突然の来訪①
深夜の学校を訪れてから数日が経ったころ、伴坂が私の家を訪ねてきた。それは突然のことだった。今日も九尾たちが帰ってきていないなと思って家で一人くつろいでいた時だった。ちなみに休日だったので、一日家でゴロゴロする予定だった。
「ピンポーン。」
インターホンが鳴ったので、モニターを確認すると、伴坂が映っていた。いったい何の用事だろうか。後日話をしたいといっていたが、まさか、こんな急に来るとは思ってもいなかった。そもそも、私の家をどうやって知ったのだろうか。急に伴坂のことが怖くなり始めたのだが、聞きたいこともあったので、返事をすることにした。
「朔夜ですけど、私に何の用事ですか。」
「話が早くて助かります。死神のことや今街で起こっている事件について知りたくはありませんか。」
単刀直入に伴坂は話の要件を伝えてきた。これは何か裏があるに違いない。
「知りたいとは思いますけど、それを教えて伴坂さんは何かメリットがあるのでしょうか。わざわざ私に話すということは、そういうことでしょう。」
「まあ、確かにただで情報を与えることはしません。しかし、私を助けることでこの町の事件を解決できるかもしれませんよ。」
「玄関前で話していてもなんですから、どうぞ中にお入りください。」
私は伴坂を自分の家に招き入れることにした。伴坂から話を聞くことでもう少しこの町で起こっている事件の内容を知ることができるだろう。それに伴坂が何かしようとしても、私には能力があるので、急に襲い掛かってきても身を守ることはできる。
伴坂を一階のリビングに案内して、一応、お客さんということなのでお茶を入れることにする。私と伴坂の分のお茶を入れて、テーブルの上に置いた。私も伴坂の向かいのソファに座った。
「まずは私たち死神について話していきましょう。」
私が席に着くなり、そう言って、伴坂は死神についての説明を始めた。
伴坂の話をまとめると、こういうことらしい。死神には人間の寿命が見えていて、死んだ人の魂が成仏していくのを見守ることが仕事のようだ。普通人間や他の生物は死ぬと自然に体から魂が抜けて、魂は天に還る。死んだ人の魂が無事に天に還ったかどうか最後まで見届けることこそが死神の大事な仕事らしい。
とはいえ、すべての魂がすんなりと天に還るというわけではない。未練があり、この世に残りたがる魂もいる。その場合は、その人のそれまでの人生を見て、すぐに未練が断ち切れそうならそのまま幽霊として残っていても放置しておく。
未練たらたらでどうあがいても未練を捨てきれない魂も存在する。その場合は暴走する前に魂を浄化していいことになっている。暴走すると、生きている人間に影響を及ぼしかねないからだ
その時に使われる道具こそが大鎌である。死神に大鎌はセットで語られることが多いのは、実際に鎌を見た人間がいるからという説があるようだ。
死神の姿は基本的に幽霊と同じで人に見えることはめったにないようだが、例外もあるらしい。人間界で視察を行う場合にのみ、人間に溶け込むために普通の人にも見えるようにできるらしい。
それ以外の場合は人に見えることはないが、たまに霊感が強い人物に見られることがあるため、昔話や小説でそれが描かれているという。
「そういえば、死神に黒猫はセットで物語に登場することが多いですけど、それには何か理由があるのですか。」
伴坂が話してくれた死神に関する内容は九尾が話していたこととほとんど同じだった。その中でふと気になったことを伴坂に質問してみた。とはいっても、その理由はうすうすわかっているのだが。
おそらく、死神は猫の姿に化けることができるのだろう。先日、車坂が猫に化けていたことを思い出す。
「確かにそうですねえ。それはきっと私たちが猫に化けることができるからだと思います。猫に化けるのはそれが仕事をするうえで都合がいいからです。猫の姿をしていれば、どこで何をしていようが、特にとがめられることはありません。猫の姿の時は人間に特に姿を隠す必要もないので普通の人にも見えています。」
伴坂は私の質問の他にも、さらに補足で猫と死神の関係について教えてくれた。昔話や創作には死神は黒猫を連れているという言い伝えがある。それは死神が猫に化けていて、たまたま人間の姿を見られたようだ。その人が死神が猫に化けていた時の様子を見てしまい、それが後世に伝えられらしい、ということだった。
ちなみに普段の死神には通常、猫耳、尻尾が生えているようだ。これも九尾に聞いて知っていたが、目の前にいる伴坂を見たところ、猫耳も尻尾も生えていないように見える。はたから見ると、普通の人間にしか見えない。意図的に隠しているのだろうか。
もしそうなら、ぜひ本来の姿を拝みたいものである。瀧の時に思ったが、どうやら私はケモミミフェチのようだ。人にケモミミが生えているのを見ると、興奮してしまう。
最後に、猫は九個の命を持っているとされているのは、死神が猫に化けているためだとも考えられているようだと説明してくれた。
「さて、私たち死神についての基本的なことは今話した内容なのですが、基本的に外界からの攻撃を受けても死ぬことはありません。人間でいう寿命というものは特に設定されていません。いわゆる不老不死ということになります。」
伴坂はどんどん話を進めていく。猫だの不老不死だの話を聞いていると、普通なら考えられないような信じられないことがたくさんあった。しかし、それでも彼らの話が嘘だとは思えない。私はそのまま話を促し、さらなる情報を手に入れようとした。
「私たちは人間や地球上の生物とはそもそも相いれない存在です。そのため、誰が誰を殺そうと人には一切干渉しないということになっています。しかし、今回、そんなことを言っていられないような状況が起こっていまして、だからこそ、私たちがこの町に視察に訪れているということです。」
「その言い方だと普段は私たち人間の住んでいる街に足を踏み入れないみたいに聞こえますけど。」
「その通りです。普段の我々はあくまで魂の成仏を見守ることが仕事であり、人間にかかわる必要はありません。基本的には人間には近寄らないことになっているのです。だからこそ、今回のことはイレギュラーな仕事ともいえます。」
なんとなく嫌な予感がした。魂と言えば、今年の春から夏にかけての瀧の事件を思い出す。あの時に起きたことが原因なのだろうか。
「ということで、ここからは私たちがなぜこの町に視察に来ているのかということを話していきたいと思います。」
どんどん新たなことが判明してくる。今はとにかくたくさんの情報を聞けるだけ聞いて、あとは後日ゆっくり自分の頭の中で整理して行動を起こすことにしよう。
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