家族でお風呂
家族の絆を再確認できた食後の話し合いの後、
「んじゃ、俺達、陸と一緒に風呂に入ってくるな」
と父親達が陸を連れて地下の男風呂へと消え。
ソラはいつもの如く、ママ達が終わったら入ろう、と部屋に戻ろうとした。
その時、
「今日は、私達も一緒に入りましょ?」
そんな言葉と共に、美夜に引き留められた。
大人数で入っても平気なように大きめに作られた悠木家のお風呂だが、基本的には個人個人で入ることが多い。
陸がまだ小さいため、彼をお風呂に入れるときは複数人数で入ったりするが、今回の様に特別に誘われたりしない限りは、ソラはいつも一人で入っていた。
ちなみに、ソラが父親と一緒にお風呂に入ったのは小学校に上がる前まで、母親と一緒に毎日入っていたのは小学校高学年まで、である。
とはいえ、誘われれば一緒に入ることになんの抵抗もなく、ソラは美夜の提案に即座に頷いた。
「わぁい、やった。今日はソラと一緒にお風呂ね!」
子供のように素直に有希が喜び、美夜も嬉しそうに微笑む。
そんな母親達を見ていると、ソラもなんだか嬉しくなってきて、ニコニコしながら母親達の顔を交互に見上げた。
「随分久し振りだから、ソラの体を洗ってあげながら、成長具合を色々確かめないとねぇ」
有希がそんなソラを見ながらニヤニヤ笑い、
「まったく、あんたはお風呂一つ大人しく入れないの?」
と美夜はあきれ顔。
そんな二人の顔を見上げながら、
「えっと、私ももう子供じゃないんだから、ちゃんと自分で洗えるよ?」
そう抗議(?)するものの有希は取り合ってくれず、いいからいいから、とソラの背中を押して強制的に風呂場へと連行してしまった。
あきれ顔の美夜を後ろに引き連れたまま。
脱衣所について、有希はものすごい勢いで服を脱ぐと、
「じゃ、先に入って待ってるね~」
鼻息荒く、張り切った様子でお風呂場に突入していった有希の背中を、残された美夜とソラは苦笑混じりに見送って。
二人は目を見合わせて、どちらからともなく服を脱ぎ、丁寧に脱衣籠に入れた後、
「じゃあ、行きましょう?」
そう言って差し出された美夜の手を握って、ソラはお風呂場の湯気の中に足を踏み出したのだった。
◆◇◆
「よぉし、じゃあ、ソラはそこに座って? 美夜はいつも洗ってあげてるから、また今度ね!」
待ちかまえていた有希の指示通り、示されたイスに座ってから、ソラはちらりと隣のイスに座った美夜を盗み見る。
(美夜ママ、いつも有希ママに洗ってもらってるのかぁ。二人とも仲良しだなぁ)
と、ほっこり暖かなまなざしで。
自分に注がれるその視線になにを思ったのか、美夜は慌てたように手を振って、
「ち、ちがうのよ? ソラ。洗ってもらうっていっても、たまに背中を流してもらうくらいで……ほっ、ほら。背中って自分だと上手く洗えなかったりするでしょう? だから、ね?」
一生懸命にそんな言い訳をする。
淡く頬を染め、必死な様子の美夜はやけに可愛くて、ソラの胸は更にほっこりした。
「え~?つれないなぁ。いつも愛情を込めて隅から隅まで洗ってるのにな~」
そんな美夜をからかうように、有希がにまにましながら追い打ちをかける。
美夜は有希をちょっぴり涙目で睨み、有希は我関せずとそれを無視してソラの背中を泡立てたタオルでこすり始めた。
「はいはい。そんなに怒らない怒らない。ソラ?力加減どぉお~?」
「ちょうどいいよ? 気持ちいい」
「うし、んじゃ、背中はこのくらいの力加減でいくね~」
有希はそう言ってごしごしとソラの背中をこする。
そうして背中を洗われながら、ソラはちょっぴり首を傾げた。
(背中はこのくらいの力加減で、って……洗うのって背中だけ、だよね??)
頭の中に疑問符を浮かべながらも、程良い力加減でこすられる背中は心地よく、ふわぁ、と気の抜けた顔を浮かべたソラに、
「……ソラ? ダメなときは、ちゃんとダメって言うのよ?」
隣で体を洗う美夜からそんな忠告。
その言葉に、ソラは再び首を傾げた。
(ダメなときはダメって……ダメどころか、すごく気持ちいい、け、ど?)
不意に、背中をこすっていたタオルの感触が変わり、ソラは怪訝な顔をして、目の前の鏡越しに自分の後ろにいる有希の顔を見た。
彼女はやけにほくほくした顔をして、両手を動かしている。
彼女の両手が動く度に、何かが背中をぬるりとこすりあげ、その何とも言えない感覚に肩が震えた。
「有希ママ?」
「じゃあ、そろそろ前も洗うね~?」
「前って?? ふぇっ!?」
何でもない事のように、平然と有希はそう宣言し、ぬるっとした何かが脇の下を通って背中側から前側に出張してくる。
くすぐったいような、ちょっと気持ちいいような……言葉で表しにくい感覚に、ソラは思わず変な声を上げてしまった。
(へ、変な声がでちゃった……)
ほっぺたを赤くしてそう思うが、くすぐったいのも気持ちいいのも、まだ終わりではなかった。
背中にむにょりと押し当てられた柔らかいものは、きっと有希の胸。
で、さっきからぬるぬるとソラの体をなで回していたのは有希の手だったらしく、それは思い切りよくソラの胸の上を動き回り始めた。
その形を、確かめるように。
「ちょ! ゆ、有希ママ!?」
「ん~、大きさはまだ美夜の方が上かなぁ? でも、ソラの年から考えると、まだ成長の余地はありそうだし、さすがは美夜の遺伝子って感じよねぇ。うん、形もハリも申し分ないし……いいわ。良いおっぱいだわ!!」
胸をむにむに揉まれ(洗われ?)ながら、そんな風に力一杯褒められ……ソラは怒ったらいいのか喜んだらいいのか、混乱してしまう。
「え?えっと、えっと……あ、ありがとう??」
「……ソラ」
混乱したあげく、疑問系ながらもお礼の言葉を口にする娘の姿に、美夜が何とも言えない表情でこめかみを押さえる。
そんな美夜の姿を横目で捕らえて、ソラははっとした。
そう言えばさっき、ママはなんて言っただろうか、と。
確か……
(ダメなときはダメって言えって、そう言った!)
「よ~し、じゃあ、この勢いで下のチェックもしちゃおうかな~?」
つい興が乗ってしまったのか、悪のりついでに有希は手を下へ滑らせる。
胸からお腹、更にその下へと。
女の子のデリケートな部分に伸びてきたその手を看過する事は、さすがに出来なかった。
その部分に到達する直前で、その手をぱしっと押さえ、ソラは思わず安堵のため息をもらす。
それから、鏡越しにこちらを見ている有希を軽く睨んだ。
「そっ、そこはダメ!」
「えぇ~? ダメ??」
「か、可愛く首を傾げたってダメなものはダメ……だからね?」
「ちぇ~。美夜の時はそこまでしっかり洗ってあげるのになぁ」
「美夜ママの時はそこまで洗ってあげるんだとしても……って、えええぇっっ!?」
「ちょ、有希!!」
有希の爆弾発言に、ソラは自分のソコに一瞬目を落とし、それから赤い顔でちらりと美夜の方をうかがい見た。
娘の視線を受けた美夜が、びくっと震える。
「え、えっと、えっとね? ソラ、ち、ちがうのよ。え~っと……とっ、とにかく! 違うの!! 違うんだからね!? ソラ!!」
真っ赤な顔でうろたえる美夜が何だか可哀想になってきて、
「うん、美夜ママ。大丈夫だよ? ちゃんと、分かってるから。ね?」
ソラは優しく、訳の分からない美夜の言葉を肯定してあげる。
そうして、美夜の表情が少し緩んだのを確かめてから、自分の後ろの有希の顔を見上げた。
「有希ママは、少し反省して下さい!」
「……はい、ごめんね?ソラ」
「私は良いから、美夜ママにごめんなさいは?」
「美夜、ごめん。私が悪かったわ……」
ソラに促され、さすがにちょっと悪ふざけがすぎたと思っていた有希は素直に頭を下げた。
そんな有希を、涙目のまま睨んで、美夜は唇を尖らせる。
「……後で、覚えてなさいよ」
「お、覚えておきたくないなぁ……」
「で、いつまでそうしてるつもり?」
「え??」
「もう十分洗ったでしょ。早くソラの体から手を離したらどうなの?」
「は、はぁい……」
有希はしぶしぶソラから離れ、美夜は泡まみれにされてるソラをきれいに洗い流してから、娘を促して一緒に湯船につかった。
一人ぽつんと洗い場に残された有希は、
「私だけ仲間外れ!?」
と不満そうな顔をしたが美夜は取り合わず、
「私達はもう体を洗ったもの。有希もきれいに隅々まで洗ってから入りなさいよ」
そう言って、ソラを後ろから抱きしめる。
そして、ちょうどいい位置にあるソラの頭に頬を寄せて、満足そうな吐息をもらした。
美夜の足の間に座らされ、後ろからぎゅうっと抱きしめられ。
ソラは何となく落ち着かない気持ちでもじもじする。
「み、美夜ママ?」
「なぁに~? ソラ」
「その、背中に当たってる、よ?」
「ん~? なにが??」
「えっと、美夜ママの、その、お、おっぱいが」
「ええ~? ダメ? 私はソラとくっついていたい気分なんだけど」
「ダメ・・・・・・じゃないけど、なんだか落ち着かないよ」
ほんのり頬を赤くして、ソラは訴える。
だが、美夜の拘束がゆるむ様子はなく、
「なによぅ。昔はこのおっぱいが大好きだったのに~。大変だったのよ? 三歳をすぎても中々おっぱい離れが出来なくて」
「そ、そうだったの?」
「そうよ~? 忘れちゃった? ママ、悲しいわぁ」
「えっと、その」
「ま、いいわ。背中がダメだったらこっち向いて、ソラ。ぎゅ~ってするから」
「ええ~??」
今日の美夜ママはだだっ子みたいだなぁ、とソラはちょっと困った顔をする。
でも、困った顔をしながらも、ソラは美夜のいうとおりに、お湯の中でよいしょと方向転換した。
美夜は嬉しそうに微笑み、開いていた足を閉じると、
「いい子ね、ソラ。はい、じゃあ、私の足に座って?」
「ぅん……」
ソラは少し恥ずかしそうに頷くと美夜の太股の上に座って、満面の笑顔の母親と向かい合う。
母の瞳に愛おしそうに見つめられ、正面からぎゅうっと抱きしめられる。
耳元で聞こえる満足そうな吐息。
頭を優しくなでられて、ソラは近すぎる距離感に少し懐かしさを感じながら目を閉じた。
小さい頃は、よくこうして母親のどっちかにしっかりと抱っこされてお風呂に入ることが多かったような気がする。
ソラが甘えてだったのか、母親二人が望んでだったのかは覚えてないが、そうして一緒にお風呂に入った時、すごく安心していたことだけは覚えていた。
「大好きよ、ソラ。学校の事も、部活の事も、いっぱい話を聞かせてね。嬉しい事も、困った事も。私達は、いつだってソラの味方だから、ね?」
「……うん、そうする。ありがとう、ママ。大好き」
ぎゅう、と腕に力を入れると美夜は嬉しそうに笑って、それから、
「……さて、十分あたたまったし、そろそろ出ましょうか?」
と、促す。
ソラも頷いて、二人そろって湯船から立ち上がると、
「おまたせ~!!ばっちりきれいに洗ってきたよ~……って、もう出ちゃうの!?」
大急ぎで体を洗って来たらしい有希が、そんなぁ、と情けない声を上げた。
そんな有希の様子に、ソラと美夜は顔を見合わせてクスリと笑い。
「お先に、有希。ちゃんとあったまってくるのよ~?」
「有希ママ、ゆっくりしてきてね」
二人仲良く有希に向けて一言ずつ言葉を残して、お風呂場を後にする。
そして、背後から聞こえてきた、
「そんなぁぁ。私もソラを抱っこしてお風呂につかりたかったのにぃぃ」
有希の情けない声に、再び顔を見合わせて二人は微笑みを交わすのだった。
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