会議室へ付いて行く紫音
「おっとぉ。忘れていた」
目の前を歩いていた工藤さんがそう言って急に止まると、何故かこっちを振り返って僕を見つめて来た。
「そういえば紫音くんはここに来るのが初めてだったな。忘れていた」
「あ、はい!」
そう、工藤さんの言う通りPMCの本部に入るのは初めて。だからこの場所をよく知っている工藤さん達に付いて行けば大丈夫と思っている。
「ほら、これを先にお前に渡しておく」
そう言って手渡されたのは1枚の紙だったが、表紙に書いてあったのはPMC本部案内と書かれていた。
「パンフレット?」
「そう、パンフレット。これがあれば迷う事はないし、いちいち説明する必要もなくなるだろう?」
「あ、はい。その通りですね」
そう言った後にパンフレットを開いて今いる場所を確認しようとしたけど、書いてある物が気になってしまう。
「えっ!? ガンショップがあるのは天野さんに聞いていたけど、銭湯とか男女別々の更衣室が何でここにあるんですか?」
PMCが専用の車庫とかヘリポートを所有しているのはわかるけど・・・・・・。
「まぁな、リトア達の様にそのまま行くヤツらもいれば更衣室で服を着替えてから行くヤツらもいる。そういうヤツらは魔物の返り血や硝煙の臭いが服に付くのを気にするからな。
それと、利用者の要望に答えて洗濯機と乾燥機を導入した。利用する時は銭湯同様お金が掛るのを覚えておけよ」
「あ、はい! わかりました」
「それと、もう会議室に着いたから、そのパンフレットを仕舞ってくれ」
「えっ!?」
顔を上げて見ると目の前に作戦会議室通路と書かれているドアあった。その文字を見た途端に慌てパンフレットを折りたたんでポケットに入れる。
「す、すみません!」
そう言いながら頭を下げて工藤さんに謝ると、ポリポリと身体を爪で掻く様な音がした。
「まぁ、別に謝る事じゃないから気にするな。ところで、天野のヤツは本当に来てるんだろうな?」
「ちゃんと来てるわよ。アナウンスで ここに来い! って呼んで欲しいわ!」
「会議室に居なかったらそうする。全くアイツはいつも迷惑ばかり掛けやがって、コイツらの苦労を少しは考えてやれよ」
そう言いながらドアを開き、会議室へ入って行くと一人の女性がこちらに向かって来てくれた。しかし僕はその人の姿を見て言葉を失っていた。何故なら・・・・・・。
「おはようございます。リトア、リューク」
彼女は車椅子に座っているので僕達を見上げながら挨拶をした。そう、彼女の左手には見ていて痛々しいと思える様な傷跡があって車椅子を動かしてここまで来たからだ。
「始めまして。私は サラ・イタバシ って言います。以後お見知り置きを」
「は、始めまして! 大園 紫音 種族はライカンスロープです!」
そう言って頭を下げたら、クスクスと笑う声が聞こえて来たので 何で笑っているんだろう? 思っていたその時だった。
「ヒャン!」
サラさんが何も言わずに僕の耳を触って来たのでビックリして声を出してしまった!
「・・・・・・あったかい。本物の耳だわ」
もしかして僕はライカンスロープじゃないって疑われていたのっ!?
「・・・・・・そろそろ離さないか?」
「あ、ゴメンなさい! ちょっとだけ興味があったから、アナタの耳を触っちゃたの」
顔を上げてサラさんを見てみると、サラさんが申し訳なさそうな顔をしてこっちを見ていた。
「別に触るのは構わないのですが、一言ください。耳は敏感なのでいきなり触れらるとビックリしますから」
獣人の人達は家族以外の人に耳や尻尾を触れられるのを極端に嫌がるけど、僕の場合はそういう風習みたいなのは教わらなかった。
だから今までずっと、耳や尻尾を触られてもあまり気に掛けずにいる。
「そう・・・・・・わかったわ。今度から一声掛けるわ」
「じゃあ耳を触らせて!」
「私は尻尾の方をモフモフさせて!」
リュークさんとリトアさんがまた耳と尻尾を触って来た。
「・・・・・・さっき触ったじゃないですか?」
「また触りたくなったから触ってるんだよ」
「そうよ! 私達癒されたいからね!!」
僕の耳と尻尾のどこに癒しどころがあるんだろう?
そう思っていると工藤さんの口から ハァ〜・・・・・・。 と言う様な深いため息が聞こえて来た。
「紫音くんの耳と尻尾を触ってても良いから、ついて来てくれ」
「そうですね。早く仕事を伝えたいですからね。それと、もう既に天野さんがこちらに来ているので早く行きましょう」
「「ハァ?」」
天野さんがもうすでにここにいる。一体どういう事何だろう?
僕と一緒にここに来た人達が驚いている中で、リトアさんが恐る恐るサラさんに確認を取る為に話し掛ける。
「へ、変な事を聞いてると思われるけど。本当に天野が会議室にいるの?」
「はい。先ほどこちらにいらっしゃいましたよ」
「・・・・・・マジ?」
「はい、本当ですよ」
その言葉を聞いた瞬間、リュークさんとリトアさんがまた怒るっ!! と思い身構えていたけれども、2人は呆れた様子でため息を吐いていた。
「えっとぉ〜・・・・・・怒らないんですか?」
「もう怒りを通り越して呆れてしまったよ」
「ええ、リュークの言う通り呆れてるわ」
よ、良かったぁ〜! また怒ったらどうなってしまうのかと、ヒヤヒヤしてしまったよ。
「それじゃあ行きましょう」
リトアさん達について行く様にして歩き出すけど、チラチラとこっちを振り向いて来るので気になってしまう。
「あの、僕の顔に何かついていますか?」
「あ! ゴメンね。もうちょっと触っていたかったなぁ〜。って思っていただけだから、気にしないでね」
「あ、そうですか」
うん・・・・・・二人が突然耳とか尻尾を触って来たら気にしないでいよう。さっきの様に怒ったら周りに迷惑を掛けるのを防げるし、何よりも僕自身の心の平穏にも繋がるから。
「よう、お前ら。遅かったな」
とか何とか思っていたら、天野さんに声を掛けられた。どうやら会議室に着いたみたいだ。
「よう、お前ら。じゃないわよっ! 私達が本部に入ってすぐそこにあるソファーで待っていたのに、何でアンタがここにいるのよっ!!」
「そうか、気がつかなくて悪かったな」
口では謝っているけれども、何故か瞳は反省をしていない。と物語っている気がするのは僕だけだろうか?
「アンタねぇ! こっちはスマホで連絡をしたのに全然・・・・・・」
「揉めるのは任務が終わってからにしてくれないか? こっちは色々と仕事が詰まっているかなぁ、ちゃっちゃと要件を終わらせたんだが?」
工藤さんの顔を見てみると、ご立腹なのか眉間にシワを作って天野さん達を睨んでいた。
「むぅ・・・・・・わかったわよ。仕事の話しをして」
天野さんに詰め寄っていたリトアさんはそう言うと僕の隣に来た。
「よろしい。サラ、話してくれ」
「わかりました。天野さん達はもう聞いていると思いますが、昨日の3時30分に山岸さんと山野さん、それに佐島さんとの連絡がつかない状態になりました」
「山岸? あの彼らが行方不明になったのかい?」
「ええ、行方不明になりました」
サラさんの話しを聞くと、リュークさんは考えているのかアゴに手を当てて う〜ん・・・・・・。 言い出す。
「リュークさんはその人達の事を知ってるんですか?」
「え? ああ、うん。立ち入り禁止区域のどこかに拠点を作ってPMC活動してるグループって事で有名だよ」
あれ? 確かダニエル教官の話しだと、 1日じゃ終わらない仕事以外は夜になる前に帰らせているか、どこかのスラムに泊めて貰う様に促しているんじゃなかったっけ?
「拠点を作っているって事は、それだけ人員がいるって事ですよね?」
拠点を持つって事は拠点を防衛する人や、物資の管理をしたりする人、さらに物資を調達する人がいないと維持が出来ない筈。
だから拠点を作るのは指折り数える人数でも出来るかも知れないけれども、維持するとなるとそれなりに人がいないと維持が出来ないだろう。
「いんや違う。アイツらはもう営業してないコンビニやファミレスで、寝泊まりしながら任務をこなしてる。しかもたった3人でな」
「たった3人!?」
20人とか予想していたけれども、的外れの人数だったので思わず声が裏返ってしまった。
「アイツらに、 そんな事をしていたら、いつか死ぬぞ。 って何度も注意していたがな・・・・・・」
「心配して事が的中してしまったんだな」
「ああ、お前の言う通りだ」
工藤さんは ハァ〜・・・・・・。 と呆れた顔でため息吐いた。
「そして、山岸さん達に渡したスマートウォッチの最後通信場所が平和島です。位置情報はアナタ方のスマートフォンに送るので確認しておいて下さい」
サラさんはそう言うと、車椅子の脇にさしていたタブレットを取り出して操作をし出した。
「ん?」
ポケットに入れていたスマートフォンが震えたので、取り出して見てみるとPMC本部からのメッセージが入っていた。
なので、専用のアプリを開いて確認する。すると地図にマーカが付いていた。
「その様子無事に送れた様ですね」
「あ、はい・・・・・・でも、3人の場所が離れてますね」
3人の内2人の位置は近いけれども、1人だけは遠く離れた建物に印が付いていた。
「多分その場所が拠点にしていた場所だろう?」
あ、なるほど。拠点にしている建物に逃げ込んだのかぁ。だとすると位置の近い2人は・・・・・・。
「さて、日が暮れる前にさっさと終わらせるか。サラ、スマートウォッチをくれ」
「はい、どうぞ」
僕が考えているのを余所に、天野さんは3人分のスマートウォッチ受け取ると、リュークさんに顔を向けて指示を出す。
「リューク、お前はいつも通り司令塔のパソコンで俺達のサポートをしてくれ」
「わかったよ。アマノくん」
リュークさんはそう言うと、会議室を出て行ってしまう。
「買い物を済ませに行くぞ。シオン、付いて来い!」
「あ、はい!」
さっきまでダラダラしいていた態度とは違い、今はキリキリとしているので この人は別人じゃないのかな? 思ってしまう。
「気をつけて行ってらっしゃいませ」
「危ないと感じたら逃げるんだぞぉ〜!」
「はい、行ってきます!」
工藤さん達にそう返事をすると、僕は天野さん達について行く様にして会議室を出るのであった。
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