真夜中の学校で

 私は学校の校門前にいた。スマホの時計を確認すると、午後十一時少し前だった。三つ子たちが言っていた死神に会える場所と時間帯である。日付をスマホで確認すると、ちょうど死神が犯行を予告した日だった。ここで待っていれば、本物か偽物かわからないが、とりあえず何者かには出会えるということだ。


 ジャスミンと一緒に九尾たちを探していて思ったことがある。彼らは今、この町にいるという死神が原因で私から離れているのではないか。だとすれば、早いところこの町で起こっている事件を解決すれば、私の家に帰ってくるのではないか。そのためには実際に私が噂の死神とやらに会ってみるのが一番だ。もし、人々の間で流行っている死神が偽物だとしても、被害者が出ているという時点で捕まえた方がいいことは確実である。


 ということで、私は現在、真夜中で大抵の人々が寝ている時間に学校の校門前にいるわけである。


 あたりを見回すが、私の他に人は誰もいない。時間も時間であるため、人がいるわけがないが、今日は動画で犯行予告がされていた日である。私以外にも人がいてもいいはずなのだが、今のところ見当たらない。ニュースでも犯行予告の動画は話題になっていた。


 それにしても、学校の前とはいかにも何かが出そうな場所である。これが学校内だったら確実に幽霊がたくさん潜んでいそうだ。


「やはり、犯行予告をするとお客さんが多くなりますねえ。」


 不意に声が聞こえた。慌ててあたりを見渡すがやはり私の周りには誰もいない。幻聴だったのだろうか。スマホで時刻を再度確認すると、ちょうど日付が変わる時刻になっていた。



「おやおや。今日はまた珍しいものが来たものだ。」


 先ほど聞こえた声がまたどこからか聞こえてきた。今度は声の発生源を見つけることができた。私の数メートル先に黒いマントで全身を覆った謎の人物が立っていた。声はそこから出ているようだ。


「あなたが噂の死神さんですか。ずいぶんと人気者のようですが、こんな時間に待ち伏せしていて何か面白いことはあるのでしょうか。」


 最近、黒いマント姿をしている人によく遭遇する気がする。とりあえず、噂の死神とやらに会えたので、今度はその正体を突き止めていこう。相手がもし本物の死神でもそうでない人ならざるものでも何でもいい。とりあえずこれ以上、この町におかしなことを起こさないようにきつく言っておかなければ気が済まない。私は平穏を愛している。それを壊そうとするのは許せない。


「確かに私が噂の死神でしょうね。なぜと言われれば、私の欲求を満たせるからやっているということでしょうか。あなたは今までの人間とは違いますね。おや、もしかしてあなたは……。」

 

 そういった黒マントの人物は私に一気に近づいてきた。数メートルは離れていたはずなのに一気に距離を縮められて、逃げる隙が無かった。



「そこまでです。」


 唐突に新たな第三者の声が聞こえた。その声に背後を振り向くと、そこには今までいなかった謎の男が立っていた。


「今日という今日こそ、逮捕させていただきます。」


「馬鹿ですねえ。私がそんなにやすやすと捕まえられると思っているのですか。毎度毎度懲りないですねえ。伴坂寧々尾さん。」


 二人は知り合いのようだった。伴坂と呼ばれた新たな男の名前は聞いたことがある。正確にはどこかで見た気がする。


 必死で記憶をさかのぼっていくと思い出した。突然塾に押しかけてきたこれまた謎の男だ。渡された名刺には確か「死神労働組合 魂見守り課 課長 伴坂寧々尾」と書かれていたはずだ。

 いったい、彼らは何者なのだろうか。本当に死神で間違いはないのか。疑問が頭に浮かんでくるが、今は質問できるような雰囲気ではない。


「ああ、やはり朔夜さんでしたか。ダメですよ。こんな深夜に女性が一人で出歩いていては。」


 どうして、私の名前を知っているのだろうか。名刺を渡された時には名前を伝えていなかったはずだ。


 突然の伴坂の登場で謎の男は私から離れていった。そういえば、私に急接近してきたこの謎の男も私のことを知っているようだった。私はそんなに有名人なのだろうか。


 

「全く、こんな真夜中に一人で何をしているのですか。おおかた、こいつに会うためにわざわざこの時間に出向いてきたというところでしょうけれど。」


 私を危機から救ってくれた伴坂という男が私の顔を見て話し出す。伴坂は名刺を渡してきた人同様に黒いスーツを着ていた。



「その顔は思い出してくれたようですね。そうです。あの時名刺を渡した伴坂と申します。私が助けに入らなければ、大変なことになっていましたよ。」


 大変なこととはいったいどんなことだろうか。田中さんたちのように生気を吸われてしまうところだったのだろうか。もしそうだとしたら、この機会に捕まえて被害がこれ以上増えないようにしなければならない。


「助けてくれてありがとうございました。」


 一応礼を言っておく。名刺に書いてあったが、伴坂という男は本物の死神なのだろうか。



「まったく、お前が出てきたおかげで興が冷めた。また会いましょうね、人間もどきさん。」


 黒マントの謎の男は突然、煙に包まれた。煙で視界がふさがり、煙がなくなるころには姿は見えなくなっていた。


「またか。」


 伴坂はがっくりとうなだれている。先ほどからの会話からどうやら伴坂は彼を追いかけていたようだ。彼には逃げられてしまったがちょうどよい機会だ。伴坂にはいろいろ聞きたいことがある。話を聞いてくれるだろうか。


「あなたが聞きたいことはわかります。しかし、今日はもう家に帰りなさい。話はまた後日にしましょう。」


 私の言いたいことがわかったようで、先回りして伴坂は私に質問をさせないようにして、彼もまた煙に包まれて消えてしまった。


「この状況をどう理解したらいいのだろうか。」


 その場に一人取り残された私はこの状況に戸惑っていた。しかし、話をしなくてよかったのかもしれない。いろいろなことがありすぎて頭がパンク状態だ。そんな状態でまともな話ができるはずもない。

 とはいえ、生気を吸われる被害者がまた出てしまう可能性が残っている。それだけは阻止したかったのだが、仕方がない。別に私は正義の味方ではない。本当は面倒くさいことに首を突っ込むような性格ではないのだ。被害者が出ないことを祈るしかない。

 

 私は一人、誰もいなくなった場所から家に帰った。しかし、人は私だけだったが、黒猫が一匹、塀の上でじっと私を観察していた。私がその場を去ると同時に黒猫もその場から離れていった。



 次の日、テレビのニュースを見ていると、死神に関することが報道されていた。気になるので見ていると、犯行予告に関するニュースを放送していた。どうやら、昨日の真夜中に学校を訪れた人は結構な人数がいたようだ。しかし、その中の誰一人として死神には会えなかったようだ。何人かにインタビューをしていたが、死神に出会えたと証言している人はいなかった。


 私は確かに犯行予告と同じ黒マントの男に出会ったのだが、どうして他の人は出会えなかったのだろうか。しかし、出会えなかったということは、死神の被害に遭った人はいなかったということだ。


 さて、これからどうしたらいいのだろうか。相談したくても、いまだに九尾たちは帰ってきていない。自分で考えて、何とかするしかないのだった。

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