天狗様と私

 その神さまは真っ青な瞳をしていた。金色の髪に白い肌、そしてその長身はまさに異形のものである。聞いたことのない言葉を話し、見たことのない文字の分厚い書を持っている彼を、村人は畏怖の念を込めて天狗様と呼んだ。

 初めて天狗様が来たのは稲の収穫を終えた頃だった。山で採れる赤いヤマボウシの実を、大きな袋一杯に持ってこの集落を訪れたのだ。最初に見つけたのは私だったが、あまり化け物じみた感じがしなかったのを覚えている。伝説に聞いた「天狗」によく似た姿のその男は、怖ろし気な様相とは裏腹に子どもたちにひどく懐かれていた。初めこそやれ天狗の神隠しじゃやれ物の怪じゃと騒いでいた大人たちも、三日と空けずにいろいろな食べ物を土産として訪れたり、子どもと遊んだりするその姿を見て次第に山神様、天狗様と呼んで有り難がるようになった。川へ行けば川魚を釣って帰り、山の奥深くでは貴重な木の実を採り、時によっては巨大なイノシシを飼ったり、薪割りや薪拾いをしてきてくれることもあった。木こり小屋もないその山でどこに住んでいるのかは誰にもわからなかったし、子どもたちもいつの間にか傍に来てるのと言って不思議がっていた。

 あるとき、天狗様が十日経っても現れないことがあった。心配する必要はなかったのかもしれなかったが、もう村の一員のように半ば思っていた村人はどうしたものかとやきもきした日々を過ごしていた。しかも不幸にも雨続き。山の中はぬかるんで土砂崩れの恐れすらあった。雨のあがったあくる日、姿を見せた天狗様はひどくやつれていて、体はすっかり冷え切っていた。日ごろお世話になっているからと、貧しい者偏屈者も含めた村人総出で火を起こし粥を作り、それぞれが持ち寄った服を縫い合わせて大きな着物やら布団やらを仕立てた。天狗様はたいそう喜んで、元気になって以降は持ってくる土産の量が倍に増えた。お陰で私の食事にも魚の頭がたくさん出て、非常に満足である次第…だにゃあ。


(お題「人外」「神さま」「瞳」)

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