?」
なんだってーと聞き返す瀬戸は、新しいおもちゃでも手に入ったと言わんばかりに楽しそうにはしゃぐ。
「なんでもないし。気にすんなって、いいから行くぞ」
真っ赤になってしまった赤城は、振り向かずにそのまま一人、先に歩いて行く。
――今さら、何赤くなってんだか。
「うわー可愛いメリーゴーランド」
「本当に可愛いな」
白馬はリアルだけれども怖くなく、子どもが喜びそうなデザインだ。ワクワクとした表情を隠せない委員長の目が輝いている。
――こういうの好きなんだ。可愛いなぁ。
「じゃあ乗るか」
「はいっ!」
委員長のとてもいい返事をする。それにつられてか、いつもより大きな声で詩織は言った。
「撮影は執事にお任せ下さい!」
「執事……。すごいなぁ、世界が違う」
「あ、あ、当たり前だろ、お嬢様なんだから」
――……なんで赤城が動揺してるんだよ。
「執事のあゆむです」
聞いたことがある声。そして、ニュッと詩織の後ろから出てきたのは、謎が多い男の子。
思わず驚きの声を上げてしまう。
「き、きみはー!!」
「詩織と同じクラ「ただの執事です」
「ただのし・つ・じです。お忘れなく」
「ハイッ」
謎の圧力に屈してしまった瀬戸は、悔しそうにあゆむを睨みつけるが、あゆむは楽しそうにニコニコと微笑むだけだった。
「……なんだー、あれは」
「知り合いでしょうか?」
事情を知らない二人は、呑気にしている。瀬戸とあゆむの間には人知れず、火花が散っていた。
「フフッ。では、馬に乗りましょうか」
詩織はそう言うと、馬に乗り始める。それを見た赤城達は慌てて乗りはじめた。
メンバーのなかでは瀬戸が先頭に乗り、斜め後ろに詩織。赤城と委員長は隣に乗った。
「こんにちわ〜。お姫様と王子様」
スタッフさんがマイクで話し始めると、あぁいよいよ始まるなーという気持ちが高まってくる。
「白馬に乗って楽しい夢の世界へ〜ご招待!!」
掛け声とともに愉快な音楽が流れ、白馬がゆっくりと動き始める。
「おおー! 動いた、いーやっほーい」
「け、けっこう、速いですね」
「委員長。怖いの?」
「いえ! メリーゴーランドなんて久しぶりだったから……」
ゴウゴウと風が顔面に容赦なくあたりながら、途切れ途切れに聞こえる声に。あぁ遊園地って感じがするなーと独特の観点で納得をしていた。
ただ回っているだけなのに、どうしてこんなにも楽しいのか。遊園地というのは、本当に不思議な場所だ。
少し後ろを振り返ると、詩織が手を振っているのが見える。思わず振り返してしまう。
「楽しいね、詩織!」
「はい。すごく楽しいですっ!」
白馬の動きが止まる間際。
「瀬戸さんはやっぱり、私にとっての白馬の王子さまです」
その言葉がやけに頭の中に残った。
*****
ジェットコースター、お化け屋敷、その他いろいろ。アトラクションを半分制覇したころ。
「詩織さん……」
あゆむが詩織に近づき、何やらこそこそと話している。ムッとした顔で見ていたら、あゆむと目があった。
――なんか、ドヤッみたいな顔してるし。
「コホンッ、あの皆さん。これから二人ずつで別れて行動しませんか?」
「おっ! いいね、そうするか」
「えっ! じゃあどうします?」
「ここはもちろん瀬戸と百合川さんだろうよ」
「そ、そうですよね」
委員長の顔が薔薇のように真っ赤になる。その反応を見て、瀬戸は納得する。委員長は赤城が好きなんだなと。
「頑張れよ、赤城っ!!」
「お前もなー!」
ほかの二人に聞こえないように話す。そしてペチンッとハイタッチをした。お互いうまくいきますように、いい思い出ができますようにと。
「よしっ。詩織、どこ行く?」
「あのっ……」
詩織の顔が暗い。
言いづらそうに、口ごもる詩織を見かねたあゆむがゆっくりと瀬戸に告げた。
「詩織さんのお父様がお話したいらしい……です」
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