僕と彼女の関係

「ところで、ギブアンドテイクじゃないんだけどさ……」

 僕はみさきさんに話をする。

「はい」

 彼女は少し冷静さを取り戻していた。

「僕があなたの縁の下の力になりましょう」

「どういうことですか?」

「つまり、君のそばにいたい」

「えっ? それは」

「好意もあるけど、それがどういうものか自分でもまだわからない、だから、君のそばにいさせてほしい」

「でも、私には好きな人が――」

「かまわない! 僕には君が必要なんだ!」

「えっ?」

「君を演劇部の稽古場で見た時から気になっていたんだ。劇団を立ち上げる話も嘘だ。君と関係を持ちたくてでっち上げた話だ。僕じゃ、ダメかな?」

「あの、すいません、話が見えないんですけど」

「そうだよね。わからないよね」

「すいません」

「でも、本当に僕は君の助けになりたいんだよ」

「はい」

「久代なんて男は忘れちゃいなよ」

「わかりました。友達からで」

「なんだそりゃ!」

 僕たちはファミレスを後にした。

 僕はもう操り人形だ。心はなかった。

 一人になるとそんなことを考えて居た。

 家に帰ると相変わらずの水色髪のアイドルがバトルロワイアルのゲームをスマホでやっている。

 本当に相変わらずだな。ゲーム以外のことはないのかよ。キャラ被ってるし。

「こらー、だれがキャラが被ってるだと?」

「なにが?」

「そんなこと言ってなかった?」

 秋になろうというのにタンクトップにホットパンツを履いた国民的アイドルはかなり過激な服装だと思うのだが。

 ミズキはスマホから顔をあげ、僕の顔を見た。

「で、どうだったの?」

 彼女も僕がなにをやってきたか知っている。

「うん、まあまあ」

「それは答えとして成り立っていないよ」

「彼女とお友達になったよ」

 ミズキは僕とみさきさんが仲良くなったことについては興味がないらしい。

「んで、やっぱり、彼と彼女は関係があるのね?」

「うん。部活外でも劇団外も公にはしたくないらしい」

「それなのになんで、あんたに話したのよ。わからない」

「そう仕向けたのはあんたらだろう」と心の中で毒づく。

「それより、なんでそんなに久代にこだわるの?」

「それは、黒崎さんと一致した勘ってやつかな?」

「そんなに怪しいかな」

「怪しいというより。なにかある。ドス黒いものが。今度稽古の時見てみれば、なんかあの子が動くと周りの女の子の様子も変わるのよね。怪しい」

「それくらい魅力のある役者なんじゃないかな」

「いや、私の目に狂いがなければ、大した役者じゃない。どこにでもいそうな小劇場の役者よ」

 ミズキのコメントは手厳しい。もし、本人が聞いていたら演劇なんて続けていられるかどうか……。

「まあ、今度の稽古の時、久代の動きを見てみなよということで。あたしは、お腹が空いたから、夕飯をいただきにいきまーす」

「僕はいいや」

「だれもあなたのは聞いてませーん」

「はぁ」

 この家はだれの家なのだ? 僕の家より家主感が出てきているような気がする。ってか、そろそろ、自分の家に帰ったらどうのか。

 そっか、自分の家に帰ったらどうか、なんて尋ねたら多分逆ギレを起こすかもしれない。だから、それなりに対応しないとなんだよな。

「あー厄介だなー」

 そう言いながら、僕はベッドに倒れこむ。

 ミズキの匂いがほのかに香った。

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