『俺は怪獣 / I, Kaiju』コメンタリー③

■逃れ得ぬ作風


 本作は雑賀礼史名義で書いてきた過去の作品とは趣向やスタイルが全然違うので発表時には別のペンネームにすることも考えていた……のだが、実際に出来上がってみると「どこをどう見ても雑賀礼史の犯行」になっていたので正直ビックリした。

 で、ふと過去作を振り返ってみると――おおむね「主人公が生身で怪物と戦う話」しか書いていない!

 というか『リアルバウトハイスクール』の南雲慶一郎なんて「人間サイズの怪獣」として書いてたし。


 作家はデビュー作から同じテーマを繰り返し変奏するという。

 結局「怪物じみた主人公が怪物相手にステゴロする話」というのは雑賀礼史の作風のド真ん中ド直球であって、人間ドラマというガワを取っ払ったことでむしろ本質が剥き出しになったというか。

 なので、本作を人に紹介する時は「雑賀礼史のいつものやつ」でOKです。はい。


■主人公の名前


 主人公自身が怪獣なので恒例の命名イベントはないのだが、主人公の正式名称はちゃんとある。


 その名は『ポメラ』。


 理由は本編のほとんどをキングジムのデジタルメモ『ポメラ』シリーズで書いているため(初代機の『DM-10』から『DM-20』を経て『DM-100』までを本作の執筆に使用。清書はPCの一太郎で)。

 鳴き声が「ポメ~~」なのは名前が『ポメラ』だから。


 ところでDM-200になっても一度に書けるテキストが約50000字って小説で原稿用紙換算だと150枚くらい(中編相当)しかないの、どうにかなりませんかねえキングジムさん? 今の4倍あれば文庫本一冊分になるから章ごとに分割しないで済むんだけどなー。


■第三話について


 敵怪獣は各話毎に可能な限りバリエーションを持たせようと考えた。

 第一話はいわゆるドラゴンタイプ、第二話では甲殻類ときて今回は節足動物――というか甲殻類も節足動物の仲間なのだが、第三話のテーマは「生理的に絶対無理なヤツが襲って来る」というもの。一人称の語り部が発狂して実況を放棄するレベルのヤベーのに襲われたらまーこうなるわな、と。


 なにげに本編内で初の怪獣命名イベントであり、おそらく怪獣命名イベント史上最も切実かつくだらねー命名理由を含めて気に入っております。


■イマジナリーフレンド


 第一話の「大仏おばちゃん」に続いて登場する「カニ貴」。

 この「空想の友人」イマジナリーフレンドはいわば脳内会議の具現化であり、主人公の精神がヤバくなると防衛機制として登場する。


 本作は「もしある朝目覚めると巨大怪獣になっていたら?」というアイデアを起点に自分ならどう行動するか、どんな展開やどんな危機があるか等をシミュレートしながら書き進めていくというスタイルなのだが、イマジナリーフレンドの要素は第一話で大仏がいきなりしゃべり出すまではまったく想定していなかった。


 実際、主人公の正気度を測るバロメーターとしても機能するし何より話し相手になるので本当に必要な要素として出てきている。さすが伊達に長く小説書いてないなー、と自分の中の物語演算エンジンに感心した次第。


■よくある成長要素


 第三話で明らかになる「捕食した敵怪獣の能力を獲得する」というギミック。

「カニを食べると泡が吐けるようになる」のは普通に考えるとかなーりトホホなパワーアップなのだが「気門で呼吸している節足動物は界面活性剤で窒息する」という情報を第三話執筆中に知り「え? じゃあカニの泡で直接倒せるじゃん!」となったので主人公のカニ貴に対するリスペクトは本物である。

(本物のカニの泡は界面活性剤ではないけど……)

 ちなみにその情報を知る前までどうやってDSK48を倒すつもりだったのかは思い出せない。


 というわけで今回はここまで。

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