執筆、すぐにバレる

 家にパソコンは三台ある。父親の書斎と妹と部屋と僕の部屋。

 僕には今タスクがある。

 黒崎先輩に頼まれた脚本の完成だ。

 ただ、これは一人でやりたいと思っている。もしこれを一人でやらないと大変な目にあうから。

「なにやってるの?」

 そんなこと考えてるそばから邪魔者ミズキがやってきた。

「学園祭で出すサークル誌の原稿」

「あんたも原稿なんか書くのね」

「これでも部員なんでね」

「へー」

「読むなよ!」

「っていうかさ、これ、脚本?」

 僕は声を小さくして答えてしまう。

「そう、だよ」

「なんで? どうして? あんたが書いてるの? 黒崎さんが書くんじゃなかったの?」

「それはね……」

 嘘をついても仕方がないので黒崎先輩がスランプに直面していることを話す。

「そういうことだったの」

「別に騙そうとか、貶めようとかしようとしたわけじゃなくて、誠意を持って対応しようとした結果がこうなったんだ。先輩が悪いわけじゃなくて、僕が先輩の背中を押してしまったわけだから僕も悪い」

「ふーん、かっこよく言ってるけど、結局自分一人だけで解決しようとしてない」

「そんなことないよ!」

「だったら、なんで自分だけで解決しようとするの?」

「それは……」

「この前の時もそうだよ。あたしに言ってくれさえすれば、もっと簡単に解決したんじゃないかな? 犯人自ら言うのもあれだけど。どっちにせよ、あんたは人に優しすぎるのよ。だから、自分で問題抱え込んでるんじゃないの。もっと人に頼んだ方がいいんだと思う。あんたは自分の持ってる荷物をもっと分散させるべきなんだよ」

 ミズキが随分と大人なことを言っているので、びっくりしてしまう。そして、それは正論だ。でも、彼女の言っていることをうまく飲み込めない。脚本のことは黒崎先輩と僕の問題だ。それにミズキが介入するのはおかしい。もし、万が一先輩の名前を語るようなことがあれば、それは先輩の名前に傷がつく。それだけは避けたい。これが独善的なのかもしれない。

「でも、この脚本を書くと言うのは先輩との話し合いで決めたんだ。先輩が僕を信頼して、僕に任せてくれたんだ。だから、僕がやらないといけないんだ」

「それが思い上がりなのよ! 黒崎さんはあんた一人を見込んで頼んだように思うかもしれないけど、実際はね、あんたの家に一緒に住んでいるあたしも見込んで頼んだかもしれないわよ。まぁー、ここは推論でしかないけどね」

 なるほどと心の中で呟いてしまう。

「じゃあ、ミズキの言っていることはわかった。僕の方もムキになっていた。それは申し訳ないと思う。でも、餅は餅屋だと思う。脚本のことは僕に任せてほしい」

「もしかして、あんた、脚本にいちゃもんつけられるのが嫌だったの? あたしがそんなことするわけないじゃない。もし、脚本に意見を言ったとしても、それはいちゃもんじゃなくてさ、いい作品にしようという愛の鞭というか、作品に対しての提案みたいなものなの。それを被害者的に受け取られると困るのよね。っていうか、あんたもモノを作る人間ならその意識わかるでしょ」

「まぁ、わからなくはないかな。でも、ミズキのことだから、無理難題を押し付けられるようなイメージがして……」

「そうやってまだ見ぬ未来について不安がっても仕方ないでしょ。それに、無理難題をあたしはふっかけません!」

 自分がいかにいらん心配をしていたかがわかった。それとともに、ミズキのことを信用していないことと理解していないこともわかった。ミズキの方から言葉で説明されると安心する。本当は自分でそこはどうにかするのが良いのだけれど。

「わかった。とりあえず、僕は脚本を書いていくよ。んで、完成したら、ミズキに見てもらって、その後に黒崎先輩に見てもらうという流れでいいかな?」

「いいわよ、それで」

「じゃあ、今から書くから静かにしててくれ」

「はっ?」

「はっ? じゃないよ、これから人が執筆するんだから気を使うのが当然だろ?」

「当然? なに言ってるの? そんなにいい環境で書きたいならパソコン持って違う部屋で書きなさいよ! あたしはここを出ていく気は無いからね」

「えー?」

「あたしからこの部屋奪ったら週刊誌の格好の餌食じゃない」

「そうだけどさ」

「そういうことでよろしく」

 ミズキはそう言って、ゲームを始めた。いっつもゲームをやっているけど飽きないのかなと心配になるほどだった。ミズキの言っていることは納得できるような気がするので、悔しいけど、自分が引き下がってなんとかすることにする。

 畜生。

 明日から、漫喫生活か。

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