密林の村モリーブ 2
一行は黙って歩き続けた。
ノアは空気に耐えられず、一行を盗み見した。王子が不機嫌そうなのはいつものことだが、エルザも初めて見るような険しい顔をしているし、ターニャは当てつけのように最後尾をだらだらと歩いている。暑さはますます厳しくなっていて、もう体力も限界だった。
歩き続け、家々も見えなくなった頃、後ろでがさがさと音が続いていることに気付いた。思わず振り返るとターニャと目が合った。
「つけられている。というか、ついてきていると言ったほうがいいかしら。小さい女の子ね。それからもう一人。モリーブの集落からずっと」
ターニャの言葉に一行は足を止めた。
「出てきたら」
エルザの優しい声に、葉を掻き分けて小さな人影がひょこっと現れた。先ほどの女の子だった。
思いがけない可愛い追跡者に、一行の雰囲気がほころぶのを感じた。ターニャでさえも微笑んで声を掛けた。
「どうしたの。こっちにおいで」
その後ろから母親らしき若い女性がそっと出てきて寄り添った。大きな籠を両手に提げていた。
「皆様お疲れでしょう。もう少し先に使われていない家があります。この子を助けてくださったお礼に食料もお持ちしましたから、どうぞお休みください」
モリーブの親子に案内されて、道から逸れた森の中の家にたどり着いた。親子は籠を置いてそそくさと帰っていったが、疲れた体には本当にありがたいもてなしだった。
簡単に食事を済ませ、吊るされた蔦のはしごを一人一人登る。まだ外は明るく先へ進める時間帯ではあるが、いずれにせよもうすぐ夕の大雨もやってくる。今晩は早めに休んで今後に備えることにした。
ノアにはとにかく、硬い地面の上で寝なくて済むということだけで心弾むようだった。蔦で編んだ中に葉を詰めたベッドは快適そのものだった。
ちらりといつもの悪夢への恐怖がよぎったが、昨晩あまり寝ていないのもあったのか、引きずりこまれるように眠りについていた。
ノアは1人で森を走っていた。夜。ランプも松明も持っていない。それでも微かに差し込んでくる月の光で足元は見える。
何か大変なことが起きている。すぐに駆けつけねばならない。
どこか遠くで不気味な鳥の鳴き声が聞こえる。
走っているはずなのになかなか進まない。蔦は切っても切ってもすぐにまた絡まってくる。
そのとき鋭く風を切る音が聞こえた。矢が放たれたのだ。
遅かった。私はまた間に合わなかったのだ。
目の前の蔦が急に左右に分かれる。開けたそこは月の光で銀色に染まっている。
そして彫像のような2つの影。
倒れた王子の胸には矢。すがりつくエルザの泣き声が静かな真夜中の森に突き刺さる。
絶望で体が冷たくなっていく。
また助けられなかった。
目の前が黒く塗りつぶされていく。体を支えられず、しゃがみ込む。
急に肩を小さく揺すられた。
「ノア、ノア」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます