突然の来訪②

 伴坂は、休むことなく話を続けた。話はまだまだ続きそうである。


「実は、今年の春ごろに魂の悪用が問題になりました。魂が何者かによって捻じ曲げられ、不当に世に残っているという報告が上がりました。その報告があった場所がこの町というわけです。」


 ちらりと私の方を見る伴坂。心当たりがありすぎる私はその視線に対して苦笑いを返した。それはきっと瀧が起こした事件のことを言っているのだろう。やはり私の予感は的中した。


「それらの魂は、本来なら無理な姿でこの世にとどめられているのですから、暴走してもおかしくはありません。しかし、そうなる前にこれまた何者かによって浄化された。」


 寺での謎の火事を言っているのだろうか。しかし、翼君や狼貴君は九尾によって浄化されていない。むしろ、二人は九尾についていく形で一緒にいる。九尾によって殺されたが、九尾によって、幽霊のまま生かされている。そもそも、本当に幽霊は暴走して、人間に危害を加えることがあるのだろうか。


 私が何か考えていることを察したのか、一度話を止めた伴坂だった。そこで、私は質問をすることにした。


「疑問なんですけど、その幽霊たちは本当に暴走したのでしょうか。暴走したら、具体的にどんな被害が出るのか聞きたいのですが。」


「遅かれ早かれ、暴走していたはずです。先ほども言っていたように無理な形でこの世にとどめられた魂なので、放っておいたら危険だったはずです。幽霊は悪霊となり、最悪の場合、その場の空気をよどめてしまい、人々に災厄を振りまく可能性もあります。それによって、事故が起きたり、病気にかかり、死に至らせることもあるのですよ。それくらい危険な行為をしている者がいたのです。」


 ただし、実際にはそんなことは起きなかった。九尾はそれがわかっていて、魂を浄化の炎で燃やしてしまったのだろうか。それとも、死神たちが来るのを恐れて証拠隠滅を図ったのか。どちらの理由もあり得るが、後者の方が理由としては大きい気がする。

 証拠隠滅を図ったが、それでも、こうして死神に目をつけられている時点で、隠しきれていないのだが。


「浄化した何者が魂の暴走を止めようとして行ったのであれば、特に問題はありません。とはいえ、普通の人間にそんなことができるはずがない。私たちと同じ死神がやったことであるならば誰がやったのか、それ以外がやっていたなら正体を突き止めて捕まえることに決めました。」


 ここで伴坂はため息をついた。


「しかし、いくら調査しても犯人は見つけることができなかった。」


 事件についてはばれてしまったが、犯人の特定まではまだできていないということか。九尾はもしや彼らに捕まることが嫌だったから私の家から出ていったのではないか。そう思うと、九尾の行動に納得がいく。

 もし、九尾が死神たちに捕まってしまったらどうなるのだろうか。そんな疑問を持ちながらも伴坂の話を聞いていく。



「調べてもわからないことは仕方がない。ここは原点に戻って事件が起きた街そのものを再調査することになりました。調査には数人の死神が選ばれました。選ばれた私たちは人間の生活に溶け込み、情報を集めていきました。そして、あなたのもとにたどりついた。」


「私が犯人だとでもいうのですか。それなら違いますよ。私はただの人間で人より少しだけ特殊な力を持った人間ですよ。」


 犯人は九尾で間違いがない。私はただその事件に巻き込まれただけであり、事件には全く関与していない。たまたま西園寺さんと知りあい、たまたま西園寺家の守護神が西園寺さんを殺そうと画策していて、たまたま塾の上司がその犠牲になっていた。


 すべてが全くの偶然だったのだ。とはいえ、事件後に九尾や翼君たちを家に置いているのはまずかったのかもしれない。そのことがばれれば、共犯者として捕まる可能性もある。


「あなたが犯人ではないことはわかっています。ただし、あなたは人間かもしれませんが、特殊な方ですから、それについては後ほどまた話を伺いましょう。犯人について、あなたはすでに知っているでしょう。だって、半年もの間、家で匿っていたのですから。」


 だんだん話が物騒になってきた。犯人はわからないといっていたのに、現場調査しただけで、犯人を特定できてしまったということか。だからこそ、こうして私の家を訪れて、九尾を差し出せということか。あいにく、九尾は私の家に戻ってきていない。私は寂しい思いをしたが、いなくてよかったかもしれない。


 さて、こうなったら私が知っている瀧についての事件を私の知り得る限りぶちまけてしまった方がいいのか。そうすることで、私が瀧の事件の共犯者でないことを証明できるだろう。



「犯人は誰かすでに検討がついているということですね。だからこそ、今私の家を訪ねてきた。そうでしょう。仕方ありません。この町で起きていた幽霊に関する事件で知っていることを話しましょう。」


 私が覚悟を決めて発した言葉に伴坂はあっさりと切り捨てた。


「別にそんなことは今は関係ありません。それに事件の真相もこちらで把握済みです。」



 ふと窓の外を見ると、意外と熱心に話し込んでいたようだ。確か、伴坂はお昼過ぎに来たような気がする。しかし、外の景色は日が沈み、薄暗くなっていた。このまま話を続けても私は問題ないが、彼はどうなのだろうか。もし話し続けるというならば、夕食は準備した方がよいか。話を聞いているだけなのに、お腹が減ってきた。


 私が外を見て考えているのを眺めていた伴坂が提案してきた。


「外を見ているようですが、暗くなってきましたね。秋の日はつるべ落としがごとしといいますからね。これからさらに日が沈むのが早くなりそうですね。ということで、今日はこの辺にしておきましょうか。今現在起きている事件についてはまた後日にしましょう。今日の話だけでも結構理解するのが大変でしょうから。」


 

 今日はどうやら話は終わりのようだ。いったいどこに帰るのかわからないが、玄関まで見送る。その際に不吉なことを伴坂にささやかれた。


「幽霊事件の犯人は特定できていて、あなたが犯人を匿っていたことは調査済みです。隠ぺいしていたと捉えて、あなたを捕まえて処罰することも可能です。そして、さらには捻じ曲げられた幽霊もかくまっていると来ている。すでにあなたは私たちの監視対象となっていることを忘れないようにしてください。」


「それならなぜ、今すぐ捕まえて罰しないのですか。もしかしたら私はこれからもあなたたち死神の迷惑になるようなことをするかもしれない危険人物かもしれませんよ。」


「あなたにはやってもらいたいことがあるのですよ。先日見たでしょう。あの厄介な死神を捕まえるのに我々は成功していない。このままではさらに犠牲者が増えてしまう。そこでおとりが必要だ。そのおとりにあなたがなってもらいたいということです。それにあなたは気づいていないようですが、あなたのその特異体質は貴重なサンプルなんですよ。ぜひあなた自身のこともどこかでしっかりと聞きたいですね。」


「なんだって私がまた……。」


 私の言葉を最後まで聞かずに伴坂は玄関から出て行ってしまった。慌てて追いかけようと玄関を出ると、すでに姿は見当たらず、ただ薄暗い道が続いているだけであった。



 話を聞くだけだったが、意外に集中力を使っていたようだ。自分の部屋に戻ると、どっと疲れが押し寄せてきた。

 そういえば、死神についての話は聞くことができたが、肝心の今起きている事件については聞くことができなかった。そのことを聞きたかったのに、それ以外のことで話が終わってしまった。

 


 まさか、瀧の事件が死神たちをこの町に引き寄せる原因になっていたとは知らなかった。とはいえ、死神たちの言い分によると、死神は人間に危害を加えることはしないといっている。それなのに事件が起きている。それを起こしているのは同じ死神といった発言をしていた。よくわからなくなってきた。考えてもわからないことだらけなので、今日はもう休むことにした。

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