第三話










メアリー・メイカーは、元軍人である。


基本的には、対テロ部隊に所属していた。

まぁ、戦歴はさておき。


所属しようと思った切っ掛けは、姉であった。

勿論、姉だけを守る為という訳ではない。

姉を守りたかったというのも

あくまで切っ掛けでしかない訳だし。

この技術は、家族の為にも振るうし。

目の前に救うべき対象が居るなら

その為に、この技術は使うだろう。




もしかしたら、いつの間にか

私は、悪魔か

それ以外の何かに

取りつかれていたのかもしれない。


あの時。

あの少年と出会ったあの時。

あの少年に救われたあの時。


目を覚ましたと同時に

気付いた事があった。


私は、”引き金を引けば人が死ぬ”と

思い込んでいた。

”なんの為に使うのか”

”何に向けて使うのか”

”どう使うのか”も考えないで


その醜い支離滅裂な語句に

囚われていた。









高台へと来る。

持ってきた箱を開く。



中には、遠距離狙撃用麻酔銃。

許可は取ってある。










メアリー・メイカーは

これから銃を使う。

自分の意思で。

自分の心で。


技術に使われるのではなく

技術を使って

恩人を救う。



そして、同時に恩人が救いたいものも救う。









『 !? 』







銃声が聞こえる。



クッソ、急がなきゃ。





『(・・・少し遅れたか、畜生)』














体を寝かせ、銃を構える。

スコープ越しに、その場所を覗く。










『 (居た! 夢火・・・・・・・・・・) 』




『 あ、あれは・・・!? 』


















例え、どれ程、強く叩かれようとも

決して揺るがぬ、強き優しさ

どれほど打ち据えられようとも決して崩れぬ

崩れてたまるものかという

赤く、赤く、燃え上がる鋼の意思。

人の心。


あるいわ、日。

燃え上がる日の本。

熱く、温かく、人に熱を与える日。



心だ。

日本とは、優しさの国。












その少年は、普通だ。

優しさをぶつけていた。

結論ではなく

優しさ、そのものをぶつけていたのだ。


金属の棒を受け流し、殴り飛ばし

蹴り飛ばし。

跳ね、走り、飛びつき、怒り。

銃を壊し、四肢をぶつけ、殴り飛ばし。


100体は居よう、有象無象に怯む事など無く

怯む必要も無く

理由も無く

優しさを、ぶつけていた。





だが、一つ妙な事があった。

相手は、そう大した相手ではない。

読める動きしかして来ない。

故に、銃弾を避けるのは容易い事のはず。


なのに、何故。


何故、彼は、銃弾を受けているのか。

態々、血を流し、怪我を負って








『(まさか・・・・・・・!?)』



『(倒した相手の為か!?)』



『(倒した相手に銃弾が当たる危険性を考慮して

  あえて銃弾をその肉体に受けて、戦っているのか・・・・!?)』


















『(な・・・、なんと・・・!

  なんと、揺るがぬ・・・・・・・ッ!!)』







アメリカ、ロシア、インド、イギリス、フランス、オーストラリア、エジプト・・・・




覚悟がないと言っている訳ではない。

意思の硬さが、無いと言っている訳ではない。


だが、他国者故に

日本人ではないが故に

その意思の硬さには、驚いた。


勿論、他国だからって

この発想が出来ないという訳ではない。

そういう訳では決してない。












日本の民この少年は、慈悲をッ。

  慈悲そのものを武器に戦っているんだ!。』









鋼なんてものじゃなかった。

一切の揺らぎも無い。


鉛よりも、重く。

鋼なんかよりも硬い。








其処に。

その姿に。

その生きざまに

彼女は、言葉で言い表せない

『感動』を覚えた













傷を負うか、血を流すか、心臓が止まるか、等

大した問題ではない。

鋭利な刃物があるか

飛び道具があるか

凶器があるかさえ

かの国の者にとっては大した問題ではない。


かの国も、行動原理というものを知っていた。

否、持っていた!。

それは、”人間らしく生き続ける”事。

”優しさを維持し続ける”事。


日本人かの国の行動原理は

ただ、その一点のみ。











あそこには、サムライが居る。

カタナを持たぬ、サムライが

否!、カタナは既に持っている!。

誇りという名の、何事にも変えられぬカタナを!。

どんな名刀よりも硬く、重く、力強きカタナを!。

優しさという、誇りを!、カタナを持っている!!!。




そして、ヤツは知っている。



救済こそ

人間の本能であると







人を憂い、悲しみを覚え

痛みを覚え。

痛みを与えたものを許さず

悲しみを許さず

自らを人ならざるものたらしめんとするものを

一切、許しはしない。



例え、其処が、どのような地獄であろうとも

阿鼻叫喚の世界であろうとも

力があろうとも無かろうとも


奴らは、救済の足を止める事などしない

断じて

決して













誰かが誰かを思い

そして、其処に最善を尽くす事は

なんの特別でもない。

本当に当たり前の事。


ただ、メアリー・メイカーは思った。















『(きっと、居るのだろうが。)』


『(絶対、居るのだろうが)』



『(もし、神が其処に居るのだとしたら聞いて欲しい)』






『(おお、神よ)』






『(あれが)』






『(あれが日本か!あれが我が盟友か!)』






『( あれが日本人か!あれが我が同志か! )』




















メアリー・メイカーは動けなかった。

引き金を、引けなかった。

傍観と、ただ、眺めていた。



































多くの倒れた者たちの中に佇む

一人の少年。

足元には、血溜まり。



誰の血も混じっていない。



これ全て、彼の血であった。




















きィィィ・・・・























扉が開く。









びたびたと音を鳴らし

少年は、家の中へと入る。


二人は、倒れ込んでいた。



傷だらけの少年を前に

倒されたのだ。








階段を、上がっていく。




びちゃびちゃと肉片混じりの血が垂れる。










ドアを開ける。

扉が開いた。

















「 あ・・・あ・・・・・・・・・!!!! 」

















其処には、ぶくぶくと太り切った者が一人いた。

少年は、その者に、近づいて行く。



















「あ・・・あ・・・!!!!」











その者は自身の顔を腕で覆った。










少年は、懐から其れを取り出すと

男の前に置いた。
























「・・・・・・・・!?」
























それは、コンビニによくある

ミックスサラダの袋だった。




























「 野菜・・・、食べないと体壊しちゃうよ・・・? 」







「 ・・・・・・・・・・!!!!!! 」





























少年は、部屋を出た。




階段を降りる。



























二人を見やり



























「 あの子の事・・・、よろしくお願いしますね・・・? 」















そう告げ、微笑んだ。
















「 ・・・・・!!!!!!!! 」



























玄関を出た。



























「(帰らなきゃ・・・)」




























帰り道を歩く。

































きぃぃぃ・・・・






























一同、みんなリビングに居た。

何も言わない。

まだ、あの言葉を聞いていない。



彼が、発するまでは

動いてはいけない。

動く事は、侮辱になる。



























「 ただいま、皆 」









そう微笑んだ瞬間、彼の意識が途切れた。

倒れ込む体。



即座に、ジョニー、マリア、フローラ、メアリー。

一家がその体を受け止め

抱き締める。






























「 おかえり、夢火 」







































『 マリア!、救急車を!、早く!!! 』


『 分かってる。

  メアリー!、応急処置! 』


『 私、救急箱持ってくる! 』


『 ジョニーは、そのまま

  其処のソファーに夢火運ぶの手伝って。

  傷口を刺激しない様に。 』


『 分かった 』


『 そっちを持って。

  慎重に。

  息を揃えて。 』


『 よし、行くよ。

  1、2,3! 』


『 救急箱持ってきたよ! 』


『 ありがとう、フローラ。

  テーブルの上に置いておいて。

  後、予備の包帯とかガーゼとか。

  分からなかったり無かったら

  タオルとか

  私の部屋にある服

  ありったけ持ってきてくれる?。 』


『 うん、分かった。 』


『 ジョニーは、私と一緒に止血手伝って。 』


『 分かった。 』


『 救急車すぐ来るって! 』


『 姉さんは、電話の受付と

  今、フローラが医療器具と私の服探しに行ったから

  一緒に探して貰えるかな? 』


『 分かった!。 」



ビリィ!



『 俺の服で大丈夫かな? 』


『 うん、大丈夫だと思う。

  私、手とか洗ってくるから。

  ジョニーは、血を優しく抑えてて。 』


『 分かった。 』


『 ガーゼと包帯と消毒液

  ありったけ持ってきたよ! 』


『 テーブルの上に置いておいて。

  今、メアリー手を洗ってくると思うから。 』


『 戻った。

  それじゃあ、応急処置始めるから・・・

  ・・・あ、フローラ。

  姉さんに鍋とかにお湯入れて持ってくる様に言って貰える? 」


「 分かった行ってくる 」




















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