綾崎さんの話
ついにこの日まで残り3日となった。この日は皆が思い思いのコスプレをして、お菓子を食べて楽しむ一日である。そう、10月31日のハロウィンである。
楽しみにしていたのだが、どうやらそうもいっていられない状況に陥っている。なぜかその日に死神事件の犯人である二人組を捕まえることになってしまった。
伴坂から計画を聞かされた時には、土曜日に行う予定だったのだが、そうもいっていられなくなる動画がネットにアップされたのだった。どうやら死神もこの茶番に飽きてきたようで、また他大々的に動画で犯行予告をアップしてきた。
「ハロウィンは我々が活動を活発にする日。この日こそ、我らの力を真に発揮できる偉大な日の到来だ。」
ハロウィンと死神を関連付けて何かを話していた。別にそんなことはどうでもいい。ハロウィンと死神について数分熱心に語った後、ようやく犯行予告を始めた。
「というわけで、私たちがいかにこの日を待ちわびていたか理解していただけただろうか。それではこれからがこの動画を撮った本題だ。しかる10月31日の正午12時に○×大学に集まりし同胞たちに素敵な贈り物を届けようと考えている。我々の同志はぜひこの日に集まり給え。」
そこで動画は終わっていた。投稿者は死神。いつもの黒マントで全身を覆った男が話しているだけの動画だが、これはきっとハロウィン当日の私の大学はすごい人ごみになるに違いない。しかし、これは逆に捕まえるチャンスでもある。
たくさんの人が集まれば、多少可笑しなことが起こっても大丈夫な気がする。伴坂もそう思っていたようで、この日に逮捕しようということになった。
「動画見たけど、まさか死神がうちの大学に来るなんて、迷惑な話だよねえ。」
「まあ、それで本物の死神に出会えるならラッキーかもしれないよ。」
「その日はきっと大学も休みになりそうだよな。」
動画が投稿された次の日の大学では死神の話で持ち切りだった。10月31日は平日であり、もちろん大学の授業は普通に行われる予定になっていたが、この動画を受けて、急きょ、その日は休講となった。そして警備を厳重にして、なるべく人が大学内に入れないような状況を作るようだとニュースで報道されていた。
「死神さんもせめてきてるわねえ。」
「攻めてきてるのはわかりますが、これはチャンスですから、絶対に彼らを捕まえなければなりません。」
「死神を捕まえるというのは本当ですか。」
昼休みに食堂でジャスミンと昼食をとっている最中のことだ。私とジャスミンが死神についての会話をしていると突然話しかけられた。声の主はなんと、綾崎さんだった。
「また、私たちに文句があるの。私たちは別にあんたの邪魔なんかしていないけど、それにここは昼食をとるための場所であり、あんたの私有地じゃないんだからね。」
ジャスミンは先日のやり取りがよほど不満だったようで、綾崎さんに食って掛かっている。そんな様子を気にすることなく、綾崎さんは私に話し出す。
「本当に噂の死神を捕まえるというなら、私が協力できると思います。」
何やら必死の様子の綾崎さんに私は詳しく話を聞くことにした。
「すいません、いきなり話に割り込んでしまって。つい死神の話を聞くと、興奮してしまいまして……。」
「別にそれは構いませんが、何か死神の犯人に心当たりがあるのですか。」
「はい。実は、こんなことを言っても信じてもらえないかもしれませんが、私には兄が一人いるのですが……。」
綾崎さんが話してくれたのは驚きの情報だった。どうやら先日出会った二人組の一人が綾崎さんのお兄さんだというのだ。確かに、金髪のイケメンは綾崎と呼ばれていた気がする。お兄さんの特徴を聞くと、二人組のうちの金髪のイケメンと特徴が一致した。
話を聞いて、綾崎さんの顔をよく観察する。しかし、綾崎さんとそのお兄さんだというイケメンは似ていなかった。兄妹と言われてもすぐには信じ難いことだった。ジャスミンもそのように思ったのだろう。
「私もその金髪のイケメンに会ったことがあるけど、あんたとは似てなかったわよ。確かに綾崎とは呼ばれていたとは思うけど、苗字が同じだけの別人じゃない。」
「そんなことはありません。確かにあなたがたが出会ったのは私の兄です。実は私と兄は血がつながっていないのです。親の再婚で兄妹になったので、似ていなくて当然です。」
その後も綾崎さんの話を聞いていくと、いろいろ死神についての情報を知ることができた。しかし、綾崎さんは自分の兄が能力者だということは知らないらしい。ただ、最近夜によく出かけている兄を不審に思っていたようだ。
ある日、いつものように兄が深夜に出かけるのを見て、彼女は後をつけることにした。そして、現場を目撃してしまった。兄は黒マントを被り、もう一人の男と同じ服装をしていた。
物陰からそっと様子をうかがっていると、兄たちの前に人が通りかかった。兄たちはその通りかかった人に話しかけていた。彼女は彼らから少し離れたところにいたので、話の内容は良く聞き取れなかったのだが、そのまま様子をうかがっていたようだ。
兄は突然、その人に近づき何かをしていた。遠くて何をしているのかわからなかったのだが、兄がその人から離れると、その人はその場に崩れ落ちるように倒れるのが見えた。そして、兄ともう一人の男は突然笑い出した。さも楽しそうに愉快そうに笑い声が深夜の町に響き渡った。
綾崎さんは怖くなってその場から逃げるように立ち去ったようだ。そして、翌日にその人が死神に会ったというニュースを知った。これは偶然ではないと判断した綾崎さんは兄に事実を聞き出そうとした。
しかし、兄はまさか自分の妹に犯行を見られていたとは思っていなかったのだろう。深夜に出かけていたことは認めたが、何をしていたかまでは詳しく話してくれなった。
「お願いします。兄がこれ以上、世間に迷惑をかける前に捕まえたいの。本当に死神を捕まえたいというなら、私も協力します。」
話を終えた綾崎さんは再度私たちに頼んできた。協力してくれるのはありがたいが、彼らは死神と能力者であり、普通の人間を捕まえるのとはわけが違う。話を聞く限り、綾崎さんは能力者ではないし、能力者の存在を知らないようだ。ここで、協力してもらっても役に立つとは思えない。
話をしてくれただけでも死神についての情報を知ることができたのでそれでよしとしようと思った。
「もし死神の一人があなたの兄なら、ぜひ協力してもらおうかしら。とはいっても、相手はすでに何人もの人間に危害を加えている凶悪犯。あなたみたいな普通の人間にそう簡単に捕まえられるとは思えないけどね。まあ、私と蒼紗にかかれば、犯人なんてすぐに捕まえられるから、あなたは捕まえた犯人である兄貴に何を聞きたいか考えるだけでいいわよ。」
ジャスミンはどうしても、綾崎さんにつっかりたいのだろうか。その言葉に綾崎さんもムキになって反論する。
「あなたには聞いていません。私は朔夜さんに聞いているのです。あなたみたいな阿呆な顔の人に頼んでも信用できません。それに今の言葉からは私を侮辱しているとしか思えませんが。普通の人間とはいったい何ですか。私もあなたたちも普通の人間でしょう。」
「この女ア。言わせておけば……。」
このままでは話が進みそうになかったので、話を進めることにした。
「二人とも、そんな低俗なことを話していても仕方ないでしょう。綾崎さん、ジャスミンはあなたのことを心配しての発言ですよ。被害者はすでに何人も出ているので、ここは私たちに任せておいてくれないでしょうか。詳しいことは言えませんが、私たちに任しておけば大丈夫だと思います。」
「そうですか。朔夜さんがそういうなら……。」
しぶしぶとだが、納得してくれたようだ。ものすごい不満顔だったのが気になったが、今は気にしないことにしよう。
「蒼紗の言葉は素直に聞くなんて……。こいつも私と一緒で蒼紗の魅力に取りつかれた一人ということか……。まったく蒼紗は油断も隙も無いんだから。」
ジャスミンが何か言っていたが、それは無視することにした。とりあえず、決戦はハロウィン当日ということだ。それまでにしっかりと逮捕の計画を立てなければならない。
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