黒マントの二人組

 いつものように大学に行き、授業を受けようと教室に向かおうとすると、これまたいつも通りにジャスミンに声をかけられた。


「おはよう。ねえ、今日の夜って蒼紗は時間採れるかしら。」


 挨拶するとすぐに夜の予定を聞かれた。今日は塾のバイトがあるわけでもないので特にないと答えた。すると、今度は何やら真剣な表情で問いかけてきた。


「田中がもとに戻ってきたんだけど、様子がおかしくて。記憶が徐々になくなっているようなの。日を追うごとに記憶が抜け落ちているみたいで、私、心配で心配で………。」


 話の途中で唐突に泣き出したジャスミンに私はどうしていいからわからなくなり、とりあえず、ジャスミンの背中を優しくさすり、ティッシュを渡した。それを受け取り、鼻をかんで、ジャスミンは話を続けた。


「ということで、田中をそんな風にした犯人をこの手で懲らしめようと思うの。だから、蒼紗も一緒に犯人逮捕に協力して欲しい。」


 田中さんを襲った犯人はおそらくあの二人に違いない。そういうことならと私はジャスミンの頼みを聞くことにした。


「わかりました。犯人のめどはついているので、私も協力しましょう。」



 

 真夜中の深夜に、私たちは田中さんが襲われたというコンビニ前で待ち合わせることにした。10月になってきて夜は少しずつ冷えだしている。コンビニ前に来たジャスミンにどうやって捕まえるのか、そもそも同じ場所に犯人は現れるのか、いろいろと質問した。


「たぶんこの場所には来ないと思うけど、次に来そうな場所は目星がついているから、今からそこに向かいましょう。」


 ジャスミンは片手に何やら物騒なものを持っていた。それだけ犯人を捕まえたいということなのだろう。それに相手は人間ではないのだ。要人に越したことはないだろう。



 私たちは場所を移すことにした。向かった場所は学校の前だった。以前に私が彼らと出会った学校とはまた別の学校である。


「なぜ、この場所に来ると思うのですか。」


 確か、彼らは学校を犯行現場にしていなかったはずだ。あの犯行予告の動画が初めてだったと思う。


「どうしても何も、ネットに今夜死神が来そうなのはここだと書き込まれていたのだもの。」


 第二の犯行予告が出ていたというのか。それにしても、なぜまた学校をしているのだろうか。何か理由がありそうだが、わざわざ場所を指定してくれるなら、こちらとしては助かるのでいいとしよう。


「それなら、他にも人が来てもよさそうですが、なぜ私たちしかいないのでしょうか。」


「そんなことないわよ。意外と人間の気配に鈍いのね。もうすでに死神にやられた被害者が私たちの周りをうろついているわよ。」


 ジャスミンの言う通り、周りを見回してみると、道の遠くの方に何か動いているような影が複数見えている。あれが今回の被害者ということなのだろうか。今回は被害者が出ているということか。


「やっと気づいたみたいだけど、これからどうする。」


「とりあえず、本物の犯人に話を聞きたいので、本物に会えるまでここで粘りたいと思います。」


 私の言葉にジャスミンはそうねと頷くと、私に木刀を渡してきた。物騒なものとは木刀のことだ。そんなものどこで手に入れたのか知らないが、ないよりましということか。しかし、これではジャスミンの分がないのではないか。そう思ってジャスミンを見るが、心配は無用のようだ。私と同じ木刀を構えていた。


 用意周到である。まさか、私の分まで用意してくれるとは思わなかった。これから何が起こるかわからないので、ありがたく受け取っておくことにしよう。


 先ほど遠くに見えていた複数の影がだんだんと私たちに近づいてくる。そういえば、死神にやられた被害者の大半は生気が抜けたようになってしまう。何とか自宅に戻り、普通の生活を送れているようだが、今回の被害者は何かが違う。明らかに私たちを見つけて、近づいてきている。


 私たちは近づいてくる人間に対抗しようと木刀を構える。私もジャスミンもいざとなったら能力を使えば簡単に彼らの動きを止めることができるが、念のための対策だ。



「おや、またあなたですか。よく会いますけど、もしかして、私たちのストーカーか何かですか。あいにく、私たちはそのような行為に慣れていないものでして、うっかりイラついて殺してしまいかねないので、ご容赦を。」


 やっと犯人のご登場だ。例のごとく、金髪のイケメンと後ろには死神の二人組で現れた。聞きたいことがたくさんあったので、さっさと捕まえてしまおう。


「聞きたいことがありそうな顔をしていますが、私もあなたには興味があります。しかし、そちらのお嬢さんには興味がありませんので、退場しもらいましょうか。綾崎、そちらのお嬢さんをやってしまいなさい。」



 男はそういうと、すぐに金髪の男がジャスミンに音もなく近寄る。あまりの速さにジャスミンも能力を使う暇がなかった。


 金髪のイケメンはジャスミンにいきなりキスをした。ものすごい勢いで生気を吸っているようだ。とっさに私は金髪の男からジャスミンを引きはがそうと持っていた木刀を男の背中に振りかざす。勢いよく振り下ろされた木刀は見事男の背中にヒットした。


 男はウっとうなると、ジャスミンから離れてその場にうずくまる。慌ててジャスミンの近くに駆け寄ると、ジャスミンはかろうじて意識はあるようで、焦点の合わない瞳で私を見る。


「私もどうやら被害者になってしまったみたい。でも、あんなイケメンにキスされたなら、それはそれで本望かもしれない。」


 どうでもいいことをつぶやいて気を失ってしまった。気を失っただけで息はしている。


「このアマー。綾崎さんに気に入られたからって調子に乗りやがって。」


 ジャスミンに気を取られていたら、先ほど殴った男がすでに起き上がって、血走った目で私をにらんでいる。今にも私に襲い掛かってきそうな気迫である。


「やめておけ。朔夜さんだっけ。あなたもあまり私たちをなめないでいただきたい。とりあえず、今回のことは許しますが、今度私たちに危害を加えたら、あなたの友達の命は保証しかねますよ。」


「わかりました。とりあえず、今日は彼女を家まで送っていくので、話は後日でもいいですか。どうせ、私のことは調査済みでしょうから、家にでも来てくれればいいですよ。大学もありますし、逃げるつもりはありませんから。」


 そうだ。このまま彼らと話し合ってもいいのだが、このままではジャスミンのことが心配で彼らの話が頭に入ってこないだろう。

 それが彼らにも伝わったのか、私の提案に彼らも賛成してくれた。


「まあ、いいでしょう。では後日、あなたの自宅を伺いましょう。ああ、それと、伴坂が来てしまったので、どのみち今日はここまでのようですし。」


 そう言い残して、彼らはまた突如煙に包まれて、その場から消えてしまった。残された私とジャスミンと被害者たちがその場に残っていた。被害者たちは今度は私たちを見ることなく、そのまま私たちを通り過ぎて、その場を離れていった。

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