第7話

「体重計に乗ってみろ」

 促されるままに乗ると、体重は70kgになっていた。猫背も気づいたら治っていた。

「見違えたな。まだ、死にたいか」

「もう死ぬのはこりごりです」

 僕は首を横に振った。

「じゃあ、学校に戻るか」

「え?」

「まだ怖いか?」

「少し」

「じゃあ、最後のトレーニング行ってみよう!」

 今泉さんは僕の手をとり、外へと連れ出した。


 連れてこられたのは、手近なコンビニだった。

「では、仕上げといきますか」

 パチンと、指を鳴らす。

そして、今泉さんは手近なヤンキーに声をかけた。

「おい、そこ邪魔だ。どけ」

 声をかけるというか、喧嘩を売った。

「あぁん?」

「なんだ、おっさん」

「助けてくれ、このままでは私はぼこぼこにされてしまうよ」

 今泉さんが泣きまねをする。

「てめぇも仲間か」

「いや、違う、その……」

「なんだ、この野郎」

 言葉が通じないときは暴力しかない。相手が暴力を振るってきたとき、どうするか。

 君の拳は、何のためにある?

 彼の言葉が脳裏をよぎる。

「ぐはっ」

 気づくと、僕は一人の男の腹に拳を放っていた。

「腕立てを途中から拳立てにした成果があったね。君の拳はそれなりに鋼だ。一般ヤンキーを潰すには十分な拳だ。さて、続きをどうぞ」

 勧められるままに、僕は拳を放つ。腰がひけたヤンキーを殴るのは簡単だった。

 人を殴るのは、思ったより簡単だった。僕は殴られたことはあったが、殴ったことはなかった。こんな感触だったのか。

「どうだい、意外に簡単だっただろう。人を殴り倒すのは。大丈夫、心配いらない。この程度で人間は死にはない――だから、君もこうして生きている」

 今泉さんは服を払いながら続ける。

「さて、君はまだ学校に戻るのが怖いかい?」

「いいえ。全然」

 僕は、学校へ行く準備をした。

 今日はよく眠れそうだ。

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