帰還

「また、あなたですか。いったい、こんなところで何をしているのですか。全く、友達を連れてまでこんなところに来るなんて、被害者に同情はしますが、そこまでしなくてもいいのではないですか。自分たちも被害者になるかもしれないのにどうして、危険を冒してまでこんなことをするのですか。」


 死神の言う通り、伴坂が突然現れた。本当に死神というのは突然現れるようだ。今まで誰もいなかった空間に突如、煙が上がり、そこに伴坂がいたというわけだ。


 伴坂の登場に驚いたが、親切に質問に答えることにする。


「人間なんてそんなものですよ。まあ、危険を冒してまで犯人捜しをすることもたまにはあるということです。それに私とジャスミンは普通の人間ではないので、大丈夫だという自信はありましたけどね。まあ、人間のことなんて死神にとっては、死んだ後のことしか興味はないでしょうけど。他に話すことはないので、今日はもう家に帰ります。あと、一週間くらい、私の家には近づかないでくださいね。面倒くさくなりそうなので。」


「それは一体どういうこと………。」


 伴坂が何か言っていたが、私はジャスミンをおぶって、家に帰ることにした。気を失ったと思っていたジャスミンは、どうやら狸寝入りを決め込んでいるらしい。気を失っているはずなのに、私にしっかりとしがみついている。伴坂は私たちの後は追ってこなかった。



 家に着くと、どっと疲れが出て玄関に倒れこんでしまった。最近、家に帰るといつも疲れが一気に出て、玄関ですぐに倒れてしまいたくなる。今日は実際に倒れてしまった。ジャスミンはいつの間にか私の背中から降りていた。やっと、狸寝入りを辞めたらしい。


「蒼紗って、いろんな人と知り合いなのね。犯人のことも初めて会った雰囲気じゃなかったし、そのあと来た男とも知り合いみたいだし。」


「それは……。」


「まあ、いつも言っているけど、話したくないなら別にいいけど。でも、できれば話してほしいかなとは思うよ。田中の件もそうだけど、私も危うかったんだからね。」


「そういえば、ジャスミンは家に帰らなくていいですか。家がわからなかったので、そのまま私の家に連れてきてしまったのですが。」


 ジャスミンに話せるほど頭の中で今回の事件のことは整理ができておらず、話題を変えようと、今日はこの後どうするか尋ねる。


「別に蒼紗が帰れっていうなら、家に帰るけど。でも、蒼紗はそんなひどいことをいう人じゃないと信じてるからね。それに私はひとり暮らしだから、気にすることはないよ。」


 暗に今日は泊っていくといっているようだ。泊っていくのは構わないのだが、服は私のものを貸せばいいのだろうか。まあ、体型は私とそう変わらないので、問題はないだろう。


 そう思っていると、二階から懐かしい声が聞こえてきた。


「全く、どこをほっつき歩いてきたのだか。せっかく家に戻ってきたというのにお主がいなくて退屈だったわい。」


 九尾がやっと帰ってきたようだ。後ろには翼君と狼貴君もいた。みんな無事だったようだ。



 久しぶりに九尾や翼君と狼貴君の姿を見た。九尾に会ったら、今回の事件の原因はお前だだろう、私の平穏を脅かしやがってこのやろう、と一言言ってやりたかったのだが、実際に顔を見てしまうと、考えていた言葉は口から出てこなかった。代わりに出た言葉がこれだった。


「おかえり、九尾。翼君も狼貴もよく戻ってきたね。いつ戻ってくるのか心配していたんだよ。」


 まずは無事な姿が見ることができて安心した。ひとまず私に家に帰ってきたのだから、お帰りの挨拶は必要だろう。私は自分の言葉の言い訳を探していた。

 

 九尾は私たちの近くまでやってくると、クンクンとにおいをかいでいる。きっと今日私たちが誰に会ったかわかってしまう。


「ふむ。お主もまた死神に会っていたようだな。ちょうどいい。我も野暮用で死神たちと話していたから、我に主たちが出会った死神について話してもらおうか。とはいっても、今日はもう遅いから、風呂にでも入って休むがよい。」


 それには賛成だ。私とジャスミンは交代で風呂に入り、ジャスミンには私の部屋で一緒に寝てもらうことにした。ベットの隣に来客用の布団を引いて、寝る支度をする。

 

 私の家に帰ってきた九尾たちの話を聞きたかったのだが、今日も今日でいろいろなことがありすぎて疲れている。とても話を聞いていられるような精神状態ではない。彼らの話は明日以降に聞くことにした。


 

「蒼紗って、不思議よね。普通、あんなにやばそうなやつを自分のそばに置いておかないわよ。」


 布団に横になってもジャスミンはすぐには眠たくならなかったようで、私に話しかけてきた。


「ジャスミンには言われたくありません。確かに九尾たちは普通ではないですが、私自身が普通とは違うので別に気にならないから一緒にいたいと思うのです。」


「いつも、自分は普通じゃないというけど、それは能力者だからということでしょう。それなら私も能力者の一人だし、蒼紗と同じと言えると思うけど。でも、蒼紗は私が普通で、自分だけが普通じゃないみたいな言い方しているよね。それはどうしてなのかしら。」


 ジャスミンにしては深く突っ込んだ言い方をしてきた。確かに能力者という点でいえば、私とジャスミンは同じ類の人間だ。ただし、私にはジャスミンには隠している特異体質がある。それを言ってしまえば、いくらジャスミンでも離れていってしまうだろう。


「その話はやめましょう。お互いにいいことがない話題です。それに今日はもう遅いですから、寝てしまいましょう。九尾たちの話も聞きたいですし、何よりジャスミンには今日の出来事を詳しく聞きたいでしょう。明日にでも、詳しいことを話しますので、今日はしっかり休みましょう。」


 私は無理やりこの話題を変えることにした。ジャスミンは納得いかない顔をしながらも私の言うことに従うつもりのようだ。お休みといって布団をかぶりなおして私から顔を背けて寝てしまった。私もジャスミンに倣って布団をかぶりなおす。目をつむってしばらくすると、すぐに眠りに落ちていった。

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