エピローグ 冨上の結末

〜〜〜 工藤 side 〜〜〜


同時刻、とある病院にて。


「冨上さんの病室はこちらです」


「ありがとうございます」


ヤレヤレ、何で何時もこういう役目をやらされるんだ? 職員なら他にいる筈なのに。工藤さんが行って下さいって。まぁ働きでのサラがあの様子じゃ仕方がない事なんだがな。


心の中で文句呟いて、病室へと入って行く。


「冨山さん、入りますよ」


「あ、はい」


そう言って病室へと入って行くと、痛々しい姿の冨上がベッドの上で横になっていった。


「どうも、PMC羽田空港本部の主任を務めている工藤と申します」


「あ、はい。先日は助けて頂き、ありがとうございました」


そう言って来るとは、クズの癖に常識ぐらいはあるんだな。


「来て早々すみませんが、アナタのお耳に入れて貰いたいのです。今お時間大丈夫ですか?」


「あ、はい。検査の方は午前中に済ませたので大丈夫です」


何だかんだコイツも重症患者だからな。自業自得とは言え仕方ないか。


「そうですか。もう知っていると思いますが、森下容疑者が射殺されました」


「そうですか」


俺は色んな人と会話しているから大体何を考えているのかわかる。コイツの場合森下に対して ザマァねぇな。 って思っていやがる。


「それと、アナタと共に捕らえられた金井さんの事なのですが、申し訳ありません。手遅れでした」


その言葉を聞いた冨上は、悲しそうな顔で俯いてしまった。


「そう・・・・・・ですか」


コイツに取って金井は友人だったからな。そうなるか。


「あの、付かぬ事をお聞きしますが、大丈夫でしょうか?」


「はい、何でしょうか?」


「私を助けてくれた人にお礼を述べたいのですが、連絡先などを教えて頂けないでしょうか?」


「すみませんが個人情報に当たってしまうので、お教えする事が出来ません」


つってもアイツに教えたところでどうなるのか、結果がわかっている。


「そうですか。では、助けてくれた彼に伝えておいて頂けませんか? 助けてくれてありがとうございました。と」


「ええ、伝えておきます。他に何かお話がありますか?」


「いいえ。ありません。本当に助けて下さって、ありがとうございました」


「いいえ、気にしないで下さい。それでは」


彼にそう言ってから出入口のドアまで歩き取ってに触れた瞬間、ピタリと動きを止めた。


「あっ! そう言えばその彼から伝言を貰っていたのを、すっかり忘れていました」


「え、伝言ですか?」


「はい」


「彼は何と言ってたんですか?」


振り返り、冨上の顔を見つめながら語り掛ける。


「“次はアナタが地獄の底へ行く番だ。”と言っていました」


「・・・・・・はぁ?」


意味がわからない。と言いたそうな顔をしている冨上に対して、工藤は喟然とした態度で話す。


「ま、すぐに彼が言った言葉の意味がわかりますよ・・・・・・イヤでもね」


そう言うと病室を出て扉を閉めた。


「私の話は終わりました。どうぞ、中でご自由にお話をして下さい」


「・・・・・・わかりました」


スーツを着た2人の男性と、今にも泣きそうな冨上の妻が足早に入って行くのを工藤は見送った。


『しゃ、社長。お仕事お疲れ様です!』


『・・・・・・ああ、お疲れ。キミに聞きたい事があるのだけれども、いいかね』


お〜、早速切り出すかぁ。


『聞きたい事? 仕事の事ですか?』


『ああ、そうだ。これはどういう事なのか、この場で話して貰おうか?』


『なっ、それはぁ!?』


ガタッという音が病室の外まで聞こえて来た。動揺しているなアイツ。


『もう一度言う。どういう事なのか、話してくれないか?』


『それは、そのぉ〜・・・・・・』


冨上が言い訳を考えている姿が目に浮かんでしまう。それにあの様子じゃ逃げようにも逃げられないから、どうする事も出来ないだろうな。


『それにアナタ! 浮気をしてたのね!?』


『え、あ、浮気ぃ?』


『惚けないで! 証拠だってちゃんとあるのよ!』


『なっ!?』


声からしてどうやら証拠を突き付けられたようだ。


『ち、違うんだっ! これは会社の付き合いでっ!』


『会社の付き合いで、ライバル会社の女性とねぇ〜・・・・・・』


『ッ!?』


『それに、その女性に我が社の機密データを渡していたじゃないか?』


社長がそう言うと、 その、あの、えっとぉ〜・・・・・・。 と言う声が聞こえて来た。


『それに、今回の銃撃事件の原因はキミにあるみたいじゃないか?』


『え、俺に?』


『キミが容疑者を虐めていたのが原因だったんだろう?』


『何処から、その情報を・・・・・・』


俺達PMCと世間様。それに情報屋からだよ、ボケ。


『そんなキミをもう雇っていられない。この場でクビを言い渡す』


『ま、待って下さい! 俺は森下の被害者です! それに機密情報を他社に何て渡してなんていませんっ!!』


『こっちはもう裏を取っているんだ! お前がやったという証拠もなっ!!』


怒るのはわかるが、ここは病院だぞ。大声を出すなよ。


『私と、キミの元妻はお前を訴えるつもりだ』


『う、訴える?』


『そうだ。後の事は弁護士を通してくれ。顔も見たくない』


『ま、待って下さい! 謝りますから、だから裁判だけは勘弁して下さいっ!! 待って! 待ってくれぇぇぇえええええええええええええっ!!?』


病室から出て来た人達は俺にお辞儀をした後に去って行った。彼らが去った後も冨上の哀れな叫び声が聞こえて来るが、同情する気持ちが湧かない。

むしろヤツに復讐しようとした森下の方が可哀想に思えるぐらいだ。


「まぁ、自分が撒いた種が発芽した結果だからな」


それに、ネット上に犯人の経緯がこと細かに書かれたのが出回っているからな。ヤツはもう社会的に死んだと言えるだろうな。


「ま、PMCに来るって言うのなら受け入れてやるよ」


ただし肩身が狭い思いをすると思うがな。


そう思いながら病院の外へと向かうと、見覚えのある車が病院の前に停まっていてドアウィンドウを下ろしてから、こっちを見つめて来た。


「久しぶりね、工藤主任」


「久しぶりだな。エルザ」


アメリカ系の黒人の女性で、あの研究に携わっていてお互いに忙しくて最近連絡を取ってなかった。


「何でお前がここにいるんだ?」


「例の件についてね、アナタに話に来たのよ」


「あの件かぁ・・・・・・」


資料も目を通して実物もアメリカで見て来たが、嫌悪感を感じた。


「俺はあれを容認出来ない」


「どうして?」


「お前らは人類の最新テクノロジーが生んだものと言うが、俺からしてみれば・・・・・・」


せいへの侮辱って言いたいんでしょ?」


彼女は言葉の途中でそう言って来るので、語るのを止めて頷いた。


「もう実戦投入はしていて、結果も出ているわ」


「あれを実戦投入したのか?」


俺が見た時は歩くのでやっとという感じだったぞ。それがもう実戦投入出来るレベルまでなっていたとは。


「驚異的な回復力だったわ。私でさえ後1年は訓練しないダメと思っていたわ。それとこれがデータよ」


そう言って書類を渡して来たので、それに目を通す。


「・・・・・・このデータ、本当か?」


「ええ、1体だけでその結果よ」


「恐ろしいなぁ」


「すばらしいの間違いじゃない?」


お前にとってはな。


「それと、彼をここに連れて来たわ」


「何だとっ!?」


こっちに持って来ただと?


「誰の許可を得て持って来たんだ?」


「アナタの上司に当たる。スイスのお偉いさんからよ。ホラ、これが証明書よ」


そう言って契約書を取り出して見せつけて来る。


「マジか」


スイスの本部め、一体何を考えていやがるんだ?


「だから本部の一部を使わせて貰うわね」


流石の俺も、スイス本部には逆らえない。


「わかった。ただし、これだけは覚えておけよエルザ」


「何かしら?」


「お前の玩具がヘマするようなら、俺は容赦なく壊すからな」


「ええご自由に。ヘマ何て0.01%の可能性もないのだから」


どっから来るんだよ。その自信は?


「俺も仕事があるから、じゃあな」


「また後で会いましょう」


そう言ってから、書類を返してからエルザと別れるのであった。

それとこれは余談だが、冨上は妻に離婚された上に会社をクビになった。それだけではなく借金を背負い素性がバレて世間から責められるハメにもなってしまい、数日後には地獄のような生活に耐え兼ねたのか、姿を眩ませて行方不明になってしまった。

この結果に俺が言えるのはただ1つ・・・・・・何だかんだで森下の復讐が達成されていた。たったそれだけ・・・・・・そう、本当にたったそれだけ。

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