ハロウィン当日②
「そんな大声を出すでない。」
口をふさいできたのはなんと九尾だった。前に一度大学に来た時に化けていた好青年の姿になっていた。私は、九尾に口をふさがれながらも、野次馬や警察、死神たちがいる人混みから離れたところに連れていかれた。
「ふがふが。」
「お主の言いたいことはわかるが、今回はあやつらに功績を上げさせてやってもいいだろう。我の眷属になってからの初仕事だからのう。」
二人組のいた方向に目線を向けると、そこには翼君と狼貴君がいた。彼らの姿を見たときはすぐに彼らだとわからなかった。しかし、外見に大きな特徴があった。二人の頭とお尻に動物の耳と尻尾が生えていた。ウサギと狼のものだ。
「彼らは自分の姿を変えることができるようになった。いつもの子供の姿では太刀打ちできないと思って大きくなったのだろうな。」
「ふがふがふが。」
「まあ、いいだろう。あやつらの邪魔をするでないぞ。おとなしく、様子を見ているというなら手を外してやる。」
私が頷くと、ようやく口から手を外してくれた。
「いったい何がどうなっているのか……。翼君たちの姿は他の人にも見えているのか、見えているとしたら、あの耳と尻尾は……。」
突然現れた九尾に矢継ぎ早に質問する。
「大丈夫だろう。今日ははろうぃんという特別な日だと聞いている。人間は皆、仮装する聞いたことがある。ほれ、あそこにも結構、同じような格好のものがうろうろしているぞ。」
だからばれることはないぞ、と言いたいのだろう。九尾の言うことが本当なのか、周りを確認する。
大学前には死神を一目見ようと大勢の野次馬でにぎわっているのはわかっている。黒マントを羽織っている者も多くいることも知っている。
そのほかの野次馬の服装はどうだろうか。よくよく観察すると、九尾の言う通り、翼君や狼貴君の姿はあまり目立っていなかった。むしろ、ただ頭とお尻に動物の耳と尻尾が生えているだけでは地味な方であった。
ハロウィンを楽しみたい人は意外に多いようだった。ミイラ男や狼男、魔女にカボチャ男、猫娘にフランケンシュタイン、何のコスプレかわかるものから、ただ単に派手な服装のジャスミンの好きそうな色の服を着たものもいた。これなら、二人の姿でも別に怪しまれないだろう。
黒マントばかりに気を取られていたので、こんなにもコスプレしている人でにぎわっていたとは気づかなかった。
「さて、ここに居たら、面倒なことに巻き込まれそうだから、いったん、別の場所に移るとするか。」
私が周りの確認作業が終わったと判断した九尾は、突然、私を抱えて空に浮かんだ。慌てて九尾の腰にしがみつくが、足が当然地面についておらず、宙に浮いているので、安定しない。じたばたもがくと余計に落ちそうになるので、しっかりと九尾の腰にしがみつく。
「ちなみに我の姿は見えないようになっている。我にしがみつくお主のことも誰にも見えてはおらん。どこで話をしようかのう。」
「ジャスミンも助けてあげてくれる。伴坂はどっちでもいいけど。」
まさか自分が宙に浮かぶなんて思いもしなくて動揺したが、それでも、とっさにジャスミンのことを思い出す。
「注文の多い奴だな。仕方ない。では、ここで少し待っておれ。
九尾は大学の屋上付近まで私を連れて空中を移動すると、私だけを大学の屋上において、人ごみの中に紛れていった。
屋上から様子を見ていると、色々見えてくる。警察と野次馬たちの押し問答に死神二人組の行動などがよくわかる。とりあえず、ジャスミンに関しては九尾が助けてくれるというので待つことにしよう。
しばらく様子をうかがっていると、ふと隣に気配を感じた。横目で見てみるとそこには今までいなかった人の姿があった。驚いて一歩横にずれると、その人物は気さくに話しかけてきた。
「これはこれは奇遇ですね。朔夜さんも高みの見物とはお目が高い。」
声をかけてきたのは大学教授の駒沢だった。妖怪歴史入門の授業で私に用があるといった謎の教授だ。こんなところで何をしているのだろうか。そもそも今日は大学自体が休みであり、教授たちも例外なく大学構内に入ることはできないはずである。
どこから入ったのか、どうやって屋上まで来たのか、何の用事があるのか、聞きたいことはたくさんあったが、一番知りたかったことを質問した。
「駒沢教授はいったい私のことをどこまで知っているのですか。」
駒沢と二人きりになるのはめったにないことである。私自ら、教授の部屋に赴いてもいいのだが、なんだかそれは危ない気がするので、これは絶好の機会だと思ったのだ。
前回はジャスミンもいたので話を聞くことはできなかったが、今回は二人きり話をすることができる。下ではまだ九尾たちが死神と交戦している。しばらくは私のところに戻っては来ないだろう。
「いきなりそんな確信をついた質問なんて、本当に興味深い人ですね。」
私の質問に特に気分を害することなく駒沢は質問に答えてくれるようだ。
「こんな仕事をしていると、妖怪が本当にいるのかと錯覚してしまいそうなことがよくありましてね。実際、妖怪の目撃情報があった場所に行ってみたりするのですが、なかなか本物に遭遇する機会はなくて、研究も滞っていたところなのですよ。しかし、大学にいる限り、研究成果は出さなければならない。私は必死で妖怪に関する資料を読み込んだり、言い伝えがある村などに赴いたりしました。」
これは話が長くなりそうである。前置きが長くて本題に入るのはいつになるのやら。二人きりで話せるとは言っても、時間に限りがある。
それにしても、どうして今日、この場所に彼はいるのだろうか。妖怪学の専門家として、死神が本物か見に来たのだろうか。それとも、何か別の目的があってわざわざ大学が開いていないこの日にここに居るのだろうか。
おそらく、前者の方が理由のはずだ。先にこちらの疑問を解決した方がいいのか、悩むところである。
「先生の研究成果とかはどうでもいいので、本題にさっさと入ってください。私のことをこの前は聞きたかったのでしょう。もし、その話が長くなるようなら、別に今話してもらわなくても結構です。その代わりに手短に今日、この場にいる理由を先に教えてください。」
このまま私の質問に答えてもらうのもいいのだが、話の流れから、長くなりそうだと判断した。それなら、今日、ここに居る理由を聞いてしまうのがいいと考えた。
「それもそうですね。つい、興奮して長話をするところでした。私はついにあることに気が付きました。妖怪などは実際には存在しないことに。存在するのは人間だけであり、人間の中に能力者と呼ばれる人種がいることに行きつきました。」
私の話を無視して、続きを話し始めた駒沢。まったく、本当に私の周りには話を聞かない奴らが多すぎる。この手のタイプは面倒くさいことこの上ない。九尾がいつ戻るかわからないが、私がした質問に答えるつもりがあるようなので、話を合わせていくことにした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます