第15話 衝撃

 つまらない授業の間。瀬戸は校庭を見つめていた。


「あっ、詩織だ」


 ドッジボールをしている詩織を見つける。学校指定の青紫のジャージを着ており、ボールに怖がることなく、果敢にボールを取ろうとチャレンジをしている。


 ――最初の頃の印象だと逃げ回ってるイメージだったけど、今見ると不思議と違和感ないや。



 自分からグイグイとくる詩織を思い浮かべ、笑みがこぼ……キスをしようとする寸前に目を閉じた詩織が頭に浮かぶ。



「……っ!?」


 瀬戸はガタリと大きく机を揺らしてしまった。


「瀬戸さん。どうしたのですか? 教科書四九ページを読みなさい」



 周りの目が自分に向くのがわかる。この授業の先生は、厳しい。だから渋々、瀬戸は指名された通りのページを読むしかなかった。ページを読み終わり、席に着いた。




 校庭の方を見てみると、詩織は反対側のコートでドッジボールをしていた。


 さっきの試合はどうなったのだろうか。瀬戸は今度詩織に会ったら聞こうと心の中にメモをしておくのであった。






 詩織の髪はポニーテールにまとめられているからか、動くたびに揺れるサラサラとした毛先に目がいってしまう。


 どうしてこんなにも、自分とは違うのか。瀬戸は考え始める。詩織も詩織なりの考えを強く持っており、芯の強い女性だ。



 ――ボクは……



「なぁ瀬戸さんよ〜。お前のこと見つめてる百合川さんみたいになってんぞ」


 ポツリと隣の席の赤城の声が聞こえた。瀬戸の肩が跳ねる。


「あ、赤城」


「そういや、百合川さん。朝、会わなかったな」


「詩織だって、用事ぐらいあるだろうし」


「……おい」



 なんとも言えないというような顔をした赤城は、瀬戸をマジマジと見つめる。


「何?」



「お前、もしかして百合川さんのLIME知らないのか?」



 LIMEとは、今は使うのは当たり前というほどの使用率ナンバー1 のスマホアプリだ。簡単に友達とやりとりができる。


 瀬戸は衝撃を受けていた、赤城の何気ない言葉に。


 知らないのか、知らないのか。その言葉がグルグルと回る。



「う……あっ。し、知らないや」


「あー、なんて言えばいいんだろうか。コレはさ」


 ガシガシと頭をかく赤城は、マジかーと呟いていた。


「赤城は詩織の連絡先、知ってるの?」


「あぁ」


 凄く答えづらそうに答えてくれた。二人の間に微妙な空気が流れ、いつのまに? 二人だけで交換したの? 数秒で様々な疑問が頭の中を駆け巡る。


「ちなみに、委員会で早く行きますだとさ」


「……うん、今さらありがとう」



「おう。早く交換した方がいいと思うぞ」


 親切心からの言葉は、胸に染みる。



 ――なんだ? この気分、もやもやする。



「明日でいいよ。詩織は忙しそうだからね」





 *****




「……おはよう」


「お、おはようございます」



 下駄箱でばったりと会った二人。瀬戸はぎこちなく笑うが、詩織は目も合わせない。



「今日は委員会はないんだね」


「赤城さんからですか。そうですよね」


「連絡先交換しない? ボクら、そういえばしてなかったよね」


「このまま忘れられるのかと……思っていました」


「どうして言ってくれなかったのさ。すぐ交換したのに」




 いまいち噛み合わない会話。


 詩織はモゴモゴと口を動かし、瀬戸を睨みつけて言った。




「……自分から言うの恥ずかしかったんです。察してくださいよ」


 本気で睨みつけているのだろうか? 瀬戸からしたら子猫がライオンを睨みつけているのと一緒だ。



「もう……行きますね」


 避けられてる、瀬戸はそう思った。詩織はたどたどしく、言葉を紡いだ後逃げるように瀬戸とは違う、反対の廊下を走っていった。





「え……連絡先は?」


 ――あと普通気まずくなるのは、ボクの方じゃない?




 詩織の態度に納得もいかず、教室へ向かおうとしたらパステルカラーのハンカチが落ちていた。



「詩織のやつかな? 」


 時間がある時に届けてやろうと心に決め、教室へと歩き始めていった。

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