#6-1
酒は飲んでも飲まれるな、とは古くから言われるが、酒でも飲まなきゃやってられるかというのが現代の風潮にはある。
ほろ酔い気分で職場の先輩に付き合う二十前半の男、柏原光一もその一人だった。
「係長の馬鹿野郎っ!! 人で無しっ!! 鬼っ!!」
「そうだそうだ! 腹から声出せ! もっと言ったれや!」
地方都会の夜、ネオンに照らされる中で先輩の栗田に半場強要されつつも叫ぶ。
「自己中のクソジジイっ! 万年出世無しっ! くたばっちまえっ!」
「なんだと、この野郎っ!」
「い、いや、栗田さんのことじゃないっす……」
光一は今年で入社四年目。本来ならばようやく仕事に慣れ、これからという時期。ところが今年度に入り、他の部署へ配置転換をさせられた。異動の理由は人手不足、要はその穴埋めだ。折角光一に仕事を教えた先輩も、上からの命令には逆らえずに泣く泣く光一を手放した。
会社の命令なら仕方がないと、心機一転させ新たな仕事へと挑む光一。そんな彼を待っていたのは人当たりの悪い事で有名な係長、鬼塚であった。
とにかく真面目に働けば、と考えていた。
が、三日で光一は音を上げた。
新人同然の光一に対し、始めは親切だった鬼塚係長だが、三日経つと態度が急変し横暴となる。理不尽な仕事を言いつけ、こなしきれないところへ叱咤と罵倒を浴びせる。大勢同僚のいる前で怒鳴り「前の部署へ帰れ!」などと暴言を吐きかけた。
それだけではない。いきなり役員会議へ出席させられ、他の役員らのいる前で恥をかかせられたのだ。まだ右も左もわからないというのに業務プランを説明させられ、内容が不十分だと指摘を受けても何も答えることが出来ない。後から「十分に教えてやったろ!」と叱責する鬼塚。この時ばかりは殺意を抱くも、逆らえずに下を向いて涙を浮かべ、握りしめた拳を震わせるしかなかった。
怒りと悔しさで一睡もできない夜が続く。遂にはノイローゼ気味となり、早退する日も出始めた。三週間目の夜、何気なく高いベランダでボーっとし、身を乗り出している自分に気付く。初めて仕事を理由に自殺する人間の立場が理解できた。
このままでは鬼塚に殺されてしまう。パワハラで訴えようか考えていたところへ、気のいい同僚の栗田に声を掛けられた。一緒にどこかで飲みながら話そうか、と。
「あれだな、君はまだ飲みが足りないんだな。よし、もう一軒いこうか」
「えぇ……」
相談に乗ってくれるというので、一軒だけの付き合いのつもりがとんでもない人に捕まってしまったものだ。仕方なくもう一軒だけという約束で折れる。
「この前いい店見つけたから連れてってやる。かわいい娘、一杯いるぞ?」
「はぁ……」
店と言うのはスナックだろうか、キャバクラだろうか。今までに安い居酒屋くらいしか行ったことが無い光一は不安だった。以前見たドキュメンタリー番組のせいで、色気に騙され高額請求されるイメージしかない。不安というよりかは怖いというのが正直な気持ちだった。
やがて街の灯りが届かない路地裏へと差し掛かり、一軒の店の前にやって来る。
「ここだ、中を見て驚くなよ?」
「はぁ」
店というよりかは小さな長屋。その扉の前に「レッド・キャッツ」の看板はある。子供の頃見た怪盗アニメの店を彷彿とさせたが、あっちは喫茶店だったか……?
──カランコロン
ボーっとしていると、栗田が先に扉を開けて入って行った。
(これは……凄い……!)
つられて入ると、光一は度肝を抜かされた。
店内は外から想像が付かない程に広く、中央にある円状の大型カウンターへと目を引かれる。バーのカウンターは真っ直ぐで後ろの棚に酒瓶が並んでいるイメージしかなかったため、思わず目から鱗が落ちる思いだ。大勢の男性客と店員が談笑している中、落ち着きゆったりと流れるブルースが耳に心地よい。ほど良い明るさが清潔感を演出させ、今までの先入観がどこかへ吹き飛んでしまいそうだった。
栗田は店員に会員カードを見せるとキョロキョロし出す。
「えー……あー、いたいたっ! おーい、璃子ちゃーん!」
手を振ると中央のカウンターでなく、店の壁際にある小さなカウンターへと向かう栗田。仕方なくついて行き椅子に掛けると、間も無く一人の女性が眼の前に現れた。
「栗田さんいらっしゃ~い。そちらの方はお友達?」
「こいつは新人でコーチャンっていうの!」
「……光一です、どうも」
栗田のノリについていけず、控えめに挨拶をする光一。
「璃子っていいまーす。よろしくね、光一さん」
「……よろしく、です」
「なーに硬くなってんだよぉ! 璃子ちゃんが可愛くて見とれちゃったかぁ?」
「ち、違いますよっ!」
慌てて否定したところ、一瞬璃子と目が合ってしまう。にこりとした笑顔に耐え切れず、思わず目を逸らした。
気分を害したからではない。むしろ璃子は、光一から見ても魅力的に映っていた。長い黒髪に長い睫毛、赤いルージュが、色白の肌が、まるで人形のような美しさを彷彿とさせ、それでいて色っぽく見える。
だから光一は敢えて一線をひいた。所詮は飲み屋の女、こちらがどんなに本気になったところで向こうは客商売。高嶺の花を追い掛けることが惨めにしか思えずに、自らの戒めのために距離を置いたのだ。
「コーチャン、ビールでいいか?」
「え、はい」
「じゃあ生中二つね、璃子ちゃんも何か飲みなよ」
「はーい、ありがとうございまーす」
折角バーに来たのに生中とは……。この栗田という人は普段から何を考えているのかよくわからない。大雑把のようで神経質なところもあるし、気の利く場面もある。それでいてあの鬼係長ともうまくやっているのだから、ある意味では凄いのだが。
差し出されるジョッキ二つ。璃子は自分でスクリュードライバーを作ったようだ。三人で乾杯すると半分ほど飲む。前の店でも結構飲んだので、味はよくわからない。
「そうだ、璃子ちゃん聞いてくれよ。コーチャンの奴、係長に苛められてんの!」
光一はビールを吹き出しそうになった。
「ちょ、ちょっと栗田さん!」
「いいだろー? 話しちまえよ、スッとするぜ?」
「えー! 光一さん真面目そうなのにどうして!?」
冗談じゃない。こっちは真剣に悩んでいるのに、何故初対面の女にそんなこと話さなければならないんだ。まるでデリカシーの欠片も無い、こんな人に相談するんじゃなかった。
「おっと済まん、家から電話だ。ったく何だよ……」
苦情を言おうとしたところで、栗田は携帯に呼ばれて席を外した。
「こっちがまったくだよ……」
「ふふっ」
正面を向き直すと再びジョッキへと口を付ける。
……さて、二人きりになってしまった。光一は女性と付き合った経験が殆ど無く、こういったシチュエーションが苦手だ。
一体何を話したらよいのだろう? やはり女の子だし、アクセサリー関係や某有名ランドの話をしたら喜んでくれるのだろうか? だが自分はアクセサリーなど興味はないし、ランドへは足を運んだ事すら無い。もしかするとそっち関係の知識の無い男は、若い女性と話をすることが世間的に許されないのだろうか。いつしか光一は例の鼠のキャラクターに逆恨みを覚え始めていた。
「光一さんって、このお店は初めて?」
黙っていると、目の前から当たり障りのない話題が降って来る。
「あ、はい。自分はさっきの栗田さんに連れられてですね……」
「そうなんですかー。あ、敬語なんて使わないで大丈夫ですよ、もっとリラックスしてくださいね」
「あ、う、うん、そうだね……えと」
「あたしは璃子って呼んで下さい」
そう言って満面の笑みを見せる璃子に、光一は胸の高まりを覚える。
「うん……じゃあ璃子ちゃん、こっちも敬語じゃなくていいよ」
「はい。そういえばあたし、勝手に光一さんを『光一さん』って呼んでますけどいいですか?」
「え?」
珍妙な問いだ。が、少々神経質なこの男には好感の持てる問いであった。
何だろうか。今まで光一は女性を見て「この人は美人だ」とか「可愛い」とか思う機会は幾度かあったが、恋愛の対象として見ることはできなかった。話しているうちに性格の嫌な部分が見えてしまったり、そうでなくても「どうせ男がいるんだろう」という思惑が付き纏ってしまうのだ。
「いや、別にいいけど『さん』なんて付けなくても」
「でも『コーチャン』だなんて呼べませんし」
だが目の前の璃子は違う。例え男がいようが営業スマイルだろうが、それを有り余って補うほどの魅力があり、何よりも癒しを覚える。少しくらい性格が悪くても全て許せてしまいそうな気すら起こった。
「流石にそれは勘弁だけど、それより璃子ちゃんこそ敬語喋ってるじゃん」
「あ、ほんとだ。やだあたしったら」
「あははは」
「うふふっ」
(恋、なのか……それとも一目惚れ、なのか……)
こんな気持ちになったのは何年振りのことだろう。
「いやぁ済まん済まん」
ここで空気を読まず、栗田が帰って来た。
「いやー失敗失敗。用事すっぽかしちゃって嫁がカンカンでさ。悪いけど先帰るわ。コーチャンはこのまま楽しんでってくれ、奢るよ」
「え、いや、でも……」
「光一さん、お言葉に甘えたら?」
一緒に帰ろうかとしたが璃子から声が掛かる。店の勝手がわからず不安だが、もし何かあればこの璃子に聞けばよいだろう。中々こういう店に来る機会は無いだろうと考え、栗田の帰る姿を見送った。
「栗田さんは恐妻家なのか」
「さあ? でもこの前奥さんの愚痴を話してたわよ」
「へぇ。でもわかる気がするな」
きっと帰ったらこってり絞られるのだろう。元は自分の相談に乗ってくれたことが切っ掛けなので、少々悪い気がした。まぁ本音は酒が飲みたかっただけなのかもしれないので、ある意味自業自得かもしれない。今はそういう事にした。
「ところで光一さん、ビールの次は何にする?」
「うーん……じゃあひとつお勧めを頼むよ」
「はーい、まかせて!」
璃子は目の前でカクテルを作り始めた。手慣れた調子でシェイカーを振る姿を見ながら、光一はまた思案に耽り始める。
……住む世界が違い過ぎる。先程は「恋ではなかろうか」などと考えていた自分が馬鹿みたいだ。彼女には然るべき相手がいるだろうし、自分だってそのうちに職場の同僚の中から当たり障りのない平凡な相手を選んで結婚するのだろう。
だが今の職場環境からするに、あの係長がいる限りそれすら叶わない気がする。
(詰まらない。我ながら、なんて詰まらない人生なんだ……)
コトッ
急に目の前へとグラスが置かれてハッとした。見ればグラスに注がれている液体は鮮やかな赤と青、二層の不思議な色を保っている。明るい燃える様な色彩から、段々と下へ沈むごとに深く暗くなるよう配色されたグラデーション。小学生の時に似たような物を作った経験があるが、流石にそれと比べるのは無粋だ。
(凄いけど、これ飲めるのか?)
飲めないことは無いだろうが、飲んでしまうのが勿体ない。躊躇しながら手を伸ばしたところで璃子から待ったが掛かる。
「これで完成じゃないのよねー、ちょっと離れてて」
辺りをキョロキョロし出したかと思うと、目の前のグラスの淵を爪先で擦った。
──ボッ
「わっ!」
グラスの液体がゆらゆら炎を上げて燃え始め、光一は驚きの声を上げてしまった。「フレイミングショット」と呼ばれる、火でアルコールを飛ばす技法である。
「今のはどんなトリックなの!? 指に何か仕込んであるとか?」
「企業秘密でーす。本当はやると怒られちゃうんだけどね」
そう言う視線の先で、こちらに拳を上げ「またこいつはっ!」とジェスチャーする店員が見えた。これに舌を出しウインクで応える璃子。
「気分が乗った時だけ作るの。今夜は特別よ」
特別……あぁ、自分が初めて来た客だから作ったのか、と光一はネガティブに考えようとする。見ると正面の璃子は腰をかがめ、テーブルに伏せるようにしてグラスを覗き込んでいた。
「光一さんもこうやって覗いてみて」
言われ、同じようにしてグラスを覗き込む。
炎が揺れる液体越し、璃子の顔が見えた。
「……ね、とっても幻想的な風景に見えない?」
「風景か……うーん、夕焼けにしては赤が強すぎるかな。これは何をイメージしたんだい? このカクテルには名前とかあるの?」
「
「……」
最近連続して起こっている放火事件を連想し、いささか不謹慎だろうと光一は顔を歪ませた。璃子が普段何処に住んでいるのかは不明だが、事件の事を知らない訳では無いだろうに。
「火は危険なものじゃない、あたしは『優しさ』だと思うなぁ」
「優しさ?」
「そう。火は消し去ったり、灰にしたりするだけじゃない。火から生まれる物だって沢山ある筈よ。現に生活に火は不可欠だわ」
「まぁ確かに、言われてみれば……」
初見の印象とはうって変わり、哲学的な事を言い出す璃子。グラス向こうで微笑む彼女と目が合った。今度は目を逸らさずに、じっと見つめ返すことができた。これも火の優しさが及ぼしたというのだろうか。
やがて炎が消え、勧められると光一はグラスに口を付ける。甘酸っぱさが口に広がり、炭酸の爽やかさが喉に流し込まれ、僅かなアルコールが鼻へと抜けた。
「なんだろう……ブルーベリーと……」
「
「へぇ、柘榴か。美味しいよ」
「ありがとう、よかった」
そうか、これが柘榴か。世事抜きで美味く、どんどん進んでしまいそうだ。
「他に何かお勧めない? あ、璃子ちゃんも飲んでね」
「はーい。光一さんってお酒強いの?」
「どうだろうね、普段はそんなに飲まないから」
そう言いつつも二杯目、三杯目と光一はグラスを空ける。空けるにつれてどんどん多弁となり、気が付けば璃子相手に趣味の話を振っていた。
「へぇー、光一さんはオンラインゲームするんだ」
「今やってるのは『革命のオブリビオン』っていうゲームなんだ。勇者の中から一人選択して国を作っていくゲームさ。璃子ちゃんも一緒にやらない? 同じサーバーにアカウント作りなよ」
「でもそういうのって難しいんでしょ?」
「慣れれば簡単だよ、月額無料だしさ。俺が色々教えてあげれるし、強いアイテムもあげる。最近強いキャラが更に強化されてさー……」
アクセサリーやランドの話題はどこへやら、完全に趣味全開で話しまくる。璃子の方も嫌な顔一つせず相槌を打つので、ついつい時間を忘れて話し続けた。
「それでその
ふと、入店してから大分時間が経ったことに気付き、時計を見た。
「うわまずっ! 長居しちゃった!帰らないと!」
「えー、明日は土曜日だし、もうちょっとゆっくりしてったら?」
「そうもいかないよ、終電も無くなっちゃうし……」
慌てふためいていると、璃子が小声で囁いて来た。
(じゃあさ、一緒に帰らない? あたしもシフト、もうすぐ終わるんだ)
「え? じゃ、じゃあそうしよっか。本当は来た道をよく憶えて無いんだ」
(じゃあ決まりね。少ししたら外で待ってて、すぐ行くから)
「う、うん」
璃子は手際良くカウンターを片づけ、プライベートルームの奥へと消えていった。
(ちょっと飲みすぎたかな……)
店外で壁に寄り掛かるように光一は璃子を待っている。時間を確認すると、終電はもう終えていた。
(あー何やってたんだ俺。どうやって帰ろう)
夢のようだった時間は過ぎ去り、現実を叩きつけられる。こんなことならさっさとタクシーなり呼べばよかった。流石に野宿はできないし、駅前のカプセルホテルにでも泊まろうか。
(いや、待てよ?)
自分はどうしてここに突っ立っている? あぁそうだ、一緒に帰るために璃子を待っているのだ。
いっそ一晩だけ、璃子の部屋に泊まっていくというのはどうだろうか。冗談半分で聞いてみるのもいいかもしれない。不躾で失礼極まりない申し出だが、思うに向こうはこちらにさほど悪い印象を持っていない筈だ。
上手くいけばいいムードとなり、そのままなし崩し的に……。
「お待たせー。ごめんね、行きましょっか」
「あっ、う、うん」
下衆な思いを
「光一さん、大分飲んでたみたいだけど大丈夫なの?」
「あのくらい平気さ」
世話のかかる男だと思われない為の、必死の演技である。
「璃子ちゃんは何処に住んでるんだい?」
「駅前のマンションの六階よ。光一さんは駅でいいのよね?」
「うん、でも終電は終わっちゃったから……近場のホテルにでも泊まるよ」
「あらら、無理に引き留めちゃったかしら。ごめんなさいね」
「いいんだ、気にしないでよ。楽しかったしさ」
言えなかった。自分は何て愚かで弱い生き物なのだろうと、光一は自らを責めた。こんな事だから係長に文句の一つも言えないのだ。
「あぁ、畜生めっ!」
「どうしたの急に?」
「あ、いや……。また休日が過ぎたら月曜日から憂鬱だなって、そう思ってさ」
「……」
思ったことをそのまま声に出してしまい、慌てて取り繕う。
これを隣で見ていた璃子は、不意に光一の腕に絡んで来た。
「う、うわ?」
「夜だし大人の男女が歩くなら、こうした方が自然でしょ?」
「あ、そ、そうだね」
身体を預けるというよりかは、光一の腕を持って支えていると言った方がいいかもしれない。腕が璃子の柔らかい胸に当たり、思わず硬直した。
「癒された?」
「う、うん」
「そういえばさっきの話、光一さんは職場の人間関係で悩んでるみたいだったけど、その係長ってそんなに酷いの?」
「……酷いなんてもんじゃないよ、思い出すだけで嫌気しか湧かないよ」
夜景に染まる街中で、大人の男女が交わす内容の話題ではない。しかし光一は酒の勢いもあり、ポツリポツリと会社であった出来事を話し始めた。
「……とにかく酷い係長なんだ、あんな人間がいるから世の中は成り立たないんだ。いっそどこかへ消えてくれるか、元の職場に戻りたいと何度思ったことか」
「……」
「また休日が終えて一週間がやってくるかと思うと、とても辛くて堪らないんだよ」
「そうなんだ。大きな会社に勤めるって大変なのね」
少し突き放す様な、他人事のような璃子の言葉。何気ない一言ではあったが、今の光一を傷つけるには十分な言葉だった。見捨てられたような錯覚を覚え、光一は少しショックを受けてしまった。
と、ここで璃子は突然足を止めた。
「ね、この後時間ある?」
「……え、あぁ。帰っても寝るだけだし」
「少し休んでこっか? 光一さん、随分とフラフラだし」
そこはビジネスホテルか何かだと始めは思った。一風変わった建物の入り口には「休憩」「宿泊」といった文字と料金が書かれているのが目に入り、思わず二度見してしまった。
ラブホテルである。
「え、えと……まさかここで?」
「彼女とか居るの?」
「い、居ないけど……じゃなくて、僕ら初対面だし……」
「あたしみたいな女とじゃ、嫌?」
「そんなことないけど……むしろ……」
「じゃあ決まりね。…もしかしてこういうとこ来るの初めて?」
(うっ……)
間接的に童貞だと軽く思われたような気がしてカチンとくる。酒の勢いにまかせ、馬鹿にするなとばかりにホテルへと入って行った。
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