朔夜蒼紗の正体

 ついに言ってしまった。そろそろと二人の様子をうかがうと、二人ともボカンとした表情で予想通りの反応だった。無理もないが、がっくりと落胆してしまう。結局、この姿では説得力がないということだろう。


「さすがにそれはないでしょう。だって、どう見たって、蒼紗は私と同い年か、せめて5歳くらいしか変わらないと思うけど。」


「僕も驚きです。僕は見た目を変えることができるようになりましたが、朔夜さんもそれができるということですか。それはすごい能力ですよ。」


 やはり、二人は私の言葉を信じていないようだ。私自身も信じられないのだから、私以外の他人が信じる方がおかしいというものだ。



「いや、私も自分のこの体質が信じられないのですが、事実なんです。そもそも、こんなとっぴおしもない話を冗談でしませんよ。」


 信じてもらえそうにないので、少し昔話をすることにした。長くなりそうだが、構わないだろう。




「私の過去を少ししてもいいでしょうか。この体質に気付き始めたころからの話ですが……。」


 20歳を過ぎてから、姿がずっと変わらないことに気付いた。きっかけはアルバムの整理をしていた30歳のころで、たまたま大学の卒業式で撮った写真を見つけた。ちょうど30歳の時に大学の同窓会があり、それに参加した写真と比較してみたら、私だけ姿形が全く変わっていなかったことなどを話した。


 年を取っていないことに気付いた私は、すぐに行動を起こした。当時勤めていた銀行を寿退社するということにして、両親からも離れることにした。


 

 ここまでの話を一気に話し終えて、二人の様子を確認する。二人はにわかには信じがたいといった表情で私を見つめている。

「話をまとめると、蒼紗は大学をすでに一度卒業しているということになるわよね。その後、銀行に就職して10年くらい働いたということかしら。」


「そういうことになります。そこで、私は自分の特異体質に加えて能力者だということがわかりました。当時は能力者という言葉を知りませんでしたが、その力を使うことで問題なく今まで過ごすことができました。」



 仕事を辞めて、両親から離れて暮らすことに決めた。その後、職を転々として生活をつないでいったこと、その間に両親が亡くなったが、この容姿のせいで葬式には出席しなかったことを付け加えた。


 転職を繰り返すうちに一つの問題が浮上した。転職先に提出する履歴書についてである。いつまでも同じ経歴を使っていては怪しまれてしまう。

 

 何も考えずに市役所に赴いたこと、そこで私の戸籍を20歳くらいのものにして欲しいと必死に頼み込んだこと、その後、市役所の職員は私の言うことに頷いて、本当に戸籍を改ざんしてくれたことを伝えた。

 

 それからは10年くらい置きに市役所に赴いて戸籍を改ざんしもらっていることで過去の話を終えた。



「それから今まで職を転々として過ごしたのですが、最近また勉強をしたいなと思いまして、久々に大学に通うことに決めました。何を学ぼうかと考えたときに見つけたのが、この大学の妖怪学という学問でした。」


 私は大学の試験勉強をして無事に大学に合格したのだった。


 今までの過去を話してきたが、この話を聞いて二人はどう思ったのだろうか。また、作り話だと信じてもらえなかったらどうしよう。不安を抱えながら、二人の意見を聞こうと耳を傾ける。先に口を開いたのはジャスミンだった。


「今の話からすると、蒼紗の本当の年は私たちより相当上ということになるわよね。にわかには信じがたい話だけど、蒼紗が嘘を言うとは思えない。」


 ジャスミンは私の話を信じようとしてくれていた。やはり、今までとは違う流れになりそうだ。この時ばかりはジャスミンが近くにいて良かったと思った。


「僕もにわかには信じられません。でも、僕よりもましですよ。一度、宇佐美翼は死んでいる。それでも幽霊の子供としてこの世に残って、今では神様の眷属にまでなってしまった。僕はすでに人間ではなくなってしまったけれど、何度も人生をやり直しているとはいえ、蒼紗さんはいまだに人間です。だから、僕が言うのも変ですけど、蒼紗さんはただの人間です。ただ少し年を取らなくて特殊能力を備えた人間というだけで別に気にする必要はありません。」


 翼君も私の話を信じようとしてくれていた。こんな体質の私を励ましてくれた。今までそんなことはなかったので、つい感動して涙が出そうになってしまい、慌てて近くにあったティッシュを引き出して目と鼻を覆う。


「蒼紗の体質を知っていたからこそ、あの狐の神様は蒼紗に付きまとっているということね。事情は分かったわ。大丈夫、年を取らないなんて、考えようによってはいいことかもしれないわよ。まあ、その様子だと苦労してそうだけど。」


「ジャスミンの言う通りです。今までいろいろこの特異体質で苦労してきました。でも、私の話を信じてくれる人はいなかったので、今回はとても幸運な20代を過ごすことができそうです。」


「そんなことを言ってないで、その体質を直す方法を探したらいいんじゃない。幸い、神様もそばにいることだし、大学もそれにうってつけだわ。面倒だけど、大学の先生に相談することだって解決策を得る方法だし。」


「僕も微力ながらお手伝いしますよ。」


「二人とも………。私のためにありがとう。」


 このままでは大号泣してしまいそうだ。慌てて話題を変えることにしたが、その必要はなくなった。





「話はおわったようじゃのう。では、今度は犯人に犯行動機を聞きに行くとしようかのう。」


 話が追えるのを待っていたようだ。親切なんだかただの気まぐれなのかはわからないが、今は話題が変わってちょうどいい。そう思ったのだが、自分の話をしてそれが認められたことで、気が緩んだのだろう。私のお腹が盛大になってしまった。


「ぐうう。」


 部屋中に響き渡る大音量でなってしまった。これには皆驚いていた。そして、一気に空気が緩んだ。くすっとジャスミンは口で手を覆って笑いを隠そうとしているが、背中が小刻みに揺れている。翼君も笑うのを必死でこらえているが、耳がぴくぴくと動いている。九尾に至っては笑いを隠そうともせずに大爆笑していた。


「腹が減っては戦はできぬというし、昼食でも取るとしようか。」


 私たちはいつものファミレスに向かうのだった。


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