第5話

「も、もう無理」

 二セット目で体が悲鳴をあげていた。時刻は12時。昼ごはん、どうしようかと思い始めた。だが、体がきしみすぎて動けない。

「おいおい、もうへばったのか。でもまあ一日目だから当然か」

 気づくと今泉さんがいた。

「昼飯作るから、そのまま待っとけ」

 今泉さんは手早く料理を開始した。鶏肉メイン。オリーブオイル。野菜。そしてバケット。今泉さんはパン派らしい。

「それで、内容は理解してくれた」

「それなりには」

「それなりで十分。まずは30%でもいいから、手をつけることが大事だからね」

「それで、この生活をいつまで」

「一か月やってみて。午後からは勉強のほうも見てあげるから。とりあえず、センター試験で8割はとらせてあげるよ」

 どんと、問題集の山が積まれた。

「君に足りないのは圧倒的に努力だ。いや、君以外もそうだな。最近の若者は努力をしなさすぎる」

「それは今泉さんが賢いからですよ」

「それは違う。私も勉強はむちゃくちゃしたさ。金がないから、一冊の参考書を何度もやったさ。私にはそのやり方があってなかったがな」

 今泉さんは続ける。

「とりあえず、一週間はこのカリキュラムで様子をみていこう。合わなかったら別の案に移行する。まあ心配するな。一か月後、君は私にきっと感謝するはずだ」

 さらに続ける。

「保障はしない。世の中はギャンブルだからな。リスクとベットはしてもらう」

 今泉さんは僕の顔を見つめた

「少し、健康的な顔になったな。やはり運動はいい。筋トレは尚良い。頭空っぽでもできるからな、筋トレ。そして、やったぶんだけ確実に力はつく。筋肉は裏切らない最強の友だ」

「今泉さんもまっちょですもんね」

「そうだ。筋肉は大事だ。ある程度の筋肉があれば、最後の手段がとれる。暴力という名のな」

「やめてください、そんなこと」

「やめない。暴力が問題の解決方法の一つであることは覚えておけ。それは自然の摂理だ。無視をしてはいけないよ。話して分からないなら、武力を使うしかない。それに、お前が無抵抗でも相手が暴力をふるってきたらどうしようもない。そのとき、言葉や知恵は無駄だ。喧嘩するときに、法律は守ってくれるか。くれない。守るのは君の拳だ。拳はいつも君と隣にある。だから、鍛えておきなさい」

「わ、わかりました」

「じゃあ、お勉強の時間といこうか」

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