『俺は怪獣 / I, Kaiju』コメンタリー④

■平成か昭和か、それが問題だ


 主人公怪獣のモチーフがカメという段階でバレバレなので説明するまでもないこととして触れてこなかったが、本作は大映の怪獣映画『ガメラ』シリーズのオマージュである。


 ガメラといえば東宝のゴジラと並び立つ怪獣映画シリーズで、『大怪獣ガメラ(1965)』から『宇宙怪獣ガメラ(1980)』までのいわゆる昭和シリーズと、『ガメラ大怪獣空中決戦(1995)』から『小さき勇者たち~ガメラ~(2006)』までの平成シリーズがある。

 自分は平成ガメラ三部作を怪獣映画史上最高傑作と考えているが、実を言えば昭和ガメラシリーズに対する思い入れが強い。


 子供の頃からゴジラよりも断然ガメラ派なのだ。


 もともと原水爆の恐怖の象徴として創造されながら怪獣対決路線が続く内にヒーロー化したことで子供心にも何だかよく分からない存在になっていたゴジラと違い、ガメラのキャラクターは明確で終始ブレがなかった。


 カメの怪獣だから見た目はユーモラスで鈍重そうなのに手足を引っ込めて回転ジェットでUFOの如く空を飛ぶという奇想天外な超能力を持ち、子供好きで、性格は基本的に無邪気て天真爛漫、しかし敵怪獣との戦いでは緑の血を流して死闘を演じ、最後は勝利して颯爽と飛び去っていく。

 他に類を見ない飛行能力により敵怪獣が暴れている現場にどこからともなく現れることができ、甲羅による防御力の高さで敵怪獣の攻撃を存分に受けて耐えることで相手の実力を引き出し花を持たせるという怪獣対決もののホスト役として理想的な能力。

 基本設定からしてかなり荒唐無稽なので映画全体に何でもありの大らかな雰囲気が満ちているのも魅力のひとつだ。


 平成ガメラシリーズは綿密なSF考証を加えることでガメラというブッ飛びすぎなキャラクターにリアリティを与えて見事な王道怪獣映画に仕上げているが、それもオリジナルの昭和ガメラが持つ奇抜なアイデアと発想の飛距離があればこそだと思っている。


 なので「平成ガメラはいいけど昭和のはお粗末だよねー」みたいなdisりは断じて許さない立場である。

 だいたい「宇宙空間を散歩中に侵略宇宙人の先遣隊がケンカ売ってきたのでとりあえず撃破する主役怪獣」が昭和ガメラ以外にいるか?

 昭和ガメラならレギオンが地球に到達する前に宇宙空間で先手打ってるっつーの!

 ただの巨大生物どころかコズミック・ビーイングの類いだからな!

 分かったか? 分かればよろしい。

 ちなみに「昭和ガメラを全肯定したうえでSF考証を加えてアップデートした、平成三部作とはまったくテイストの異なる新作ガメラ」の企画書はすでに用意してあるので興味をお持ちの関係者の方はご一報ください。


■サバ頭について


 昭和ガメラといえば敵怪獣も個性的。

 頭がどでかい出刃包丁になってる唯一無二のフォルムを持つ『大悪獣ギロン』は大好きだし、キャラ的にはかなり残念ながらデザインはシャープとにかくカッコいい『深海怪獣ジグラ』。

 敵怪獣をバリエーション豊かにするため様々な候補を検討するにあたり、

「昭和ガメラオマージュ怪獣を一体は出したい」

「飛行タイプ、陸上タイプときたら次は水中だよな」

 ということで魚類の怪獣を出したいと考えた。しかしジグラって見た目だけでキャラ薄いしな……


「じゃあギロンとジグラをさせてみたら?」


 ――かくして誕生したのがサバ頭こと『セイバーヘッドシャーク』である。

 テキストメディアで怪獣の姿を描写するのは厄介なのだが「頭がでっかい刃物になってるサメ」って一言で表現できるのでメチャ楽。

 しかも倒した後で「あれ? これって単体で武器になるんじゃね? しかも刃に顔がくっついてるからファンタジーものの『意思を持ってしゃべる剣』みたいにならない?」と気付き、ここにきて遂に「実体のあるイマジナリーフレンド」の爆誕と相成った。


 ちなみに本作は『パシフィック・リム』公開の数ヶ月前に脱稿したため、同映画の登場怪獣との関連はありません。

 あと、コメンタリーに書くの忘れてたけど第三話のDSK48の攻撃が「背中から放射する虹」なのは当然『冷凍怪獣バルゴン』のイメージ。


■第四話について


 第三話の趣向は「生理的に無理な外見のやつが襲ってくる」そして「捕食した敵怪獣の能力を獲得する」という成長要素だった。

 その両方を裏返しにしたのが今回の第四話である。

「生理的に攻撃しづらい外見のやつに襲われる」

「自分が食われて能力を奪われる側になる」

 怪獣としてのフィジカルもピンチなら人間としてのメンタルも大ピンチというなかなかの絶体絶命回となった。というか実質的に主人公敗北回。


 巨大な幼女の姿をした吸血怪獣『G.Y.JOE』のコンセプトは「擬態する怪獣」である。

 当初は擬態=カムフラージュでビルの姿に擬態して都市の風景に溶け込むとか透明になる等の能力を考えたものの、シャボン・ジェッターを利用すれば簡単に見破れてしまうため却下。

 本作の執筆中に同業の友人に登場怪獣についてリクエストを訊いたところ「ヒーローものの定番といえば偽物。主人公の偽物が出てくるのはどうか」とのアイデアをもらったが、自分の姿もよく分かっていない主人公にそっくりの偽物が出てきてもしょうがないので最終的に「人間の子供の姿に擬態した怪獣」とした。


 なお、実写ドラマ化もされた怪獣SF小説『MM9』(山本弘・著)シリーズに登場する某怪獣とは一切関係ありません。

 悪意あるパロディでもありません。

 訴えないでください!



 というわけで今回はここまで。

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