第5話君が僕にくれたもの

 壮絶なスケジュールを一週間続けていた僕は正直かなりメンタルも、体もボロボロだった。

 体は重いし、授業の内容は全然頭に入らない状態だった。

 今の僕のスケジュールは、朝5時に水野あかりに目覚まし着信が鳴らされ、通話しながらの練習なので寝る事もできず7時まで練習。

 8時に家に出て授業を受ける。

 放課後は最終下校時刻まで、音楽室や、体育館のピアノなどを借りて練習、当然水野あかりもいる。

 そして家に帰り、ご飯と風呂に入り爆睡これが今の僕のスケジュールだった。


 このハードスケジュールをしてから、毎日2時間以上していた勉強も一切しないで、家に帰ったら、ご飯を食べて風呂に入り寝るという生活ができ始めていた。

 だが、こんな生活ができなくなる出来事が、これからある。

 それは大体の学生の敵の中間テストだ。

 しかも僕は高校三年生で大学には推薦で行こうとしているから、この中間テストは無論大事だ。なので授業中も寝る事もできないし、家に帰って勉強もしなくてはならない。


 という事で、家に帰ってからは寝ることもできず、今のハードスケジュールにいつもやっていた2時間の勉強を入れた、さらに過酷なスケジュールをこなすことになってしまった。

 中間テストが一週間に迫り、東関東コンクールも近くなってきたある日、HRのあと担任の山川に呼ばれた。

「顔色悪いが大丈夫か?」

「大丈夫です。全然平気です。」

 正直とても体調が良くないことが自分でもわかっていたが、先生に迷惑はかけたくないと思って平気と答えてしまった。

「そうか。じゃあ今日放課後、教室掃除があるから水野と掃除頼んだぞ」


 放課後、水野あかりと掃除をしていて、そこで目眩がして倒れてしまった。


 気がつくと保健室の天井が見えた。

 ベットの隣には、水野あかりがいた。

「大丈夫?」と彼女は聞いてきた。

「全然平気とはいえないけど、少し寝る事できたし、多分大丈夫」

「私のせいでこんな無理させてごめん…」

 彼女はとても申し訳なさそうだった、

「やるって決めたのは、僕なんだから君のせいじゃない。それに君に僕は感謝してるぐらいだよ」

「感謝なんで?」

「僕のなんでも中途半端だった僕を変えるきっかけをくれた君に感謝してるんだよ、だからありがとう」

 彼女は少し照れながら頷いた…

 言った僕も恥ずかしくなり布団を頭まで被った。


 家に帰り、家に僕が学校で倒れたことが連絡されてたらしく、母はとても心配な顔しながら僕を待っていた。

「最近無理しすぎなんじゃないの、健康には気をつけて。あなたは高校3年生で将来が決まる年なんだから」

 僕は「気をつける」とだけ言い、部屋に戻った。

 次の日は水野あかりからの目覚まし着信がなかったが、5時に起きた。多分僕を体調のことを心配して起こさないようにしたのだろう、と思った。

 でも、ここまで頑張って毎日朝5時に起きて練習してきたのだから、今日も頑張って練習しようと思い一人で練習した。


「あ、またズレた」

 放課後はいつも通り水野あかりは来た。

「何度も練習してるけどここのフレーズは難しいんだよ!」

 すると彼女が僕の隣に座り、そのフレーズを難なく演奏した。

「ここは手首をしならせながら次の指の動きをスムーズにやるの。」

 すると彼女僕の手に触り、やり方を教え始めた。

 正直、覚えるどころではなかった。

 なぜかと言うと、友達も作れない僕が放課後二人きりでピアノの練習して、しかも手と手が触れるなんて、今までの僕には考えられなかったからだ。手汗とか酷くないかなと考えていたら、「ちょっと、聞いてるー?」と彼女に言われたが、ほんとごめん、緊張しすぎて頭に入りません。と心の中で謝り、とりあえず頷いた。


 帰り道、彼女に聞いた。

「なんで君は僕に優勝して欲しいの?」

「あー、話してなかったな~、私東関東コンクール3回優勝してるんだけど」

「自慢ですか!」僕の返答を気にしないで彼女は、話し続けた。

「今度コンクールに出る名前の中に神谷君て子がいてその子も3回優勝してて、次優勝しちゃったら私よりも多く優勝するわけじゃん?」

「うん」

「だから君に勝って、それを阻止して欲しいの!」

「まじかい、そんな理由で僕は大会出る羽目になったんかい!」

「私、負けず嫌いなんだもん!」まぁいいやと僕は納得はできなかったが、前々から聞きたかった質問を聞いてみた。

「じゃあ、君は何でピアノを始めたの?」僕は天才ピアニスト水野あかりのピアノを始めた理由を聞いた。

「うーん、それは内緒!」

「えー始めた理由聞かせてよ」

 考えながら彼女は言った

「じゃあ、優勝したら教えたあげるよ!」

「しかも優勝したら私とデートしてあげてもいいよ!」

 それを聞いた僕が今顔が真っ赤になっているのが自分でもわかった。

「夜なのにわかるぐらい顔赤いよ?」彼女に、笑いながら言われた。

「暑いんだ!」

「ブレザー着てるのに?」

「そう!」

 苦し紛れに言ったけど彼女の見透かした顔を見て意味がないなと思った。

「とにかく、優勝したらピアノ始めた理由教えてもらうからな!」

「うん、いいよ!」

 僕はこの時間この会話、全てがとても心地よかった。

 この時間が止まってくれたらなと思いながら、ゆっくり早くこの時間が終わらないように自転車を漕いだ。








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