偽りの本物

 これは遠い遠い未来と、遠い遠い過去の話。

 西暦30XX年。文明は発達し、空飛ぶ車が実現化し、クローンやタイムマシンの開発が現実味を帯びてきた世界。そんなある日、同時多発的に世界中の有名な美術館が爆破された。犯人は何も語らぬまま命を絶ち、数ある作品が燃えていくのを、誰もがなすすべもなく見守るしかなかった…筈だった。

 トップニュースとなったその悲報は、世界の芸術への概念を揺るがした。その事件をきっかけに、過去の文化財の重要性が再確認されたのだ。そして文化財を保護するために世界は動き出した。教育でも絵画や芸術作品に触れる機会が増え、子どもたちはこぞって芸術家を目指した。

 その数百年後、とうとうタイムマシンが完成する。世界が協力しての大掛かりなタイムマシンの装置の開発。多くの犠牲を伴ったそのタイムマシンは、失われたものを取り戻しにいくものとなった。絵画の道を志した子どもたちの一部は、文化財謄本師となり、生涯をかけてゴッホやモネといった芸術家と共に精巧な複製品を生み出し続けた。その作品は小型の転送装置で未来へ送られ、偽りではあるが限りなく本物に近いものとして大切に保護されている。


(お題「偽りの本物」)

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