虹瑠璃の世界

 遠くで車が走り去っていく。窓の外からは鈴虫の声。虹瑠璃は僕の作った特大スピーカーに凭れるようにして、微かなその振動を感じていた。

「に、じ、る、り」

 マイクの前でゆっくりと話す。すると彼女は嬉しそうに僕の方を向くんだ。虹瑠璃は目が見えず、耳も聞こえない。だから全身で世界を感じ、音を聴く。

「きょ、う、は、ま、ん、げ、つ、だ、よ」

 彼女にはどんなふうに伝わっているのかわからないが、最初は唇に手を当て言葉のやり取りをしていた彼女も、今ではスピーカーの振動だけで僕の言葉を聞きわける。

外を指し両手で大きな円を描いた彼女の髪を、窓からの風が静かに揺らす。

 くすぐったそうに振り返る彼女の喉が、くくく、と鳴った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る