ep.07

「もうホントひっどいでしょ! 流石に私も忍耐の限界でね、もうお前らなんか知るかー! 一人で行くわー! って叫んで暴れたら要求が通っちゃって。今や気ままに一人旅なわけですよ」

「なんかもうやる事なす事傍迷惑ですね」

「アトラちゃん容赦ないー。でもそういう遠慮が無い感じ好きー」

「俺ぁ先に戻ってるわ。後は女子会にでも変更してくれ」

「……逃げた……」

「あのおにーさんは独身? 将来を誓い合った相手とか居る?」

「知らないです。そういう話はしたことがないですし」

「もうほんと人類最強の一角とか言われるようになるとね、相手がね、萎縮しちゃうのかね、もうね、ほんとにね……」

「泣きそうになるくらいなら自分で言わなきゃいいのに……」

「結構顔もスタイルも自画自賛していいくらいだとは思うのよ。なのにね、いい感じになってもね、私は別の街に行かなきゃいけないし相手は住んでる場所からは離れられないしでね、絶対続かないの……」

「なんで今日会ったばかりの年下相手に自分の恋愛遍歴暴露してるんですか」

「だって誰も聞いてくれないしツッコミ入れてくれないんだもん。誰かに聞いて欲しいんだよぅ! アトラちゃん可愛いし律儀に付き合ってくれるしもう大好き結婚しようよー」

「離れてください! ていうか本当に酔ってないのになんでこんなテンションなんですかー!」


「とまあ、だいたいそんな感じだった」

「すまねぇヴァイス、何一つ分からねぇ」

マリアさんが突撃してきた翌日。私とヴァイスさんは事の顛末をカイさんに報告すべく、前日に続き商会へ顔を出していた。

「アマルティア所属の英雄マリアに、昨日の鎧の中身がヴァイスさんであると知られました。本人は所属国に話す気はないと言っていましたが、信用は出来ない為にカイさんに判断を仰ぐべきだと思い報告に来た次第です」

「なあヴァイス、なんで嬢ちゃんに出来ることがお前に出来ない?」

「人には得手不得手というものがある。俺に商売が出来ず、カイに英雄稼業が出来ないのと一緒だろう」

 開き直るなよ、と呆れた様子でカイさんが溜息を吐いた。

「”閃光”が本国と仲が悪いってのは真実だ。だが、完全に信用するわけにもいかん」

 おそらく、街に入る前に現在この街に居る英雄の情報を調べさせていたのだろう。カイさんは本当に用意周到だ。

「一応、ヴァイスさんは代役を認めはしました。しかし勇者は別の場所に居ると思っている旨の発言もあったので、何もかもが露見している可能性は少ないんじゃないでしょうか」

「それもどこまで信じていいのやら。疑いだしたらキリが無いな」

 カイさんの額に皺が寄る。

「お前の所見を聞こうか、ヴァイス」

「今回は演説時の顔見せだけという契約で、向こうもそれを知っていた。中身が本物かどうかはあまり関係がない案件だ。だから代役が来たのだろう、と本人も言っていたし、あの発言に嘘は無いように感じた。アレは腹芸が出来る類の人種じゃない」

「……相手が人類最強の一角となれば、下手に監視もつけられん。どのみち嬢ちゃんに会いに来るんだろう? 代役だけについては認めた事だし、致命的な内容が洩れないよう警戒しかあるまい」

 何を考えているのか、マリアさんは去り際に”またね”と言っていた。さらに言うなら、今度遊ぼう、とも。

 昨日の言動から考えると冗談ではなく本気だろう。なんなんだあの人。

「中身に気がついたのも”閃光”が持つと噂の魔力視の能力だろう。今回お前らに落ち度はない。これ以上は気にするな」

 詳細は知らないが、何やら他にも技能を持っているらしい。よほど賽の出目に恵まれたのだろう。

 彼女個人の技能というならば、他の人間に代役が露見する可能性は低い。

「ヴァイスの説明は大体あてにならん。今後の報告は基本的に嬢ちゃんに頼む」

「……なあカイ、俺はそんなに駄目か」

「駄目だよ阿呆」

 他に用事が無いなら帰れ、と部屋を追い出された。

 衝撃を受けたまま固まっているヴァイスさんを引き摺って商会を後にする。

 何故だろう、昨日からロクな出目にならない。

「私はこれから組合に行きますけれど、ヴァイスさんはどうするんですか」

「あー……いや、俺も行こう。口を出した手前、協力しないのは筋が違う」

 この人は本当に私に甘い。

 多分、出会った際の出来事が理由なのだろうとは思う。そして、私を通じて何か別のものを見ている。

「じゃあ行きましょうか」

「あいよ」

 この街にある組合の場所は既に確認済み。ヴァイスさんを従えて、ずんずんと歩いていく。

 組合。この場合の組合とは冒険者組合の事だ。言ってしまえば、冒険者に対する職業斡旋所である。

 大陸各地に突如発生する”理外の存在”である魔物。それを駆除・討伐するのが冒険者と呼ばれる者達だ。

 かつては開拓に適した土地を探したり、古代文明の遺跡を漁る者達をそう呼んでいたのだが、時代の流れと共に魔物討伐の専門家も含まれるようになった。

 多くの英雄は冒険者の中から見出される。

 それは戦いを生業とする職業の中でも、特に危険に身を晒し続ける職種だからだ。

 もっとも、傭兵が仕事が無い時期に魔物の討伐で糊口をしのぐこともあるので境界はあやふやである。

「おーい、ここじゃないか?」

 ヴァイスさんの声に立ち止まると、確かに通り過ぎようとしていた建物が目的地だった。

 盾と剣の看板。聞いていたよりも街の入口から遠く、気が付かなかったようだ。

「ありがとうございます。意外と町中にあるんですね」

「普通は門の近くだからな」

 基本的には信用のうえで成り立つ商売だから、ならず者は少ない。とはいえ、戦闘慣れした者の集団だ。

 一般人からしたら武装しているだけで十分怖い。だから冒険者関連の施設は外壁近くに集中し、なるべく町中では武装を解くのが習わしだ。

「情報があるといいんだがな」

 元冒険者とはいえ、今の私は商会の所属だ。本来ならば用事など無い。

 しかし、事が私の復讐となれば話は別だ。ここには、仇の情報があるかもしれない。

「えぇ、本当に」

 祈るような気持ちで組合のドアを開き踏み出した。

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