第2話 話し合い
「最悪だ」
さっきから、ジロジロと見られている気がする。大っ嫌いな二限の数学が終わった所で、人の視線に気づく。
多分、席に座った時から視線は瀬戸に集まっていたのだろう。噂かなんかが流れたのか。
朝、あの場所には沢山の数の生徒がいたはずで、恐らく誰かに会話を聞かれてしまったと瀬戸は答えを出す。
――参ったな、かなり面倒くさい。
「瀬戸、なんか視線すごくね?」
「あぁ、鈍感な赤城でも気づくんだ。明日は槍が降るかなぁ?」
「ば、馬鹿にしてんのか!!? ったくよ、絶対朝のアレだろ!」
なんとも言えない顔をしている赤城に、落ち着いてとなだめながらも顔が怖い瀬戸。そんな二人に近づく勇者がいた。
「あの、瀬戸さん!!」
フワリといい匂いがした。花の匂いに釣られて瀬戸は顔を向けた。
「君は……朝の子だね」
一瞬、教室中がざわめいた。
瀬戸は溜息をつき、帰ってと目で訴えるが、めげずに少女は瀬戸の方まで近づいてくるのだ。
「少し二人でお話しをさせてはくれませんか?」
少女の潤んだ瞳は、正直目に毒だと瀬戸は、笑った。
「……三限が始まるまでだよ。赤城、じゃあそういうことだから」
「おう、わかった」
***
人気の少ない階段の踊り場で話すことにした。ここなら人は滅多に来ないはずで、むしろ来ないで欲しいと、瀬戸は心の中で願う。
「で、……何」
「あの私、諦めたくないんです! お友達でもいいので、少しでも瀬戸さんとお話しがしたいっ!!」
「君、朝の話聞いてた? ボクが嫌だと言っているのに、つきまとおうとするのはただのストーカーだよ?」
ストーカーと言われ、少女の肩が震える。少女が動くたび、チョコレート色の髪が揺れ動く。
「そういうところが、好きなんです。ズバっと言うところ。私は諦めたくないんです、ストーカーと言われてもいいです! 貴女とお話しがしたい! 隣で歩いていたい! ただそれだけで、幸せなんです」
どうしてそこまで? と口に出そうとした時点で、頭を振る。
――この子のことなんてどうでもいい。これ以上変な噂を流されたら、こっちも辛い。
「はぁああ〜好きにしたら」
胸の前で手を組み、ギュッと目をつぶっている少女に、瀬戸は適当に言い捨てる。
「えっ! いいんですか? 毎日、おはようとさようならを言っても!!」
「う、うん」
急に少女のテンションが上がった。その様子に若干引きつつも、瀬戸は頷く。
「えへへ〜、やったー!!」
子どものような少女を見ていると、幼い頃の自分に重なる。
ふと、少女の後ろ側を見ると大きな鏡と目があった。
鏡の中の瀬戸は笑っていた。
「もうチャイム鳴るから戻るよ。じゃあね、また明日」
「待ってください! あの放課後も来ます。それと名前! 私の名前は
「んー、覚えとく」
瀬戸は手をヒラヒラとさせながら、踊り場を後にする。瀬戸の格好良さに、酔いしれたように立ち尽くす詩織の姿があった。
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