第2話 団欒

僕は校長室をでた師匠の後をついていく。


「今日から雹霞は寮に泊まることになる。あそこは元々金持ち専用、しかも上流階級のみの寮だ。」


聞くだけで逃げ出したくなる様な単語ばかりで僕には一生縁のない世界だと思っていた。


まだ時間的には授業中であり誰一人帰ってきていない。


「師匠はどこに泊まっているんですか?」


「俺は知り合いの家でお世話になっているが、しばらくはこっちで暮らすことになっている。」


師匠がいるなら何ら心配ないや、僕一人ならすぐに逃げ出したくなるけど師匠がいるならと思える。


それくらい僕の心に大きな変化があったようだ。


天ヶ峰学園は湖の陸地が飛び出ているところの少し高い所に作られており寮はそれよりももう少し歩いた所にあった。


中に入るとテラスにはコンビニとカフェがありさらに奥には高級そうな店見える、僕が一生縁のないようなお店っぽい


「奥は食堂だ」


あんな食堂テレビでしか見たことない


僕の部屋は一番奥のゲストハウスで師匠は正面のようであった。


「ちなみにお前の右側はマリアちゃん、その奥はルナさんの部屋だ」


マリア様もこちらにいるんだね…


普通なら領事館とかに泊まりそうなものを、でもそんな事より


「入っていいの?」


師匠から鍵を渡される。


「お前の部屋だ、荷物はないらしいから下着と最低限のタオルなんかは用意してある。


「はい!」


僕は元気よく部屋に入る。


そこそこ広い部屋…というか3LDKあるんですけど?


いや、確かに金持ちなんかは狭く感じるだろうけど僕ら一般人からして見たら家族が暮らす程度の広さだ。


それぞれの個室にベットとテレビ、冷蔵庫に電子レンジが置いてあり更にリビングにも大きなテレビとふかふかのソファーが置かれている。


一生ここでくらすぅー、僕は部屋の中を走り回る


「こらこら、テンション上がるのはわかるけど、落ち着きなさい」


師匠に捕まえられちょこんとソファーに座らされる


「だって!僕、孤児院暮らしだったからこういう部屋初めてで!」


僕は両親を火事で亡くした後引き取る親戚もなく孤児院で育てられた。


だけどそこでも学校でもイジメられて…


「わかるよ、俺もついつい普段並べない物を並べたりとしたり」


師匠は僕の頭を撫でてくれる。


沈んだのが気配で分かったのだろう。


「師匠、何すればいいの?」


今は15時半、後二時間もしないうちに帰ってくる人が出てくるはずだから何をするんだろう


「今日は休みなさい、色々あったから疲れているだろ?飯は持ってきてやるから部屋に籠っておけよ、ここは俺とお前以外女子だからな」


今すごい爆弾発言を言われたような気がする、でも男女別トイレがあったよ?


何で女子が多いの?


師匠は部屋から出て行った、リビングソファーに寝転がり僕は天井を見上げる。


所謂知らない天井だ。


今までの事を考えると胸が苦しく涙がでてきてしまう。


だけど、今日の事を考えるともうすこしあおい色の世界を期待していいかなと思ってしまう。


四つのお守りを握りしめてポケットにしまい僕は目を閉じた。


********************


「蒼い髪だ!珍しいね!」


黒い髪の女の子が僕の髪を触る。


「見た事ないけど青空みたいで綺麗ー」


茶髪の女の子も僕の隣に座って髪を触り始める。


まだ天ヶ峰に住んでいた頃の記憶だ、僕の家が火事になるまでの記憶…


「今日もキテイるのデスね!ウレシイです」


大きな綺麗な家に綺麗な金髪、青色の瞳の二人の女の子。


彼女たち二人の家だったと思う、一人はまだ日本語が下手くそで片言だけどもう一人はもう日本語はマスターしたと言わんばかりの達者な言葉遣いであった。


「私達の国でも見た事ないくらい綺麗なあおいろの髪、まるで海や空のように心が広いんですね」


僕は恥ずかしくなって頭をかく。


やっていたのは変わらない、鬼ごっこやかくれんぼ、たまに稲荷神社に行ってお参りしておくの清水の蒼い池を見たりと


だけどある日僕の母親と父親が家に火をつけた、僕も巻き込まれそうになったけど紅い髪の人に助けてもらい助かったのだ。


紅い髪の人は僕を助けるとどこかに行ってしまい…


そこで意識が覚醒してしまう、あの紅い人は今どこにいるのだろうか


そう思いながら目を開けると目の前に金色の髪の毛が僕の顔をくすぐる、というか近くにマリア姫様の顔があり驚いてソファーからずり落ちた


「ヒョーカ大丈夫?」


「雹霞殿妖怪でも見えたのですか?」


いやいや、美人の姫様が目の前にいたら誰だって声を出す前に驚いて落ちるでしょ?


スマホを開いて時間を見てみると19時を回っておりもう多分学生は帰ってきている時間であった。


「いや、美人さんに起こされる体験なんてなくて驚いただけ」


俺がそういうとマリア姫様は顔を赤らめる


「まぁ、ヒョーカったら美人だってえへへ」


「姫様は美人ですよ」


「ルナさんも十分美人ですが…」


「なぁ!」


ルナさんも顔を赤らめてあたふたする、あまり耐性がないんだ


てか、何で美少女二人が僕の部屋にいるんだ?


引っ越してきたのは知っているだろうけど…


「だってヒョーカが引っ越してきたと聞いて見にきたのよ」


そりゃどうも、俺は珍獣扱いだね


「時無殿に挨拶してやってくれと言われましたしね。」


師匠の気配りのようでそれに関しては感謝しているけど…


「ヒョーカ可愛かった」


「姫様はしたないです。すみません写真もいくつか取られていました」


それ恥ずかしいけど消させるほどではないよね


「いいですよ別に」


僕は起き上がり体を伸ばす


「お茶くらい出します」


冷蔵庫を開けて冷やしていた麦茶を置いてあるコップに入れて二人の目の前に差し出す。


「ありがとう」


「姫様、とりあえず毒味を」


僕はコップに入れて先に飲む。


庶民らしい麦茶の味で美味しい


「毒は入ってないよ」


棚をあさるとカロリ◯メイトが出てくる、大量に…


何でと思っているとその隣には栄養補給ゼリーも置いてある。


非常食のつもりですかな?


そう思いながらリビングに戻る。


「このお茶お砂糖は入れないのかしら?」


そうか、紅茶の気分でいるわけですね


「姫様、これは麦茶と言うもので日本ではあまり砂糖を入れないらしいです」


そうだね、少なくとも僕は入れた事がない。


マリア姫様はゆっくりと麦茶を飲み干す


「これ不思議な味がするわ、でも飲みやすくて美味しいもう一杯ちょうだい」


僕はマリア姫様のコップにお茶を注ぐ。


紅茶を飲む外国人にとっては馴染みのない味だよね、今度はほうじ茶でも入れてあげようかな


そう思っていると玄関からノックの音が聞こえる


「はい?」


ドアを開けると大量の買い物袋をぶら下げた師匠であった。


「台所借りるぞ」


師匠はそういうと台所に向かう、台所は最新式のIHクッキングヒーターでそこそこ広い


「時継くん料理できるの?」


「当たり前だろ、ニートだった頃に誰もいないから自分で覚えた」


ニートだった頃があるんだ…


師匠はテキパキと動き料理を作り始める、誰かの料理姿を見るのはいつ以来だろう、孤児院では部屋に籠っていてみんなと食事をとることがなかったから…


「師匠、何か手伝う事ないですか?」


「マリアちゃんのつまみ食いを阻止してくれ」


師匠にそう言われてリビングにいるマリア姫様のそばに座る


「ねぇルナ、ヒョーカ、すこしつまみに行きましょう」


どうやら姫様はお腹が空いているようで


「姫様、はしたないのでやめてください」


「そうだよ、師匠もつまみ食いするなって」


僕とルナさんに言われたのが気にくわないのか唇を尖らせる


「だって」


「だったではありません」


ルナさん厳しいな…命令は聞くけどこういう時の制御は厳しくするんだ


「マリア姫様」


僕がそういうと「てい」と軽くチョップされる


「マリアでしょ」


ルナさんの突き刺さる視線がいたい


だがここでマリアと言わないとたぶんマリア姫様に言われるし…まぁ僕は首やししに四肢に未練がないからいいか


「マリアはもう少し姫様らしくしないと僕の前でも」


ルナさんは溜息をつく、多分諦めたのだろう


「でも、ヒョーカはお友達でしょ?だったら遠慮はいらないでしょ?」


いつのまにかお友達区分に入れられていたようである、僕としては師匠と一緒に守る立場なのにと思いながら台所にいる師匠をちらりと見るとウィンクを返して来た。


お友達でいいらしい


「姫様、雹霞殿のいうとおりですよ」


そういえば気が付いた、僕ルナさんの自己紹介を聞いていない、マリアがルナと呼んでいるからその流れで呼んでいるけど


「ルーシナ・ヴェシュバールがルナくんの本名だ、略してルナだよヒョー」


なるほど、ルーシナさんか


「ルナでいいですよ、ルーシナと呼ぶ人は親しくない人たちですから、同じ学園に通う中ならルナでいいです」


てか、師匠僕の名前を略しすぎてない?


ヒョーってまぁいいけど


「ヒョーはしと茶碗の準備を」


「はーい」


さっき見たら台所の棚の中に入っていたから


「そろそろ私達は失礼しましょう姫様」


「えー」


「四人分作ってあるから心配するな、そちらは晩飯はまだだろ?」


えらい量が多いと思ったら四人分作ってたんだ


「…お言葉に甘えさせていただきます」


「やったー」


なんかマリアって、正直だね、羨ましくなるくらい僕とは正反対だ、僕は暗いし捨て子の様なものだし嫌われているし


「食べるぞ」


師匠は僕の頭をくしゃりとなでる


今日の晩ご飯は芋の煮っ転がしに豆ご飯、豚汁に酢豚である。


豪華なラインナップだね、普段こんなに家庭で作らないよ


「ふわぁぁ!見た事ない料理が並んでるわルナ!」


「ええ。酢豚以外は知らない料理ですね」


王族には馴染みのない家庭料理だろう、僕にとってはたまに食べるものばかり


椅子に座り僕と師匠は手合わせて「いただきます」と言う


二人は不思議そう僕と師匠を見る


「なんなのそれは?」


「儀式の様なものでしょうか?」


間違ってはないだろうけどなんと言えばいいのか


「キリスト教は食事の前に天に祈るだろ、日本人は自分達の血肉になってくれる食物、それを作ってくれた人間に感謝するものだ。んで食べ終えたら自分食べさせてもらい今日も生き延びさせてもらいましたと感謝を込めてごちそうさまと言うんだ」


師匠の質問が一番的を得ているだろう、僕らにとっては習慣的なもので別に深い意味はないけど、絶対的にするものである。


「いただきます」


「いただきます」


二人は今回は日本に合わせて手を合わせていた


「ふふ、不思議な感覚だけど悪くないわ」


「ええ、命に感謝するとは日本人らしい考え方です。」


そこの感覚は僕にはわからないけどね、早速食べ始める。


美味い、その一言に尽きる。


他の不要な言葉なんかいらないと思う。


昔一人で食べていた時は味気なかったのに…


「みんなで食べるから美味いのではない、仲良いやつと食べるから美味いんだろ?」


そうか、団欒で食べるのが美味しんだね


「美味しいー時継くん、また今度作って!」


「そうですね、料理人が作った物と違いますが大変美味です」


「師匠…あの」


師匠は僕の頭に手をのせる。


「しばらくは作ってやる、ただお前も覚えろよ」


ニッコリと笑いながらそう言う


うん、頑張ろう


しばらく色々な雑談をした後に二人は帰って行き師匠と僕だけになる


「ヒョー、後悔していないか?」


師匠がいきなりそう問いかけてくる


「後悔ですか?」


「ああ、お前は普通の世界にまだ戻れる、これから先は嫌でも俺ら側の世界になるからな、引き返すなら今のうちだ」


師匠の言っている意味はなんとなくわかった、僕のことを心配しての言葉であろう。


師匠の言う世界とは多分相当厳しい世界なんだろう、僕らのすむ一般的な世界と違い命を簡単に落とすような


でも、僕は決めている答えは一つだけ


「後悔はしてないよ、僕はもう一度あお色の世界が見たいんだ」


僕の答えに「そうか」とだけ言って部屋を出て行った。


師匠だけではない、マリアやルナさんと居れば期待してもいいかもしれない、あお色の世界を


僕はそう思いながらベットに横になり目をつぶった。


********************


〜時継side〜


アイツの意思は固い様だ、今なら新人がやめましたといい元の世界に引き帰らせることも出来た、だが本人が望まないなら俺はアイツが死なない様に鍛えてやる、それしか出来ないだろう。


それにマリアちゃんにルナくんは完全にアイツに好機を寄せているだろう、それに気がつかないだろうが…


まぁ、可愛い弟子ができたんだ、俺は学園側に説明する書類を作りながらアイツの訓練内容を組み立てている。


死なない程度にしないと、俺や千桜、

ルナくんとは違い本当など素人だ、体を鍛えるところから始めないとな。


そう思いながら計画書を俺は作成して行った。

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