第3章 めぐりあい異世界(2)
「来たか!!」
一瞬で、臨戦態勢に入る。
入り口のドアを開けて現れた、複数の人影。
それぞれ、フルフェイスのヘルメットのようなものを被っているので、その顔は見えない。
しかし、手に持っている特殊警棒が、その害意を表していた。
護衛の俺達を排除しようとする、意志が。
「……やらせるかよ!!」
部屋の外に魔法陣を出現させ、こちらに来たのだろう。
未だに、室内に魔法陣は現れていない。
現世界人を異世界に連れて行く魔法陣を作る為には、それなりの時間が掛かる。
だからその前に、先兵を送り込み、制圧するのだ。
実にセオリー通りの戦法。
だからこちらとしても、セオリー通りに対処していくしかない。
迫って来る敵を、一人一人無力化していく。
「はい、マジカルスタンガン♪」
真面目に取り合う必要もないよな。
俺が取り出したのは、異世界から流入した技術を解析して製造された、超性能のスタンガン。
引き金を引くことで、相手を痺れさせる効果のある紋章を撃ち出し、
紋章に触れた相手に、高圧電流を与え、昏倒させる、という武器である。
明らかに、現世界の技術では届かないオーパーツだが、それを異世界の技術によって埋め合わせることにより、独自の装備が開発されていったのだ。
いわば、異世界と現世界のハイブリッド武器。
異世界の技術を、惜しげもなく利用する貪欲さと。
異世界の技術のみには頼らないという、覚悟で。
俺達、対異世界チームは存分に武装している。
「そらよッ!!」
引き金を軽く引くだけで、次々と電撃が空中を走り、敵にヒットする。
一撃だけでは効かなくても、ここまで簡単に、連続した攻撃が可能ならば、それは確かな力となる。
噂では、マジカルスタンガンよりもより速く、多く、強く、相手を昏倒させるマジカルスタンマシンガンなるものがあるそうだが、どういう相手に使うんだよそれは。
それは武器ではなく、兵器だ。
とにかく、人型が相手なら、このスタンガンで十分だ。
異世界からの侵略者人型なので、狙うべき箇所も分かっている。
数発叩き込んでやれば、それで大体は意識を失う。
だから今回も、あっさりと侵略者は無力化された。
引き金を引くだけでここまで簡単に相手を制圧できるとは、さすがは最前線の対異世界チーム。
何しろリーダーが優秀だからな!
「……さてと」
見れば他のメンバーも、同じように活躍していた。
何だかんだいって、こういう荒事には慣れているのだ。
「ああ、もう、面倒だなぁ……」
やる気のない言葉。やる気のない動作。
何一つポジティブなところなど見せない、史雄だったが。
しかし、その身体は勝手に動く。
どれだけ、本人がやる気を失っていても、その身体に染みついた経験……無数の世界を救って来た圧倒的な経験が、半ば自動的に史雄の身体を動かす。
たちまちのうちに倒されていく敵。
恐らく、相手は何をされたのかさえ、分からなかっただろう。
本多史雄。
その戦闘力のみであれば、現世界のみならず異世界全てを見回してもトップクラスの強さを持っている。
世界を救うことに疲れ果て、全ての希望を失っても、なお。
世界を救って来たその歴史が、こいつが負けることを許さない。
「ほら、これで終わりだよ」
そうやって、史雄が自分に割り当てられた敵を倒したのと同時。
もう一人もまた、敵を倒していた。
「撃滅します!!」
隼瀬もまた、俺と同じように、特殊な装備を駆使して闘うタイプではある。
しかし、使う得物が、かなり尖っていた。
槍だ。
意味合いとしても、物理的にも、尖っている。
どう考えても、こんな狭い室内で使うようなものでは無いのだが、
それでも隼瀬は器用に腕を回し、的確に敵だけを穿っている。
時折、壁を抉り取ったり、史雄をド突いたりしているのはご愛嬌だろう。
もしかしたらわざとかも知れない。
「……ッ!!」
「ひい」
気が付けば、隼瀬の眼が、俺を見ていた。
きっと「サボってないで下さい。撃滅します」と言っているのに違いなかった。
サボってない。メンバーの戦いを見ておくのも、リーダーの仕事なのだ。
ちなみに向こうでは、ポチが侵入者の顔面に飛びついていた。
スライム状の身体を活かして、ヘルメットの内部に染み込んでいるらしい。
情けない悲鳴が、ヘルメットの奥から響いている。
完全に悪のエイリアンみたいな攻撃方法だが、すぐに侵入者は動かなくなった。
ヘルメットのせいでどうなっているのか分からないけど、生きているんだよね?
こうして、三者三様の活躍の結果。
数分後、侵入者は全員、床に倒れ伏していた。
「ふう、やれやれ……」
構えていた銃を下ろし、一息つく。
いきなりのことで驚いたが、まあ、こんなものだ。
「大丈夫ですか、上月さん」
「あ、はい、平気です」
上月さんは、部屋の隅に座り込んでいた。
どうやらちゃんと避難してくれていたようだ。
というか今更だけど、俺達チームって護衛に向いていないのではないだろうか。
銃とか槍とか、うっかり護衛対象を巻き込みそうなものばかりだし。
護衛すべき相手をスライムが溶かしました、なんて言えっこないぞ。
これで終わりとは思わないが、それでも第一陣を乗り切ることが出来たのだ。
ともかく、襲い掛かって来た侵入者の素性を確認しておこう。
どこの異世界の連中なのかを確かめることは、俺達の任務において重要である。
不必要な異世界召喚ばかりを繰り返しているようなら圧力を掛ける必要があるし、本当に困っているのならば援助の必要が出て来る。
時には、どこの異世界の者か分からないようなアウトローも出て来る。
全く、異世界問題は前途多難だ。
色々と考えながら、行動に移そうとして。
しかし、どうにも、納得のいっていない自分に気が付いた。
「……何だ?」
何か、違和感がある。
急かされるように、侵入者の被っているヘルメットを、強引に引き剥がす。
出て来た顔は、何でもない普通のオッサンのものだったけれど。
オッサンであることは問題ではない。
出て来た顔が、ごく普通だったことが、一番の問題なのだ。
髪の毛の色が変わっていたり、瞳の色が変わっていたり。
顔や身体のつくりが、どうにもおかしかったり、なんてことはない。
良く見慣れた、日本人のオッサンの顔が、そこにあった。
「こいつら……!」
気絶して床に倒れている、それらの人間。
それは、俺達とまるで変わることのない、普通の容貌。
「こちらの世界の、人間じゃないか……」
頭を殴りつけられたかのような、衝撃があった。
何だ、それは。
どうして、現世界の人間……しかも同じ日本人が俺達に襲い掛かって来たのか。
まず考えたのは、私怨の可能性。
俺達チームを憎む誰かの仕業だ。
しかし、知らないところで誰かの恨みを買っていた、とは考えづらい。
だって俺は、基本的に他人に興味が無いし。
史雄は、しょっちゅう異世界に行っていたから、この世界とは関係が薄い。
ポチは、まあ、無い。
隼瀬は……。
「言いたいことがあるなら、どうぞ」
「無いです無いです」
「本当にありませんか」
「一切無いです」
むしろ俺がこいつに恨みを抱きたい気分だよ。
というか、俺達の中の誰かがターゲットだとしても、わざわざ任務中に襲って来る理由はない。
仮に襲うとしても、もっと街中とかで、もっと無防備なタイミングで襲うだろう。
というか、俺ならそうする。
「じゃあ、どういうことなんだ?」
「そう言われても、僕には分からないよ」
「私も、さっぱりです」
全員、心当たりはないらしい。
ポチも大きく全身で頷いている。
俺達が狙われた訳ではない、というならば、
考えられるターゲットは、上月さん、ただ一人で。
「ちなみに上月さん、誰かに狙われている、心当たりとかあります?」
「たくさんありますね」
「たくさんあるのかー」
だったら警察に言いましょうよ。
ポリス沙汰にしないといけない事例でしょうよそいつは。
「でも、それは、少し有名な人なら、誰にでもあること、ですよ。有名税って、そういうもの、ですよね」
「そんなものですか」
「おかしな手紙を貰ったりもしますね」
「ああ、カミソリレターってやつですか」
「70枚くらい入っていましたね」
「業者か」
そんなに替えたりしねぇよ。
芸能人って大変なんだな。俺はしがない勤め人で良かったよ。
まあ、上月さんが狙われているということは、当初からの予定通り。
俺達のやるべきことも変わらない。
その筈なのだが。
「何だ。何がおかしい?」
どこに違和感があるのかを仲間と共に考え直す。
ポチもしっかり考えているようで、触手を器用にハテナマークにしている。
「……そう言えば、気になることがあったな」
「何ですか?」
「こいつら侵入者が、部屋の外から現れた、ってことだよ」
「そう言えば、現れた時、ドアが開いていましたね」
俺の言葉に隼瀬が頷く。
そう、侵入者はドアから部屋に入って来たのだ。
それは、考えてみれば、当たり前の行動で。
しかし、異世界からの侵略者としては、明らかにおかしな行動だ。
何故なら、異世界からの侵略者は、
どこからでも魔法陣を使って侵入することが出来るのだ。
世界を越える程の能力があるのだから、その気になれば、どんな厳重な牢獄の奥にだってあっさりと侵入出来る。
わざわざ、部屋の外に現れる必要はない。
しかも今回は、部屋の外に別の護衛が控えている。
そのままでは、室内の俺達と、外にいる護衛とで、2回も戦闘することになってしまう。
自ら圧倒的不利な状況に身を置くことになる。
わざわざ、そんなことをする意味がない。
明らかにおかしい。
相手の行動がどうにも不自然過ぎる。
「それに、何で照明が消えたんだ?」
「そうですね。照明が一旦消えて、すぐ戻ったということは、このホテルの照明、あるいは電源自体に、何かを仕掛けられていた、ということです」
「でも、それはおかしいよね」
「はい。異世界からの侵略者の仕業であるのなら、明かりを消すにしても、もっと別の、もっと効果的な方法でやる筈です」
隼瀬の言う通りだった。
照明を落とす為に、仕掛けをわざわざ作る必要はない。
異世界由来の技術を使えば、それこそ一瞬で、完璧な暗闇を作り出すことが出来るのだから。
これは、異世界の人間の仕業ではない。
更に言えば、ホテル内に照明の仕掛けが施されていた時点で、それが可能な人間は限られる。
堂々と、ホテルに入ることが出来たということ。
ホテル内に居ても、特に言及されることのないということ。
そして、何かホテル側に理由を付けてでも、照明関係に手を出せるということ。
それはつまり、俺達と同じように。
「上月さんの護衛として、さっき外にいた連中こそが、こいつら侵入者の正体だ」
味方の筈が、敵。
これはつまり、そういう話なのだった。
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