二人組の正体

「今開けますので、ちょっと待ってください。」


 九尾が目で、出ろというのでモニター越しにそういうと、私は玄関に向かう。


「お邪魔します。」


 これまた面倒な客が来たものだ。九尾に視線を戻すと、彼は二人を連れて部屋から出ていった。どうやら誰が私の家に来たのかわかったようだ。


「面倒な客だということはお主もわかっているようだな。まあ、我がいたらさらに面倒なことになるだろうから、いったん退散するとしようかな。翼、狼貴、お主たちも我と一緒に来てもらうぞ。」


「わかっています。九尾様。」

「わかっている。」


 三人がいた場所から突然煙が上がり、思わず目をつむってしまう。目を開けるとすでにそこには三人の姿はなかった。ジャスミンはその様子を見て驚いていた。それもそのはずだ。いきなり三人が目の前からいなくなったのだから当然の反応である。


「蒼紗って、本当に奥が深いわねえ。こんな愉快な仲間と一緒に、よく今まで同じ家で暮らしていたわね。」


「なぜ、私の奥が深いということになるのですか。彼らは別に愉快では………。」


「どうでもいいけど、外のお客はいいのかしら。だいぶ待たせているみたいだけど。」


 私の反論を無視して、ジャスミンが客の対応をどうするか聞いてきた。まったく、本当に面倒なタイミングで私の家に来たものだ。今度は一体どんな用事で来たのだろうか。


「私は着替えてくるから、一人でお客の対応をすることね。」


 さすがにジャスミンも私のスウェット上下で人前に出るのには抵抗があるようだ。ジャスミンの服は昨日、洗濯して乾かしていたので、おそらく乾いているだろう。


 仕方ないので、一人で来客の対応をすることになった。


「お待たせしました。今日はどのような用件ですか。」


 再び、モニター越しのお客に声をかける。



 モニター越しのお客はスーツを着ていた。外見だけ見ると、営業か何かのセールスマンに見えるだろう。本当にそれならいいのだが。もしそうだったら、丁重にお断りするだけで事が済むが、あいにく今回の来客はそうはいかなかった。


 私の家に来たのは死神の伴坂だった。

 


 伴坂は先日と同様、スーツを着ていた。とりあえず、玄関前で話す程度の内容とは思えないので、しぶしぶ私の家に招き入れる。


「緊急事態です。彼はどうやらなりふり構わず人間を襲っているようです。」


「彼とはだれのことですか。もしかして、昨日の二人組ですか。」


 思わず質問すると、伴坂は昨日の二人組について説明してくれた。



「昨日の金髪ではない、後ろで指示を出していた彼が、私たちと同じ死神です。名前は遠坂心寧。彼は優秀な仕事のできる死神だった。それが豹変したのが、この春からです。そう、魂が捻じ曲げられた現場を見たときから彼は豹変してしまいました。」



 瀧、もとい九尾のせいでそいつがおかしくなったとでも言うのだろうか。玄関で話すほど軽い内容ではなさそうなので、リビングのソファに案内する。面倒くさいので、お茶は出さないことにした。そもそも、お茶を出す必要を感じない。


 伴坂はソファに腰かけると、話の続きを始めた。



「彼はそれからほどなくして仕事を放り出して、行方をくらましました。ようやく姿を現したかと思ったら、人間に干渉して事件を起こしている。彼がなぜ、こんなことをしているのかわかりませんが、これ以上手をこまねいているわけにはいきません。あなたにも彼を捕まえる手伝いをしてほしい。」


「それは話を最後まで聞いてからですね。話を続けてください。もう一人の男は何者ですか。」


 先日の二人組を捕まえることができれば、この町の死神騒動は収まるのだろうか。収まるならば、協力するものやぶさかではないが、現時点でそれを判断できるほど、あの二人組についての情報は持っていない。伴坂からの情報をもとに判断していくしかない状況だ。

 二人組の情報について詳しく聞き出すことにした。


 伴坂もなりふり構っていられなくなったのだろうか。すぐに質問に答えてくれた。

 

「わかりました。もう一人のあの金髪は人間です。あなたと同じ能力者に分類される人物です。彼の能力は吸血能力。とはいっても、血を吸うだけではなく、皮膚から相手の生気を奪うことができる能力です。生気を吸うことで相手の記憶を奪うこともできる。そして、その奪うことに快感を覚える悪質な能力です。」


 これはまた厄介な能力者である。しかし、この能力があれば、記憶も奪うこともできて、生気を奪うことができる。今回の事件の容疑者にふさわしい能力である。



「人間がなぜ、死神の指示に従っているのかはわかりませんが、彼がいるせいで被害者が出ていることは確かなので、彼にもそれ相応の罰を受けてもらわなければなりません。」


 こうして話は進み、今週の土曜日に今度は真夜中の学校に赴き、彼とともに待ち伏せすることに決まった。なんだか、伴坂の手のひらで踊らされているような気がした。しかし、それはなんとなくという感覚であり、革新ではなかったので、心の奥にしまっておくことにした。


 伴坂は話し終わると、さっさと私の家から出こうとした。突然来て、自分の話が終わるとさっさと帰っていく。こいつも自分勝手な奴である。



「そうそう。言い忘れていましたが、あなたについても死神として聞いておきたいことと、話したいことがあるのでどうか事件解決後も逃げずにそのままこの町にいてくださいね。まあ、逃げたとしてもすぐに捕まると思いますのであしからず。あなたは監視されているので、そのことを忘れないように。」


 去り際に物騒なことを言った伴坂に思わず反論してしまった。


「何度も言っていると思いますけど、私はただの能力者です。最近知りましたけど、能力者は結構いますよね。もしかして、能力者だと何かいけないことでもあるのでしょうか。それなら私だけでなく、他にも捕まえるべき人がたくさんいて大変だと思うのですが。」


「いえいえ。あなただからこそですよ。ただの能力者は別に我々にとって魂の器でしかない。死んでしまえば同じで少し変わった器というだけの話です。ただし、あなたは違う。自分でもわかっているのでしょう。だって、あなたはすでに他人の何倍もの年月を生きている。」

 

 私の反論にそう言い残して、伴坂は玄関から出ていった。私はというと、伴坂の最後の言葉の意味を考えていた。



「証拠は何も残していないはずなのになぜわかったのだろうか。」


 

 そう、私は大学生活をすでに一度体験している。それは遠い昔のことだが、今でもはっきりと覚えている。私が自分の中の特異体質について気づき始めた時期であった。




「話は終わったかしら。」


 伴坂の言葉について考えていると、ジャスミンの声が聞こえた。私と伴坂の話の邪魔をしないためか、話が終わるまで二階で待機していたようだ。昨日来ていた服に着替えていた。


「終わりましたけど、謎が深まるばかりです。」


 ジャスミンは私の言葉に首をかしげていた。九尾たちはその夜、家に帰ってこなかった。


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