第5話 氷屋さん

うちのお店の冷蔵庫は電気が通ってなかった。氷が冷やしている、昔のタイプだった。そのため、毎晩、午後8時過ぎに氷屋さんが氷を配達してくれていた。

氷屋さんはトラックでやってきて、その荷台でまずはうちの分の氷に手を加える。

 氷のサイズは、A2くらいの長方形だっただろうか?まず長い方の真ん中あたりに、氷屋さんがシャンキシャキ、のこぎりのようなもので筋をつける。そして短い方は1/3、2/3くらいのところに、同じく筋をつける。計ったように、まっすぐで均一だ。それを大きな挟むものでつかんで、表面の扉が木製で、クルっとハンドルを回して開閉するの蔵庫へと運んでいく。

 私は、2階から氷屋さんの作業をするのをよく眺めていた。きれいな氷に筋がつくのがなんとも不思議だ。そして、リズムが一定で、シャキシャキする回数もいつも同じようだったと思う。一度たりとも、氷を落としたことを見たことない。私のように、アバウトな人間には無理な作業だ。

 その氷の実際の使い道は、父達がおひややジュースに使う。キリのようなものでカンカンするとパコっと四角に割れる。それをまたコンコンやると、ちょうどグラスに入るサイズの氷ができる。色々な形になり、見事に美しい。

 製氷機など、業務用の機械もあっただろうが、店を辞めるまで、ずっとこの氷だった。この氷、おいしいのだ。ごくたまに、店に行き、ごちそうになるクリームソーダを飲み、そこにもおいしいこの氷が入っている。

 なんでも、水を凍らせるだけでなく、空気の粒とか、そういったものが変に入らないようにしているそうだ。

 あんな重い氷を軽々と運ぶ氷屋さん。すごいと思った。家から遠いので、めったに行かないが、今でもこのお店はあるそうだ。またあの氷を口にしてみたい。


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