0x000F 馬鹿話もたまには必要だよね

 今日はちょっと過密スケジュール過ぎ。

 徹夜をして、要求仕様を満たす為に調整し、ネットワーク配備計画書、魔法API仕様書の確認。

 朝寝していたら昼食時刻は済んでいた。残り物を食べた後、DHAに向かう。

 OMGについて情報共有できるかどうかの交渉なんだけど、こっちの世界について今ひとつ理解していないんだよな。


 ダーナ街、ディアン・ケヒト通りに入るには、フィモール街の中心を抜けるバロル通りを通ることになる。


 王城や行政施設、裁判所はマイリージャ街の東北にあり、デオドラの屋敷から出ると、堂々とした尖塔や大がかりなアーチ型の窓がある建築物が屋敷の向こう側に見える。

 ここの建築物は石組みが基本らしく、どの方角を見ても灰色が目に残る。ここの気候は曇りが多いわけではないけれど、冬には寒々しさを感じそうだ。


 バロル通りを抜けて、フィモール街へと入る。神殿を中心として発達した街なのだろう。書物に関する業者や、法律事務所が軒を並べている。軒先は清掃が行き届いている。セルジアはここに事務所を開いてると言ってた。


 ダーナ街と比較するとフィモール街の住民はおとなしい。着ている服はスーツ。違和感を覚えないでもない。中世って感じがしない。

 紡績技術が進んだのは産業革命が起こった十六世紀ぐらいから。

 紡績機の発明はなくとも、魔法で発展したのかも。フィモール街にいる人々のスーツはウールが中心らしく、糸が細いのだろう、上品な輝きが控え目に含まれていた。


 給料も前借りできたし、僕も時間を見計らってスーツを仕立ててもらおう。

 ブリティッシュ・スタイルが基本だよね。濃いグレーでストライプ柄とかいいかも。チェンジポケットとか付けてもらおう。

 靴はブリティッシュ・スタイル的には黒。しゃれっ気出して、パンチド・キャップぐらいかな。


 ダーナ街は区画としてかなり広い。王都壁と呼ばれる街全てを覆う壁。それを押しやる程に建物が所狭しと並んでいる。魔法産業が急激に伸びていて、増築に増築を重ねて、もはや城壁が邪魔になっている。


 DHAは比較的まともなギルドらしい。ディアン・ケヒト通りは街の中心を通っており、かなり広い。出店がいくつか並べられるほどで、街の喧騒が心を騒がしくしてくれる。

 魔法関連の本を投げ売りしているのもあれば、鍋やフライパンまで売っていた。


 並んだ店先を見ていると、白い粉とか置いていた。

 塩だと思いたいけど、店舗の前に瞳孔開いている奴らが行列つくっていたから、多分、重度の中毒患者ジャンキーもいるんだろうね。

 錬金術から化学が発展したのはわかる。けど、途中経過をぶっとばしてドラッグがこの世界に存在している。中毒患者が社会問題化しておらず、法規制がされていない。

 絶対にケミカリストの”落ち人”いるだろう、この状況。道理でこの通りが騒がしいはずだ。耳をすませば禁断症状なのか、喚き散らしている奴もいる。


 まあ、いいか。DHAのドアをノックする。

 ん、何か音が奥から聞こえてくる。片付けでもしているのかな、とか思っているとドアが開いた。ラルカンだ。

「よお」

 気さくに声をかけると、ラルカンは太い眉を寄せて左右を見渡した。

「ユウヤ、お前一人?」

「取りあえずマルティナはいない」

 あからさまにガッカリした表情を浮かべたラルカン。

 こんな顔をされると、マルティナがガシュヌアに好意を持っていることを伝えにくい。胸の中に爆弾を抱えている気持ち。モヤモヤするが早めに伝えること伝えないと、気分が晴れない。


「まあ、入れよ。外に突っ立てるのもなんだろ? 汚え場所だけど」

 積み上がった書物に書き殴りしたメモ。魔法の研究をしてたんだろう。彼の机にはメモだらけ。何かを開発しようとしているらしい。


 ドカッと椅子に座った後、ラルカンにすっとぼけた表情をしながら近況を尋ねてくる。

「その後どうよ。ほら、起訴するとか言ってたのとか」

「あれか。起訴はなくなった。DHAがサプライズ・プレゼントするつもりだったって言っておいたから、口裏合わせておいて」

 ラルカンはホッとした顔をしていた。

 でも、僕に見られているのに気付いたのか、咳払いをして、取り繕った顔をした。


「で、マルティナの反応とかどうだった」

 目線を僕から逸らしているが、チラチラこちらを見ているのが痛々しい。ラルカンの想いが届くことは絶望的だ。バッサリと言うべきなんだろうか?

 でも、爆弾を抱えているみたいで、僕もモヤモヤしてて気分が重い。スッキリしたいし、この際だからハッキリ言っとこ。

「あー、マルティナ的にはないわーって感じだった」

マジかよFor Real?」

「サプライズ・プレゼントとか、頑張ってたみたいとか、フォローしたんだけどね。ジネヴラも、ラルカンはありえないって言ってた」

マジかよFor Real?」


 まさかの”マジかよ”二連バツ。こうなってくると三連発を狙いたくなってくる。


「ちなみにマルティナはガシュヌアが好きらしい」

マジかよFor Real!」


 やった。三連発成功。

 ちょっとした達成感。言わないといけないことも言えたし僕の胸中にあった爆弾は処理されスッキリした。


 だが、ラルカンはそうじゃなかった。

 そりゃそうか。爆弾処理されたラルカン。彼は直撃を食らったわけだから。破滅的なダメージを受けてもおかしくはない。

 ラルカンは机に肘をついて頭を抱えた。この世が終わったと、彼は無言で語っていた。まるで地球を背負ってるかのように重々しい。

 かなり本気だったのだろう、失望感が部屋を余計に暗く感じさせた。


「もう、世界とかどうでもいい。人類とか全滅すりゃあいいんだ。もう、ブルー。というか、むしろ、コバルトブルーって感じ」

 何だよ、キレイな色じゃないか、と思ったけれど、弱り切ったラルカンを見ていると気の毒な気もする。

 でも、ガシュヌアって、僕と同じ東洋系なんだろうけど、親近感とか全く感じないんだよね。


「なあ、ラルカン。ガシュヌアって女と付き合ったりするの? あいつ、すげえ無愛想な感じがするけど」

「マルティナ美人だしな。ガシュヌアだって男だろ? 好意寄せられて悪い気しねえだろ。つか、人種が違うからイマイチよくわからねえけど」

「それを言ったら僕も同じ人種になるんだけどね」


 イングランド人はクソだと言っても、東洋系に関してはあんまり嫌悪感ないんだ。不思議な気がしないでもない。利害関係がなければ案外と受け入れられるのかもしれない。


「つか、DOGってさ、本当に何してんの? この前、抜き打ち視察みたいのやられたし」

「俺の所にも来るぜ? てか、マルティナがガシュヌアを好きってマジか? 勝てる気がしねえんだけど」

「何それ? そんなにしょっちゅう来るもんなんだ?」

「ん? まあな」

「DOGって何かちょっと普通の魔法ギルドと違わなくね?」

「まあ、他の魔法ギルドとは明らかに違うよな。つか、他のギルドのことなんかどうでもよくね。それよりも、マルティナの話ってマジかよ」


 ラルカンはDOGが他の魔法ギルドと明らかに違うと感じているらしい。

 僕はDOGが諜報機関と考えている。あいつらだったら、嘘ついても、余裕でポーカーフェイスできそう。

 『骨折』の魔法を使っても、顔色一つ変えなさそう。僕は絶命しかけたけれど。ガシュヌアとかドラカンとか余裕がありそう。できれば、治験に参加してもらいたい。


「なあ、ユウヤ。しつこいようだけど、マルティナがガシュヌアに好意持ってるって本当なのか? 本人が言ってたのかよ?」

「これは言わないで欲しいんだけど、ジネヴラとマルティナが会話しているのを聞いちゃってさ。明後日、食事会に招く予定だし」

 ラルカンの顔はますます冴えないものになってゆく。

「マルティナって、そもそも男に色目で見られるのが嫌だったんだって。それで男性不信になっていたみたい。でもって、ガシュヌアはアレじゃないか。無表情だし。色恋沙汰とか無関係そうじゃない。そういう所がよかったみたい」


マジかよFor Real

 四回目とは予想外。声は悲壮に満ちていて、魂という名の風船から空気が抜けていくのをリアルタイムで見ている感じ。

「女心ってわからないんだよな。マルティナがガシュヌアとか意外すぎだったけど。でも、ガシュヌアが本気になるとか思えなくねえ?」

「そうかあ。ガシュヌアっても男だぜ?」

「ラルカン。このままでいいのかよ?」

 僕の言葉に情けない表情をしたラルカンが顔をあげた。ここ数分で萎みきっている。どんだけショック受けてんだよ。


「と、言うと?」

「ラルカンは最初のアプローチは間違えている。取りあえずジネヴラも、赤毛gingerと言ったのは謝って欲しいとか言ってたし」

「それ、今関係なくね?」

 

 ぶっちゃけ関係ないよ。でも、僕はジネヴラと約束したし。

「いやいやいや。大ありだよ。女って横の繋がりを重視するじゃん」

「そうなの?」

 そんな純粋な目で見られてもな。そんなの僕だって知らない。僕は男で女じゃない。


 ただ、ラルカンが諦めたら、そこで全部が終わってしまうというは理解している。

 

 やるだけやって、それでもダメだったら、自分の中で消化できる。だが、何もやらなかったらいつまで経っても心残りになるだけだ。

 と、サイバーストーカーが名言ぽいことを言っていた。彼の好意からくる行為はいかがなものかと思うけど、心に響く言葉だった。


「そうだろ普通。だから、僕を訪ねるって格好で、デアドラの屋敷を何度か訪れて、それとなく変わった所をアピールする。まずはジネヴラに赤毛gingerって言ったのを謝って、味方になってくれるようにする」

「何それ。マジで面倒臭せえ。そこまで気を使わなきゃいけねえの?」

「いや、モテる男は基本的にマメにならなくちゃ」

 サイバーストーカーを恋愛師匠と仰ぐのは、人間としてピリピリとした痛みを伴う。だが、ベクトルは違っても、言ってたことは正しかった気がする。


「ええ、道のり遠すぎんだろ」

「そういう所で差がつくんだよ。男が思ういい人と、女が思ういい人は、別物なんだよ。女は横の繋がりを重視するから、まずは同性からいいかもって言われないと、前には進めねえ」

「ユウヤ、お前なんかすごいな。具体的にどうするのかサッパリだけど」

 まあ、僕自身が何を言ってるのかわかってないからね。具体的にサッパリなのは当たり前。


「DOGは明後日に食事会に招かれてるだろ。第三者的な立場で言わせてもらうなら絶望的だ」

「もう、いいよ。えぐんなよ」

「戦う前から諦めちゃ、勝てるものも勝てない」

「わかんねえでもねえんだよな。てか、マジな話、お前、デアドラの屋敷に居るんだろ? どういう理由で訪ねりゃいいの?」

「それな」

「それな、じゃねえよ。一番大事な所じゃねえかよ」


 そろそろ本題に行こうかな。実はこちらが本命。それとなく探りを入れてみよう。とにかく、実技試験を邪魔するってどういうやり方でするのか?

「うーん。そういや実技試験でOMGのダルシーが邪魔するって言ってたじゃん」

「あー、あれか」

「それについて何か情報ない? 具体的にどういう妨害するのかサッパリわからねえんだよな。それについて説明しにきたってどうだろ?」

「俺から漏れたと知れたらヤバいんだけど」

「でもさ、どうやってその情報を知ったんだよ?」

「まあ、何その。立ち話を聞いたみたいな」


 あれ? 

 明らかにラルカンの様子がおかしい。目線を逸らして口調も棒読みっぽい。

 何コイツ。ツッコミ待ちなのだろうか?

「具体性がねえんだよな。ダナシーが言ってたのはわかる。でも、どこで、どういうこと言ってたんだよ? 対策が練れねえじゃねえかよ」

「あー、何、虫の知らせみたいな?」

「虫の声? 何それ、おいしいの? おかしいだろ、何か違法なことでもやってんだろ。誰にもいわねえから安心しろよ。OMGのサーバー割っちゃったとか」

「えっ、何でわかったの?」

 ギョッとした顔のラルカン。椅子から立ち上がって、腰が浮いていた。顔に汗が噴き出していた。挙動不審すぎ。


 お巡りさん、こいつです。


 犯罪者発見。

 こいつハッカーだよ。それも常習的にやってそう。


 そうかあ。ハッキングとかやってもよかったんだね。バレなきゃ。

 こっちの国の制度がわかるまで止めておこうと思ったけれど、やっている奴がいるなら話は別だよね。


「たまたまなんだよな。ダナシーのメールを見ちゃってさ」

 メールってあるんだ。そういや、メールで使われるポートは空いていたよな。

 メールクライアントぐらいはあるけど、そもそもアカウントがない。魔法ギルド立ち上げたらメールサーバーも立ち上げないといけない。


 でも、ラルカンと気が合う理由がわかった。こいつもハッカーなんだ。


「うっわ、ラルカン、ハッキングしてんのか!」

「声でけえよ、ユウヤ」

 慌てて口を押さえようとするラルカン。


「つーか、OMGのセキュリティーってダメダメなのか」

 ラルカンに口を塞がれたくはない。僕は身を仰け反らした後にそう言った。


「まあ、おっさんばかりだからな。システムに強くはないとは思う。管理者rootのパスがrootだったし」

 僕が大声を出さないとわかったからか、彼は大人しく席に着く。

 それを見て僕は襟元を正した。


「まあ、あるよな」

「ていうかよ。ユウヤもハッカーなのか?」

「んー、面白半分程度でしかやってないよ。それにしても、OMGってメールサーバーって何使ってたの?」

「sendemail。簡単に割れた」

 ちょっとラルカンの様子がおかしかった。割れたというのに目線が泳いでいる。

 やっぱり、ハッキングというのは違法行為なのだろう。


「あいつらアホだasshole。sendmail使ってるのか。emailアカウントが事前にわかっていたらパス割りとか楽勝だよな」

「でも、侵入されたの気付いたみたいだぜ。ファイアウォール構築してた」


 僕がハッカーだとわかったらしく、ラルカンは急に態度を軟化させた。

 どうやら、同志だと思っているのだろう。嬉しそうな顔を隠そうともしない。


「この世界にメールって存在したんだ」

「メールアカウント登録にはそれなりに金がかかるんだよ。メールの使用許可を統制庁に申請して、文言量に応じて料金払わないとダメだし」

「そういうことか。でも、ギルド内で立ち上げたりするのとかはOKじゃねえの? バレなきゃいいんだろ?」

ラルカンはニヤリと笑った。話が通じる奴を見つけた、みたいな顔をしていた。

「そうそう。ギルドは自前でメールサーバー立ち上げてやってるぜ。バレなきゃいいんだよ」

 目元を暗くして僕たちは低く笑った。低い笑い声が事務所内に満ちた。


「で、ラルカン。OMGの妨害する理由は何なの? やっぱ、ジネヴラ達のギルドが女性主体だから?」

「その辺はわからなかったな。”例のプロジェクト”だか、何だか知らねえけど”抵触する可能性”とか書いてあったけど。何のことだかわからねえ」

何言ってやがんだlolwut。イミフなんだけど」

「知らねえよ。OMGの活動はインフラ系の魔法開発だから横取りしたいのかもな」

「邪魔する方法としては何をするつもりなんだ?」

「それな。うーん」

 

 ラルカンは唸った。

 態度から見て取るにどういった手段で邪魔をしようとしているのか、わからないらしい。眉間にしわがよっていた。

「わからねえ。ギルドの認可が認められなかったケースで、実技試験で魔法が使えなかったとか聞いたことがあるぜ。DoSアタックとか食らったのかな?」(※a)

「んー、そだな。DoSアタックなら何とかなるか。でも、DDoSとなるとちょっとな」

「DDoSアタック? 何だそれ?」

「あっ、何でもない、忘れてくれ」

 ラルカンは明らかに知りたそうにしていたが、無視を決め込んだ。


 とにかく、DDoSアタックはまだ一般的ではないみたい。

 そりゃそうか。あれは多数の踏み台ゾンビが必要になるものな。


「他に魔法使えないとなると、どういうことが考えられる?」

「そうだなあ。DNSキャッシュ・ポイゾニング・アタックとか?」(※b)

「えー、マジでー。公的機関がそんなことするか? やり過ぎだろ」

「でも、やり方としてはそれぐらいだろ」

 僕は腕組みをして考えた。ラルカンが言うからにはそうなのだろう。

 このラルカンの自信の満ちた顔。


 ハッカーという人種は基本的に教えたがりだ。

 なまじ勉強してきただけに、人に押しつけたがる。

 まあ、いいか。こっちの現状について聞いたおいた方がいい。

 

「ラルカン、他に考えられる方法ある?」

「無いとは言えねえよ。何せ、OMGがあのセキュリティの甘さだろ? 普通に考えて試験を邪魔するほどのスキルはねえよ」

「そっか。そうなりゃ、実技試験で落とされる要素ってあるの?」

 僕も席に座るのに腰を浅くした。腰に悪いけど、長時間椅子に座るのは疲れる。地味に尻が痛い。

 ラルカンも僕の姿勢の悪さを確認した後、肩肘を付いた。特に気を遣わなくてもいい相手と認識したようだ。


「まあ、審議会だろうな。そこは俺達とは無縁な世界だから」

「審議会のメンツって、やっぱり魔法統制庁と、OMG?」

「それについてはケースバイケース。陸軍省や外務省が参加してるケースもあったぜ。最近は陸軍省が出席してるらしい。隣国であるアングル王国に比べて物理的な戦力がないから、魔法で補いたいんだろうな」


 ガシュヌアは言っていた。魔法ギルドへの補助金が出る傾向が多いものに軍事に関わる研究が多いのだと。そこから考えても、審議では陸軍省の発言権が強いのかもしれない。


 デアドラは内務大臣に掛け合うようなことを言っていた。だが、魔法統制庁は内務省の外局となる。つまり、別組織。

 行政機関としてどれほどの独立性があるのか不明だけど、内務省から魔法統制庁に圧力をかけた場合、魔法統制庁として、行政体としての独立性を損なわれる。

 なら、審議する際に同席する陸軍省と関わりを持った方がいいかも。


 この辺りは、こちらの世界に詳しくないから相談した方がいい。

 でも、OMGのセキュリティが甘いなら、色々とやっておきたいことがある。

「ユウヤ、悪い顔をしてるぜ?」

「まあな。やっぱOMGをハックするか。やってもらいたいことがあるんだ。日付はまた連絡するから、デアドラの屋敷に来れるか?」


「まあ、そういうことなら仕方ねえよな」

 渋々といった感じでラルカンが応えた。

 こいつツンデレかよ、面倒くせえな。

 デアドラの屋敷にはマルティナも居る。期待しているのだろう。チラチラとこちらを見てくるのがうっとうしい。

「なんだ。来たくないんだったらどうでもいいか」

「行きます! 行かせてくれ!」


「はいはい。てか、ハッキングする時ってIPどうしてる? 踏み台とか」

「アングル王国とかのサーバーで偽装してる」

「あれ? 別の国でも魔法とか使ってんの?」

「そりゃそうだろ。もっともカヴァン王国が一番発展してるけど」

「なるほど。カヴァン王国で最強のハッカーになったら、世界最強になれるってことか」


 ラルカンはちょっと考えた後、悪い顔になった。

「仕方ねえなあ。協力したくないんですけど?」

 でも、ラルカンはちっとも嫌そうな顔をしていない。むしろ、交ぜてくれと表情が語っていた。

「嘘つけよ。最強って言葉に心を動かしたろ?」

「普通だろw」

「魔法統制庁とかクソだ。俺たちの方がスゲー。システムの世界に身分とか関係ねえ」


 こうしてこの世界で小さな小さなコミュニティが発生した。

 ここで話したことが後で面倒ごとを生み出してしまうのだと、この時の僕は考えても無かった。



<Supplement>

※a DOSアタック

 DoSアタックというのは、パケットを送り続けて、対象サーバーのリソース(メモリ、CPU)を枯渇こかつさせてしまうという攻撃方法。

 特定のウェブサイトでF5を押して、リロードを繰り返して、リソース不足に陥らせるのも、この攻撃に含まれる。


 DoSアタックでよく使われているSYNフラッド・アタックはKali Linuxのhping3で実行することができる。


 ネットの根幹となるプロトコルには概念的に七階層に分けられる。

 第四階層はトランスポート層と呼ばれ、TCPというプロトコルが一般的に使われる。

 メールやウェブではこの上で行われている。


 TCPのネットワーク階層は第四階層で、やりとりされる情報単位はパケットと呼ばれる。


 通信可能状態にするまで、3ウェイハンドシェイクと呼ばれるやり取りをする。

 ここで通信可能となると、上位層での通信が可能となる。

 

 3ウェイハンドシェイクは以下に記載する。


 1. クライアントからSYNパケットをサーバーに送る。

 2. サーバーはクライアントに応答として、SYN/ACKパケットを投げ返す。

 3. クライアントからACKパケット送る。

 

 意図的に手順3のACKパケットを返さない場合、サーバーは待ち状態になる。(つまりメモリを消費した状態)

 SYNパケット、SYN/ACKパケット、ACKパケットには送信元IPアドレス存在しているが、この手のアタックをする場合、ランダムなIPを設定する。



※b DNSキャッシュ・ボイゾニング・アタック

 DNSキャッシュ・ポイゾニング・アタックとは、DNSサーバーに対して行われる攻撃手法。DNSサーバーにあるURLからIPに変換テーブルを書き換えてしまうアタック手法。

 カミングスキー・アタックが一般的である。

 書き換えられると、当然、術者は間違った根源サーバーにアクセスすることになり、結果として指定した魔法が使えない。


 尚、DNSというのはネットワーク階層でいうと五~七階層にあるプロトコル。

 『祝福』、『照明』などの魔法はURL(魔法API)。

 ここから魔法を提供している根源サーバーのアドレスに変更する必要があり、それを行っているのがDNSサーバーになる。

 

 例えるなら、ブラウザのURLにwww.google.comと入力したとする。ブラウザ内部ではIPアドレスという216.58.197.196に変換して、サーバーにアクセス、指定ページを表示する。

 URLからIPへの変換を「名前解決」と言い、これをDNSサーバーが行っている。

</Supplement>

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