第3話 赤城 祐介の驚愕
「瀬戸さんー帰りましょ!」
上機嫌な詩織の声が教室中に、響く。そうとう楽しみだったのか、スキップをしてウキウキとしていた。
「多分、放課後に百合川さん来るだろうから、あとはよろしく」と無責任なことを言い、母親が体調崩し早退した瀬戸の言葉を思い返す。
「あー、瀬戸のことなんだけど」
スキップが止まる。怪訝そうな顔で赤城を見つめてくる。貴方は瀬戸さんのなんですか? とか聞かれそうな勢いだ。
――朝一緒にいたから、流石にわかるよな? しかし今、俺達しかいなくて助かった。他の奴らがいたら、話しかけるの諦めるかもな。
「瀬戸さんに何かあったのですか? お怪我でも?」
「母親の体調が悪くなって……早退した」
瀬戸の母さんは、体調を崩すことが多々あるらしく、瀬戸が慌てているという風には見えなかったので、慣れているのではと勝手に推測してしまう。
――表情に出さなかったからって、焦ってねぇとは限らないけどな。
「まぁ、お母様大丈夫なのでしょうか」
「あの人なら平気だとは思うんだがなー」
「……そうですか、わざわざありがとうございます。それでは、さようなら」
詩織が帰ろうと背中を向けた所で、慌てて赤城が止めに入る。
「いやいや、待て待て! 俺、瀬戸に頼まれてんだ!! お前一人じゃ心配だから、家まで送ってやれと」
瀬戸の名前を聞いた途端、分かりやすく目を輝かせる。無邪気な子どもみたいだと赤城は、微笑ましく思う。
「瀬戸さんがっ! 本当ですか!!」
チョコレート色の髪が、詩織が笑うたびにフワフワと揺れる。
――あーあ、嬉しそうな顔しちゃってさー。
「てことだから、送るよ。あ、いや家とか分かんねぇけど」
「知ってたら逆に嫌です」
真顔で、はっきりと言われた。ナイフを突きつけられるような衝撃を受ける赤城。
――冷たい声でバッサリ切られた!? ってか、こんな顔すんだ。あのお嬢様が……。
「お名前、聞いてもよろしいですか?」
「……へ、あっ、赤城 祐介だ。よろしく」
「赤城さんですね、よろしくお願いします」
側から見たら、お見合いで初めて会った人みたいな状態であった。
***
何事もなく順調に歩いていた、帰り道。詩織は小さい赤い屋根の家を指差した。小さく看板が置いてある。
「あのお店は、何を売ってらっしゃるのですか?」
「あーあれは、駄菓子屋だな。安いけど美味い菓子が売ってんだよ、知らなかったのか?」
「えぇ、朝言った通り、初めて歩いて学校に来たんです。この歳になって……私は」
スカートの裾を握りながら、悔しそうに言う詩織。
「まぁ、そこは人んちの事情だから、何とも言えねぇがな」
「それにこれから、色々なことを知っていけばいいんじゃね」と良いことを言う赤城に、詩織は流石、瀬戸さんのお友達っ! と人知れず感激していたことを赤城は知らない。
「……っ。す、すいません、変な話を。あっでも明日から歩いて行きます! 瀬戸さんにもおはようって言いたいですし」
「……愛されてんな」
「何か言いました?」
――瀬戸が羨ましい。
赤城は苦笑いで返す。詩織が探るような目つきで、赤城のことを見ている。
「いや、なんでもない」
探られるのは居心地が悪いが、その視線に気づいてない風に返事をした。
さっきから全然歩いていないことに、気がつくが詩織の興味は赤城から駄菓子屋に移っていた。
「私、あの駄菓子屋さんに行きたいです!」
「んー。瀬戸と一緒に帰る時にでも、寄ればいいんじゃね? 駄菓子屋デート的な」
詩織はデートと聞き、嬉しそうな顔をする。犬だったら尻尾を振り回しているところだ。
「そ、そ、そうですねっ! そうしますかね」
「あぁ、そうしてやれよ。喜ぶんじゃね?」
――多分、微妙な顔するんだろうな。でも断わんねぇだろ、あいつのことだし。
***
「着きました、ここです! ありがとうございます。赤城さん」
立派な門が、どんとある家? 屋敷? みたいなとこに着いた。
「あーここか。随分デカイ家だと思ったが」
「ちょっと、言い方が気持ち悪いです」
心底嫌そうな声で言われ、「いやなんでだよ!?」とつい突っ込んでしまった。
「うふふ、赤城さんっていい人ですね。最初に見たときには、なんでこんな人が瀬戸さんとって思っていたのですが」
「えっ」
予想以上の棘に、褒められているのに全く嬉しくない。
「では、行きますね! また明日会いましょう。赤城さん」
くるりと後ろを向き、家に入ろうとする詩織に
「待て!!」
そう大声で叫ぶ。門を開けようとする手を止め、詩織は赤城の方を見た。
ぽりぽりと頭を掻きながら、少し赤い顔で詩織に自分の気持ちを伝える。
「瀬戸に付きまとうのはいいが、親友ポジだけは渡さねぇからな!! 覚えとけよ」
その言葉を聞き、キョトンとした顔で驚くが、すぐに意味を理解し、ウインクをして詩織が宣言する。
「平気ですよ、私が狙うのは恋人だけですから」
はぁ、とため息をついた赤城はずっと気になることを聞いてみることにした。
「……そうかよ。なぁ、この香水何の香りだ?」
さっきから、詩織から花の香りがするのだ。
「
ぴったりでしょ? そう言った詩織は、瀬戸だけに見せる恋する乙女のようだった。
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