マルドゥック・シティ・レッド
そのコンビニエンスストアは幹線道路の交差点にあった。
今は警察が道路を封鎖しており、長蛇の列となった渋滞からひっきりなしにクラクションと怒号が響き渡っている。
「うるせえな、人命がかかってるんだぞ!」
渋滞の中に紛れ込むようにして駐車している、どこにでもあるようなセダン――その後部座席でジョーイが呻いた。耳をつんざく騒音に耐えかねている。
「ほお、そうかい。俺の耳には聞こえねえな。神経過敏なんじゃねえか?」
運転席でハンドルを握るワイズ――集音範囲を強盗犯のいる店内と自分の周囲に限定。騒音をシャットアウト=特殊検診の成果――指向性のある聴力。
ジョーイはワイズに中指を立てて顔をしかめた。
「ちくしょうめ、突入指示はまだかよ?」
ボヤくジョーイが身を乗り出す――途端に銃声。コンビニエンスストアの窓ガラスが吹っ飛んだ。
ワイズ。「生き残りの皆さんを助けるためにドクターが頭を捻ってる最中だ。焦らせなさんな」
頬を引きつらせ、大人しく着席――ジョーイは拳を開閉する。
力を込める。両腕が鋼鉄のごとく強靭な硬度に変わる。
力を抜く――たちまち柔らかさを取り戻す。
ジョーイの特殊検診の成果――強化された筋繊維と骨格。
鉄筋を捻じ切り、ソフトに人と握手の出来る自在な握力。
体内に内蔵された通信機に着信――イースター。
「ボイルド達が陽動で敵を反対側に引きつけてる。その隙に、コンビニの2階にある空きテナントに侵入してくれ」
ジョーイは口笛を吹いた。
「ドクター。不法侵入は09メンバーの特権なの?」
ぶるぶると高速で首を振っているのが丸分かりのイースターから応答。
「当然、そんなことはない。一時的にテナントの使用権を買い取っただけだ」
握り拳を固め、精悍に笑った。
「法的にいいならいいか。――よっしゃ、いっちょやってやるぜ!」
ばがああん! ジョーイのパンチがセダンのドアを吹っ飛ばす。
飛び降り、路面を蹴って疾走。
背後からワイズの怒声。
「ドアの開け方も知らねえとはな!」
満面の笑みのジョーイ=やってやったぜ。
コンビニエンスストアに接近。
渋滞に苛立ち、一際大きくクラクションを鳴らす車両――それを踏み台にしてジャンプした。
べごっ。ルーフにジョーイの靴跡が刻まれ、クラクションが沈黙。
飛び上がり、外壁の突起に手をかけ、自分の体を持ち上げる。腕力にものを言わせた強引なパルクール。
2階のベランダに到達――窓ガラスを軽く押す。ぱり、と小さな音を立てて割れた。
空いた穴から手を突っ込み、鍵を開けて内部に侵入。
フローリング張りの、何もない部屋。
「ドクター。2階に侵入した。とても静かに」
呆れ声のイースター。「車を踏みつけなければ満点だったんだけどね。よし、ダイニングに移動してくれ」
足下から銃声が振動となって響く。
ジョーイは――筋力強化の弊害で体重が300キロある――足音をなるべく立てずにダイニングへ。
「そこがレジカウンターの真上だ」
「
ジョーイは腕を振りかぶり、拳を床に叩き付けた。
粉砕音と共に落下――どすん! カウンターに着地。
ジョーイを見つめる目、目、目――それぞれコンビニ店員が1人。2人。そして目出し帽を被った奴。
ジョーイは目出し帽に素早く近寄る――呆気にとられた強盗犯は銃口を向けるのも忘れている――小銃に平手を叩き付けた。銃はくるくると回転しながらおもちゃのように飛んでいった。
「まだやるかい?」
ニヒルに肩をすくめてやると、男は呆気なく両手を上げた。
――この分じゃ爆弾で自爆する気なんてさらさらないな。ガキに覚悟決めろっても無理な話だ。
顔面にビンタを食らわしてやると目出し帽がまくれ、犯人の素顔が露出。
ジュニアハイスクールの学生だろう、頬の産毛も若々しい男の子は鼻血を吹いて昏倒している。
つばを吐くことでマフィアに対する憤りを表明しながら奥へ。
ボイルド達が引き付けている残りの四人がいるはずだ。
「撃て! もっと撃ってみろよ腐れたマスかき野郎共! 俺を殺して見せろ!」
聞き慣れた声に唇の端が吊り上がる――商品棚を楯にしてそちらを覗いてみた。
ハザウェイ・レコードが全身血まみれの状態で強盗犯の銃を掴んで自らの頭部に突き付け、喚き散らしていた。
怯えた少年が発砲――額のど真ん中に鉛玉を受け、ハザウェイの頭ががくんと落ちる。
数秒後、頭をあげて再び喚き始めるハザウェイ――少年は白目を剥いて股間から液体を漏らした。
ハザウェイの特殊検診の成果――自己増殖するガン細胞が負った傷を瞬時に修復。
ジョーイはハザウェイに近付き、ハイタッチを交わした。
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