いつもの日常
瀧の事件後の私の生活を一部紹介しよう。瀧の事件と呼んでいるのは、私が大学に入ってから起きた殺人事件のことである。その事件をきっかけに私は自分が能力者であることを自覚した。
瀧は自分の欲望のために人を殺し、魂を取り出し、その魂を捻じ曲げて子供の幽霊を作り出していた。その幽霊たちに勉強を教えることに快楽を見出していたようだ。その被害者の一人が私と一緒の大学に通う西園寺桜華だった。
事件は解決し、私は平穏な日常を取り戻した。平日は授業があるので、大学に行き授業を受けている。その後、バイトがある日はいったん家に帰り、その後バイト先である塾「CSS(Child Support System)」に向かう。
大学に着いたら、まずは更衣室で着替えを行う。瀧の事件で亡くなった、西園寺桜華を忘れないために、毎日コスプレをすることに決めている。今はネットで大抵の服はそろうので、いろいろな服を集めることができる。問題は金銭面であるが、別にお金に困っているわけではないので、着たい服をどんどん購入している。
今まで、うさ耳執事や囚人服、セーラー服や修道服などを着てきたが、その後もいろいろな服にチャレンジしてきた。チャイナ服やメイド服はもちろん、他にもナース服や袴や振袖も試してきた。大学卒業までは続けていきたいと思っている。
大学での友達についてだが、今のところ友達と呼べるような存在はいない。やはり、服装のせいなのだろうか。私に近づいてくる学生はあまりおらず、話しかけてくれる学生も服装についてのみであり、その後の会話が続かない。したがって、連絡を取り合うとか放課後や休日に遊ぶ約束を取り付けることができない。なんとも寂しい大学生活である。
それでも、誰もかれもが私を避けているわけではない。西園寺さんにあこがれていた佐藤という人物がいて、その人物が私に付きまとっている。どうやら、彼女の中で私は命を助けてくれた恩人ということになるらしい。たまたま彼女が危ないところに私が出くわし、それを助けてあげたというだけで、私としては助けたという感じではない。感謝される筋合いはないのである。
佐藤という人物だけが私に積極的に話しかけてくる。そして、私のコスプレにも付き合っている。私が次に何を着るのかを予測して合わせようとしてくる。おかげで今ではコスプレした痛い二人組として大学内の注目の的である。私に付きまとわないでくれと言っているのだが、全然聞く気がないらしく、仕方がないので放っておくことにしている。
大学での日常はこんな感じである。家に帰ると、三人の居候がいてにぎやかだ。一人目は神様である九尾。西園寺さんの家で守護神をしていたようだが、彼女が亡くなり、その任務から解放されて自由になったようだ。そして、なぜか私を気に入ったようで家に居座っている。狐の神様らしいが、本当の姿はまだ見たことがない。
九尾は普段は中学生くらいの少年の姿をしている。頭とお尻に狐の耳と尻尾が生えていることが普通の少年とは違う点だろう。たまに気まぐれで私について大学に来ることがあり、その時は青年の姿になることもある。この時は狐の耳も尻尾の生えていない。
あとの二人も人間ではない。元は人間だったのだが、今は幽霊と呼ばれる存在だ。瀧によって子供の幽霊にされてしまった。宇佐美翼と紅狼貴という名の少年である。二人とも中学生ぐらいの姿で、翼君にはウサギの耳と尻尾が、狼貴君には狼の耳と尻尾が生えている。彼らは生前能力者だったようで、その影響でケモミミ少年の姿となっているようだ。
今でこそ少年の姿をしているが、二人は生前は成人男性だった。瀧によって魂をゆがめられてしまい、子供の姿に姿を変えられてしまったのだ。
能力者というものがこの世に存在すると知ったのはつい最近のことである。普通の人にはない特殊能力を持った人間のことで、彼らには普通の人間にはない特徴がある。それがケモミミや尻尾、鬼の角といった容姿である。大抵、能力を発動するときにしか現れることがないので、普通の人間が能力者を判断することは難しい。
五感が異常に優れていることや、他人に化ける能力、水を操る能力、他人の能力を読み取る能力、相手を威嚇する能力など様々な能力があるようだ。
かくいう私も能力者のひとりである。言霊を操り相手を従わせる能力と、予知夢を見る能力である。私は能力を発動させてもケモミミや尻尾、角などが生えることはない。相手を従わせる際に瞳が金色に変わり、周囲も金色に光るぐらいである。
私に付きまとう佐藤という人物も実は能力者だ。彼女は威嚇の能力で相手をひるませることができる。そして彼女の血は猛毒であり、触れると危険なようだ。彼女は能力を発動させると瞳が爬虫類のように鋭くなり、身体にうろこのようなものが現れる。まるで蛇のようなので、九尾からは蛇女と呼ばれている。
次に私がしているバイトについて説明していこう。私は個人指導の塾講師のバイトをしている。訳あってこのバイト先は二つ目である。前のバイト先の塾「未来教育」は、そこの講師がロリコンの殺人犯だったため、やめることにした。それが瀧だが、彼が殺人者だということはばれておらず、彼は現在、行方不明扱いされているので、塾自体は通常通り営業している。そんな塾で働き続けるのは嫌だったので塾を変えることにした。
そして、今働いている塾が「CSS(Child Support System)」だ。ここも「未来教育」と同じような個人指導を売りにしている塾で働き方は同じだ。塾に来た生徒は塾で配布されるテキストを使って学習する。その際にわからないところを教えてあげるという仕事だ。そのほかにもノートの取り方や効率の良い学習方法などを教えている。学校の宿題を手伝うこともある。
週に3回、塾でのバイトが入っている。今回は塾の講師が問題を起こすということはないだろう。普通、バイト先に殺人者がいて、そのことを知らずに一緒にバイトをしていたという経験はないはずだ。私も二度とそんな経験はしたくない。
バイト先の上司にあたる講師は車坂音子という名の若い男性だった。瀧とは違ってあまり自信がないようで、いつもおどおどしている印象がある。まだこの塾で働きだして日が浅いようだが、一応正社員のようでバイトの講師のまとめ役を担っている。私の他にもバイトの講師はいるようだが、なかなかシフトが合わないのか、一緒に入ったことがない。
車坂は本当にいつもおどおどしているのでこっちが心配になってくるほどだった。面接のときは普通だと思っていたのだが、一緒に働いていると見えてくるものもあるということだ。
さて、こんな愉快な面々と無事平穏な大学生活を送れるかという無理な話である。しかし、できる限りのことをして平穏を守ろうと心に決めている。しかし、事件は私のすぐそばまで近づいてきているのだった。
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