第2話

 連れてこられた場所は、普通の家だった。

「まぁまぁ、狭い部屋だけど座って」

 簡素な部屋。デスクが一つ。パソコンがデスクトップとノートが一台ずつ。キッチンもあった。

「とりあえず、これ書いて。あと、お腹すいてたらこれ食べて」

 ポッキーを出された。いちごポッキーである。

「今日は11月11日だからね。あ、まさか君の自殺日もそれに合わせた? そしたらごめんね。もし、まだ死にたかったら、来月まで待ってて」

 そう言いつつ、今泉さんは紙を一枚渡した。

 体重、身長、好きな事、部活……いろいろな項目が書かれていた。

「これは一体?」

「見たまんま。君のプロフィール用紙。私、君のこと何も知らないからさ。たまたま、散歩してたら君が飛び降りそうだったから声かけただけだし」

 偶然だったのか。

「書きにくいところはとばしていいよ。別に悪用するわけじゃないから、正直に書いてもらえると嬉しいかな」

「はい」

 とりあえず、嘘をつかずに記入した。

 用紙を渡す。

「ふむふむ、身長170cmで体重80kgか。見た目より太ってるのかな」

「ええ、まあ」

「気を悪くしたら謝るよ。もしかして、それでいじめられてたりして?」

「それも理由の一つですかね」

「おや、あたってしまったか。ごめんごめん、悪気はないんだ。これは私のキャラだから、聞き流しておくれ」

「へー、軟式テニス部なんだ。なるほどなるほど。ポジションは? 前衛?」

「後衛です」

「サーブ得意? 体力あるほう?」

「得意ではないです。体力は、そこそこあるほうです」

「はいはい、なるほどね。勉強は……センター試験で6割弱か。ダメダメだねー」

「すみません、僕、取り柄がないんですよ」

「いや、全然。謝る必要ないって。そういうところも、君が生きにくい原因かもね。大丈夫、君はそれなりにダメな人間だが、君より下等でかつくずな野郎なんて数えきれないほどいるから」

「それは……」

「目をつぶって自分の人生を振り返ってみるといい。こいつには確実に勝ってるな、って思えるやつは両手で足りないだろう。負け犬のなかの負け犬になる、なんてことは相当に難しいよ」

 確かにそうだった。今のクラスの中でも、僕より不遇な環境な人はいる。学年でも、何人もいる。

「そいつらだって、ちゃんと生きてるだろ。だから悲観することないって」

 それに、と今泉さんは続ける。

「君は一度死んだんだから大丈夫。他の連中にはないステータスを持ってる。これはある種のレアだぜ」

 サムズアップ。

「さっきも言ったらろ。異世界転生したノリでついてきてって。異世界にわざわざ転生しなくても、一か月で君にチートスキルを身につけさせてあげるから」

 ただし、と続ける。

「多少の苦痛と痛みは伴うけど、……そこは我慢してくれ。まあ、一回死んでるから、それくらい大丈夫でしょ」

「え?」

「とりあえず、今日はそこのベットで寝て。あ、その前に風呂入って歯磨きして寝て。おっと、君の親にはどう伝えておく?」

「僕のほうから連絡します」

 母親に、旅に出ます。とメールを打つ。元々心配しないから大丈夫とは思うが。

 そうして僕の命日は終わった。

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