紫音と筒城の関係
『昨日午後0時23分頃、銃を持った男が高校に向けて発砲をしました。男は現場に居合わせたPMCと警察官の手によって射殺されました。
そしてその男性は2件の誘拐を行った人物と一致し、現在警察の方で詳しく調べをしている模様です』
「・・・・・・何とも言えませんよね。これ」
「そうねぇ〜。何も知らない人からすれば、犯人が捕まってよかったって思うかもしれないけど、知っている人からすれば、可哀想って思うわよねぇ〜」
現在僕は真理亜さんのお店に来ていて、筒城先生の護衛でノート取り出来なかったところを同じクラスの真奈美さんにノートを借りて写し書きをさせて貰っている。
「真奈美さん、結構達筆ですね」
字が綺麗なので写書きしやすい。
「あらぁ〜、お習字を習わせていたお陰かしらぁ〜?」
真奈美さん、習字を習っていたんだ。
そんな事を思っていたら、カランッ!? カラァンッ!? と出入口のベルが鳴った。
「いらっしゃぁ〜い!」
「シオンくぅ〜ん、やっぱりここにいたのねぇ〜」
「石野さん、どうしてここに?」
僕がそう言うと、ニヤリと不敵な笑みを浮かべて顔を近づけた。
「昨日、犯人と撃ち合いしのよねぇ?」
「え、ええ」
「何処か怪我をしてなぁ〜い? 怪我をしていたら、私が優しく治してあげるからねぇ〜!」
「ど、何処も怪我をしていないので、大丈夫です」
だからその注射器とメスをしまって下さい!
「・・・・・・そう、残念ねぇ〜」
石野さんはそう言うと、席に座った。
「グズグズになった筋肉繊維を見れるチャンスだったのにぃ〜」
「そ、そうですか?」
「そうよぉ〜。1発でも被弾してくれれば有り難かったのに、つまらないわぁ〜! 私にワインを一杯下さぁ〜い!」
「わかったわぁ〜」
ホント、この人サイコパスですよ。
そんな事を思っていたら、また出入口のベルが鳴った。
「いらっしゃぁ〜い、ってあらぁ? アナタは」
「筒城先生?」
そう、筒城先生が申し訳なさそうな顔でお店に入って来たのだ。
「紫音くん、それにアナタは・・・・・・」
「久しぶりぃ、元気にしていた? キョウちゃ〜ん」
「キッ・・・・・・ちゃん?」
ニッコリと笑顔で手を振る石野さんに対して、筒城先生は驚いた顔をさせる。
「ど、どうしたのその姿は?」
「これが普段の格好よぉ〜。キョウちゃんキレイになったねぇ〜」
「アナタ、医者になったって聞いていたけど、まさか医者をクビになったの?」
「今も医者だよぉ〜、外科手術だってちゃんとやっているからねぇ〜」
話が噛み合っているようで、噛み合ってない気がする。
「ところで筒城先生はここに何をしに来たのですか?」
「あっ!? そのぉ〜・・・・・・生徒の親御様にお詫びをしに来ました。大変申し訳ありませんでした!」
筒城先生はそう言って、真理亜さんに頭を下げた。
「頭を下げなくていいわよぉ〜。アタシは別に怒ってなんていないからぁ〜。はい、赤ワイン」
「ありがとぉ〜」
石野さんはそう言うと、グラスの中に入っているワインを揺らして目で堪能している。
「そう仰って頂けると幸いです」
「でもねぇ〜。アタシは別の事で怒っているのよぉ〜」
「はぁ・・・・・・別の事ですか?」
真理亜さんは今までとは違い、異様な雰囲気を醸し出した。
「紫音くんにPMCを辞めるように言った事」
「それは、教師として・・・・・・」
「確かに教師としては間違ってない判断だけど、アタシからして見れば不正解な判断を取っていた」
「ですが、彼が銃を持って戦うのは一個人として間違っていると思います!」
彼女は声を張って真理亜さんに言うが、心に響かないのかヤレヤレと言いたそうな顔をしていた。
「アナタの言っている事は間違ってはないわ」
「なら、アナタも彼に言って下さい」
「でも言っている事が合っているだけで、行動が間違っていると言いたいのよ」
「行動、が?」
真理亜さんはそう言うと、フゥ〜・・・・・・と息を吐いた。
「キョウちゃん、お姉さんが言いたいのはねぇ〜。アナタが偽善者だって言いたいのよ」
「ぎ、偽善者ぁ!?」
「あれあれぇ〜? キョウちゃん教師になったのに気が付かなかったのぉ〜?」
石野さんにニッコリと見つめられた筒城先生は、ゾッとしたのか一歩下がった。
「ふ、ふざけた事を言わないで! 何を根拠に言ってるのよっ!!」
「別にふざけた事じゃないわよぉ〜。それにふざけてるのはキョウちゃんの方よぉ〜」
「私が、ふざけているですって?」
今度は先程とは一変して、怒りの形相で石野さんに近づいた。一触即発の雰囲気の筈が石野さんは普通に話し掛ける。
「そうよぉ。だってねぇ〜、紫音くんにPMCを辞めるように言ったのは、使命感でしょ」
「ええ」
「今紫音くんにPMCを辞めてって言えるのぉ〜?」
「い、言えるわよ」
その言葉を聞いた石野さんは、ニヤリと歪な笑顔にさせる。
「嘘を言っちゃダメよぉ〜」
「う、嘘何て言ってないわ!」
「瞳の動き、呼吸の仕方、それにアゴの動きで嘘かどうかわかるのよぉ〜」
「ッ!?」
図星だったのか、今度はサッと顔を逸らした。
「それにアナタに恐れを感じるわぁ〜」
「お、恐れ?」
「そう、恐れ。まるで誰かを恐れているような感じがするの。私? それとも真理亜さん? それともぉ〜・・・・・・森下くんを殺した紫音くn」
「止めてっ!!」
筒城先生はそう言って耳を塞いだ。
「ああ〜、やっぱり紫音くんなんだぁ〜!」
筒城先生が僕を恐れている?
そう思っていると石野さんが歪な笑みを浮かべたまま、筒城先生先生に近づいた。
「ずっと出入り口にいたのは、紫音くんを恐れていたからでしょぉ〜?」
「違うっ!?」
筒城先生はそう叫ぶように言うと、耳を塞いだまましゃがんでしまった。
「じゃあ何で紫音くんに近づかないのかなぁ〜? その答えはキョウちゃんの元クラスメイトを殺したからでしょぉ〜?
平気で殺人をする人間に触れるの怖いよねぇ〜?」
「違う、違うっ!?」
「なら紫音くんに触れて見てよぉ〜。こんな風にねぇ〜」
石野さんはそう言うと、背中から抱きついて頭を撫でて来た。
「耳がフカフカで可愛い〜。切り取りたいわぁ〜」
石野さん、洒落になんないよっ!!
石野さんが恐くて身震いしていると筒城先生は意を決した顔で立ち上がり、僕に近づくが足取りが覚束ない。
「フフッ! ほら、この気持ちいい耳に触れてみてぇ〜」
「え、ええ」
筒城先生はそう返事をすると、ゆっくりと手を伸ばして来るが恐がっているのが見てわかる。
「ッ!?」
彼女は手を伸ばしている途中で、引っ込めてしまった。
「ほらね。キョウちゃんは紫音くんに触れられないぐらいに恐がっているのぉ〜」
「そしてそれがアナタの覚悟の弱さよ」
「覚悟の、弱さ?」
「そう、アナタに教師としての使命感はあるけれども、覚悟まではなかったのよぉ〜。何とかしてあげたい子の身体に触れられない時点で終わりよぉ〜」
真理亜さんがそう言うと、筒城先生は俯いてしまった。
「それにねぇ〜、キョウちゃん。キョウちゃんとその生徒達がいる世界と紫音くんがいる世界を一緒に捉えちゃダメなのぉ〜」
「どう言う意味よ?」
「アナタ達は空を自由に飛べる鳥で、紫音くんは大地を駆ける狼。だからアナタ達と飛ぶ事は出来ないのよぉ〜」
なるほど、石野先生の言う事が何となくわかる気がする。だって僕と接してくれる人は、ただ1人だけなのだからね。
「それはまだわからないわよ」
「どうしてかしらぁ〜?」
「紫音くんも私も人よ。鳥や狼じゃないわ」
「ハァ〜・・・・・・わかってないのねぇ〜」
石野先生はそう言うと、ワインを一口飲んだ後に筒城先生を見つめながら語り始める。
「鳥は空を飛びたいと思えば空を飛び、降りるところを自分で決められる。食べ物が食べたいと思えば木の実とかを摘んで食べられるわぁ〜」
そして次に僕を見つめて語り始めた。
「狼は違う。地面を歩き、獲物を求めて彷徨い、そして己の全てを懸けて戦う。例えそれが同族であっても牙を剥き戦うわ。仲間を守為にねぇ〜。
例え1匹になっても誇りを忘れない生き物よぉ〜。猛禽類じゃない鳥に同族を殺す覚悟があるのかしらねぇ〜?」
「そ、それは・・・・・・動物の話であってね」
「人間も同じ動物よぉ〜」
石野さんはそう言うと、ワインを飲み干した。
「それよりもキョウちゃん。他の生徒に謝罪しに行かなくていいのかしらぁ〜?」
「そうねぇ〜、石野ちゃぁんの言う通りねぇ〜」
真理亜さん、普段の喋り方に戻っているよ。
「あ、はい。そうですね。失礼しました!」
彼女はそう言うと、逃げるような形で店を出て行ってしまった。
それにしても、鳥と狼かぁ〜・・・・・・。
「ん? 紫音ちゃぁん、どうしたのかしらぁ〜?」
「何でもないですよ! 早くノートを写し書きして返さないと!」
そう言って写し書きを再開させるが、心の中では 石野さんの言う通り、自分は大地を駆ける狼で自由に飛べる普通の人と生きている世界が違うのかもしれない。 と思っていたのだった。
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