ハロウィン当日の結末
私とジャスミンが人ごみに突入したすぐ後に九尾と翼君たちが大学に到着したようだ。人ごみに突入した私たちは犯人の二人組を探し始めた。そこで私は犯人を見つけ、声を上げようとしたところを九尾に留められて、屋上に連れていかれた。
そこまでは私も知っている。いきなり九尾が現れて私を屋上に連れて行ったので驚いた。
九尾に連れていかれた私を伴坂は追いかけようとしたそうだ。ジャスミンはそれに気づいて伴坂に問い詰めようとした。それに気づいた伴坂はいったん人ごみの中から出るようにジャスミンに指示をした。仕方なく、ジャスミンは指示に従った。二人は人ごみから抜け出して向かい合った。
「どうしたのですか。朔夜さんが何者かに連れ去られていったのだが見えたのですが。」
「さあ、蒼紗のことなら心配しなくても大丈夫よ。それにしても、さっきから蒼紗ばかりを目で追っているみたいだけど、犯人は捕まえなくていいのかしら。」
「犯人はすぐに捕まりますし、心配はいりません。それより、朔夜さんのことが心配です。すぐに追いかけましょう。」
そういった伴坂は目が血走っていて怖かったようだ。話しているうちに九尾がやってきてジャスミンを私のもとに運んでくれたようだ。伴坂はその行動に舌打ちしてその場を立ち去っていったようだ。
「伴坂は犯人を捕まえる気は最初からなかったということでしょうか。」
「まあ、伴坂の行動だけ見るとそう見えるが、実際はどうかわからないな。たまたま我がお主をその場から引き離したのが気に入らなかっただけかもしれないしな。」
「それで、結局犯人を捕まえことはできたのでしょうか。」
本日で一番重要事項が聞きたかった。もし、捕まえることができなかったなら、せっかく捕まえようと行動した意味がなくなってしまう。
「犯人はしっかりと確保することができた。伴坂たちより早く確保できたので安心だ。」
九尾は翼君たちの活躍を話してくれた。どうやら二人はずいぶんと活躍してくれたそうだ。
「あやつらはすぐに死神たちのもとに駆け付けた。今の二人は我の眷属であるから、力はついておる。さらには姿も大人の姿で腕力もある。死神たちはよもや我の眷属とは気づかずにすぐに攻撃を仕掛けた。」
「僕たち犯人を捕まえるために頑張ったんですよ。」
いつの間にか、翼君が帰ってきたようだ。姿は青年の姿のままで今まで少年の姿をしていたので少し違和感がある。狼貴君とは一緒ではないようだ。
それにしても、ドアを開ける音もなしに現れたが、まあ、九尾の眷属だというし、そういうこともできるのだろう。いきなり現れたことについては聞かないでおくことにした。
活躍を自慢したいのか、興奮気味に翼君が今回のことを話し出した。
「金髪の男が襲い掛かってきたんですけど、逆に俺が羽交い絞めにして捕まえてしまいました。男の能力は九尾から聞いていたので、とっさに男にマスクをつけました。」
えっへんと自慢げにいう姿はまるで子供が親に褒めてもらいたくて行っている行動だ。確か、彼はすでに成人済みの男性だったのではなかろうか。とはいえ、その行動が逆にこの少年は翼君に間違いないと思わせた。今まで姿が幼い少年のままだったせいで精神年齢も下がっているのかもしれない。頭とお尻には耳と尻尾がついていて、翼君の言葉に合わせて、ふわふわと動いている。
それにしても、九尾のことを呼び捨てしていたが、敬わなくてもいいのだろうか。一人称も俺になっているし、細かいことを気にしているときりがないので、話を促した。
「あとはその男を縄でぐるぐるに縛って拘束しました。狼貴君も手伝ってくれたのですよ。捕まえた男に事件を起こした理由も聞くことができました。もう一人の男は……。」
「もう一人の死神本人は分が悪くなったと思ったのか、姿をくらましてしまったが、まあ問題はない。伴坂という死神か車坂がすぐに追い詰めて、今回の事件は万事解決というわけだ。」
翼君の話を途中で遮って、九尾が話をまとめてしまった。
話が急展開しすぎてよくわからなくなってきた。綾崎さんのお兄さんを捕まえたのはわかったが、遠坂を逃して本当に大丈夫といえるのだろうか。すべてが話を聞くだけで、実際に目で見ていたことではないので、理解がしにくくて仕方がない。
「遠坂という死神を本当に放っておいていいのでしょうか。翼君が捕まえたその金髪の男のことですけど、捕まえて今はどこにいるのですか。」
「それなら、心配はいりません。丁重に家に送り届けました。彼は、どうやら死神さんにそそのかされていただけのようなので、今は自分の家に引きこもっていると思います。」
これまた、えっへん、という効果音が付きそうな調子での話し方をする翼君である。
「それと、もし逃げ出したり、不審な行動をとっても対処できるように狼貴君が家を見張っているので心配は無用です。」
狼貴君が見張っているのなら、大丈夫だろう。しかし、これですべてが解決したと言えるのだろうか。なんだかすっきりしない気分で、もやもやする。
「理解が追い付いていないようだが、まあ、数日もすれば死神たちも自分の持ち場に帰っていくことだ。別に今回の事件を理解する必要はない。理解した方がいいのはお前の特異体質と我たちの今後の生活だな。」
あっさりと話を終えた九尾は爆弾発言を残して、そのまま自分の部屋に行ってしまった。残されたのは私と翼君、ジャスミンの3人であった。
「ええと、九尾はあんなことを言っていますけど、わからないことがあったらどんどん質問してください。俺にわかることなら、いくらでも答えますよ。」
優しい翼君が九尾の話を補足してくれるらしい。では、一つずつ問題を解決していこう。私が口を開きかけると、静かに九尾と翼君の話を聞いていたジャスミンが固い口調で声をかぶせてきた。
「じゃあ、まずは……。」
「蒼紗の特異体質っていったい何のことかしら。私が把握している能力以外にも何か能力を隠しているということよね。」
有無を言わせぬ物言いで、ジャスミンは私をにらむように見つめてくる。いきなり私の体質のことを言われると、どう説明していいかわからない。翼君を見ると、彼も私の特異体質に興味があるらしい。興味津々でこれまた私をじっと見つめてくる。
「ええと、それは……。九尾が勝手に言っていることなので、気にすることではありません。」
どうにか話をそらそうと考えていると、ジャスミンは私を容赦なく追い詰めてくる。
「気にするに決まっているでしょう。蒼紗が私に何か秘密にしていることがあるって思ってはいたけれど、それが九尾が言っていた特異体質と関係があるのでしょう。」
話をそらそうとしても無駄だ、という強気の調子で邪推んが私を問い詰めてくる。
「そうは言っても、どこから説明したらいいのやら。この話は長くなりそうだから、今度ゆっくり別の機会にも話しましょう。」
いずれ話さなければならないと思ってはいたが、今話すべきではない気がした。何とか説明するのを先延ばしにしようと試みるが、そう簡単に引き下がるジャスミンではないことを知っている。案の定、しつこく追及された。
「今にしなくていつするっていうの。どうせ、狐の神様も言っていたことが本当なら、事件は自然に解決するということでしょ。だとすると、もう私たちができることはないでしょう。今が話チャンスだと思うわよ。つべこべ言わずに話した方が楽なこともあると思うけど。」
「俺も話を聞きたいです。九尾が朔夜さんに執着する理由がわからなくて疑問だったので。ぜひ、聞きたいです。」
ジャスミンだけでなく、翼君にも聞きたいといわれてしまった。話さないという逃げ道がなくなってきた。腹をくくってすべて話してしまった方がいいのだろうか。しかし、それで彼らが離れて言ったらそれはそれで、立ち直るのに時間がかかりそうだ。
私がぐるぐる悩んでいるのがわかったのか、彼らはじっと私が話をするのを根気強く待ってくれている。
私は息を大きく吸って、深呼吸をした。落ち着け、今までとは状況は違う。彼らなら、私のこの特異体質について理解をしてくれるはずだ。
「実は、私はすでに60年は生きています。本来ならおばあさんの姿をしていなければならない年齢なのです。」
そっと二人の様子をうかがうと、二人ともぽかんとした間抜けな表情をしていた。
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