貴女の一部になりたい
子羊
第1話 告白
放課後の教室。先程までは人で賑わっていた、この場所も今は静まり返っている。
そこには、二人の人影があった。よくある告白の場面というものだろう。二人は一切会話などはなく、ただ時計の針の音だけが響き渡る。
唇をキュッと結び、少女は沈黙に、耐えきることができなかったのだろう。一歩後ろに下がった。
目の前で、あのキリッとした緑色の瞳と目が合い、そして少女が先に口を開いた。
「……ごめんなさい。こんなことを言ってしまって」
少女は悲しそうに、言葉を紡いだ。少女はもうとっくに気がついていた。
長く続く沈黙、それが告白の答えなのだということに。
すると、目の前の人物が口を開いた。
「ボクは、ボクから言わせてもらうと、その……君にはもっとふさわしい人がいると思うんだ」
ふさわしい人という言葉が、やけに重く響き少女は、肩を大きく揺らす。
「私は、あなたが好きなんです。この気持ちに嘘などはないのです」
はっきりとした言い方にたじろぐ。だが、恐らく好きと言われて、満更でもないのか少し顔が赤い。
「でもね……ボクは」
名前を知らない少女の方へ、一歩を踏み出す。
膝の方へゆっくりと手を持っていき、フワリと裾を掴む。
そして
「……女だよ?」
スカートの裾を揺らす少女の姿があった。
「それでどうなったんだよ! 瀬戸っ!! その告白は」
隣で全てを話し終えて、満足そうにしている瀬戸に摑みかかる勢いで話しかける。
瀬戸と呼ばれた人物は、話はもう終わりだよと言い、笑う。
「よく男の子に間違えられるんだよ。制服はスカートなのにさ!」
本人の言う通り、女子だということには一瞬だと気づかないのだろう。中性的な見た目、肩よりも短い髪。だが、緑色の瞳はパッチリと開いていて印象に残る。
「んっがーー。世の中不公平だよな!なんで、お前が女子にモテるんだよ」
キャンキャンと犬みたいに吠えている男は、瀬戸の幼馴染。名前は
至って普通の男子で、顔も悪くない。ただ口の悪さと馬鹿正直な所が、女子達が遠巻きに眺める要因なのだと、本人は気づいていない。きっとそういうのがいいという女子にならモテるのだろう。
まぁ、そんな所も含めて一緒にいて楽しいのだと、瀬戸は一人微笑む。
会話を続けながら、通学路を歩く二人。二人の背後から、軽やかに走る音が聞こえる。瀬戸は、思わず振り返った。
そこには
「瀬戸さんっ! おはようございます」
昨日、フったはずの女の子がいた。
瀬戸が一瞬見せた引きつった表情に、赤城は気づく。……あの子が話に出ていた女の子なのだと。
「え……おいおい! あの子、隣のクラスのうちの学校で一番モテて、裕福なとこのお嬢さんじゃねーかっ」
早口で聞こえないように、瀬戸に告げる。
「説明が長いね。いいところのお嬢さんなのか? それに……ずいぶんと人気者のようだね」
彼女がふわりと笑顔を見せるたびに、登校している生徒達の足が止まり、背中からたくさんの熱い視線をヒシヒシと感じる。
そんな空気を物ともせずに、少女は無邪気にキョロキョロと辺りを見渡す。
「普段はお車で学校に……その、歩いて登校するのも良いものですね。大発見ですっ!
名前を呼ばれ、瀬戸の顔色が変わった。
「……っ。早くいくよ、赤城」
「え……ま、待てよ。おい!!」
「あ、あの瀬戸さん」
戸惑う声が聞こえ、すかさず強い言葉を口に出す。
「悪いけど、昨日ボクはちゃんと断ったよね? これからも、こうやってつきまとうつもり? 」
「でも、あの私は……」
「早く行くって言ってるだろ!! 赤城」
スタスタと歩き始める瀬戸に、赤城が遠慮がちに言葉を紡ぐ。
「あぁ……でもいいのかよ、あの子置いていっても」
「ボクには、関係のないことだし。周りの人が助けてくれるだろうさ」
ちらっと後ろの様子を伺うと、もう人が話しかけていた。
「ほらね。……それに面倒くさいことには、関わらない方がいいに決まってる」
そうポツリと零した瀬戸の表情を、後ろの少女を気にしている赤城は、気づかなかった。
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