『俺は怪獣 / I, Kaiju』コメンタリー① 

『俺は怪獣 / I, Kaiju』は2010年から2013年にかけて執筆した作品です。

 本作をカクヨムで公開するにあたって解説文を書き下ろし、エピソードの幕間に挿入することにしました。一話毎のあとがきというか、ブルーレイやDVDに特典で付いてるオーディオコメンタリーやメイキングみたいなもんです。

 文字通りの奇想小説でありである本作をより楽しんでいただくための一助となれば幸いです。

 余計な講釈は不要という方は読み飛ばしていただいて結構。


■うっかり思いついたので


 2008年に公開されたJ・J・エイブラムス製作の一風変わった怪獣映画『クローバーフィールド/HAKAISHA』をご存じだろうか?

 大都市を謎の大怪獣が襲い、巻き込まれた一般市民である主人公がその足元で逃げ惑う――これだけならいたって普通の怪獣パニック映画のシチュエーションなのだが、その切り口が斬新だった。


 本編はすべて手持ちのホームビデオで撮影された体の映像であり、まさにその場に居合わせているかのような臨場感、情報がなく何が起きているのか分からないヒリヒリした恐怖や不安感の演出が見事で、怪獣映画という古典的ジャンルにフェイクドキュメンタリーの手法を取り入れることで新たな魅せ方を提示してみせた。


 視点カメラを置く位置を限定するというワンアイデアでここまで面白くできるのか――怪獣映画を観て育った人間として受けたインパクトは半端なかった。


 2008年当時の状況といえば、2004年の『ゴジラ FINAL WARS』でゴジラシリーズが一旦終了、平成ガメラも2006年の『小さき勇者たち~ガメラ~』で終了とまさに怪獣氷河期(ペギラ的な意味でなく)。

 その空白の時期にあって怪獣映画のダイナミズムを新たな視点で蘇らせた『クローバーフィールド/HAKAISHA』――


「怪獣映画は終わった? 売れないから? それがどうした? 俺は怪獣映画が好きだ! 好きだから作った! 文句あるか?」


 そんな剛速球かつビーンボール気味のメッセージが海の向こうから届いたのだ。

 こんなものを見せられちゃあ日本人として黙ってはいられない。


 よし、怪獣ものをやろう――そう決意した。

 とはいえ自分はラノベ作家である。

 怪獣映画を小説でやるのは相性が悪い。ノベライズならまだしもオリジナルで書く利点がほとんどないからだ。だから別のアプローチが必要になる。

 小説書きである自分が怪獣ものをやるとして、をどこへ持っていけば斬新かつ面白くなるだろうか?

 そう考えた途端に、閃いた。


にしたら?」


 そのバカバカしい思いつきがすべての始まりとなった。

 つまり本作は『クローバーフィールド/HAKAISHA』に対する自分なりのアンサーなのである。


■難聴になる人々


 怪獣一人称小説の企画を温めている時のこと。担当編集者や同業のラノベ作家を相手に雑談がてらこの企画について話してみた。


「カフカの『変身』ってあるでしょ? あれの巨大怪獣版を考えたんだけど。ある朝主人公が目覚めると身長50メートル超の怪獣になってんの。でも主人公は自分が人間だって意識があって、自衛隊に攻撃されたら絶対殺されるって思ってるから、どうにか人畜無害の怪獣と思われようとするんだけど、街中を移動するだけでビルとか壊しちゃって……」


 ここまで話したあたりでだいたい全員が同じリアクションをとる。

 突如、難聴を患ったように耳が遠くなるのだ。

 聞き取れなかったのかと思って話を続けても、困ったように苦笑いを浮かべるだけだ。その話はもういいと言いたげな顔で。

 まあ、聞きたくない理由は分かる。


「それ、誰もが思いついて2秒で投げ捨てる類いのアイデアだよ」


「今まで誰も書いてないのは思いついても書かないから」


「かろうじて星新一なら一本のショートショートに仕上げるかもだが長編でやるネタじゃない」


「そもそも受けないし売れない」


「ユー・アー・クレイジー」


 そんなようなことを脊髄反射的に思ったのだろう。

 常識的にはまったくその通りだが実に嘆かわしい。

 まともな作家なら書かないようなネタを料理してこそのラノベだろうに。

 こっちは100%バカウケ企画だと確信して話しているのに、こやつらにはまったく勝算が見えていないのである。


 ならばどうしてくれようか? 答えはひとつだ。

 実際に書いて読ませて分からせるしかない。


 しかし実作については大きな不安材料がひとつ。

 なにしろのである――


■第一話について


 最初のエピソード「俺、目覚める」。

 最初に思いついたプロットをそのまま形にしたものだが、「物語全体の趣向を明らかにする」という第一話の役割を過不足なく果たしているという点で我ながらよく出来ていると思う(※世間が評価しないので自己申告していくスタイル)。


・アバンで一人称の語り部自身が巨大怪獣であること、しかも「怪獣対決もの」であることを示す(ジャンルの明確化)。


・主人公には人間としての自意識はあるが過去の記憶がない。怪獣化の原因も不明(大きな謎の提示/存在の不安)。


・怪獣の身体構造に不慣れなので思わぬ事故が起きる(何度も繰り返されるギャグ)。


・自衛隊に攻撃されたくない(身体的な危機感/動機づけ)。


・東京大仏がいきなりしゃべり出す(メンターとしてのイマジナリーフレンドの登場/サードマン現象)。


・荒川を下って海に出るという基本方針の提示(分かりやすい目標の設定)。


・敵怪獣との遭遇および戦闘(ヒーロー的行動/メインイベント)。


・新たな能力を獲得して危機を脱する(成長要素)。


・戦闘後、意識を失っている間に展開する妄想劇場(夢オチパート)。


・目覚めると怪獣のままで再び海を目指すことに(再スタート)。


・最後に登場怪獣のスペック情報が図鑑形式で付く(コレクション要素)。


 連作短編として全話で共通のフォーマットが第一話で出揃ってるの、実はけっこうすごくない?

 アイデアは奇想天外でも小説としては手堅くオーソドックスに仕上がっているあたりさすがプロの手口というべきか、はたまた根が真面目というべきか(自分で言ってりゃ世話ないが)。

 ラノベの書き方講座でテキストとして使ってもらっても一向に構わない出来ですよ? もちろんご利用の際は金を払っていただくけども。


 さて、今回はここまで。

 実作にあたっての諸々のK.U.F.U.については次回以降に。

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