---

ある日父が、


「俺の本当の父親が病気でもう長くないんだ。会いに行かないか。 」


と言った。


私が憎んだ祖父は、大好きだった祖父は、血が繋がっていなかった。父が11歳のとき、祖母と再婚してやってきたのが私が知る祖父だった。そして血の繋がりのある本当の祖父は、病気で入院中だと言うのだ。私は断った。自分の祖父は、亡くなった祖父だけだと訴えた。私は泣いた。そんな私を、父は攻めなかった。その日私以外の家族は、本当の祖父とやらの見舞いに行った。私は、父の写真を漁った。家族の写真がひとまとまりになって置いてある部屋がある。普段は物置なので埃っぽかった。そして見つけた。あまりにも父にそっくりな男の写真を。言われなくても分かった。その写真に写る男は、自分の本当の祖父だと。それと同時に涙が出た。ああ、本当に私は亡くなった祖父と血の繋がりがないんだと、現実を突きつけられた。


そして、インターホンが鳴る。

出る気になれなかったから無視した。

それでも鳴り続けるインターホン。

苛立ちながら階段を下る。

何かを割る音がする。バンっと音がする。

1階の台所のドアに人影が写る。

私に心臓はバクバクと脈打つ。

誰かが家の窓を棒のようなもので叩いている。

窓にヒビが入り始める。

私は、なぜか、誰が叩いているか分かった。

私は窓を開けた。

大好きな祖母がいた。

祖母は言った。


「 お金を頂戴 。」


私は笑った。


「そんなもの、持ってないよ」


私は祖母を抱きしめた。祖母は大声で泣いた。そして、私は祖母の家まで祖母を送った。祖母は家に着くと、すぐに眠りについた。家の鍵を掛け忘れてきたな。部活は今日は休もう。そんなことを思いながら私は携帯の電源を切った。そして、どこへ行くのでもなく、部活着のまま歩き出した。涙はもう出なかった。14歳の夏だった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る