0x000D アーサー王と樫の木

 食事が終わった後に、僕は寝ようと寝室に向かう。天井が高いって気分的に落ち着かないね。以前はWebカメラとかスマホとかハックしまくってたから、どこから見られている気がしてならない。


 寝室のドアを開けようとすると、ジネヴラから声がかけれらた。

「ユウヤにお客さん来たよ」

「えっ、こんな朝早くから? 徹夜明けで眠いのに。誰が来たの?」

「DOGのガシュヌアさんとドラカンさん」

「マジで? 何かな」

「それでお願いがあるんだけど」

 ん? どうしたのジネヴラ。妙に瞳が輝いていますけど?

 徹夜明けでボケている僕にはジネヴラが何を期待しているのかサッパリわからない。


「マルティナを同席させて欲しいんだ」

「うん。別に構わないけど。ていうか、DOGって何しに来たの?」

「うーん、それはわからないの。でも、ユウヤと話がしたいとか言ってたよ」

「えー、何だろ? 嫌な予感しかしないんだけど。国家管理されちゃうとかかな? また、監禁されたりするのかな?」

「うーん、そういう感じではないと思うけど。でも、それはそれでアリかも」


 えー、ジネヴラさん、何言ってるんですか?

 僕が国家管理されるってことは、ここから出て行かないといけなくなるじゃない。

 実技試験までの準備が済んだら、解雇されちゃうの? 

 超絶ブラックなんですけど。ベンタブラックよりまだブラックなんですけど?


 僕の表情が絶望感で真っ黒になっていたらしく、ジネヴラが言葉を補足した。

「あ、もし、国家管理とか言い出したら、セルジア連れて絶対に助けに行くから。だから、心配しないで。アリかもって言ったのは別の理由だよ」

「話戻すけど、ジネヴラ。徹夜明けだとちょっと頭が回ってなくて。マルティナ連れて行く理由がイマイチわからなくて」

「言うべきかなあ。でもなあ」

 ジネヴラは顎に手を当てて考えている。顎に手を当ててるのって、考え事をしてる時の癖なんだろうな。

「まあ、いいか。とりあえず応接室にマルティナと二人で行ってきて」

 結構、ジネヴラ大雑把だよね。血液型Oだよね。血液型占いは日本特有の占いだって知っているけど、そういうの通り越して、ジネヴラはO型だと思う。

 

「うん、わかった。とりあえず応接室に行くよ。マルティナはどこ?」

 実は何もわかちゃいなかったけど、わかったと言った。何が何やら。

「マルティナは書斎でスタンバイ中。ちゃんとフォローしてあげてね」

 スタンバイしてるのか! しかも、フォローって意味がわからねえ!

 

 書斎は応接室の隣にあるけども、マルティナは何をしようとしているの?

 僕の頭は混乱するばかりだ。だけど、頷くしか選択肢はなさそう。眠気で頭が回らないのに、情報だけが詰め込まれてゆく。

 結果として僕の頭はパンク。サムズアップでジネヴラに応えた。

「うん、何が何かサッパリだけど、フォローはするよう心がけるよ」

 何を言ってるんだろうね、僕。


 訳がわからず書斎に行くと、書棚に隠れようとしているマルティナを見つけた。

「あれ、マルティナ。どうしたの?」

「な、何でもない」

「そう。今からガシュヌアとドラカンの所に行くんだけど、ジネヴラに一緒に行けって言われてさ」

「そうだよな」

 あれ?

 また、マルティナが挙動不審になっている。おかしいと思って彼女の目を見ようとすると、アイコンタクトを取ろうともしない。


「ええと、ジネヴラからマルティナをフォローしろって言われたんだけど、僕は何をフォローしたらいいんだろう?」

「いや、ここは覚悟を決めて行くべきだろう」


 ちょっと待ってくれ。意味がサッパリわかんねえ。


 マルティナは拳を握って、キッと眉毛を上げた。美女が決意するというのは絵になるが、僕としては、話が全く見えない。どうしたらいいの?

 頭は混乱するばかり。

 書斎から出ると、ジネヴラが居た。嬉しそうな顔をしてYou,yeahのジェスチャー。

 僕は頑張らないといけないらしい。


 徹夜で痺れた頭だけれども、気合いは入った。テンションだけが無駄に上がってゆく。

 ジネヴラに「任せて」とばかりに親指を立てる。だが、方向性がハッキリしていない。自分でも、何かやらかしそうな気がプンプンする。


 応接室をノックして入った。

「お持たせしました。ユウヤです」

 相変わらずの存在感をもった二人だった。ガシュヌア、ドラカン。

 来客用のソファーに腰掛け、ガシュヌアは頬杖を付き、ドラカンはゆったりと前髪を触っていた。


 何だろう、この人達DOG。前回会った時は意識しなかったけれど。偉そうってだけでなく、何かピリピリした緊張感がある。実は昨日殺人してきたんだ、とか言われても納得できそう。 落ち着き具合というのか、威圧感がハンパなかった。


 この世界が物語だとしたら、こいつら主人公なんだろうな、とか思った。

 小学生の学園祭で演目がアーサー王物語だったとすると、アーサー王とかランスロットが彼らで、僕は樫の木。

 樫の木は登場回数は無駄に多くても、観客の記憶には残らない。

 卑屈な気分になってきた。


 でも、マルティナをフォローする為にも、ここはテンションを無駄にあげていかねばなるまい。

「いつもアシストしてもらってるマルティナを連れてきました。このところ、ずっと彼女には助けてもらってばかりなので」

 マルティナの方を見ると、何か知らないけれど、頬を上気させていた。

 ヤバい。フェロモン五バレル状態。彼女の身体から重力を感じる。目線が吸い付けられそうになるのを何とか振り切る。


 そこで僕はようやく事態をうっすらと理解した。

 マルティナはDOGのどっちかに好意を持っているんじゃないの?

 前に様子がおかしかったのもDOGとの会談が終わってからだった。今朝も状態は普通だったのに、DOGが来てからこの様子。間違いない。マルティナは恋をしている。

 でも、フォローするって、どうしたらいいの?

 ぽすけて、おながいhalp me pl0x


 徹夜明けで頭が回らないのにテンションだけが無駄に上がっている状態。要するにテンパった。とりあえずマルティナをあげとけばいいんだよね。

 挨拶が終わった後、ソファーに座る。隣に座ったマルティナの髪の匂いが鼻腔をくすぐる。

 はっと責任感に駆られて、僕は喋り続けた。


「マルティナ本当にスゴいんですよ。とにかくスゴいんです」

 両手を上げたり下げたりもした。マルティナを羽ばたかせなくてはならないから、僕も羽ばたかなきゃ。

 何か間違っている気がしないでもないけれど、寝不足の人間に正常な判断を期待してはいけない。


 それを見た、ガシュヌアが眉をひそめた。僕が何を言っているのかわからないらしい。そりゃそうだろう。僕にだってわからない。


「いやもう。僕なんか”落ち人”っていうのに何も出来てないって言うのか、ついていくのに必死というか。マルティナさんスゴいです。魔法とか僕の世界にはありませんでしたから。もう、マルティナさんスゴいです」


「ユウヤ。話が見えない。そろそろまともな話をしたいんだが」

 そうだね。

 話が見えるわけがない。僕自身が見えてないのだから。自分の立ち位置だってわからない。

 君ら主人公と違って、樫の木なんかは、どこに立ってても一緒だもんね。わかってたよ。


 それにしても、ガシュヌア、耳が聞こえないとか言っている割りに言ってる意味を理解しているよね。読唇術とか存在は知っているけど、そこまで理解できるものなの? 

 絶対、こいつ耳が聞こえているよ。


「そうですね。まともな話をしましょう、ガシュヌアさん、ドラカンさん。でも、マルティナさんはスゴいです」

「ユウヤ君は緊張しているのかな? 話を聞きに来ただけだよ」

 ドラカンは相変わらず目を閉じていた。フォローするつもりの僕が逆にフォローされている。何たる余裕。僕の胸は屈辱感ではじけそう。


 僕だって主人公になりたい。

 樫の木より、アーサー王やランスロットの方がいいに決まっている。

 よーし、まずは落ち着こう。今は樫の木でも、ガウェインぐらいにはなれるかもしれない。


「何を話せばいいんですか?」

「そうだね。そもそも”落ち人”は何かの能力に優れている場合が多いんだ。理由は言わなくてもいいよね。ユウヤ君が一番よく知っているだろうと思うけど」

 ドラカンの言葉で背筋が凍った。意識しない内に体が動いたのか、ソファーがキュッと音を立てた。


 彼らは落ち人が悪魔に魂を売った者の”なれの果て”であるのを知っている可能性がある。

 次に口を開いたのはガシュヌアだった。

「お前が何かの能力に優れているのであれば、それが何かを聞いておきたい」


 昨日徹夜とかするんじゃなかった。目は覚めてはいたけれど、脳内は渋滞状態。何もかもが処理しきれない。全てが空回りしている感じ。


 ハッカーであることは黙っておいた方がいいよね。

 どう考えてもいい結果にはならなさそう。そもそもこの二人、雰囲気がヤバそう。嘘ついても表情変えそうにもないし、目が見えないとか、耳が聞こえないとか言ってるけど、見えてるし、聞こえると思う。


「随分と険しい目をしているな。やましい能力なのか?」

「いやいや、全然やましいことなんかありません。むしろ、地味過ぎて語るほどでもないですよ」


 嘘です。

 かなりやましいです。

 でも、言うわけにはいかない。経験上、ハッカーと特定されていいこととか何もない。


「えーとですね。ここでいう魔法については理解がかなりあります」

「それはどの程度」

「ネットワークは強いかも。でも、マルティナもスゴいですよ。僕なんて何も出来ないって言うか」

 お茶を濁して、すかさずマルティナをフォロー。もっともフォローできてるのか判断できないけれど。

 でも、どうやってマルティナをアピールさせればいいの? そして、どっちがマルティナの好みなの?

 だが、僕のフォローはガシュヌアに一蹴いっしゅうされた。

「俺はお前の話をしている。ネットワークに強いというだけか。確かにお前の世界でもコンピューターやネットワークという名前でシステムが存在しているらしいな。根本的に使用方法は異なるらしいが」

 僕の健気なフォローはキャインと一泣きして、テーブルの足下辺りでうずくまっているに違いない。

 

 ガシュヌアの顔を読んでみる。”落ち人”って、他にも居るんじゃないの?

 箝口令かんこうれいしかれてることからすると、DOG、もしくはその上位機関が落ち人を複数人抱えて、運用している可能性はある。

 そうでないと、僕の世界のことの知識について説明がつかない。

 ヤバそう。追い詰められてる感がハンパない。マルティナのフォローしている場合じゃない。


「では、質問を変えよう。お前がは何だ?」

 血の気が引いたのが自分でもわかった。DOGは”落ち人”のことを詳しく知っている。魂を引き換えにして、何かを願ったことまで理解している。

 しかし、悪魔と契約しようとした、動機まで聞いてくるとは。

 どこまで知っているの、この人達?


 心の中が暗転する。僕が能力を求めた理由。それが頭の中で反復されてゆく。

 折角、忘れようとしていたのに。

 思い出したくもない忌まわしい記憶がジワリと染み出てきた。

 どうして、僕がパイプラインを止め、その後、どうして破滅的なサイバーウォーを行ったのか?



 ソレ ヲ キキタイカ?

 ソレ ヲ シリタイカ?


 僕でない僕が静かにざわめきだした。いつもの大騒ぎをやらかす僕じゃない。その奥にある、真っ黒で、激しく、暴力的で、破滅的な僕。一番奥底に沈めたはずの破壊衝動。


 心のざわめきは低い声で呟き始めた。


 壊せ、潰せ、破壊しろ。何もかもを。意思を持っている何もかもを。存在している何もかもを。

 滅茶苦茶になってしまって、混沌となってしまって、無になってしまえばいい。どいつもこいつも死んでしまえ。悶え苦しみ、絶望の中で悲嘆に暮れながら朽ち果ててしまえ。


 駄目だ、このままでは。

 僕はくらい僕を身体の内に押し込めて、鍵をかける。



 わざと明るい声で答えた。空虚な声だと、自分でも思った。

「いや、ネットワーク技術者って、仕事がいつまで経っても終わらないんですよ。一週間徹夜続きとかありましたし、何もかも嫌になっちゃって」


 ガシュヌアの目は僕を見ていた。どこまで通じるのやら。先ほどのくらい感情は表情となって出ていただろう。曖昧な笑顔を浮かべたが、彼らはカマをかけ、出てくる信号を分析している。こういう連中は覚えがある。彼らがそういう連中だとしたら煙幕にもならない。


「この前のDHAでの魔法関連で事件を起こしたな、ユウヤ。ネットワークに関連した知識で何とかできるものなのか?」

 ガシュヌアの鋭い目は僕の言葉を信じていない。

 陽光で明るいはずの応接室は緊迫感で張り詰めている。壁にかけられた肖像画までが僕の挙動を見ている気がした。


 どこまで誤魔化せる?

 ガシュヌアの瞳は動かず、虚偽を探りにきていた。背中に汗がうっすらとにじみ出る。落ち着け。自分に言い聞かせながら、袖のボタンを触る。僕のルーティンの一つ。

「そうですね。ネットワーク知識を利用してラルカンに呪系の魔法を実行してしまいました」

「おかしいな。この前に聞いたジネヴラとマルティナの話とはちょっと違うようだが」

 

 監獄に放り込まれた時に、ジネヴラとマルティナは、僕を釈放させる為にDOGの二人と話をした。その時に、全部話をしてしまったのだろうか?


 ネットワークに詳しいと言ってしまっている以上、嘘を貫き通すしかない。

 彼女達に細かいことは言ってない。逆魔法にしたと言ったはず。


「そうです。いやあ、ネットワークを飛び交う信号を分析したんですよ。『祝福』を逆転させてラルカンに送りつけただけです」

「なるほどな。『祝福』を逆転させて実行させたのか」

「えっ、さっきジネヴラとマルティナから聞いたって言ってませんでした?」

「カマをかけただけだ。詳しくは聞いてない」

 僕の言葉をそのまま信用はしていない。尋問されている。急に応接室の空間が狭くなったように感じられた。


「ま、まあ、運がよかったんでしょうね。僕の世界のネットワークは違いが多すぎて、効き目があるかどうかわかりませんでしたけど」


 ガシュヌアはマルティナの方を向いた。何故かマルティナが俯いた。モジモジしている。顔が赤くなっており、肩をすくめた彼女は完全に恋する乙女にしか見えない。


 こんちくしょー!

 フォローしようと頑張ってるのに、フル空回りじゃないか。

 恋愛したいって思うんなら、本気だせよ、マルティナ!


 てか、追い詰められているんですけど。それも言葉を発する度にボロ出しそうなんですけど。十分も話せば全部わかっちゃうんじゃないかな?

 それより、マルティナのフォローってどうすりゃいいの?

 相手はガシュヌアでいいのかな?

「マルティナ、ユウヤについて聞きたいのだが」

「はい」


 マルティナの声はいつもと違って、小さな声だった。何コレ? 

 あなたは誰、マルティナさん?

 僕も同じ東洋人だけど、態度が違いすぎる。僕なんかいきなり変態扱いされていたのに。ガシュヌアには顔を赤らめちゃうの?


 ぶっちゃけ、嫉妬心を覚えた。

 脇役キャラの本気を見せなければならない。

 樫の木だって生きてるんだ。

 ガウェインになれるかも、とか言ってたけど、そんなのどうでもいい。

 樫の木だって立派な出演者だ。樫の木も雄叫びをあげて存在感をアピールしなくてはならない。観客がビックリするかもしれないが、そんなことは知ったことじゃない。


「ガシュヌアさん。さぞかしモテるんでしょうね」


 主役の足を引っ張った方が樫の木としては楽だし、楽しそう。

 人間は楽な方へと流れる。樫の木だって例外じゃない。ゲス顔になったりもする。


「何を言ってる?」

「付き合っている人とか居るんですか? 独身だったりするんですか?」

「それは何の関係があるんだ?」

「いいですよねえ。マルティナに最初会った時、僕は変態扱いでしたよ。待遇の違いに愕然がくぜんですよ。いいですよねイケメンは。但しイケメンに限るって、言葉がありましたけど、ここまで実感したことなかったです」


 白髪のドラカンが茶化すように会話に割って入ってきた。

「あれあれ、ユウヤ君はマルティナさんが好きなのかな?」

「二十四時間ジェントルマンを舐めてもらっちゃは困りますよ。そういうのは自制していますよ。マルティナは、男嫌いらしくて、防御壁高いんですよ」

「ふうん。そうするとユウヤ君はマルティナさんは嫌いではないわけだ」

「そうですね」

「じゃ、好きなんだ」

「そうですね。とてもセクシーだし、魅力的な女性でしょ? どうですドラカンさん?」

「ああ、僕は目が見えないからね。会話した限り、理性的で知的な女性なんだろうなと思っているけれど」

「あっ、それに加えて、頑張り屋さんですよ。ネットワーク配備計画書や魔法API仕様書を書いてくれるって言ってくれてますし。気が利きますよね」


 横を見るとマルティナと視線が会った。

 マルティナは瞳を大きく開いたかと思うと、僕を見るなり真っ赤になった。

 どうしてこうなった? 

 今の状況が全くわからない。前後不覚という言葉なんて甘っちょろいものじゃない。前後どころか上下、右左、時間すら不覚な状態。


 えっ、僕はマルティナの何をフォローすればいいの?

 無駄にマルティナをあげているけど、ひょっとしてドラカンが気になってるの?

 大暴投になる予感がないわけでもなかったけれど、僕はこう言った。

「マルティナはどうもガシュヌアさんとドラカンさんが気になって仕方ないみたいです。どうでしょう。彼女と食事なんか?」

 マルティナが真っ赤になった。鉄鋼を三千度にしてもここまで赤くないだろう。ゴーグルが必要なぐらいだ。両目がジュッと音をたてて焼けてしまうレベル。


 マルティナから足を踏まれた。

 余計なことを言うなという意味なのだろうが、尖ったヒールで踏まれ、足の甲が粉砕されたかもしれない。頭の中でパンッと破裂した音が響いた。

「痛い。マルティナ。ヒールだからシャレになってないよ。ジネヴラからフォロー頼むって言われたのもあるし、ここは積極的にアピールしとかないと」


 再度、足を踏まれた。

 足の甲は粉砕骨折したに違いない。

 脳に伝わる痛覚信号は恐らく脊髄の帯域を超えてるはず。髪の毛が逆立つほどの痛さ。耳の奥まで痛かった。

「痛っ! ちょっと、痛いってマルティナ。どうして邪魔するの? ここでアピールしなくちゃ」

「ウウイエア、いい加減にしろ」

「マルティナ、アピールしとかなくちゃ。いつもの冷静なマルティナはどうしたの? 恋愛は戦いなんだから。ルール無用の戦いなんだから。痛い! また踏んだろ!」


 ドラカンから軽やかな笑い声が聞こえてきた。

「随分と楽しそうなギルドだね。少なくともユウヤ君は悪意のある人物ではなさそうだ。ごめんね。本来の目的はユウヤ君がどんな人か見ることだったんだ。楽しくて、いいギルドが設立できそうだね」


 そうだったのか。僕の人格を見るためだったのか。色々と痴態を見せてしまった。取りつくろいたいが、今更どうしようもない。


 僕はすっかり気分を害した。もう、だめぽi’m so fucked up

 気分が荒むと自然と態度に出てくるものだ。背もたれにダラリと腰掛け、足を組み、投げやりな口調で尋ねてみた。


「でもまあ、OMGのダナシーが実技試験で横槍入れそうなんですけど。彼女たちの頑張りを邪魔するとか、どうかと思うんですけど。DOGで何とかできません? 明らかにOMGのやろうとしていることっておかしいでしょ」

「DOGが所属するのは外務省及び陸軍省だからね。内務省下の魔法統制庁に介入は難しいね。でも、どうしてOMGのダナシーは邪魔をするんだろう?」

「うーん。この世界って保守的なんでしょ? 男尊女卑から反対しているんだと思いますけど」

「本当にそれだけかな?」

「いや、聞いた話なので、よくわからないです」

「情報ソースは?」

「言えませんよ。情報提供者は秘匿しないとダメでしょ」

「立派なことだね。その情報が正しいと仮定して、OMGのダナシーが横槍入れる理由は、男尊女卑って理由だけなのかな。そんなボンヤリした理由で組織が動いたりすると思うかい?」


 ドラカンの言葉には含みがあるように思えた。ひょっとしてDOGは何かを知っている?

 ドラカンからは何も信号が出てこない。

 こいつも別の意味でポーカーフェイス。何を考えてるのか読み取れない。


「実技試験って何をするもんなんです? イメージ的には実演するだけかと思うんですけど、そこで何かを仕掛けるとかできるもんなんですか?」

「僕達に聞かれてもな。ユウヤ君はネットワークに詳しいのではなかったのかい?」

「こちらのネットワークと、僕の世界のネットワークとは違います」

「そうだったね。そういうことにしておこうか」

 と、ドラカン。持って回った言い方がどうにもしゃくに障る。


 背もたれに大きく伸びをするとさっきまで黙っていた、ガシュヌアが口を開いた。

「ユウヤ、話は変わるが、最近の魔法ギルドへの補助金が出るのが多い研究についてどういう傾向があるか知っているか?」

「いいえ。わかりません。まだ、こちらに来たばかりですもん」

「軍事に関わる研究に対して、だ。そちらに研究力を集中させたいという意向がある」


 確かにジネヴラ達が見つけてきた魔法は治療系ばかり。インフラとも関係もなく、軍事と積極的な関係がない。

 ただ、ガシュヌアが言ったのは他にも何か意味を含んでいるような気がした。

 ええと、別のことを言おうとしてるのかな?


 色々考えているとガシュヌアが言った。

「そろそろ帰るか。また、来る。次は食事時間頃が良いのか? 折角の食事への招待を受けたのなら拒むこともあるまい」

「そうだね。他にもユウヤ君に聞きたいことがあるんだ。週末、四日後辺りなんてどうだろう?」

「いいですよ。僕、やましいこととか全くありませんから」


 マルティナは下を向いて顔を真っ赤にしていたが、どこか嬉しそうだった。

 よかったね、マルティナ。


 でも、僕の足は滅茶苦茶痛いよ。

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