ハロウィン当日③

 駒沢の話に合わせることにしたのだが、話は不穏な流れになってきた。この流れからすると、駒沢は能力者にたどり着いたというのだろう。予想がついたが、その流れから私が能力者だということ、特異体質だということとどうつながるのか。


 能力者を知らない一般人の答えそうな反論しておいた。あくまで能力者の存在は知らなかったという体を装うことにしよう。


「能力者なんてそんな非現実的な人間がいるのでしょうか。それこそ妖怪並みにありえないことだと思いますが。それに妖怪や能力者が私とどういった関係があるのでしょう。」


「白を切っても無駄ですよ。あなたの経歴には不審な点がいくつか存在している。それをなぜ今まで見過ごされてきたのか。私は不思議で不思議で仕方がありませんでした。」


 駒沢は驚きの発言をしてきた。プライバシーの侵害ということもできるが、どう答えていくべきだろうか。さらにはかつての大学の同級生のことも話し出した。


「西園寺桜華、雨水静流。あなたは二人と親しかったと聞いています。私はあるとき、彼らの話をこっそりと聞いてしまいました。まあ、聞こうと思っていたわけではなく、たまたま居合わせただけですが、その時に朔夜蒼紗さん、あなたのことが話題になっていたのですよ。」


「だから何だというのですか。確かに私は二人とは親しかった。ですが、彼らはただの人間でそれ以外の何物でもないと思いますが。」


「変身の能力者と雨を降らせる能力者。」


 ぐっと私は言葉に詰まってしまった。さて、この場を乗り切るためには何を言えばいいか。このままでは完全に私の正体がばれるのも時間の問題だ。いっそのこと、能力を使って記憶を忘れさせてしまうのはどうか。

 まさか、西園寺さんと雨水君経由で私の正体がばれるとは思わなかった。



「実際に彼らの能力を拝見したわけではありませんでしたが、自分たちの能力があれば大丈夫なことを話していました。驚きましたが、長年の研究の成果もあって、すぐに納得しました。ああ、こういう人間がいるから妖怪の類が現代まで言い伝わっているのだということに。」


「結局、何を言いたいのですか。先ほどからどうでもいいことを話していて話の焦点がわからないのですが。」


「あなたも能力者の一人ということですよ。それも複数の能力を所持している。」


 ここで駒沢は息を大きく吸って、私の能力を言い当てた。


「あなたは年を取らない、不老不死の能力を持っている。それを隠すために他人を従わせる能力も持ち合わせている。」





「ぼかっ。」


 私が駒沢の言葉になんて返答しようか考えていると、頭上から何かが降ってきた。降ってきたのは九尾で、駒沢の背中を踏みつけて着地していた。九尾の腰にはジャスミンがしがみついていた。


「何を話しているかと思えば、どうでもいいことだな。」


「私が大変な目に遭っていた時にのんきに先生と話していたなんて、蒼紗はなんて薄情な人なのでしょう。」


 九尾とジャスミンに口々に言われては反論する気も起きない。


「ぐう。」


 駒沢がうめき声をあげるが、九尾もジャスミンも気にしていない。むしろ、九尾はさらに力をかけて駒沢を押しつぶしている。ジャスミンもそれに続いて踏みつけていた。駒沢は二人によって、地面に伸びてしまった。



「では、帰るとしよう。向こうも決着がついたようだからのう。」


 そう言って、私とジャスミンを両手に抱きかかえると、宙に浮かび私の家に向かって飛び始めた。空を飛べるなんて便利な能力だなあと私は能天気にそんなことを考えていた。

 考えるべきことは他にもたくさんあったのだが、駒沢に自分の正体がばれたことで頭がいっぱいでそれどころではなかった。


 

 私と駒沢が話していたのは10分くらいだったと思うのだが、その間に事態は急変したようで、九尾のしがみつきながら大学の方に目を向けると、警察や野次馬の人々の人混みがなくなっていた。その場で解散となったのか、各々自分の家に帰るのか、大学から人混みが離れていくのが見えた。



 家に着くと、どっと疲れが押し寄せてきた。ふらふらになりながら私は自分の部屋に向かう。結局、犯人は捕まったのか、二人が捕まえてくれたのか、伴坂はどうなったのか。聞きたことがこれまたたくさんあったが、九尾とジャスミンが詳しく話してくれるだろうから、私は彼らの話を黙って聞くことにするとしよう。



「蒼紗が突然、この神様に連れ去れた時はどうしようかと思ったわ。」


「よく言うわ。蛇娘。お前も蒼紗を連れてその場から逃げ出そうとしていたくせに。」


 私の部屋に着いたとたん、言い争いを始めた九尾とジャスミンである。


「ええと、どういうことでしょうか。そんなに危ない状況だったのでしょうか。」


「蒼紗って、やっぱり鈍いのねえ。これはダメだわ。私がいなくちゃ心配でいてもたってもいられない。」


「そこが面白いところだがな。目を離すと事件を引き寄せてくるから我のいいひまつぶしになる。」


 一体二人は何を話しているのだろう。私が二人の会話についていけないことに気付いたジャスミンが補足してくれた。



「蒼紗は実は伴坂に目をつけられていたのよ。人ごみに紛れていてわからなかったのだろうけど、伴坂は人ごみの中でも犯人ではなくて、蒼紗ばかりを見ていた。」


「危なかったな。我が人ごみから引っ張り出さなければ、主は今頃、死神たちの餌食になっていたところだ。」


 私のことが話題になる意味がわからない。今日は犯行予告をした死神の二人組を捕まえるということではなかっただろうか。



「そんなわけないでしょう。だって、今回はあの死神二人組を捕まえることが優先だったでしょう。それなのに私のことを捕まえる意味がわかりません。」


「伴坂にとってはそいつらより、主の方が捕まえるメリットが大きかったということだろうな。」


 

 いまだに私が話についていけないことを察した九尾は、大学の校門前で起こった騒動についての一部始終を詳しく教えてくれた。


 

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