車坂の言い分
いよいよ明日、車坂の話を聞くことができる。先に伴坂の話を聞くことになったが、車坂からも何かしらの新しい情報は手に入るだろう。別に楽しいことはないのだが、土曜日が待ち遠しかった。
それにしても、車坂は私に正体がばれて、どのように弁解するつもりなのだろうか。今更、車坂が死神だろうが何だろうか実はあまり気にはしていない。殺人犯と一緒にバイトをしていたこともあるので、もう大抵の人には驚かないつもりだ。
車坂も伴坂の言う通りだとするならば、九尾が原因の瀧の事件を調査するためにこの町に来ているということになる。さて、車坂はどんな説明をしてくれるのだろうか。
「今日の蒼紗はなんだかテンションが高いわね。」
大学で車坂のことを考えていると、テンションが高いとジャスミンに指摘されてしまった。ジャスミンに、本物の死神に会ったことを話してもよいものだろうか。
しばし考えたが、話すのはやめておくことにした。ジャスミンの性格上、私もその死神とやらと会って、話をしてみたいというに違いない。面倒くさくなること間違いないので、今回の事件が解決したらすべての真相を話すことにしよう。
「別に何もありません。いつも通りだと思いますが。」
「そうかしら。まあ、蒼紗がそう言うんだから信じることにするけど。」
「そんなところで話さないでください。邪魔なのでどいてください。」
私たちが大学の廊下で話していると、小さいぼそっとした声で話しかけられた。そこにいたのは先日、「妖怪歴史入門」の授業で発言していた学生だった。今日も、長い黒髪をおさげにしていた。別に廊下の真ん中で話しているわけでもないので邪魔にはならないと思うが、一応謝っておく。
「すいません。これからは気をつけます。」
「何言っているの、蒼紗。その子が勝手に私たちの前を通ろうとしたからでしょう。私たちは悪くない………。」
私はあわててジャスミンの口をふさいだ。そんなことを言って彼女を怒らせても仕方がない。そおっと彼女の顔を見ると、あきれ顔で私たちをにらんでいた。
「派手な格好をしていてあほ面さらしているなとは思っていましたが、頭も同じくらいだとは思いませんでした。」
そういって、彼女はそのまま教室に入ってしまった。何が言いたかったのだろうか。私の周りは変な人が集まってくる。そのような星回りなのか一度占ってもらった方がいいかもしれない。
派手と言われた格好だが、今日は無難に白いワンピースに羽を生やした妖精の姿でそんなに派手ではないように思えるのだが。ジャスミンのことを派手といったのだろう。黄色と黒の縞々のセーターにこれまた私と同じ背中から羽を生やしている。どうやらミツバチをイメージしているようだが、私には猛毒を持つスズメバチにしか見えない。本当に体内に猛毒を持っているので、あながち間違ってはいないだろう。
「ふん、生意気な。ちょっと私たちより成績が優秀だからといって威張りすぎよね。同じ学部なのだからレベルは同じなのに。」
その言い方からすると、私たちと同じ学部の学生ということになる。ジャスミンは彼女が誰か分かるようだが、私にはさっぱりわからない。
「誰ですか。さっきの学生は。先日の妖怪歴史入門の授業で発表していた子だということはわかりますが、同じ学部の生徒だったのですか。」
「同じ学部の生徒も覚えていないなんで、どれだけ名前覚えるの苦手なんだか、他人に興味がないんだか。あの子は私たちと同じ学部の綾崎麗菜よ。先生ならまだしも、同じ学科の子も覚えていないなんて驚きだわ。」
話しながら、私たちも教室に急ぎ、綾崎麗菜と呼ばれた学生と一緒の授業を受けるのだった。
土曜日になった。九尾はいまだに家に戻っていない。翼君や狼貴君も同様である。話したいことがたくさんあるのだが、いったいいつになったら戻るのだろうか。
話は昼食をとりながらすることになった。午前中は塾のバイトをしていたので、ゆっくりと話す時間はなかった。私に正体をばれているというのに、車坂はいつも通りだった。いつも通りに塾の仕事をこなしていた。
最近よく来るファミレスで昼食をとろうということになった。車坂は少し用事があるようで、私がファミレスに入り席について待っているようにと言われた。先に待っていると、ほどなくして車坂が入ってきた。
車坂が席に着いたところで、私たちは食べたいメニューを注文した。車坂も当然のようにメニューを見て、食べたいものを注文していた。死神は食べ物を食べる必要があるのだろうか。しかし、九尾でも食べ物を食べていたのだから、死神が食べていてもおかしくはないのか。
それにしても、次から次へと疑問がわいてくる。どこから質問しようか悩むほどだ。とはいえ、どうでもいいことを聞いて、大切なことを聞き忘れてはせっかくこの場を設けてくれた車坂に申し訳がない。
私はオムライス定食、二人はとんかつ定食を頼んでいた。注文した料理が来るまでの間、車坂は私に質問した。まるで昨日のことがなかったかのように普通にふるまっていた。
「あなたは自分が何者なのか自覚していますか。」
「朔夜さんは自分の家に何を居候させているのかわかっていますか。」
立て続けに質問されて、それぞれの質問にどう回答しようか悩んでいるうちに料理が運ばれてきた。温かいうちに食べてしまいたいが先に質問に答えることにしよう。
「私は自分のことはただの能力者だと思っています。あと、うちには居候がいますが、別に誰を居候させていてもあなたに関係はないと思いますが。居候については話す必要を感じません。」
「何を言っているのですか。あなたが家に置いているのは……。」
「私のことは今はどうでもいいことです。それより、先に料理を食べてしまいましょう。冷めてしまってはおいしさが半減してしまいますので。」
車坂先生の言葉を遮り、私は料理を食べるように促す。いただきますといって料理を食べ始めた。車坂も私にならい、黙って食べ始めた。
はたから見ると、私たちはどのような関係に見えているのだろうか。まあ、いまさら誰に見られて困るようなことでもない。その点については気にしないことにした。
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