第六話 『俺、タチムカウ』
天から降ってきた銀色の肌の巨人――
どう見ても地球産らしからぬ、あまりにも異質で正体不明の敵。
そんな相手に、いきなり正面からケンカを吹っかけるほど俺も軽率じゃない。
落っこちてきただけで街を破壊し、しかも当人は無傷という化け物だ。
ヤバすぎる相手だということは分かりきっている。
よく観察して能力を把握してからだ。
幸いなことに、銀色の巨人は俺たちに興味がないらしく、まっすぐユグドラシルに向かっている。
巨人の足元の地面が波打った。
ユグドラシルの根から数十本の蔓が一斉に伸び、巨人の身体に巻き付く。
さすが植物怪獣、あれしきのダメージじゃ死なないか。
あっという間に全身を覆われ、まるで繭のようになった――と思った直後、すべての蔓が同時に寸断された。
目の錯覚じゃない。
蔓は、物差しで正確に計ったように、水平に六等分の高さで切断されたのだ。
その蔓にしたところで、巨人の身体を包み込む卵のような形のバリアーの表面をなぞっていただけで、巨人の身体には触れてさえいなかった。
蔓を切断したカッターはバリアーの応用か?
なかなかの切れ味だ……しかも巨人は指一本動かした様子がない。
頭の中で考えるだけで操れるとすればガチで超能力じゃねえか。
やっぱりやだな-、こんなのと戦うの。
巨人がユグドラシルに気を取られている間に逃げられないものかな。
俺は飛竜に目を向けたが、翼の飛膜の傷は癒えていない。
ひっつき虫と、乳白色の液体による溶解ダメージだった。
これでは満足に飛べまい。
こいつの空中機動はかなりのトンデモ能力なのだが、それだって強力な風圧を味方にしてはじめて実力を発揮できる。
飛べない飛竜はただのデカいトカゲだ。
今はここから動かすわけにはいかないな。
こいつが元気なら俺も一緒に運んで逃げてくれるのに――なんて都合のいいことは考えていないぞ、断じて。
ん? 元気なら……?
もし万全の状態だったら、こいつはどうするだろう。
銀色の巨人に加勢してユグドラシルと戦う?
あるいはその逆か?
こいつなら両方いっぺんに敵に回しかねないが……だとしたら、もうしばらく大人しくしてくれていた方がいい。
本気の飛竜が相手じゃ俺は手も足も出ない。
カメだけに。
気心は許しても言葉が通じないのはやっぱり都合が悪いな。
……待てよ?
こいつが元気だった場合、真っ先に始末されるのは巨人でもユグドラシルでもなくて、この俺かもしれんぞ。
カマキリみたいに、生まれてくる子供の滋養にするために交尾した後に雄を殺して食べる本能があったりしたら……?
やだ……何それ超怖い。
何をどう想像したところで不安材料が増える一方なのは仕様ですか?
まあいい、飛竜のことはひとまず後回しだ。
今日という日を生き延びる方が先だからな。
巨人はさらに前進する。
地中から目のない蛇の形をした大型の触手が何本も現れ、カメレオンの舌を伸ばした。
トリモチのような舌先は、見えないバリアーに阻まれて巨人の身体には届かない。
舌が通じないと見るや、今度は牙を生やして噛みついた。
やはりバリアーに阻まれるが、蛇が次々と殺到すると、巨人は滑るように後退した。
バリアー自体に攻撃力はないのか?
それに浮いていると踏ん張りも利かず、押し返されるようだ。
踵の後ろの地面が大きく盛り上がる。
おっ、浮くのをやめた?
巨人は地面を踏みしめ、腰を落として猫背の姿勢になった。
両手を開いて前方に突き出す。
広げた掌は猿のように長く、指の数は六本。そのうち両端の二本が親指になっている。
掌の高さの空間に、光が屈折しているような奇妙な段差が生じていた。
地面と水平に一直線に走るその段差に触れると、蛇頭は一瞬で切断され、鋭利な断面から乳白色の汁を撒き散らす。
巨人に襲いかかった蛇頭は悉く両断されて地面に転がった。
あの『段差』はやはりバリアーの応用なのだろう。
全身を薄膜のように覆っているバリアーを束ねてカッターにしたのだ。
伸縮自在の提灯みたいなものをイメージすればいいだろうか。
細いリングが幾重にも重なって全身を包むバリアーを形成し、平常時は単なる防護膜として機能する。
しかしそのパワーを一枚に集中させることで、触れた物体を切断する刃と化す――そんな仕組みなのだろう。
攻防一体の超能力か……こいつはヤバすぎるぜ。
ガォォン!
いきなりの轟音とともに、真上から降ってきた一条の閃光が、巨人を撃った。
晴天なのに稲妻が!?
上空には何も見えない……ってわけでもなかった。
半透明の、柄のない蝙蝠傘のようなものが宙に浮かんでいる。
クラゲか?
それにしては、膜を支える傘の骨にあたる足にしっかりした肉が付いているというか……軟体動物の触腕っぽい。
いや、よく見りゃタコだぞ、こいつ。
傘の上に丸い頭と、宝石のような青い目がある。
傘の内側にある足の裏には吸盤の代わりにたくさんのトゲが生えていて、帯電しているのかスパークの火花がチラチラと光っていた。
半透明に見えていたのも身体の色を変えて空に溶け込んでいるためだ。
しかしさらによく観察すると、頭には一対のヒレがあり、膜を支える八本の他にも紐のように細長い二本の足らしき器官も備えている。
イカっぽい特徴もあるが……ひとまずこいつは『コウモリダコ』とでも名付けよう。
実際にそっくりな生物がいれば同じ和名が付いていそうだが。
コウモリダコの傘の内側に光の波紋が走り、八本足の先端から稲妻が落ちた。
空中で一本に束ねられた雷光が巨人を貫く。
効いている……のか?
巨人の足は止まっているが、痛がってもいないし苦しんでいる様子もない。
何をどう感じてるのかサッパリ分からんぞ、こいつ。
痺れて動けないんだと思いたいが……
ところでコウモリダコの方だが、こいつはいきなり現れたわけじゃない。
ユグドラシルのフェロモンに呼び寄せられた飛行型怪獣の内の一匹だ。
飛竜のナパームを食らって撃墜されたはずだが、ずいぶん元気そうじゃないか。
巨人が動き始めた。
三発目の落雷が襲うが、完全に無視だ。
やっぱり効いてないか。
稲妻は銀色の肌の表面を伝って地面に逃げてしまっているのだろう。
『モオォォォォォ――』
巨人の発した声じゃない。
牛のような鳴き声を発したのは、カメレオン型怪獣だった。
俺が食うはずだった花を横取りして毒にやられ、その後ハエトリグサに捕獲された、あのカメレオンだ。
そいつの背後に、パックリ割れたハエトリグサがあった。
成虫が抜け出した後のサナギの殻にも見える。
カメレオンのやつ……ピンピンしてやがる。
溶解液で溶かされて、ユグドラシルに養分として吸収されたんじゃなかったのか!?
現れたのはカメレオン一匹だけじゃない。。
捕食されたはずの怪獣たちが復活し、巨人の前に立ちはだかった。
俺が手裏剣を食らわせてやったハチノスだかスポンジだがよく分からないのもいる。
その数、実に十四――いや、空中にもコウモリダコを含めて三匹いる。
総勢十七匹の怪獣軍団だ。
生物としての種も違えば姿形もてんでバラバラだが、連中は申し合わせたように整然とした扇形の陣形を作っていた。
まるでユグドラシルを守るかのような――いや、まさにそのための布陣だろう。
しかし、どういうことだ?
俺と同じように本能的に巨人を『倒すべき敵』と認識したのか?
それとも……?
四発目の落雷が、戦闘開始の開始となった。
地上と空から、ほとんど同時に、投網のようなものが巨人に向かって飛んだ。
蜘蛛型怪獣が尻から放射した粘液の糸と、空飛ぶスパゲッティの塊が自ら切り離した身体の一部だ。
そのどちらも、巨人の身体には触れもしなかった。
巨人が右手を天にかざすと、頭上に波紋か等高線のような空間の段差が幾重にも重なり、虹色に輝く光輪が生まれる。
その光輪に触れた蜘蛛の糸とスパゲッティは粉微塵になって飛び散った。
ついでに落雷も防いでいる。
バリアーを集中させるとこうなるのか。
光のリングを戴く銀色の巨人――
こいつはいかんなあ……いかんよ、このビジュアルは。
どうしたって、容易に『天使』を連想させる。
ん?……ああ、そうか。
分かった。
分かっちゃったぞ。
こいつが味方につけているのは、自衛隊じゃなくて、さては米軍だな?
こんなのがいきなり現れたら『神の使い』だと思い込むに違いない。
『怪獣』は問答無用で攻撃しても、こいつは『天使』だから様子を見る――それくらいの贔屓はやりそうだ。
この俺が自衛隊から目の敵にされないようにどんだけ気を遣ってきたと思う!?
しかしあの輪っか……というかバリアー?
便利そうだよな。
巨人を食えばあの能力が手に入るかな?
胸の光ってるのがバリアー発生器官だとすれば――
……待て。
しばし待たれよ。
誰に対するセリフかって?
俺自身に、だ。
いま、ナチュラルに、怪獣的発想で、あの巨人を倒して食おうと考えてなかったか!?
これはマズい兆候だぞ……
この怪獣の身体に馴染みすぎたことで、人間性を喪失しつつあるんじゃないのか?
本能の赴くままに振る舞いすぎたせいか?
そのうち、頭で考えていることと無関係に身体が勝手に動くように……いや、そのうちどころか、すでにそうなりつつあるのかもしれん。
ヤバいぜ……
ヤバいという自覚がなくなったら終わりだ。
もしや他の怪獣たちも、同じような過程を経て人間性を失っていったのか?
俺がたまたま長持ちしているだけで、遅かれ早かれ皆そうなる運命なのか――?
カメレオンが口を開き、高速で舌を伸ばす。
蛇型触手の攻撃で通用しないことは分かっているはず――だが、それは捕獲のために粘着する舌ではなかった。
舌の先端が花の蕾のような形に膨らんでいて、巨人の目の前で破裂するように開いた。
キラキラと光る鱗粉のようなものが噴き出し、巨人の全身に浴びせらる。
直後――いかなる化学反応によるものか、爆発的な白煙が巨人を包み込む。
うおっ、さむっ!?
強烈な冷気が俺の足元まで押し寄せてきた。
白煙が消えると、巨人は一晩中吹雪に晒されたように白い霜の彫像と化していた。
こっ……凍った!?
カッチカチじゃねえかよ!
どういう仕組みかよく分からんがスゲェ!
見た目はただのデカいカメレオンだが、さすがは怪獣だ。
怪獣軍団の攻撃は終わらない。
今度は巨大なボールが三つ、猛然と転がってきて巨人にぶつかった。
たて続けに体当たり食らった巨人は、右手を頭上に挙げたまま人形のように倒れる。
ボール軍団は仰向けに倒れた巨人の上を何度も往復して念入りに轢くと、巨人を遠巻きに囲む位置で止まった。
回転運動が止まったことで、ようやくボールの正体が判明した。
三つのボールはそれぞれがまったく別種の怪獣だった。
一匹はアルマジロ型――なるほど納得だ。
もう一匹は……ダンゴムシか?
ダンゴムシといえば地味で引っ込み思案なイメージだが、こいつはどこか違った。
大きな黒い複眼はやけに眼つきが鋭く、面構えがカッコイイ。
触角は二対あり、足も太くてしっかりしている。
そうか、思い出したぞ……こいつ、アレだ。
深海に住んでるキング・オブ・フナムシみたいなやつだ。
鎧武者っぽい正式名称があったような気もするが、忘れた。
三匹目は……またあいつか!
俺の知識とボキャブラリーでは表現できない、丸くて穴ボコだらけのやつ。
あいつスポンジみたいなくせしやがって回転アタックなんてできたのか。
俺なんて丸いといってもせいぜいがとこ歪なタイヤ止まりだから、同じ回転アタックでもほぼ完全な球体に変形できるやつと比べると数段落ちる。
だが、攻撃力はどうだ?
巨人が芯まで凍っているなら衝撃で粉砕できるかもしれないが……
俺の懸念が的中したか、巨人の身体から再び白煙が上がった。
今度は冷気じゃない。
太陽のような熱気だ。
銀色の身体に走る模様が赤熱化し、全身を覆った霜が一気に水蒸気に変わっている。
蒸気の中からゆっくりと起き上がった巨人は――見たところ無傷だ。
ただちに再び丸まって戦闘態勢をとる三匹。
そのうちの一匹はもともと丸いからそのままだが。
回転アタックで巨人に体当たりしたアルマジロは、そのまま何の抵抗もなくすり抜けた――ように見えた。
……何だ?
何がどうなった!?
俺の位置からはほぼ真横からのアングルになっているが、何が起きたのか分からない。
巨人は片膝をつき、伸ばした右手を手刀にして振り下ろした姿勢だ。
その右手には虹色の光輪が輝いていた。
ちょうどフリスビーでも掴んでいるような感じだ。
……まさか?
巨人の背後二百メートルほど先で、アルマジロが真っ二つに割れて倒れた。
続いてフナムシの親玉と、謎の丸いやつが突撃する。
『おいバカやめろ』と言うヒマもなく――
案の定、二匹はアルマジロと同じ運命を辿った。
巨人の両手に生じた光輪によって無残にも両断され、盛大に中身をぶちまけることになったのだ。
あの光輪の前には怪獣の装甲なんぞ豆腐と同じらしい。
カメレオンが再び冷凍鱗粉を吐こうと大口を開く。
巨人はバネを縮めるように身体を折ると、前方に両腕を伸ばし、水泳の飛び込みの要領で跳んだ――いや、飛んだ。
地面と水平に飛翔した巨人は、そのままカメレオンの口の中に突入した。
巨人を丸呑みにしたカメレオンの身体が、尻尾の先までパンパンに膨れ上がったかと思うと、次の瞬間――内部から等間隔の輪切りに切断された。
鱗が、骨肉が、臓腑が、血煙とともに撒き散らされる。
生首が俺の目の前まで飛んできて、ぐしゃりと潰れた。
砕け散ったカメレオンがいた場所に立ち上がったのは、バリアーに包まれて返り血さえ浴びていない巨人だった。
巨人が首を巡らせ、青く発光するオパールのような目で怪獣たちを睥睨する。
四匹が斃され、残るは十三匹――
まだ十三匹もいる、とは思えない。
たったの十三匹だ。
何故?
銀色の巨人を怒らせちまったからだ。
怒り、という感情をこいつが持ち合わせているとすれば――だが。
とにかく行動のモードが防御から攻撃に切り替わったことは確かだ。
いざ攻勢に出た巨人を止められる怪獣が、果たしてこの中にいるだろうか。
この――〈天敵〉を前にして。
ああ……そうだ、こいつは〈天敵〉なのだ。
巨人に対してぴったりくる言葉にようやく思い至った。
初見で『敵』だと直感したが、それは人間的な価値観において邪悪であるとか、異質すぎて理解不能だとか、そういったあやふやな評価じゃない。
絶対的な死の運び手。
怪獣にとっての〈天敵〉――すなわち〈怪獣殺し〉。
この巨人は俺たちを狩るためにやって来たに違いない。
それが他の怪獣たちには分かっているのか!?
たぶん分かっていない。
それどころか、自分が何と戦っているのかさえ分かっていないのかもしれない。
巨人の攻撃が――否、殺戮が始まった。
迎え撃つ怪獣たちの超能力はことごとく巨人のバリアーに弾かれ、その皮膚は虹色の光輪で切り裂かれる。
分厚い装甲を身に纏った鎧竜でさえ、光輪に触れただけで真っ二つだ。
ガオォン!
またもや落雷が巨人に落ちる。
コウモリダコが雷撃を放ちながら急降下し、コウモリ傘にそっくりな膜の張った触手を広げて巨人を包み込んだ。
どうせ無理だろうな――と思う間もなく、八本の触手はブツ切りになって飛び散る。
通用するかどうかは考えりゃ分かるだろうに。
いや……考えてないか。
コウモリダコだけじゃない。
この怪獣軍団は連携しているようでしていない。
そんな高度な知能はなくて、ただ機械的に巨人に向かって行っているだけだ。
ロボットのように恐怖を感じている様子もなく、ただ黙々と死の壁に向かっていく。
目の前に転がるカメレオンの頭に、奇妙なものが生えていることに俺は気付いた。
カメレオンの眉間の皮膚を突き破って、植物の芽のようなものが出ている。
よく見ると、フジツボみたいな目玉の端から、緑の葉っぱのようなものが化粧の濃いニューハーフの付け睫毛よろしくはみ出していた。
まさか、こいつは……?
グロくて気持ち悪いのを我慢して、割れた頭蓋に手を突っ込んでこじ開ける――
不吉な予感が現実となって目の前に現れた。
眉間から生えている芽は、脳髄の奥にまで毛細血管のように根を張っていたのだ。
このカメレオン怪獣はユグドラシルに改造されている!
カメレオンだけでなく、ハエトリクザに捕らえられた怪獣は全員、体内に種を植え付けられて神経を支配されているのだろう。
やべえ……恐ろしすぎて吐きそう。
花を食べ損なったおかげで助かったが、危うく俺も同じ運命を辿るところだったぜ。
やっぱりユグドラシルもまた俺の敵だ。
敵というか、むしろ――
怪獣を支配できるという点でユグドラシルはまさしく〈怪獣王〉といえる。
それどころか、ことによると、ユグドラシルこそが俺たち怪獣を生み出した張本人かもしれない。
身長六十メートルクラスの巨大生物が生存するには相応の栄養が必要だが、ユグドラシルほどのスケールの植物ならそれを提供できるだろう。
だとすれば怪獣とユグドラシルは共生関係にある。
外敵に対してはこういう形で怪獣を護衛に仕立て上げて対処するわけだから、共生といってもユグドラシルの方が優位にあるが……この場合は主従関係と言うべきか?
俺の想像が正しければ、もはや〈王〉どころか〈怪獣神〉のクラスだ。
ユグドラシルが滅びれば、怪獣も共に滅び去る運命なのかもしれない。
どうする?
どうすればいい?
巨人に味方してユグドラシルを倒すか?
それともユグドラシル側につくか?
俺は飛竜を見た。
飛竜は傷を癒すためだろう、身体を動かさず、顔を上げて戦いの様子を注視している。
こいつが何を考えてユグドラシルにケンカを売ったのか、今なら理解できる。
ユグドラシルが怪獣から自由を奪う存在だからだ。
なら、そうか……そうだな。
俺たちは怪獣で、人間の心を持っている。
この身が怪獣だとしても、魂は自由を欲する。
怪獣たちが皆、元は人間だとすれば――俺は当然ながら人間の味方だ。
そのためには〈怪獣神〉を倒す。
しかるのちに〈怪獣殺し〉も倒す。
両方やらなきゃならねーのが辛いところだな。
こいつはハードなミッションになりそうだぜ。
俺は後ろ足で立ち上がり、周囲三百六十度を見回した。
視界は広いので首を九十度も動かせば事足りる。
探していたサバ頭はすぐに見つかった。
サバ頭は隅田川沿いの立派なビルを貫通し、先っちょを金色のヒトダマみたいなオブジェに突き刺して立っている。
あんなとこまですっ飛んでやがったか。
俺は四つん這いに戻り、巨人を視界の端に捉えつつ急いで回収に向かった。
ナパーム袋は飛竜にくれてやったから、今や必殺武器といえばアレしかない。
宇宙魔人と怪獣神に、たかがカメ一匹が刃物一本で挑もうというのも豪気な話だ。
一分とかからず辿り着き、柄をつかんでサバ頭を引っこ抜く。
サバ頭はとくに何も喋ってこない――ということは、つまり俺が正気である証拠だ。
こいつが神をも殺せる魔剣妖刀の類かどうかは試してみないと分からんが。
さて、問題はいかにして巨人と怪獣軍団の修羅場に割り込むか、だが――
俺は状況の変化に気付いた。
銀色の巨人と怪獣軍団の戦いは変わらず続いている。
変化しているのはユグドラシルだ。
第二展望台よりさらに上に、パイナップルに似た大きな実が成っている。
怪獣軍団に巨人を足止めさせておいて、その間に何かやろうってのか?
何となくだが……爆弾っぽいぞ、あの果実。
スカイツリーを正面に捉えてよく観察しようとしたその先――
べちゃあっ、と、何かが俺の頭の上に降ってきた。
極太のミミズで作ったナポリタンみたいなやつだ。
なっ……何じゃこりゃあ!?
ん? 見覚えがあるような……しかもついさっきだ。
ミミズみたいな触手に手足を絡め捕られ、俺の身体は宙吊りになった。
地面がぐんぐん遠ざかり、二百メートルくらいの高さに達したところで水平移動に移る。
頭上を仰ぎ見ると、俺を捕獲した者の正体が分かった。
スパゲッティが絡み合ったような外見をした空飛ぶ怪獣だ。
正体見たり、どころか……ハチノスと並んで得体の知れねーやつじゃねーか!
目も口も見当たらないところからしてミミズの群体なのか!?
ミミズの群体が宙に浮く原理を探る間もなく、触手の拘束が緩んだ。
当然ながら俺の身体は重力に引かれて落ちる。
おいマジかこのバカふざけんな。
首と手足を甲羅に引っ込めて衝撃に備える。
この命綱なしのバンジージャンプだけは何度経験しても慣れるもんじゃねーぜ。
身長の三~四倍だから、人間のスケールでいえば二階の屋根から落ちるようなもんか?
むふうっ!
背中から地面に落ちてバウンドし、表に返ると同時に手足を伸ばして踏ん張る。
甲羅から顔を出した俺は……固まった。
………………
…………
……さて、ここで諸君らにお知らせがある。
良い知らせと悪い知らせのふたつだ。
良い方は、鈍足のカメがどうやって修羅場に割り込むかという問題が解消されたこと。
悪い方は、それが全然俺の思ったタイミングじゃなかったってことだ。
うひ~……きっ……気まずい。
バッチリ目が合っちまったぜ。
誰って?
そりゃあもちろん――銀色の巨人と、だ。
スパゲッティモンスターの野郎、俺を巨人の目の前に落っことしやがった!
勝手にお前らの軍団に編入するんじゃねー!
クソッ、これはいかんぞ……いや、もうヤバいなんてレベルじゃねえ!
カメだから外面からじゃ分からんだろうが、俺の感覚じゃ顔面蒼白で全身から脂汗が噴き出してる。
次の瞬間にはバラバラに解体されているかもと思うと……
やられる前にやるしかないのか!?
さいわい、サバ頭は手の届く位置に突き立っている。
空中で手足を引っ込める際に、うっかり遠くに放り投げなかったからだ。
計算通り。
経験を積んだことで咄嗟に正しい判断ができたってことだな。
そうだ……落ち着け。
ゲロッちまいそうな最悪の気分でも耐えてみせろ。
この敵を前にして、パニックを起こしたところで寿命が縮むだけだ。
巨人は呆けたように棒立ちのまま、こっちを観察している。
俺は後ろ足で立ち上がり、サバ頭を左手に掴んだ。
それを頭上に振りかぶる。
巨人が反応した。
巨人の身体が水平に七分割されたように見える。
無色透明のバリアーが部分的に集束され、空間に断層ができているのだ。
リング状の断層は六枚。
これをさらに束ねて強化すると、虹色に輝く光輪になる。
その直前の状態だ。
このまま体当たりするだけでも、触れた怪獣の身体を切り裂くだけの強度がある。
体内から輪切りにされたカメレオン怪獣の二の舞だけは御免だ!
サバ頭を振り下ろす。
断層が巨人の頭上に集まり、虹色の光輪を生み出す。
俺は右の脇鰓から圧縮空気を噴射した。
真っ向から振り下ろす剣の軌道が右に逸れ、光輪には触れない。
半回転した俺は、一瞬、巨人に背を向ける形になる。
振り下ろしたサバ頭を、オールを漕ぐように逆手に持ち替え、切っ先を右脇の下から背後に突き出した。
そのまま、左足を軸にしてコンパスのように右回転する。
ズン!
手応え……あり。
首を巡らせ、背後の巨人を右目の視界に捉える。
サバ頭の切っ先は、バリアーの隙間を抜けて、巨人の右脇腹を抉っていた。
ブラボー!
ドンピシャだ。
バリアーが提灯のような構造になっていると分かった時から、刃を水平に寝かせればその隙間を突けるんじゃないかと想像していた。
真っ向唐竹割りに振り下ろすと見せかけたのは、バリアーを頭上に集中させ、身体の防御をスカスカにするためだ。
こいつはカメレオンの手柄だ。
空からの攻撃を頭上に傘状に集中させたバリアーで防いでいる時、地上からの冷凍鱗粉はバリアーを素通りして巨人を直撃した。
普通の状態なら鱗粉は卵形のバリアーの形に沿って防がれたはずだ。
一方向に集中させている時はそれ以外の部分のガードが甘くなっている――
それが『最強の盾』と『最強の矛』を兼ねると思われたバリアーの弱点だ。
……と、ドヤ顔で解説してみたものの、確信した勝利はすぐに不安で曇った。
巨人のやつがノーリアクションだからだ。
どでかい刃物が土手っ腹に突き刺さってるんですよ?
効いてる……よね?
斬れてる?
斬れてない?
どっち?
首をほとんど真後ろに向けて、サバ頭の切っ先が刺さっている箇所を観察する。
サバ頭は、確実に、巨人の右脇腹から鳩尾のあたりまで逆袈裟に抉っている。
だが、出血は確認できなかった。
銀色の皮膚が破れている様子がない。
皺が寄っているだけだ。
……ハハハ、そんなご冗談を。
まさかね。
まさか……刃の形に凹んだだけとか――ないよね?
ボンッ!
抉った凹みがゴムのように反発して押し返された。
俺はさっきとは逆に、左に半回転して巨人と向き直る。
反発の勢いでサバ頭は俺の手からすっ飛んでいった。
つまり?
要するに……丸腰です。
巨人が右腕を水平に振るった。
虹色の光輪がその腕に沿って滑り、俺の眼前に迫る。
視界が瞬時に暗転した。
目が潰れたわけじゃない。
首を甲羅に引っ込めたからだ。
躱せたか?
躱せていなければ即死だから気にすることもないか。
首を引っ込めたまま、前傾姿勢から圧縮空気の噴射を利用して体当たりする。
光輪に触れさえしなければ組み付いてもダメージは受けないはずだが、こっちにも攻撃の方法がない。
サバ頭で刺しても破れなかった皮膚が噛みついてどうなるもんでもあるまい。
文字通り歯が立たない。
それにバリアーを張り直されたらカメレオンと同じ末路だ。
故に、巨人を突き倒したらそのまま噴射を続行して緊急離脱だ。
圧縮空気の在庫はまだあ……
両脇鰓からの噴射で浮きかけた身体が、何かに引っかかって止まった。
首を出して状況を確認する。
野郎、両手で俺の甲羅を掴んでやがる!
噴射を逆に利用して持ち上げられ、バックドロップ気味に地面に叩き付けられた。
こいつ……プロレス技なんか使えたのか!?
人間じみた四肢を持ってはいても、人間的な技を使えるとは意外だ。
それともたまたまか。
いや、どうもでいいか。
俺を逃がさないつもりか!?
冗談じゃねえ!
尻尾で地面を叩き、反動で起き上がる。
巨人もほぼ同時に起き上がり、再び至近距離でお見合いする形になった。
あ――
これは。
これは、ヤバい。
これまでも十分ヤバかったが、今度はマジのやつだ。
こりゃ詰んでる。
チェックメイトだ。
俺の頭の中は真っ白だった。
パニックだからじゃなく、冷静に考えて、分かってしまったのだ。
ジタバタしても無駄だと。
ああ、これは死ぬな。
いや、死ぬね。
もう死んだわー。
他人事のように、そう思った。
巨人が右手を突き出すのを、何の感慨もなく、呆然と、ただ眺める。
貫き手ってやつか?
蜘蛛みたいに細長い指をまっすぐ揃えた手が、俺の胸板を貫いた。
あれ? 光輪は出してないのに?
素手でカメの腹甲をぶち抜くとかスゲーな――と思ったが、さにあらず。
すっかり忘れていたが、俺の胸にはデカい穴が開いている。
泡の接着剤で塞いであるが、あくまで応急処置だ。
外から見れば弱点が丸分かりだったわ。
いかにもここを攻撃してくださいねと言わんばかりの……
なはは。
いやーこりゃ参ったね。
巨人の右手はかさぶたみたいな接着剤の封を破り、肘まで突き刺さった。
腕が身体を貫通して背中から飛び出しそうな深さ。
ぬぐぐぐぐぐぐぐ……
身体の奥を掻き回されるってのは、どうもこうも……名状しがたい気持ち悪さだ。
ズボッと音をたてて、巨人の腕が引っこ抜かれた。
緑色の血にまみれたその手には、赤黒い物体が握りしめられている。
外気に触れたそれは、焼けた鉄のように鈍く発光している。
何だ、これは?
心臓……にしては鼓動を打っていない。
肝臓? 腎臓?
それとも……俺の魂的なやつか?
とにかく、致命的な何かを奪われたような気がする。
『ポメェ~……』
哀れっぽい悲鳴とともに、俺は仰向けにぶっ倒れた。
そのまま意識が遠のいて……
………………
…………
……いかないぞ?
例の妄想劇場が始まるタイミングのはずだが、ちっとも始まらねー。
気絶するか寝落ちしないと始まらないのか?
ダメージは十分だと思うんだが。
もう少し待ってみるか。
………………
…………
……
おい、どうした?
まさかネタ切れじゃあるまいな?
何でもいいから捻り出せよ。
楽しみにしてる読者だっているんだぞ?
………………
…………
……
どうやら俺の中のSF作家はスランプらしい。
まあなんだ、そういう日もあるさ。
それより気になってることがある。
銀色の巨人が、俺から奪った臓器をどうするかってことだ。
あいつも食うのか?
そもそも口があるようにすら見えなかったが。
薄目を開けて見上げると、巨人は右手に掴んだ臓器をしげしげと眺めている。
自分でもよく分からずに引っこ抜いたのか?
それにしても……ハラワタにしては妙に硬そうだ。
手で握っていても形が歪まない。
骨……それとも石か?
だいたい何で光って――
いるのか、と思ったその時、巨人の手の中で俺の臓器が燃え上がった。
マグネシウムに点火したような猛烈な燃焼反応?
いや、こいつは――爆発する!
ボゴォン!
轟音が大気を震わせ、爆炎が視界を真っ赤に染めた。
衝撃波と熱風が俺の身体を舐めて走り抜ける。
ふおおおおおおっ!
きたきたきたきたきたァァァ――――――ッ!!
この熱さ。
この鼻を突くきな臭さ。
こいつは間違いない。
ナパームの爆発と同じだ。
俺の体内から爆発物が?
ナパーム袋は飛竜に奪われたのに……何故だ!?
炎に炙られた瞼を開いて状況を確認する。
巨人は――無傷だった。
爆発の寸前、巨人が臓器をポイッと手放し、正面にバリアーを集中させる姿を見ていたので驚くには値しない。
バリアーで爆風を防いだものの、至近距離だったせいで圧力に押され、少し離れた位置まで後退していた。
あのまま掴んでりゃ右手を吹っ飛ばせたのに、余計な知恵がありやがる。
地面からは激しい火柱が上がっている。
巨人が放り投げた臓器――というか、石だ。
爆発的燃焼はまだ続いていた。
レンガよりも小さい、携帯くらいの手の平サイズなのに、よくもまあ燃えるもんだ。
バーベキューなんかに使う固形燃料とはパワーがダンチだ。
いったいあの石は何なんだ?
ナパーム・ブレスに使った燃料は粘度がある液体というか、半生のゲル状だった。
とはいえ、どっちも俺の体内から出てきたもので、まったく別物とも考えにくい。
しかしナパーム袋はもうないわけだし……
待てよ。
前提が間違っているのかもしれない。
あの燃える石と、ナパームが同じものだとしたら――?
ゲル状燃料が、ナパーム袋だけで生産されていたものじゃないとしたら――?
俺が捻り出した仮説は、こうだ。
あの石は俺の体内の別の場所で生産されている物質で、俺が『ナパーム袋』と呼んでいる器官は、それを溶かしてゲル状に加工する役割を担っていただけなんじゃないのか。
要はナパーム袋だけで完結しているシステムじゃなかったってことだ。
この推測が正しいとすれば、俺の体内には『火薬庫』がある。
ナパーム袋がないからブレスとして吐けないだけだ。
巨人に引っこ抜かれた分が最後の一個じゃないとすれば……だが。
畜生。
見えてきやがったぜ。
絶望よりも始末に負えないって噂の、ほんのちっぽけな希望の光ってやつが。
うっかり見えちゃいけない類のやつかもしれんが……見えちまったもんはしょうがないよな。
藁よりも頼りない希望だろうと全力ですがるぜ。
巨人が俺の方を見ている。
この俺の秘めたるポテンシャルに気付いたか……?
まだ戦う力が残っていると悟られるのはヤバい。
完全に息の根を止めにくるぞ……
そうなったらアウトだ。
巨人が一歩、こちらに向けて足を踏み出す。
あわわわわわ……来んな! こっち来んなァァァ!
ドォン!
閃光が巨人を包み、俺の身体に殴られたような衝撃が走った。
巨人の新しい能力かと思ったが、違う。
落雷だ。
コウモリダコの能力!
さっき切断されたはずの八本の足が再生している。
いや……ただ再生してるだけじゃなく、足の数が三倍くらいに増えてる!?
もともとタコに備わった能力なのか、ユグドラシルに支配されている影響で超再生しているのか。
真相は分からんが、とにかく助かった。
巨人の注意が怪獣軍団の方に向いたからだ。
俺が戦っている間に、タコ以外の怪獣たちも姿形が変わっていた。
中でもティラノサウルス型怪獣は明らかに大型化している。
ヘルメットやプロテクターを思わせる装甲が追加され、戦闘的な外見になっている。
その隣にいる蛇型怪獣なんて頭が三つに増えている。
成長だとか進化だとかじゃ説明のつかない『変身』だぞ、こいつは!
洗脳どころか細胞レベルの改造だ。
ユグドラシルの出す酵素だか何だかを注入されたことで、こんなデタラメなことになってるのか。
それぞれの生物的特徴が強化されているやつはまだいい。
そのうち種類の違う生物を合体させたキメラみたいなのが生まれて……いや、視界に入ってないだけで、すでに誕生してるのかもしれんぞ。
巨大なボールみたいなやつが猛烈なスピンをかけながら巨人に体当たりした。
視界を横切る瞬間、そのボール型怪獣が不自然な茶色と灰色のツートンカラーになっているように見えたのは気のせいか。
俺の鼓膜を恐ろしい咆吼が震わせ、背中に地響きが伝わってくる。
死んだフリを続けなきゃならん都合上、露骨に首を伸ばして周囲を確認するわけにもいかないが……
巨人は強化された怪獣軍団と激闘を繰り広げているようだし、逃げるなら今だ。
しかし仰向けに裏返ったままじゃ動くこともままならねー。
どうにか隙を見つけて寝返りを打たなくては……チッ、カメの宿命がどこまでもつきまといやがる。
おっ?
また誰かが八つ裂きにされたのか、巨人がユグドラシルに近付き、戦場が少し離れた。
よし……今だ!
起き上がろうとした途端、甲羅の下の地面が蠢いた。
下から巨大な掌のようなものが現れ、俺の身体はすっぽり包み込まれる。
これは……ハエトリグサか!?
いかん、捕まった!?
俺も改造されてしまう!
ん?
肉体を強化改造されても、洗脳される前に脱出すれば、人類の自由と平和のために戦うヒーローに――って、無理か。
ならば速やかに脱出ッ!
首と手足を引っ込め、圧縮空気を噴射する。
コマのように回転すると意外と簡単にハエトリグサの拘束が解けた。
伸ばした首と尻尾を支えにして寝返りを打つ。
見ると、ハエトリグサの葉が鋭利な刃物でスパッと切り裂いたようになっている。
何だこりゃ?
やけに断面が綺麗だが……圧縮空気がカッター代わりになったのか?
いや、違う。これはアレだ。甲羅のエッジに付いている前進翼みたいな突起が初めて役に立ったのだ。何のために付いてるのかと思ったが……自分より巨大な捕食者に丸呑みにされた時に引っかかるようになっていたのか!
無駄な飾り扱いしたことは改めて陳謝するとして、とにかくひとまず退却だ。
匍匐前進で飛竜の元へ急ぐ。
『GUMOOOOOOoooooo――――――ッ!!』
轟いた絶叫に、俺は反射的に振り向いた。
巨人の光輪でなます斬りにされた、アーマード恐竜の断末魔の悲鳴だった。
体重でいえば巨人の五倍以上はありそうだが、やはり無理だったか。
主力を失った怪獣軍団はあと一分とかからずに全滅するだろう。
俺は異変に気付いた。
足元の感触が変わっている。
地中に張り巡らされていたユグドラシルの根が強張っている。
柔らかさが失われ、乾いて硬直しているようだ。
続いて、空から大量の葉っぱが降ってきた。
しかも褐色の枯葉だ。
何が始まるんだ!?
見上げると、落葉したユグドラシルの果実が大きく実っていた。
パイナップルに似た流線型のロケットのような形の果実は十数個あり、スカイツリーの先端に密集している。
ユグドラシルのすべてのエネルギーが実の周辺部に集中しているのが分かった。
人間の視覚には捉えられない光が見えるからとかそういうことじゃなくて、見たまんま、ユグドラシル本体が生気を失って枯れ始めているからだ。
種を蒔くつもりだ。
怪獣軍団の役割は、その準備が整うまでの時間稼ぎだったか。
じゃあ巨人は?
あいつの目的も、ユグドラシルの種子が拡散するのを防ぐことか?
そうなるといかにも巨人が正義のヒーローで、俺たち怪獣は悪役っぽいよなあ。
いやいや、上っ面だけで正義だの悪だのと、安直な図式に惑わされるな。
巨人はどう見ても地球産っぽくない。
対する俺たち怪獣は曲がりなりにも地球の生物の特徴を備えている。
いわば巨人は外来種で、俺たちは在来種だ。
これが生存権をかけた戦いだとすれば、どっちが正義かなんて問題じゃない。
むしろ人類の立場で考えるなら、どっちもいない方がいい存在だ。
もし怪獣が滅び去り、この巨人が勝ち残ったとしたら……?
それこそ怪獣以上の脅威になるだろう。
…………
これも違うな。
大層なお題目なんて必要ない。
体のいい理由をでっち上げたところで、そんなものはお為ごかしだ。
俺が戦う理由は、ただ生き延びたいから――それだけでいい。
巨人もユグドラシルの変化を察知したらしく、敏感に反応した。
律儀に怪獣軍団の相手をしている場合じゃないと悟ったのだろう。
地面を蹴ってジャンプすると、正面に立ちはだかる四匹の怪獣の頭や背中を飛び石のように踏みつけて乗り越える。
タイミングを見計らったように空中から襲ってきたスパゲッティの触手を光輪で切り裂いたものの、着地したところで足を取られて膝をついた。
地面に張り巡らされた蜘蛛の糸のトラップを踏んだのだ。
身体を支えようとした両手にも粘着質の糸が絡み付く。
最初はバリアーで防がれたので通用しないかと思いきや、身体に直接くっつくと手こずるらしい。
頭上に光輪を出したため足元がお留守になったわけか。
こいつはスパゲッティ野郎のファインプレーを認めざるを得ないな。
蜘蛛の糸はもがけばもがくほど四肢を絡め取り、巨人から自由を奪っていく。
……いけるか?
偶然とはいえ、初めて連携らしい連携で上手く巨人の動きを封じる結果になった。
もう一手、巨人に痛手を与える攻撃が加われば――
電光が閃いた。
滝のような稲妻が巨人に降り注ぐ。
強化コウモリダコの攻撃だ。
地面が沸騰したように巨人の周囲から蒸気が上がる。
やった……か?
蒸気の中から人影が立ち上がる。
それは――糸の拘束から解放された巨人の姿だった。
……って、ダメじゃん!
雷が効かないどころか、糸だけ溶かしてんじゃねーよ!
相乗効果を期待した俺がバカだった。
うん? 巨人の様子が……ヒョロい身体に妙に力がみなぎっているような……?
巨人の頭の上に浮かぶ光輪が急激に拡大していく。
まるで渦巻き星雲のような……
ヤベえ!
俺は反射的に、鼻先を地面に擦りつけるようにして身を伏せた。
直後――
ギャン!
金属的な鋭い音とともに、頭上を何かが通過する。
肝が冷える。
俺の直感が確かなら、今のは絶対食らっちゃいけない類のやつだ。
恐る恐る顔を上げて確認する。
地上にいた怪獣軍団の残党は、全員、真一文字に切り裂かれて絶命していた。
巨人は、ほんの一瞬だけ、光輪の刃を全方位に広げたのだ。
俺も二本足で立ち上がった状態なら胸の高さで斬られていたところだ。
この攻撃、射程は半径何百メートルだ?
俺のところまで届くってことは……
ギギギ……と、金属の軋む耳障りな音が聞こえてきた。
スカイツリーが……ユグドラシルが――倒れる!?
根本から傾いたタワーの下部分は十五度くらいのところで止まったが、第二展望台から上の部分は勢いが止まらず六十度近くまで折れ曲がった。
花火のような轟音とともに、タワー先端に実った果実が四方八方に飛び散る。
飛び散るというより、砲弾のように発射された、と表現した方がいいだろう。
大半は空の彼方へ飛んでいったが、そのうちのひとつが俺の脳天を掠めるほど低空を通過し、近くのビルに突き刺さって倒壊させた。
幹を断たれて傾いたユグドラシルは、己の分身たる種子を蒔いたことで最後の力を使い果たしたのか、息絶えたように沈黙している。
俺はゴキブリよろしく大慌てで地を這い、倒壊したビルに駆け寄ると、瓦礫に埋まった果実を堀り出した。
ユグドラシルの果実はラグビーボールより少し小ぶりなサイズだった。
表面は鱗状の硬い殻に包まれていて、笠が開く前の松ぼっくりに似ている。
ドラゴンの卵だと言われれば信じてしまいそうな形と硬さだ。
表面は恐ろしく硬いが、尻の方から牙を突き立てると、殻は意外とあっさり割れた。
トウモロコシのような薄皮を剥ぐと、中から出てきたのは、黄金色に輝く果肉だった。
いや……果肉というより、これは種子の中身なのかな?
胚乳とか仁とか、部位ごとに呼び名があるはずだが、専門的なことはよく分からない。
俺に分かるのは、食えそうかどうかってことだけだ。
その点についてだけいえば、かなり勇気の要る代物だった。
やたらと刺激的な臭いが鼻腔に刺さる。
俺を酔わせた花の蜜を何百倍にも凝縮したような、えぐいほどの甘さだ。
持ってるだけで頭がクラクラしてくる。
銀杏なら殻の外皮が異臭を放つが、中身がこのレベルってことはドリアンの仲間か?
臭いを嗅ぎつけたのか、巨人がこっちの方に振り向いた。
両目と胸の発光体が青から黄に変わっている。
ユグドラシルと怪獣軍団を一掃したあの技で大量のエネルギーを消費したせいか。
俺は巨人に注意を払いながら、飛竜の元へ移動した。
ユグドラシルの黄金の実を両手で掴んで捻ると、ちょうどピーナッツのように真ん中からふたつに割れた。
その片割れを飛竜の目の前に置くと、飛竜は怪訝な様子で俺を見上げる。
分かっている。
こいつは分の悪い賭けだ。
だが、あの巨人を倒せる機会は消耗している今をおいて他にないだろう。
俺は舌を伸ばし、シャボン・ジェッターの白い泡を飛竜の身体に浴びせた。
ちょっとしたシーツ代わりだ。
傷の治りがちょっと早くなる程度の効果はあるだろう。
お前をこの博打に付き合わせるつもりはない。
その代わり、ここで大人しくしていろ。
そして俺の――おそらくは最後になるだろう戦いっぷりを見届けるがいい。
ガリッ。
俺は黄金の実を囓った。
噛み砕き、嚥下すると、喉から腹にかけてカッと熱くなる。
くはあ~!
癖の強い薬草を漬け込んだウォッカのような喉越しだ。
さすがは世界樹の発芽のためのエネルギーが凝縮された種だ。
舌に感じる刺激は激甘? 激辛? それどころじゃない。
太陽を丸かじりしているような気分。
全身の細胞という細胞が沸騰し、とてつもないパワーがみなぎってくる。
こいつは危険極まりないドーピングだ。
怪獣の肉体に秘められた潜在能力を根こそぎ覚醒させる、禁断の果実だ。
ミシッ……ピキッ……ギギギ……
俺の身体から奇妙な音が聞こえてくる。
鱗や甲羅がひび割れ、擦れて軋む音だ。
甲羅を構成している一枚一枚の甲板が大型化し、夕陽を浴びて地面に長く伸びた俺の影が形を変えていく。
急激な成長に硬い表皮が耐えきれずにバリバリと破裂する。
全身が熔けそうなほど熱い。
そのくせ、神経は鋭く研ぎ澄まされている。
自分の身体が透明になり、内側から観察しているような感覚がある。
最初は自分に尻尾があることさえ分からなかったが、今やすべてが把握できる。
二度目の脱皮により、俺はより大きく成長していた。
頭頂高で五メートル以上、ビルでいえば一階分は背が伸びている。
もちろん甲羅もひと回り大きくなったはずだが、筋骨がパワーアップしているためか相対的に身軽になった感覚すらある。
黄金の実の最後のひと欠片を口に放り込み、武者震いよろしく身体を揺すると、古い鱗や甲羅の角質が剥がれ落ちた。
眉間のあたりがヒリヒリする。
両手足にも同じく、瘡蓋を剥がしたようなむず痒い痛みがあった。
気嚢を働かせて空気を取り込む。
だが空気は甲羅の脇からじゃなく、甲羅の肩の辺りから吸い込まれていた。
脇鰓がなくなったわけじゃなく、新たに吸気専用のエア・インテークが出来たらしい。
しかも何だこれ、いくらでも吸えるぞ。
空気を圧縮して貯蔵するボンベの容量が三倍以上に増えた感じだ。
アーマード・ティラノと同じく肉体が戦闘用に作り替えられている。
本当なら何十という怪獣と対戦して経験値を積まないと到達できないレベルまで一足飛びに進化しているのだ。
この肉体の変化は想定内だし、望むところだ。
こっちはヤバい実を命懸けで食ってるんだ、見返りがなかったら、ただの罰ゲームじゃないか。
いやいや、この程度の順当な強化じゃまだ足りない。
図体がデカくなっただけじゃ勝てないってことは証明されてるからな。
問題は勝つための能力があるかどうか、だが――
唐突に、武術の極意だか神髄だかについての蘊蓄を思い出したぞ。
武術の目指す究極はたったのふたつ。
すなわち『一撃必倒の威力』と『一発必中の技術』だ。
相手に攻撃をいくら当てても威力がなければ倒せないし、どれほど威力のある攻撃でも当たらなければ意味がない。
その二つが揃ってこそ勝利がある。
実に単純明快な話だ。
もしナパーム・ブレスの威力が超絶強化されていたとしても、吐くまでに時間がかかるようなら簡単に避けられてしまうし、逆にシャボン・ジェッターの命中率がどれだけ高かろうと、全身ヌルテカの昆虫型怪獣以外にはほぼ無害だ。
出せばほぼ当たり、当たれば必殺という巨人の光輪がいかにチート技が分かるだろう。
弱点らしい弱点といえば、唯一、盾と矛の機能が一体になっていることくらいだ。
いかにして勝つか?
威力の方は――おそらく、ある。
問題はいかに光輪を避けつつ接近し、あの銀色の皮膚を破るかってことだ。
無茶なパワーアップをした途端に真っ二つとか洒落にもならんからな。
新たな能力を検証している余裕はない。
ぶっつけ本番でやるしかないか。
巨人が向かってくる。
ユグドラシルを倒しても満足しないか。
怪獣を狩り尽くすまで戦いをやめるつもりはないらしい。
いいだろう。
お前の最後の相手はこの俺だ。
待ち構えるどころか、こっちから迎えに行ってやるぜ。
コンビニに買い物に行くような軽やかな足取りで――客観的にどう見えるかはともかく――俺は銀色の巨人との距離を詰めていった。
そういえば、この巨人には名前を付けていなかったな。
謎の未確認飛行物体は『UFO』だし、謎の未確認生物は『UMA』とか呼ぶらしい。
こいつも謎の未確認人型巨大生物だから『UMA-MAN』――略して『
まあ命名したところですぐにお別れだけどな!
光輪は基本的に身体を包むバリアーの延長なので、例の大技以外での射程距離はそう長くない。
せいぜい腕を伸ばした長さ+αといったところか。
だが銀色の巨人――Uマンの身軽さは俺以上だ。
つまり直線的な動きで逃げても容易に追いつかれる。
至近距離で相手の動きを先読みして躱す――勝機はそこにしかない。
サバ頭で挑んだ最初の勝負は、内容だけで言えば俺の勝ちだった。
唯一の誤算は、サバ頭の刃では銀色の皮膚を切り裂けなかったことだ。
俺は、Uマンの必殺の間合いの一歩手前で足を止めた。
Uマンも申し合わせたように立ち止まる。
互いの距離はおよそ二百メートル――剣豪同士の果たし合いにしてはやや遠く、カウボーイの決闘にしては近い、そんな間合いだ。
Uマンの身体に段差が生じた。
胸の高さ……!?
伏せて避けるには低すぎる。
Uマンが両腕を水平に広げ、鋏のように正面で交差させると、胸の高さで身体を囲む光輪が楕円形に伸びた。
虹色の刃に切断される寸前、俺は脇鰓から圧縮空気を噴射して真上に跳ぶ。
Uマンは正面で交差させた両手を今度は上下に広げた。
光輪が刃の角度を九十度変え、俺を追って縦方向に伸びる。
その程度の変化は予測済みだ!
左脇鰓からのみ空気を噴射し、空中で右に側転しながら避ける。
そして、着地と同時に放つ――〈ナパーム・ブレス〉!
いや、こいつはもはや
圧縮空気と完璧な配合で混合された液体燃料がバーナーよろしく噴射されているのだ。
地獄の竈の蓋が開いたような、烈火の奔流がUマンを包み込んだ。
バリアーを張り直そうとしても、もう遅い。
巨人の全身が火だるまになる。
ナパーム袋が再生したのはもちろん、ついさっきだ。
もしかすると同じナパーム袋でもバージョンアップされた新しい器官になっているのかもしれない。
そう思うのも、この火を吐く能力が他の怪獣から奪ったものではなく、この肉体に元から備わっていたオリジナルの能力だという確信があるからだ。
ナパーム袋を奪ったものの身体に馴染みきっていない飛竜とは違う。
光輪の攻撃にカウンターで決めてやったぜ。
これで焼き尽くせるか……!?
だがしかし――Uマンの方には熱がっている様子がない。
痛覚がないのか?
呼吸もできないはずだが、酸素も必要ないのか?
UFOではなく生身のままで地球までやってきた異星生命体だとすると、バリアーなしでも真空の宇宙空間で生命を維持できる能力を持っているはずだ。
冷凍鱗粉の低温に耐えたということは――まさか、その逆も?
巨人を包み込んだ猛火の勢いが急速に弱まっていく。
銀色の皮膚の上に走る赤い模様が青黒く変わり、熱を吸収している。
暗い青色に見えるのも俺の視覚が熱を捉えているせいか?
ナパームが鎮火されると、そこには無傷のUマンが立っていた。
蝋のように固まった燃料が皮膚から剥がれて落ちる。
やはり温度差だけではダメか!
あの銀色の皮膚を破るには、もっと別の……なにがしかの化学変化が必要だ。
Uマンが膝を落とし、飛びかかってきた。
側転して避けようとしたが、正面からぶつかってきた見えない壁に跳ね飛ばされて転倒する。
クソッ、バリアーか!
光輪に変化させずに、バリアーとして身に纏ったまま突っ込んできやがった!
おかげで目測を完全に誤った。
それと、俺の身体が大型化したことも裏目に出た。
車幅の変化を把握しきれてねーとは!
ひとつのミスが命取りになる勝負だと分かっていたのに!
Uマンがのしかかってくる。
うおおっ、馬乗りだと!?
裏返されると大ピンチというカメの弱点を突いてくるとは!
ここまでアグレッシブに格闘戦を挑んでくるとは予想外だ。
光輪よりブレスの方が間合いが広いから、戦法を変えてきたのか!?
だが!
ゼロ距離だろうと俺はお構いなしだぜ!
相討ち上等でナパームを吐こうとしたが、Uマンに下顎を手で突き上げられ、そのまま頭を地面に押しつけられた。
え?
何この体勢。
完全に顎が上がった状態で、身体の自由が利かない。
押さえ込みが極まった?
もしかして俺、寝技に超弱い!?
ここまで密着して組み敷かれると有効な武器が……ない!
狭まった視界の端に虹色の光が掠めた。
この状態でバリアーが光輪に変わったら――カメの輪切りの出来上がりじゃねーか!
それだけは嫌だああああっ!
俺は手足と尻尾をバタつかせて、せめてもの抵抗を試みる。
急にUマンが俺の上から離れた。
突然仏心を出したのか?
見ると、Uマンは苦しげに顔や胸を掻きむしっている。
何が起きた?
銀色の皮膚のあちこちに、キラキラした奇妙なカビのようなものが生えている。
しかも、指で引っ掻いた部分の皮膚が溶けて剥がれているように見えた。
溶ける……カビ!?
宇宙魔人の皮膚を溶かすほどの強酸?
しかし何故?
あのカビがどこからか飛んできたとすると……俺の身体も!?
自分の身体が溶けていないか確認すると、俺の両腕の外側、手首から肘にかけて、カビと同じキラキラがあった。
カビも問題だが、それ以上に奇妙なのは、俺の腕の形が変わっていることだ。
オニカサゴの背鰭みたいにトゲトゲしい鰭が生えている。
ウミガメっぽく腕全体が鰭になっているならまだ分かるが、何でこんな……!?
並んだトゲの先端が光っているのを見て、俺はその正体に気付いた。
まさか……ウソだろ?
『え~、ひっどぉ~い! ウソなんかじゃないよ~!』
チアリーダー――じゃないな。軍服を華やかにアレンジした……マーチングバンドみたいだがそれとも少し違う、カラーガード風の白い衣装を身に纏った、見るからに快活そうな美少女が、俺の右腕の上に立って、頬を膨らませて抗議した。
………………
…………
……どちら様ですか?
『うわ、忘れちゃったの? サイッテ~』
今度は左腕の上に、同じ衣装を着た、ちょっと気の強そうな女の子が出てきた。
ここに来て謎の新キャラが二人も!?
『ゼンッゼン謎じゃないよー』
『そうそう!』
『私たちにあんな酷いことしておいて、知らんぷりするとか信じられない!』
『せっかく助けに来てあげたのに~』
二人じゃなかった。
いつの間にか、俺の両腕に同じ格好の女の子がわんさかいた。
顔に見覚えがないが、そこそこ可愛い子ばかりだ。
数えるのも面倒なほど大所帯のアイドルグループで――おそらく、四十八人いる!
『おっ、や~っと思い出してくれたみたいだね!』
『遅~い!』
『カメだけにね!』
『や~いドンガメ~!』
寄ってたかって黄色い罵声を浴びせられる……うん、意外と悪くない。
問題は戦闘の真っ最中に妄想劇場が始まってることだ。
ひとりひとりの顔が認識できているのも、声がはっきり聞こえるのも、もちろん妄想ならではの現象だった。
名前も知らないリーダーらしき子が手を叩き、メンバーに号令をかける。
『はいはい、はしゃぐのはそこまで! 私たちの使命は何?』
『カメさんのお手伝い?』
『悪い怪獣をやっつけて?』
『悪い宇宙人もやっつけて?』
『みんなの笑顔を守るため?』
『地球のピンチを救う?』
『全部いっぺんにやるのってタイヘ~ン!』
『でも私たちがひとつにになれば!?』
『なれば?』
『なるとき?』
『なったなら!?』
『絶対?』
『絶対!?』
『ぜぇ~~ったい!』
『『『絶対、負けない!!』』』
『じゃあ行くよ、みんな!』
『『『お――――ッ!!』』』
全員がその手に携えた虹色のフラッグを頭上に突き上げた。
アイドルたちの姿が妖精のような光となって両腕の鰭に飛び込むと、鰭から飛び出したトゲの先端にキラキラとした光が灯った。
……何ですか、このファンタジックすぎる茶番は?
いや、理由なら分かっている。
カニ貴のケースと同じく、倒した怪獣の力を借りるために、済ませておかないといけない心理的な儀式のようなものだろう。
自分の妄想の産物だと思うとほとほと呆れるが、一方でちょっと感激している自分もいて、複雑極まる気分だが……だが、しかし!
恩に着るぜ――〈DSK48〉!
俺は両手を胸の前で交差させてX字に構えた。
食らえ――〈デッドリー・レインボー・ストーム〉!
両腕の鰭から煌めく虹が放たれる。
その正体は光線ではなく、無数の針の奔流だ。
針自体は無色透明だが、光を反射することで虹色にキラキラと輝いて見える。
見た目は実にエレガントな攻撃だが、この針は恐るべき猛毒であり、触れた物体は有機物だろうと無機物だろとうと容赦なく溶解する!
その威力はUマンの銀色の皮膚も例外ではなかった。
針の山と化した皮膚は内部から沸騰したようにボコボコと膨れ、破裂した。
まるで派手に伝線したパンストだ。
こいつの銀色の皮膚は液体金属のスーツなのか?
それとも細胞自体が水銀のような形態なのか――
ともあれ、超酸性の針によって結合力が緩んだらしく、巨人の体表を覆うことができなくなっているように見える。
間髪入れずに畳みかけろ!
俺は〈スーパー・ナパーム・ブレス〉を吐いた。
Uマンは苦し紛れに片手を突き出して正面に大きな光輪を作る。
光輪の盾に散らされたナパームが周囲に飛び火して爆炎を上げた。
やっぱり正面からの攻撃には強いか。
だったら……上からならどうだ?
スーパーじゃない、半生ナパームの塊を上に向けて吐き、同時に〈毒の虹〉で正面から目眩ましを仕掛ける。
先に吐いたナパームの炎に上手く紛れたのか、それとも毒の虹がよほど恐ろしくて気を取られたのか、Uマンは迫撃砲よろしく放物線の弾道を描いて真上から迫るナパーム弾に気付かなかった。
ナパーム弾は巨人の頭上で炸裂し、炎の雨となって降り注ぐ。
今度は銀色の皮膚による防御はない。
火だるまになったUマンは悶え苦しんでいる――効いている!
人間と同様の痛覚があるかどうかは知る由もないが、とにかくダメージは通っている。
しかしまだ倒れない。
もうひと押しが足りないのか?
焼け死ぬのを待つか?
いや、やっぱり直撃弾で木っ端微塵にしないと安心できねー。
とどめのナパームを吐こうとしたその時――Uマンの背後に光る棒状の何かが伸びた。
八本四対の〈光の槍〉が、巨人の肩胛骨のあたりから放射状に生えている。
形は槍投げの槍そっくりで、息づくように黄色く明滅している。
位置からすると翼か?
しかし、あんな形の翼を持った生き物はいない。
あれじゃ翼というより――
不意に、八本の〈光の槍〉が一瞬で縮んだ。
ドンッ。
身体に衝撃。
何かが身体を貫いたような衝撃だと思ったら――何かに身体を貫かれていた。
いや、こいつは何かじゃねえ……〈光の槍〉だ!
Uマンのやつ、〈光の槍〉を杭みたいに撃ち込んできやがった!
槍はUマンの両脇腹から伸びている。
肋骨が変形したものなのか!?
何にせよこいつは身体の一部だ。
八本の〈光の槍〉のうちの二本は俺の左肩と右の腿に、六本は甲羅の縁に突き刺さっていた。
急所を貫かれなかったのはラッキーだが……う、動けん!
槍が食い込んだままで抜けない!?
クソッ、どうするつもりだ!?
分からんが……このままではマズい!
今、光輪を出されたら避けられんぞ!
虹だ! 虹で溶かせ!
しかしどの槍からどうやって切断したものか、慌ててモタついているうちに、俺は身体の異変に気付いた。
手足の感覚が鈍っている。
痺れているというか……寒い?
身体が上手く動かない。
毒でも送り込まれているのか?
それとも単純に熱を奪われているのか?
カメは変温動物だから体温が下がると動きは鈍る。
あるいは電流で神経パルスが乱されているとか――
いやいやいやいや!
原因について詮索している場合じゃない。
いかん、膝がガクガクしてきた。
だが圧縮空気なら……まだまだ、ある!
甲羅両脇からの全力噴射!
地面を蹴ることはできないが身体が浮いた。
浮いたが……むしろ浮いたことでマズい事態に陥るとは、この時の俺は想像すらしていなかった。
まさか、Uマンが〈光の槍〉を縮めるとは。
宙に浮いた状態の俺は、凄い勢いで引き寄せられた。
地上にいればまだ踏ん張れたはずだが、浮いてたんじゃなー。
俺はUマンと額がくっつく至近距離で組み合うことになった。
Uマンの身体はまだ燃えていた。
銀色の皮膚は七割以上が剥がれ、赤黒い皮下組織が剥き出しになっている。
正直、かなりグロい。
理科室の人体模型以上だ。
両目と胸にある三つの発光体はどれも真っ赤に変わっていた。
こいつはこいつで限界が近いのかもしれない。
俺はUマンの両手を掴んだ。
光輪を使う時には手の動きが伴っていることが多い。
つまり両手さえ押さえてしまえば光輪は自在には操れまい!
だがこっちも左肩を貫かれているし、身体が痺れていることもあって腕に力が入りきらない。
こうなったらゼロ距離ナパームを――
しかし左手が振り解かれ、さっきと同じく顎を下から手で突き上げられて顔が上を向いてしまう。
これはカメの身体構造上の弱点なのか?
首の自由度は人間の比じゃないんだが、代わりに固定する力が弱いのか。
互いに決め手を欠いている状況に見えるが、不利なのは俺の方だ。
Uマンに光輪を使う隙を与えたら終わりだ。
顔が上を向いたため、背後にいる飛竜の姿が視界に入った。
余所見せずに見守ってくれているが、内心では『パワーアップしといてショッパい泥仕合やってんじゃねー』と呆れられているかもしれない。
ここで手助けを求めるつもりはない。
戦うと決めた時に覚悟はしていた。
それにこの状況――負け惜しみじゃなく言うが、実のところ、この形で取っ組み合うことは最初から計算に入っていた。
自分から組みに行っても光輪でやられるだけだからどうしようかと思っていたら、Uマンの方からこの状態にしてくれたのだ。
やはり、やるしかないか。
とっておきの切り札を使う時が来たってことだ。
『男には――死ぬと分かっていても、死なねばならぬ時がある』
……すんません、カニ貴はちょっと黙っててもらえますかね?
今、大事なとこなんで。
俺の体内に火薬庫があるという話はすでにした。
ユグドラシルの黄金の果実を食べて進化した俺には、自分の体内の状態がよく分かる。
Uマンに引っこ抜かれた固形燃料は、甲羅の内側で生産されている。
その在庫も一個や二個じゃない。
甲羅の内面にびっしりと備蓄されているのだ。
そのブロック一個でナパーム・ブレスが七~八発は吐ける。
大量に取り込んで圧縮した空気と、ナパーム百発分の固形燃料。
それに点火すれば――不死身のUマンといえども倒せるだろう。
切り札とは、つまり、そういうことだ。
右手が振り解かれた。
すぐにでも光輪が来る。
さあ、やるか。
『ポメェェェッ!』
あばよ、と一声あげて、俺は吐く直前のナパームを飲み込み、気嚢に送り込んだ。
気嚢を通じて体内の奥へと運ばれたナパームは、火種として、体内に蓄えられた固形燃料に点火する。
甲羅の内側でメガトン級の大爆発が起きた。
真っ赤な爆炎と煙が広がる。
凄まじい爆発力が、俺の身体ごと、Uマンを粉微塵に粉砕する――
そのはずだった。
そうなると計算していたのだが――
まったく予想外のことが起きた。
体内で起きた爆発のエネルギーが、真下に抜けたのだ。
その結果――俺は、Uマンと組み合ったまま、垂直に上昇した。
あれよという間にスカイツリーを超え、さらなる高みへと昇っていく。
沈みかけた夕陽が再び輝きを増す。
俺は……俺は……飛んでいる!?
どうして自爆しない!?
固形燃料に点火しても、一気に大爆発とはいかないのか?
もしかして俺は、大きな勘違いをしていたのか?
ついさっき『自分の身体の構造を完全に把握した』みたいな発言をしたばかりだが……スマン、ありゃ嘘だった。何が起きてるのか自分でもサッパリだ。
……待てよ。
点火しても爆発せず、燃焼ガスが下方向に噴射されて推進力に変わっているということは……ということは!?
そうか。
分かった……分かったぞ!
ロケットだ!
それも固形燃料ロケット!
俺自身が固形燃料ロケットと化しているのだ。
偶然か?
それとも、もともとこういう設計なのか!?
『空を自由に飛びたいな』という俺の願望が、肉体をこんな形に進化させたのか?
この際どっちでもいい。
このまま宇宙まで行けるか?
Uマンが地球外生命体なら、宇宙にお帰りいただくのがスジってもんだ。
しかし、肝心のUマンが大人しくしていなかった。
俺の腹を蹴り、〈光の槍〉を抜いて離れたのだ。
てめえ~! 途中下車たあ太え野郎だ!
バランスを崩した俺は錐揉み状態になった。
どうすんだ、これ!?
空を飛ぶのは初めてなんだよ!
『――自分の可能性を信じるのです』
グルングルン回る視界の中でも、何故か大仏おばちゃんだけは回っていない。
しかし、そんなフワッとしたことを言われても。
『あなたはやればできる子です。信じなさい……上に飛べたのだから、横にだって飛べるはずです』
それもそうか。
やりますよ、ええ、やってやりますとも!
しかしロケットってどうやって姿勢制御してるんだ?
しかも液体燃料ロケットじゃないから、一度点火したが最後、燃料が尽きるまで噴射し続けるし、出力の微調整もきかない。
ええと……普通のロケットみたいな釣り鐘型のノズルなんかないから、燃焼ガスは甲羅の隙間から噴射してるんだよな?
だったら、甲羅を動かして噴射の方向を変えてやればいい。
以前ならそんな発想は出来なかったが、今の俺にはそれが実行可能だ。
尻の上辺りの筋肉を使って、甲羅を構成している甲板を動かす。
メインの噴射口周辺の甲板を開閉することで噴射方向を調整し、地面に激突寸前のところでどうにか錐揉み状態を脱することに成功した。
両腕を左右に広げ、デカい鰭をフラップ代わりにして風を受ける。
両足を甲羅に引き込み、尻尾をまっすぐ伸ばすと飛行姿勢が安定した。
よし、この体勢だ。
左右のロールと噴射方向の調整で方向転換もできるぞ。
肩の上にエアインテークができたおかげで圧縮空気は際限なく使える。
脇鰓から噴射すれば上下左右に微調整可能だ。
燃料はどれだけ残っている?
あと何分飛べる? 三分くらいか? それとも一分?
旋回しつつ周囲に視線を走らせる。
――いた。
俺から離れたUマンはまだ空中にいた。
背中から放射状に伸ばした八本の〈光の槍〉で光輪を支え、滑空している。
ハッ、天使気取りか!
大仏の加護を受けたこの俺を足蹴にしやがって――罰を当ててくれるぜ!
光輪を背負ってるから上から攻めるのはマズいが、幸い高度は俺の方が下だ。
しかし武器は?
両腕の鰭を安定翼に使っているから虹は出せない。
出したとしても、この速さで飛んでる最中だと風に流されるだけだ。
ナパーム袋にはまだ数発分のストックがあるが、空中で当てるのは至難だ。
まずは叩き落としてからだ!
俺は急角度で上昇し、体当たりを敢行した。
……いかん、速度が速すぎる。
俺はUマンを追い越してしまい、目の前を斜めに横切る形になった。
グライダーとロケットでは相対速度が違いすぎる。
減速できないってのは意外と面倒だぞ。
もう一度ぐるっと旋回して来ないと……いや、いったん下降してから上昇するか?
頭を下げて急降下した直後、ストーブに近寄りすぎたような熱気を感じた。
何だ?
熱気はほんの一瞬で通り過ぎた。
眼下に広がる荒川の河口周辺――江東区か?
街並みの真ん中に赤い輝線が走ったかと思うと、その線に沿って火柱が上がった。
何が起きた?
位置関係からして……まさか!?
俺は背面飛行しながらUマンを見る。
Uマンも俺の方を向いて――口を開けていた。
何かヤバい!
本能的に回避行動を取ると、再びあの熱気が身体を掠めた。
ビームか!?
いや、レーザー?
どっちでもいい!
Uマンの野郎、口から破壊光線を吐きやがった!
こんな飛び道具を隠し持っていたとはな。
低空飛行する俺を狙って三発目のビームが発射された。
ビームの着弾点が弧を描き、数瞬遅れて大爆発を起こす。
こんなもん吐きまくられたら東京が壊滅するぞ!
俺もあと何十秒と飛べまい。
地上に降りたら最後、空中からのビームは避けられそうにない。
仕掛けるなら今だ。
俺は急上昇し、Uマンの正面に出ると、ロケットの噴射角度を横に向けるとともに、脇鰓からの圧縮空気の噴射を利用して百八十度回頭した。
上下左右からは無理でも、真正面からならどうだ!?
食らえ――必殺必中の〈スーパー・ナパーム・ブレス〉を!
紅蓮の爆炎がUマンを直撃する。
俺は炎に包まれたUマンと空中で衝突し、組み付いたまま墜落した。
市街地への被害を避けるために、最後の推力で海の方へ向かう。
固形燃料ロケットが燃え尽きるのと、不時着の衝撃が襲ってきたのがほぼ同時だった。
Uマンの身体をクッションにしたためダメージは和らいだが、その後がいけない。
いくつもの建物を巻き込み破壊しながらのハードランディングの結果、捕まえていたUマンを放してしまったのだ。
俺は急いで立ち上がると、視線を走らせて周囲の状況を確認する。
まず目に入ったのは近くにある観覧車だ。
そして、銀色の球体が組み込まれたスチール棚みたいな建物――
するとここは……お台場か!
東京湾を目指して荒川を下ってきた俺の旅も、当初の予定とはずいぶんと違った形とはいえ、遂にゴールへ辿り着いたわけだ。
ああ、潮の香りをたっぷり含んだ風を感じる……
だが残念ながら感慨に浸っている暇はない。
Uマンは瓦礫の中から身を起こした。
八本あった〈光の槍〉は三本を残して折れてしまっている。
案外脆かったのか、それとも自分の光輪に触れて切断したか?
それに、見るからに元気がない。
スカイツリーに来た時は質量爆弾と化して浅草周辺を廃墟にしておきながらケロッとしてやがったのに、ずいぶんとお疲れの様子じゃねえか。
さあ――最終ラウンドだ!
『ポメエエエエエ――ッ!』
雄叫びとともに両手をX字に組み、〈毒の虹〉を放つ。
無数の毒針がUマン襲う――はずが、巨人を包む見えない卵の表面をなぞるように針の山を作っただけだった。
チッ、バリアーを張ったままか!
防ごうと思えば簡単にシャットアウトできるのか。
畜生、無駄撃ちしたぜ。
Uマンが突進し、体当たりをかましてきた。
俺はバリアーの斥力に吹っ飛ばされたものの、圧縮空気の噴射で姿勢を維持しながら着地し、転倒を免れる。
同じ手をそう何度も食らってたまるか!
こちとら短時間のうちに空中でのバランス感覚が鍛えられてるんだよ!
しかし奇妙だ。
どうしてさっきの破壊光線を使わない?
Uマンの口に当たる部分には縦長の三角形の裂け目が開いていて、その奥に尻の穴みたいな発射口が覗いている。
おそらく、発射するためには全方位バリアーを解除しなければならないからだろう。
ほんのちょっとでも隙を見せたくないらしい。
警戒しまくってるなあ。
怪獣軍団を相手にしている時はノリノリだったくせに、ずいぶんと慎重じゃないか。
実際、こっちとしてはガンガン攻めてこられる方が辛いんだが――
これはアレだ、『ナントカに懲りてナントカを吹く』ってやつか。
前半には熱い食べ物、後半には熱くない食べ物が入るはずだが思い出せない。
『熱々おでん』と『ビシソワーズ』だっけ?
違うか。
まあいい。
この場合は〈毒の虹〉に懲りて必要以上に用心した結果、自分の攻撃ターンを放棄している状態だな。
つまり、Uマンは俺という怪獣の戦闘能力を正しく評価できていない。
だとすれば……その苦手意識にこそ付け入る隙があるはずだ。
俺は〈シャボン・ジェッター〉で大量の泡を飛ばした。
白い泡がバリアーの表面を覆い、洗うように流れ落ちる。
細かい泡のシャワーに、いくつかの塊の泡を混ぜて吐く。
あっという間に辺り一面が泡だらけになった。
Uマンはこの泡がいったい何なのか理解していない様子だ。
まあ、そうだろうな。
目眩ましだとか、フェイクだとか、そういう発想がこの生物にあるとは思えない。
自分にとって脅威となるか否か、判断基準はそれだけだろう。
この泡がまったくの無害だと気付いたら――さあ、どう出る?
答えが出たらしい。
Uマンは両手を正面に向け、光輪を作って盾のように構えた。
口の砲口にパワーが集中し、輝きだす。
光輪の盾で俺の攻撃を防ぎつつ、破壊光線を発射する瞬間だけ、光輪の陰から顔を出すつもりだ。
まあ、そうだろうな。
俺がお前だったとしてもそうするだろう。
だが……お前は何も分かっちゃいない!
俺は口からナパームと混合しない圧縮空気だけを吐いた。
ただのエア・ブレス――だが、仕掛けを作動させるには十分だ。
ブレスの突風でUマンの足元の泡が吹き飛び、泡に包まれていた〈ナパーム地雷〉が空気に触れて起爆した。
カニ貴を倒す切り札にもなった〈泡包みナパーム〉を紛れ込ませておいたんだよ!
しかも出し惜しみなしの三発分だ。
その爆圧でUマンの身体がブッ飛ぶ。
口から発射された破壊光線はあさっての方角へ――夕闇迫る北東の空へ消えていった。
断末魔の悲鳴の代わりか。
バリアーの内側で、限りなく直撃に近い破壊エネルギーをモロに浴びたんだ。
これでくたばってくれないと困る。
非常に困るんだが――
怪獣の本能が告げていた。
敵の脅威はまだ消えていない、と。
空中から三つの光線が俺に向かって伸びた。
二本は外れたが、三本目が俺の腹に突き刺さる。
こいつは――〈光の槍〉!
槍を掴んで引き抜こうとしたが、間に合わなかった。
さっきと逆のパターンだ。
脇腹から生やした槍を縮めることで、空中のUマンが瞬間移動かよってほどの速さで俺の目の前にすっ飛んできた。
また下顎を突き上げられたら今度こそ終わりだ。
俺は左手で槍を、右手でUマンの顔面を掴んだ。
激光が迸る。
右目の視界がブラックアウトした。
ビームで網膜を焼かれたのだ。
右手の感覚がない。
おそらく、俺の右手は蒸発した。
下手すりゃ丸ごと腕一本と、甲羅の一部も持って行かれたはずだ。
『ポゲエエエエッ!』
眉間に痛みが走る。
メリメリと音を立てて、硬い角質の皮膚が裂ける感覚があった。
これは……Uマンの攻撃――じゃない!?
何かが、俺の眉間を突き破って生えてきたのだ。
左目の視界の端に、鋭く尖った〈角〉が見えた。
この土壇場で、新たな能力が発現するとはな。
いや、予兆はあった。
この〈角〉が何なのかも分かっている。
俺は首を伸ばし、眉間から生えたジャックナイフのような角を、Uマンの胸にある涙滴型の発光体に突き立てた。
ギィィィィィン!
チェーンソーを鉄板に押し当てたような音ともに、激しい火花が散った。
この角はただの刃物じゃない――サバ頭の高周波振動ブレードだ!
サバ頭の肉をしこたま食ったんだ、これくらいの芸当はできて当然なんだぜ!
振動のパワーを上げる。
発光体に亀裂が走る。
Uマンの手に小振りな光輪が生じる。
槍を引き抜いて離れる?
そんな真似ができるか。
今この瞬間こそが正真正銘、最後の勝機だ。
ビキィンッ!
Uマンの手刀が俺の首筋を叩いた――しかし、首は落ちない。
胸の発光体が真っ二つに割れ、同時に、Uマンの手にあった光輪も消えたからだ。
砕けた発光体がバリアーをコントロールしていたのか。
つまり、こいつはもうバリアーを張れない。
角をもうひと押ししてやろうとしたが、発光体を砕いたことで限界に達したらしく、半ばから折れていた。
Uマンは二本の〈光の槍〉をあらためて俺の身体に撃ち込むと、三本の槍を同時に伸ばし、俺の手の届かない距離まで飛び退いた。
破壊光線が来る!
左腕の〈毒の虹〉で槍を溶かす――
クソッ、一本なら!
一本なら間に合うのに!
三本の槍を溶かして脱出するには時間が――時間が、ない……
俺は天を仰いだ。
日没か。
長い一日だったな。
……おっ、流れ星。
願い事は何にしようか――などと考える暇もなかった。
凄い速さで頭上を通過した流星が、Uマンを直撃したからだ。
俺は衝撃波を受けて仰向けにぶっ倒れた。
炎の色、そしてこの嗅ぎ慣れた燃料の臭い……こいつは〈ナパーム・ブレス〉!
『キュオオオオオォ――――ッ!!』
甲高い咆吼が天から響く。
来たのか。
思ったより早かったな。
北北東から黄金色に輝く矢印のようなものが飛来した。
破壊光線が空に走る。
黄金色の飛行物体は、閉じていた翼を広げて軌道を変え、ビームを回避した。
速い!
そして……なんて美しいんだ。
飛竜のやつ、食ったんだな――ユグドラシルの黄金の果実を。
体格こそ大きく変化はしていないが、翼の形が変わり、風切羽やクジャクを思わせる長い尾羽が加わっているため、シルエットはやたらゴージャスになっている。
何より印象を変えているのは、全身を覆う黄金色の羽毛だ。
お色直しは大成功じゃないか。
さすが俺の嫁だ。
さっきのブレスの弾速と射程距離を見る限り、超進化したことでナパーム袋も身体に馴染んで使いこなせるようになったらしい。
今やUマンはバリアーを張れないし、破壊光線にさえ注意すればいい。
あとは任せる。俺はもう休ませてもらうぜ。
ザ・ニュー飛竜が低空を通過し、地上に烈風が叩き付けてきた。
ズドン、と何かが降ってきた音と震動。
閉じかけた目を開けると、手が届きそうなほど近くに大剣が突き立っていた。
サバ頭だ。
わざわざここまで運んで来たのか?
つーか、危うく刺さるとこだったじゃねーかよ!
まさか、俺も一緒に始末するつもりか!?
それとも、まだ俺にやれってのか?
ったく……ご覧の通りこちとら限界だってのに……しょうがねえなあ。
左手を伸ばしてサバ頭の柄を掴み、それを支えにして身を起こす。
『先ほどはお楽しみでしたね、ウケケケ』
やっぱり喋るのかよ!
しかも超ゲスいし。
もっと他に言及すべきことはねーのかよ。
ところで今更だが、剣として装備した段階でこいつの呼び名は〈ムラサメ〉に改名しとけばよかったんじゃないか?
サメだけに。
『怪獣に逢うては怪獣を斬り、宇宙人に逢うては宇宙人を斬るってか? 今頃思いついてもおせーんだよ! もうとっくにサバ頭で馴染んじまったっつーの!』
よし、だったらUマンを倒したら〈ムラサメ〉に改名するってことで。
『出世魚かよ。その次に何を斬ったらエクスカリバーになれるんだよ』
そんなことまで俺が知るか。
だいたいサバ頭を装備したところで、こっちはご覧の通りタンゲサゼンだ。
ん? タンゲサゼンって誰だ? そもそも人の名前か?
まあいい。
事ここに至って満身創痍のカメ侍に出番なんてなさそうだが……
飛竜は周囲を旋回しながらナパームで攻撃を仕掛けていたが、Uマンの破壊光線を避けながらなので狙いが甘い。
飛竜が翼を大きく広げて羽撃くと、コウモリっぽい翼の時にはなかった風切羽が手裏剣のごとく飛んだ。数十本の羽根手裏剣が渦巻く烈風とともにUマンを襲う。
着弾した羽根は青白い閃光を発して燃え上がった。
おおっ、こんな新技が!?
しかしこれは目眩ましだったらしい。飛竜は怯んだUマンの頭上を掠め飛び、翼から後ろに長く伸びた飾り羽根(おそらくは指の一本が変形したもの)の先端にある釣り針のような鉤爪をUマンの肩の肉に引っ掛けた。
飛竜が空中で一回転すると、Uマンの巨体が地面から引っこ抜かれるようにして宙に舞い、円を描いて地面に叩き付けられた。
鉤爪付き飾り羽根が電光を帯びているところからすると、捕らえた敵に電撃を流して麻痺させる効果があるらしい。
電撃が使えるってことは……さては飛竜のやつ、抜け目なくコウモリダコの足でも食っておいたのか?
地面に二度、三度と叩き付けられ、さすがにグロッキーだろうと思われたUマンだったが、四回目にして反撃に転じた。虫みたいに細かった四肢の筋肉がいきなり膨張してムキムキになると、両脚を地面に突き刺して踏ん張り、両手で飾り羽根を掴んだのだ。
右翼の飾り羽根をアンカーに使っていたため、それを引っ張られた飛竜はバランスを崩して地に墜ちた。
マズい。
逆にUマンに捕まった形になった……ってことは、破壊光線のいい的じゃねえか!
俺は自分でも驚くほど機敏に反応し、サバ頭をUマンと飛竜の間にブン投げた。
狙い違わずサバ頭は飾り羽根を切断して地面に突き立つ。
直後に発射された破壊光線がサバ頭の刃の側面に当たり、四方八方へ乱反射してお台場周辺の建物――観覧車やスチール棚みたいなビルを薙ぎ、熔解爆発炎上させた。
『うおっ、熱っ、熱っ! 熱っちィィィッて!』
あの凶悪な破壊光線の直撃を食らっても溶けずに「熱い」で済んでるこのサバ頭はいったい何なんだ? やっぱり神殺しの魔剣なのかお前は。
この隙を逃さず飛竜は再び空へ舞い上がった。飾り羽根を一本切られたくらいではダメージはないらしい。
Uマンの方は――破壊光線の反射で自分が焼かれるほどマヌケじゃなかったらしくピンピンしてやがる。しかしパンプアップした筋肉は萎んで元に戻っていた。ビームを吐きすぎたせいか、全身が過熱して溶岩のように真っ赤になっている。
……ん?
手足の先から銀色の皮膚が再生し始めている!?
毒針の効果が切れたのか?
やはり皮膚は金属生命体で、一度酸で分解されても細胞分裂で増殖するのか?
皮膚が再生すれば、おそらく冷却機能が復活して高熱に対する耐性が上がる。
やれやれ……往生際が悪すぎるぜ。
俺はシャボン・ジェッターをUマンに浴びせた。
また俺が何か仕掛けてくると思ったらしく、Uマンは警戒して後ずさりした。
ハハン。本当にただの目眩ましにすぎないのに、まんまと引っかかりやがって。
さっきのナパーム地雷がトラウマになっているらしい。いい傾向だ。
『ポォメェェェェ――ッ!』
一声上げると、すぐに気付いた飛竜が背後から急降下してくる。
俺はタイミングを合わせて圧縮空気を噴射し、ジャンプした。
背中にガツンと衝撃。
俺の左手がサバ頭の背骨を掴むと同時に、バンッと衝撃波を身体に感じ、地上の光景が凄い速さで流れて遠ざかる。
飛竜が甲羅を掴んで上昇しているのだ。
ちゃんと頭が正面に向くように吊り下げてくれている。
俺の考えが『ポメェ』だけで通じるとは感激だね。
さすが俺の嫁だ。
後でペロペロしてあげよう。
そのためには――
俺はサバ頭を槍のように切っ先を正面に向けて脇に抱える。
飛竜は東京ビッグサイトを盾にしながら大きく旋回すると、Uマンを正面に捉えて爆撃コースに入った。
不意に羽撃きしてローリングする。
直後、破壊光線が身体の下を掠めて通過した。
飛竜は何事もなかったようにコースを戻し、飛行速度を増す。
そうだ、それでいい。
次のビームを撃つ前にぶつける!
『ヒャッハー! 初めての共同作業ってやつだぜェェェ~!』
お前が言うな。
飛竜が俺を空中でリリースするのと、Uマンがビームを吐くのが同時だった。
『ギュアアアアァァ――ッ!』
ビームは俺の頭上を通過し、飛竜の悲鳴が遠ざかる。
食らったのか!?
寸前に上昇したはずだから、直撃ではないと信じたい。
Uマンの背中から伸びた〈光の槍〉の間に膜が張っている。
槍が折れているためひどく歪だが、ムササビの飛膜くらいの面積はある。
まさか〈光の翼〉――?
飛び上がって身を躱すつもりか!?
させるかァァ――ッ!
俺は体内に蓄えた圧縮空気を一気に解放し、飛距離を伸ばした。
ドンピシャだ。
Uマンがフワリと浮き上がったところへ、サバ頭の切っ先がその胸板を貫いた。そのまま一緒にゆりかもめの高架を飛び越え、その先にある海辺の公園に墜落し、昆虫標本よろしくサバ頭で地面に縫い付ける。
どっ……どうだ!?
こいつが生き物かどうかは分からんが、これで死なないとしたらどうやって殺せばいいのかもう分からんぞ。
しかし……クソッ! こいつ! ドデカい剣で串刺しにされてるってのに!
オイルみてーな青い体液がピュピュッと染み出すくらいで大量出血しねー!
Uマンが首をもたげ、破壊光線の発射口を俺に向けた。
離れようとしたが、いつの間にやら細い両手に甲羅を掴まれている。
これはヤバい。
さあ、ここで最後の問題だ。
このほぼ密着した至近距離。
武器はもうない。
圧縮空気も在庫切れ。
肝心のサバ頭は盾代わりにできない。
どう躱して、勝利する――?
さっきまでの俺ならパニックに陥ったり、頭が真っ白になったり、こりゃダメだと観念しそうな局面だが、今は違った。
俺の左目には、攻撃すべきポイントが、Uマンの致命的な弱点となる部位が、はっきりと見えていたからだ。
ついでに攻撃方法も。
……え? どうせ都合よく新しい超能力が目覚めるんだろって?
違うんだなあ、それが。
それは、新しくもなければ、超が付くほどの能力でもない。
もともと持っていたのに今の今まで使うことを忘れていた、カメの本能ってやつだ。
つまり――
俺は、破壊光線が発射されるよりも早く、瞬時に首を伸ばして、Uマンの喉笛に食らいついたのだ。
カメが鈍重なばかりだと思うなよ。首が届く間合いなら素早いんだぜ。
渾身の噛みつきで首の骨ごと喉笛を砕いてやると、ビーム砲に回されていたエネルギーだろうか、目映い火花が傷口から噴き出した。
甲羅を掴んでいた両手が力を失って落ちる。
Uマンの両目の発光体が点滅する。
もちろん、その光が消えるまで放すつもりはない。
少し気が早いかもしれないが言っておこう。
カメでよかった!
もう一度言う。
本当にカメでよかった――
★
『――私の言葉が理解できるかね?』
次に目を覚ました時、俺は透明な液体で満たされたカプセルの中にいた。
視野がおかしいな。
左右でせいぜい一八〇度から二〇〇度くらいしか見えない。
立体視できる範囲が広いのはいいが、背後がほぼ死角になってるのが不安だ。
『脳波の状態から聞こえていると判断して、このまま続けさせてもらうよ』
マイクを手に話しかけているのは白衣を着た女だった。
白衣といってもナースじゃなくて、研究者の着てるロングコートみたいなやつだ。
年齢は……三十代半ばってとこかな。
顔はそこそこ整っている造形だと思うが、化粧っ気はなく、何日も洗っていないらしいボサボサ頭で、寝不足なのか目の下にはくっきりと隈があり、胸元にループタイをぶら下げたシャツはくたびれていて、袖口にはコーヒーをこぼしたらしい染みがあり、街の用品店で適当に買ってきたような名状しがたい柄で妙にフリフリしたオバサンスカートが全然似合っておらず、視線をさらに下に向けるとペイズリー柄のストッキング(レギンス?)にレッグウォーマーに安全靴という、何が何やらよく分からないセンスである。
洗濯物が溜まりに溜まった挙げ句着るものがなくなり、仕方なくタンスの奥から引っ張り出してきた服を適当にコーディネートしたって感じだ。
服はナフタリン臭そうだし、中身の方も臭いそうだ。
でもオッパイがでかい。
シャツは第二ボタンまで外していて、胸の谷間と黒いブラが覗いている。
脱いだらけっこうセクシーなのかもしれないが……でも、お腹がたるんでそうだ。
たるんたるんのたぷんたぷんだな、たぶん。
『バストサイズは九十二のFだ』
ほほう、それはそれは。
『ウエストとヒップについては機密事項とさせていただく』
いいよ、別に知りたくもねーし。
『うむ……実に素直な反応だ。大変よろしい』
白衣の女は手元のタブレットPCの画面を見ながら頷いた。
『君の視線の動きと生理反応は、健康な性欲を持つ人間の男性のそれとあらゆる点で一致している。おめでとう』
何がめでたいのかよく分からんが……
『人間に欲情するのは人間の証だからな』
なるほど……って、いや待て、決して欲情してはいないぞ?
胸に目が行ってしまうのは男の本能のようなもんだし……ああ、つまりそのことを言っているのか? ならば、よし。
しかしこの女……いったい何者だ?
カプセルの中から見えるのは、情報機器やモニターがたくさんある管制室みたいな感じの部屋だった。
だが光の屈折の加減なのか、はっきり見えるのは立っている女医(?)とその周辺だけで、奥の方はぼやけてよく分からない。
女の他にも白衣を着た人間が数人、黒い服の人間も居るようだが、把握できない。
自分の状態もよく分からないな。
液体に浸かっていて酸素マスクもしていないが、息苦しさは感じない。
四肢の感覚はぼんやりしている。
肉体の輪郭が曖昧になっている感じ。
『さて、まず確認しておきたいのだが……君のことをどう呼ぶべきなのかね? 「君」か? それとも「君たち」か?』
俺が何人もいるように見えるのか?
もしかして怪獣の代表として扱われているのか?
『ふうむ……君は自分自身を個人として認識しているようだな。しかし、やはり自分の状態がよく分かっていないようだ。よろしい、順を追って説明しよう』
どうやら自己紹介する気はないらしいが、白衣の胸に留めてある身分証には『四至本』とある。
読み方が分からん……『ししもと』でいいのか? それとも『よしもと』か?
まあいい。
一応博士っぽいから『四至本博士』と便宜上呼ぶことにしよう。
カプセルの内側に画像が表示された。
透過型のディスプレイになってるとすれば結構高性能だぞ。
映し出されたのは、市街地を上空から撮影した静止画だ。
市街地の真ん中に、明らかに異質な物が映っていた。
巨大な……顔!?
それも、睨みつけるような恐ろしい憤怒の表情。
金剛力士像? それとも角のない般若の面か?
いや、違うか。
背中の模様が人間の顔にそっくりな昆虫がいるが、それと同じで、モザイクのような細かいパーツの集まりが、たまたま人面っぽく見えるというだけのことだ。
たまたまじゃなければ現代アートの類かな。
ある決まった角度から見ると地上に人の顔が浮かび上がるっていう――
静止画だと思っていた画像が不意に動き出した。
巨大な般若の面が、左右に揺れながら、市街地を進んでいく。
……あれ?
般若の面から、黒い鱗に覆われた手足と尻尾が生えている。
よく見れば頭もあるぞ。
こいつは爬虫類型の怪獣だ。
怪獣の行く手に高架線が横たわっていた。
……嫌な予感がする。
いったん引き返した怪獣は、呆れるほど遅い助走からのジャンプで高架を飛び越えようとして――上に乗っかった。
手足が宙に浮いてしまい、二進も三進もいかなくなる。
この後の展開は予想できる。
尻尾を何度も振ることで重心を移動させ、高架の向こう側に降りようとするが、橋脚が重量に耐えきれずに折れて高架ごと倒れ込むんだ。
なぜ分かるのかって?
映っている怪獣が、この俺自身だからさ!
しかし何だ、この甲羅は!?
背甲の絶妙な重なり具合で般若の面に見えるって、そんな面白いカメがいるか!
平家蟹じゃあるまいし。
でなきゃ極道モンの入れ墨かよ!?
まったく平和主義者にゃ見えねーぞ、これ。
サバ頭を担いだ姿はさぞかし似合ってたろうな。
映像は進み、俺の記憶の通り、怪獣は高架ごと倒れて向こう側に頭から突っ込んだ。
そこで映像はいったん停止し、巻き戻されて、再び幅跳びの失敗から高架破壊までの動きがコミカルな早送りで繰り返される。
しかも軽快な『マンボ№5』のBGMとともに――?
何じゃこりゃあああ!?
記録映像じゃなくてMADムービーじゃねーかよ!
『これは動画サイトにアップロードされた流出映像だ。すでに再生回数が一千万回を突破している超人気動画だぞ。おめでとう』
うおおおおっ、やめろォォォォ――ッ!
あの時のヘリだな!?
やってくれたな!
おのれ~、やはり万難を排してでも撃墜しておくべきだった!
あの時〈ナパーム・ブレス〉さえ使える状態だったら……
『まあそう興奮するな。君の動画のおかげで全世界に怪獣災害の実情を知らしめることができた。当初は情報管制が徹底されていたからな……ちなみに関連グッズの収益は怪獣災害の補償に充てられているから安心していい』
人気に当て込んでグッズまで売られてるのかよ!
俺のぬいぐるみとかフィギュアがクレーンゲームの景品になったりしてるのか?
『ハリウッドから映画化のオファーも何本か来ているぞ』
マジで!?
どういうことだ……話からすると、俺が眠っていたのは一日や二日じゃなさそうだぞ。
『すまんな。再生するファイルの順番を間違えて話が脱線した』
本筋に入る前から脱線してどうする。
どうもこの四至本博士、話があっちこっちに飛ぶタイプらしい。
『君は映像の中の怪獣が自分だと認識できているようだな。追い追い確認するつもりだったが手間が省けた』
博士がタブレットを操作すると、ディスプレイに怪獣のスチルが次々に表示された。
ほとんどは見たことのある怪獣で、ユグドラシルに集まった面子が揃っている。
『日本国内で確認された怪獣は君を含めて二十八体だ。スカイツリーに集まったのはこの内の二十一体――その時点で生存が確認された怪獣すべてだった』
二十三区代表が集結したっていう印象はあながち間違ってもいなかったようだな。
しかし二十八体もか……そりゃあ一匹あたりの対応も手薄になるわ。
『世間では君らを二十八宿になぞらえて分類し、命名しようという動きがある。君は〈北方玄武〉の〈はつい〉、君とつがいになったワイバーンは〈南方朱雀〉の〈たまほめ〉という具合にな』
へえ、なかなかオシャレですな。
『もっとも、現場で君を観察していた我々の間では〈ポメラ〉で通っているがね。もちろん「ポメェ~」っと鳴くからだ』
やっぱりかよ!
人間の耳でもマヌケな感じに聞こえてたか……般若って呼ばれないだけマシだが。
『自衛隊での呼称は〈般若〉で統一されていて、公式には〈般若亀怪獣〉だが、さっきの映像にいち早く〈ポメラ〉のタグを登録したから、世界的にはそれで通用している』
どうして自慢気なんだよ!?
よくやったと褒めてほしいのか?
確かにそっちの方がチビッ子にも親しまれやすそうだけれども。
『話がズレた。君の反応がいいのでつい雑談に興じてしまうな……本題に戻ろう。君たち怪獣の出自についてだ。結論から言えば君たちは人間だ』
なぬっ、急に核心を!?
『さっきの質問の続きになるが、君は自分を一個人として認識しているな? しかし、ただの人間が、質量保存の法則を無視して巨大化するわけはない。その点について奇妙だとは思わなかったのか?』
そりゃあ真っ先に思ったさ。
でも生き延びることに必死で、落ち着いて考える暇なんてなかったんだよ。
あんたが怪獣博士なら、当然、納得のいく説明ができるんだよな?
『怪獣は一体あたり、およそ三万人の人間が融合して誕生する』
………………
…………
……
『ポメラ出現と前後して、板橋区赤塚地区周辺では三万二千六百七十二人が行方不明になっている。他の怪獣の出現地域でも同様のパターンが認められる。そして怪獣の死骸から検出されるDNAはすべて人間のものだ。おおよそ三万人分のな』
………………
…………
……
すまない、あまりにブッ飛びすぎて、ちょっと何を言ってるのかよく分からない……
目が点どころか、脳が点になってるんだが。
『質量から見ても辻褄が合う。生存者の証言で、無意識のまま整然と行進して一箇所に集まる市民の様子が報告されている。太陽嵐の影響で衛星が死んでいなければ、怪獣誕生の経緯をつぶさに観測できたはずだが――』
つまり状況証拠しかないわけか。
三万人とか、街ひとつ丸ごとじゃないか。
俺が目覚めた時、確かに周囲に人が少なすぎるとは思った。
とっくに避難した後で、野次馬が残ってるだけだろうと思っていたが……
交通機関が止まっていたのも通信障害とかトラブルがいろいろあったせいだな。
『何よりの証拠は君自身だ。その行動から、自衛隊との交戦を避けようとする明確な意図と知性が感じられたのは君だけだからな。自衛隊は少女の姿に擬態した怪獣を保護していたが、外見に反してあれには人間的な知性は観測できなかった。だが君がコロッと騙されたのを見て確信したよ。それで君の可聴領域で呼びかけてみたら……「ビンゴ!」だ』
スカイツリーに来た青いヘリはあんたが寄越したのか!
あのタイミングでの呼びかけには痺れたね。
間に合ったとは言い難いが、人間として希望が持てた。
そっちの事情は何となく分かる……だが、一番肝心なことが残ってるぞ。
今のところ巨大生物の質量の問題しか説明できていないじゃないか。
新たなスチルが表示された。
ずいぶんと粗い画像だが、俺が〈Uマン〉と名付けた銀色の巨人であることは容易に判別できる。
『怪獣災害の謎の核心は、この銀色の肌の巨人にある。これは他の怪獣とは本質的に異なる存在だ。形態こそ人型だが、能力にせよ生態にせよ、あまりに既存の生物とかけ離れている。地球外生命体なのか、地球上に発生した全く新しいイレギュラーな存在なのか――それは分かっていない。ただ、すべての怪獣がこの巨人と戦い、滅ぼすことを目的としていたことは確かだ。君がこの巨人を倒して間もなく、生き残ったすべての怪獣が活動を停止して休眠に入っているからな』
すると怪獣災害はひとまず終息したわけか……そいつは何よりだ。
『この巨人を〈ADAMⅢ〉と呼ぶ者もいる。怪獣という悪魔を滅ぼすために降臨した神の使いだとな。しかし事実は逆だ。怪獣災害はこの巨人が現れて以降に始まったことは証明されている。ちなみに、我々はこの巨人を便宜的に〈アンノウン・マン〉――略して〈Uマン〉と呼んでいるが』
あんた、センスが俺と同じだな!
親近感湧くわ-。
『怪獣が人間の融合体であり、その元凶がこの巨人にあるにせよ、正体が不明である以上、所詮は憶測の域を出ないのだが――有力とされる仮説がいくつかある。ひとつは巨人が宇宙のハンターで、怪電波で人間を寄せ集め、ハンティングの獲物として相応しい巨大生物に改造したという説だ』
いかにもB級SF映画にありがちだな話だな。
昼下がりに地方局のテレビで吹き替え版を流してそうなやつ。
『同じ異星人でも、人類を食料とするべく飼いやすくて食いでのある巨大生物に改造したという説もある』
それにしては美味しくなさそうな怪獣ばっかりだったが。
『銀色の巨人は異星人、怪獣は超科学によって生み出されたモンスター――おおむねそんなところに落ち着きそうな雲行きだが、私の見解は異なる。巨人が異星生命体である可能性については否定しないが、怪獣は純然たる地球産だと私は考えている。スカイツリーと同化した巨大植物〈世界樹〉がその鍵だ。Uマンという地球の生態系にとって脅威となる異物の侵入を感知し、免疫抗体として怪獣を誕生させたのだ』
画像が切り替わった。
市街地の真ん中に鎮座する巨大な繭というか、蛹のようなものが映っている。
怪獣を飲み込んだハエトリグサが膨らんだものか?
『これは少女型怪獣が入っていた繭だ。他の怪獣の出現地点にも〈世界樹〉の地下茎の痕跡が確認されている』
ユグドラシルが怪獣の生みの親ってのは確定か……俺もそれは思った。
怪獣たちを操ったり、改造強化したりとやりたい放題だったからな。
『〈世界樹〉の出現は、Uマンによって三体の怪獣が倒された時点でのことだ。怪獣単体ではUマンに勝てないと判断し、強化改造と組織化を図ったのだろう。〈世界樹〉の支配に抵抗したのは君とワイバーンの二体……二人だけだが、最終的には〈世界樹〉の果実を食してみずからを強化し、Uマンに挑んだ』
勘違いされちゃ困る、そこは人間の意志でやったことなんだぜ。
外からはユグドラシルに操られての行動に見えたかもしれないが……事と次第によってはUマンの味方をした可能性だってあるんだからな。
でもUマンを見た時に「敵だ」と直感したのは怪獣の本能として正解だったわけか。
『しかしこれだけ揃っている証拠を無視して、Uマンを救世主扱いして崇拝する人間もいる。殊に欧米ではな。当初、米軍はUマンと共同戦線を張る方針で動いていたし』
案の定だな。
しかしまあ、Uマンは怪獣と戦っていたわけだし、人間の立場ならあっちのが正義の味方っぽく見えたとしてもしょうがないか。
『だからこそ、君たちに人間の心が残っていると証明することには大きな意味がある。今も怪獣を保護するための法整備を進めているところだ。君たちが日本国民としての正当な権利を認められるようにな』
もしかしてグッズ展開や映画化も世間に認知させるためのイメージ戦略か?
だとしたらなかなかのアイデアマンが味方にいると見た。
『何より、第二第三のUマンが現れないという保証はない。その日に備えて、君たちの身柄は我々で保護する。安心してくれたまえ』
そいつは有り難い話だが……ところで、今の俺はどういう状態なんだ?
それに博士には俺の考えてることが筒抜けみたいなんだが。
『よろしい。見せてあげよう』
ディスプレイの画像ではなく、カプセル自体が回転して視界が移動した。
正面にはツルツルした真っ黒の壁――何も見えないぞ?
『照明を頼む』
バッ、バッ、バッ……と、黒い壁の向こうに明かりが灯る。
壁に見えたのは一面のガラス窓で、その向こうは円形の大きな建造物の内部だった。
クリーム色の天井はメロンパンよろしくドーム状に膨らんでいる。
東京ドームをひと回り小さくしたようなサイズだ。
どうやら俺がいるのは球場のボックス席くらいの高さにあるフロアらしい。
次々と点灯される強力な照明に照らし出されたのは、巨大な白い岩山だった。
横に停車しているトラックと比較して、岩山の幅は優に百メートルはあった。
全体的にゴツゴツしていて、ところどころ鋭角に尖っている。
シルエットだけで言えばサザエに似ていなくもないが……違うな。
自然のものにしてはどこか奇妙な形だった。
厳しい気候にさらされてこんな形に削られたという感じでもない。
表層には純度の高い結晶のような透明感がある。
『ここはお台場の潮風公園の敷地内だ。移動するには大きすぎたし、適当な移送先もなかったので、公園の中にドームを建てた』
言われてみれば床には芝生や石畳が見える。
『他所に運ぶにはどうにかして引き剥がす必要があるが……それは気が引ける』
引き剥がす……まさか!?
俺は岩山をよくよく観察し――やがて、閃くように卒然と理解した。
アハ体験というやつだ。
博士の言葉から、俺はてっきりカメ型怪獣が横たわっているものと思っていたが……事実は少し違った。
怪獣は二匹いた。
地に伏せたカメ型怪獣に、覆い被さるようにして寄り添っているのは――飛竜だ。
翼で覆い隠されているため甲羅は見えず、シルエットも別物になっていた。
二匹とも身体が大理石のような色と質感に変わっているため、境目が分からず一塊の岩山に見えたのだ。
Uマンが倒されたことで怪獣たちは活動を停止したって……つまりこういうことか。
『石化しているように見えるが表皮は純粋な炭化ケイ素、その下はガラス繊維の多層構造で、核爆発にも耐えうる強固な装甲となっている。代謝が極限まで抑えられたクリプトビオシスに近い状態だから、このまま何百年も眠り続けることが可能だろう』
スゲーな、怪獣の能力!
しかし……博士よ博士、素朴な疑問なんだが……そこで寝ているのが俺なら、それを外から眺めているこの俺はいったい何者なんだ!?
『ここにいる君は、ポメラの細胞からクローン培養したボディを利用したサイバネティクス・インターフェイスだ。ポメラの脳と電気的に接続された生体端末といったところだ。意識の主体はあくまで怪獣側にある。言わば神を降ろすための器――つまり依り代だな』
幽体離脱してるようなもんか。
俺の本体は眠ってるわけだから……要は夢を見ているのと同じことか?
手の込んだ夢オチだな、おい!
『ちなみにワイバーンの分のインターフェイスも用意だけは済んでいる』
カプセルがさらに九十度回転すると、隣に銀色の甲虫みたいな物体があった。
モーター音とともにそれが起き上がり、カバーが開く。
現れたのは、液体で満たされた透明なカプセル――その中には、一糸まとわぬ姿の女の子が眠っていた。
四肢の先は機械に組み込まれた状態で、後頭部や背中からは太いチューブが何本も伸びてカプセルと接続されているようだ。
おそらく、見ている俺も同じような状態なのだろう。
年齢は十四、五歳くらいかな。
陽に当たっていない白い肌に、赤味の強い髪。
ちょっと怒ったような眉に、すっきり通った鼻筋、厚めの唇は不機嫌そうに引き結ばれている。
可愛いというより、じゃじゃ馬な感じの美人だが――正直、好みのタイプだ。
やっぱり俺がドMだからか?
しかし眠ってるのに強情な性格が丸わかりってどんだけだよ。
クローンというとモヤシなイメージなのに、身体の方は発育がよく、筋肉質で健康そうだ。
しかし……ええい、肝心な部分が金属のプレートで巧妙に隠されている!
背伸びしたり下から覗いたりしたいが、生憎と俺の身体はガッチリ固定されて動かない。
『君がオッパイ好きなのは分かったから自重したまえ。彼女の方は接続すべき神経チャンネルが未だ特定されていない。依り代は用意したものの〈神降ろし〉を行うにはまだ条件が揃っていないのが現状だ』
そうか……それにこの〈彼女〉が目覚めたところで、お互いカプセルに入ったままじゃ何もできないし、人間に戻れたわけじゃないからな。
理想のハッピーエンドにゃほど遠いよなー。
不意に、ブザーの音とともに視界の外で回転灯の黄色い光が点滅しはじめる。
しかし不測の緊急事態というわけではないらしく、博士に慌てた様子はなかった。
『安全を期するため、このシステムの起動には制限時間が設けられている。あと一分で自動的に接続が切れる。もう少し話していたかったが……』
もう終わりって……余計なおしゃべりが多すぎたんだよ!
『最後にひとつ確認しておきたい。君には個人としての記憶はあるのかね?』
ここに至っても答えはノーだ。
思い出すにしても誰の記憶かが問題だよな……なにせ三万人分だし。
博士は岩山に目を向ける。
『当時、私の従兄弟が赤塚のアパートに住んでいた。怪獣に踏みつぶされていなければ、おそらく君の中にいるはずだが――』
俺は四至本博士の横顔を見た。
どうにかして記憶を辿ろうとしたが、いかんせん、懐かしい気分は湧いてことない。
それに従兄弟ってことは歳が近いんだろ?
俺は自分のことを何となく大学生くらいだと思ってるから年代が合わないよなあ。
年代か……待てよ?
クローンといっても成長するには普通の人間と同じ時間がかかるんだよな?
成長を促進する技術があったとしても、ここまでの準備には何年もかかるだろう。
それに怪獣グッズが出たり映画化の企画が持ち上がったりしてることを思えば、最低でも十年は経っていないとおかしい。
〈彼女〉のクローンが見た目通りの歳だとすれば……当時の博士は二十代か。
大学生の従兄弟がいても不思議じゃないな。
不思議じゃないが……悪い、やっぱり思い出せねーわ。
あれ? 急に眠気が襲ってきたぞ。水温が下がっている。
瞼が落ちる前に、せめて〈彼女〉の姿を網膜に焼き付けておくとするか。
まあベストとは言い難いが、これまでの中で一番マシな夢オチだったな。
あれだけのトンデモ大怪獣バトルを繰り広げておいて、辻褄の合う説明がついたり、事態が丸く収まったりするわけがないんだ。
リアリティがない。
ご都合主義にもほどがある。
どうせ次に目覚める時は……いや、いいか。
最悪の想像をしたところで、現実はそれをあっさり超えてくるんだ。
先回りして心配するこたーない。
明日のことを一切気にせず眠れる男こそ真の勇者である――みたいな名言を誰か言ってなかったかな。
誰でもいいか。
あーもうダメ、超眠い。
………………
…………
……
それでは皆さん、おやすみなさい。
また、明日――
[俺的怪獣図鑑その⑥]
※このデータはすべて俺の主観であり多分に推測と想像を含む。
■ファイル№1[空飛ぶロケットガメ]更新!
[名称]ポメラ(俺)/鳴き声が「ポメェ~」だから。
[分類]カメ型怪獣
[身長]七十メートル級
[体重]たぶん重量級
[地形適応]陸・水・空/甲羅内部に固形燃料ロケット構造を内蔵。
[移動力]陸B(四足歩行時)/陸C(直立二足歩行時)/水C/空A(ロケット飛行時)
[機動力]B/圧縮空気の容量、出力ともにアップ。
[攻撃力]S/もはや技の満漢全席。
[装備]サバ頭の剣(ムラサメにランクアップ?)
[必殺技]
スーパー・ナパーム・ブレス:新生強化ナパーム。
シャボン・ジェッター:舌先から泡を噴射。
デッドリー・レインボー・ストーム:両腕の鰭から発射する毒の虹。
ジャックナイフ・ラム:眉間から伸びる高周波振動ナイフの角。
[防御力]A/甲羅の模様が般若っぽく見える。
[備考・補足]ユグドラシルの黄金の果実を食って超進化した最終決戦仕様。
■ファイル№2[俺の嫁]更新!
[名称]黄金飛竜
[身長]百メートル超級/尻尾を含めると百五十メートル?
[体重]俺の3/2くらい
[分類]ドラゴン・ワイバーン型怪獣
[地形適応]空
[移動力]A/翼による飛行能力がダントツ。
[機動力]A
[攻撃力]A/嘴と爪、投げ落としが強い。
[必殺技]
ナパーム・ブレス:射程距離・弾速ともに性能アップ。
フラッシュ・ブレード:羽根手裏剣。着弾後は閃光とともに高温で燃え上がる。
ユピテル・アンカー:長い飾り羽根の先の鉤爪で敵を捕らえて電撃を流す。
[防御力]C
[備考・補足]ユグドラシルの黄金の果実を食って超進化した最終決戦仕様。
■ファイル№7[真・スカイツリー]更新!
[名称]ユグドラシル/世界樹
[身長]六百三十四メートル+α
[体重]測定不能
[分類]超巨大植物怪獣
[地形適応]陸
[移動力]なし
[機動力]なし
[攻撃力]C/直接攻撃力は高くないが、相手を無力化する能力に長ける。
[防御力]C/植物なのでたぶん火に弱い。
[備考・補足]すべての怪獣を生み出した存在? フェロモンによって怪獣を自在に使役する。地上に現れたのは株のひとつにすぎないのかもしれない。
■ファイル№8[銀色の来訪者]更新!
[名称]Uマン/「UMA-MAN」の略。
[身長]八十メートル
[体重]俺の半分以下?
[分類]宇宙魔人
[地形適応]陸・空
[移動力]B
[機動力]B
[攻撃力]S/出す技はほとんどの怪獣を一撃で殺す威力。
[必殺技]
虹色光輪:バリアーを収束した光輪。何でも八つ裂きにする。
光の槍:肋骨が変形した伸縮自在の八本の槍を操る。
破壊光線:口?から発射するビーム。
[防御力]S/無敵のバリアーを持つが、光輪と同時には使えない。銀色の液体金属をスーツのように纏っている。
[備考・補足]やっぱりラスボスだった。怪獣の天敵。マジ強すぎ。
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