第二話







「 ふぅ・・・、御馳走様でした。 」



「 お外に、少しjogging?でも

  行って来たらどう? 」


「 あんまり離れないようにね 」






手伝いを済ませ

外に出てみたユメカは

途方に暮れていた。






「(そう言われて外に出てみたは良いものの・・・

  行く宛てがある訳でもないし・・・

  どうしたものかな・・・)」






行きと帰りで景色が違って動揺してしまって

挙句の果てに、帰り道を忘れてしまった!

となっては、示しが付かない。

自分は携帯電話も無ければ

お金も無いのだ。


まぁ、最終的には交番を探して

其処で道を聞くなりするしかないのだが・・・

・・・ちょっと散歩に出て迷子になった等という理由で

人様の力を借りるというのも

中々、気が引ける・・・・。



周りを見回しながら

とてとてと迷わない程度に周囲を散策する。

広く、大きな二階建ての家が並んでいる。

然し、所せましと言う訳でも無く

間隔が空いていて。

その間に林や木々が生えてたり生えて無かったりして

家がある、という具合だ。

何かに統率されているというよりは

個人個人が、ここら辺の感覚。

位置がベストだろう、と思った所に建てている。

そんな思考が見受けられる。



僕の母国、日本とはまた赴きの違った風景だ。

日本の統率された、というよりかは

狭い島国だからこそ、より密接に助け合っている様な風景も好きだけど。

こういった風景も、悪くはない。


ふふーん!、流石

我が母国と手を繋いだ国だ!。


でも、やっぱり日本の風景も見てみたいな。

今は、まだ帰れないけど。





・・・そう。

僕の故郷は日本。

僕は、生粋の日本人だ。


そして、僕はまだ

母国には、帰れない。




・・・いつか、また見たいな。

日本の誇り。

温かい。そんな優しさで溢れた。

日本の景色を。






「 ! 」





前方で子供が困った様に辺りを見回しながら

上空に向かって、何度も飛び跳ねている。




「 どうかしたの・・・!? 」




慌てて駆け寄ると

少年は、先程から手を伸ばし続けていたそれに指を指す。


僕は、その方向へと視線を合わせて。





「 (木の枝に風船が引っかかってる・・・

   ・・・ああ!、そうか!

   恐らく、何かの拍子にこの子あの風船を手から離しちゃって。

   そのまま飛んでって、木に引っかかっちゃったのか!) 」






少年は、ただ地面を見て、震えていた。






「 僕に任せて 」




少年の肩に手を添え

そう微笑む、夢火。

小さな少年は、言葉は分からず。

然し、行動。

心からの波動を、心で感じ取り

顔を上げ、彼の瞳を見た。




「 (よし、さて・・・、とは言ってみたものの

   木登りなんて、したこと無いし

   まぁ、なんとかn


「 (高・・・ッ!?) 」




困っている少年の方しか見てなかった夢火。

いざ、木の方に意識を向けてみると

その自身の身長の5倍以上は容易にあるであろう木の高さには驚愕した。


しかも、風船のある地点は、自身の身長のおよそ3,4倍程の地点。




「 (いや・・・、これは・・・流石に・・・) 」








「 (放ってなんて・・・、置けないよな!) 」






夢火は、周囲を見回す。






「 (恐らく、頑張ればあの地点に到達する事は出来るだろう。

   だけど、それには大きく時間も掛かるし

   時間が掛かるって事は、その分だけ

   風船が割れてしまう危険性も高くなるっていう事。

   登るって手段は

   この問題の解決において、確実に最適とは言えない。) 」


「 (何か、何かヒントがあるはずだ!。

   この状況を打破できる何かを生み出せるような

   そんなヒントが・・・!。) 」





住宅の片隅にあった大きな箱に、目が留まる。





「 (あれは・・・、確かゴミ収集用のボックスだったっけ。) 」





その箱に、触れて。

撫でてみたり、軽く指の関節で叩いてみたりして強度を確かめた。






「 (うん!、これなら大丈夫そうだ!。・・・よし!。) 」





箱の取っ手を持って、木の下へ引っ張る。





「 ・・・ッぐ!、重い・・・ッ! 」



「 (予想はしてたけど・・・、やっぱり重い・・・!) 」


「 (僕が小柄で、体も鍛えてないから

   力が足りてないって言うのもあるんだろうけど。

   金属で作られてて、厳重に作られてる分、重いんだ・・・!。) 」


「 (・・・でも、思った程、動かしずらくはない。

   ・・・そうか!、ローラーか!。

   ゴミ収集用のボックスだし

   動かす事を想定して作られているから・・・!。) 」


「 (何にせよ・・・、でかした!。

   木の下まで運べたぞ・・・!。よし!。) 」




夢火は、手筈通り。

それを登って、上に乗り。

箱を土台にして、木を見上げた。





「 (・・・ダメだ。まだ遠い。

   ジャンプしてじゃ、届かない。

   いや、待てよ・・・?) 」



比較的手前の太い枝の根本に目が留まる。




「 (少し遠いけど、あれに摑まれば、もしかしたら・・・!) 」





箱故に、足場は狭い為

走って助走は付けられない。

其処で、屈伸の様に膝を折り曲げ勢いを付けて。





「 よいっしょ・・・・っと・・・ぉ!!! 」




なんとか、手で摑まる。 だが




「 く・・・ッ! 」




届かない!。

圧倒的に届かない!。

手を伸ばすには!、触れるには!

更に、この根本に、登らなくてはならない!。






「 (や・・・ば・・・ッ!、落ち・・・!!) 」




その瞬間。

夢火の脳内に、少年の悲しむ顔が過る。





「  ちて・・・ッ!!

   たまるか・・・あああああああッッッ!!!!!!!!! 」





「 うぐ・・・!!!!!!ッしょ!! 」





なんとか根本の上に登った。

しがみついた拍子に下を見てしまう。





「 (うっわ・・・!、高・・・ッ!) 」





別に頂上な訳でもない。

下からでも十分な高度だった。

だけど、いざ登ってみるとでは景色というか

視点が全く違って。




「 (・・・これ、落ちたら流石にマズいなー・・・) 」




夢火は体を起こし、木の幹で体重を支える様な形で

枝の根本の上に立ち上がる。

そして、目の前にある風船に向かって手を伸ばし。そして。




「 (よし・・・!) 」




風船を掴んだ! 然し!




「 !? 」




風船を掴んで気が少し緩んだ隙に幹から手が滑り

体は落下していく。





「 (マズイ・・・!) 」





今、現在。

自身は風船本体を片腕で抱えている状態にある。

だが、このまま落下すれば

落下した衝撃で体が力んで

風船が割れてしまう可能性がある。


故に、夢火は、風船を離した。

但し、風船の紐は離さなかった。



空いた片腕で体の前方を覆うと同時に

その勢いを利用して体を方向転換。

背中を地面に向けて防御する。



別に医学関係の知識があった訳でも

考えがあった訳でも無いが

ただ、このまま仰向け

・・・と言うよりうつ伏せ?で落下してしまったら

痛い。苦しいと言う事だけは、理解したので

最善の解を実行した。







ガシャーン!






夢火の身体は、箱に打ち付けられ。

跳躍。

地面をゴロゴロと転がっていく。







「 !? 」





少年は慌てて、夢火に駆け寄った。





「 痛たたたた・・・ 」





自身の身体よりも、風船を。

風船は無事。

ふわふわと空中を浮遊していた。

強く打った背中や腕を労わりながら立ち上がり。

夢火は少年に笑顔を向けた。






「 大丈夫大丈夫。

  はい、どーぞ。 」





少年の指を開かせ

その中に風船の紐。

そして、その紐を握らせて。






「 もう、離さないようにね 」






少年は、言葉は発せなかった。

但し、その胸の奥からは

確かに感謝の心を発していて。







ゴミ収集箱をチェックする。

傷やヘコみは出来ていないようだ

良かった。



箱を元の位置に戻し。

その場を後にした。





























「 (さて、何処まで行ったものか・・・) 」






余り、遠くへ行き過ぎると

返って帰り道が分からなくなってしまう可能性もあるし。

かと言って、慎重すぎるのも

進展しない気がするし。




頭を巡らせながら

暫く道なりに歩いていると



















一軒の家。

というよりも、土地に入る外壁の前辺りで

少年は立ち止まった。



・・・何やら、内部が騒がしい。

何事かと、別に英語が分かる訳でも無いのだが

思わず耳を澄ませてしまう。



どうやら、様子を見ている限り

息子らしき人物と

両親らしき人物が

喧嘩・・・、というより

怒鳴り合っている様子。



・・・うーん

怒鳴り合っているというのも

些か、適切では無いのかもしれない。


厳密に言うのなら

息子側が酷く怒鳴っていて。

両親側は、それを宥めつつも

でも・・・でも・・・

と食い下がっているみたいだ。




・・・このままではマズい。


周囲を見渡す。



この行動は、”誰か止めてくれる人はいないのか”という合図ではない。

厳密に探しているのだ。

自身は、この家族について何も知らない。

ぶっちゃけ赤の他人だ。

ならば、親戚か誰か。

身内の第三者が現れ止めてくれる可能性がある。

偶々通りがかった自分よりも

そういった親族の方が影響力は強いのではないか。

そう少年は考えたのだ。



だが、それはどうやら甘えだった様で。

周りには、そんな人物は居なかった。



少年は、敷地に入った。

躊躇いも無く

迷いも無く

言い訳をせず

堂々と、その場所へ赴いた。







『 ジャック!、此処を開けて! 』


『 ふざけんな、クソババア!

  あっち行けっつってんだろ!! 』




物凄い罵倒の声が聞こえる。

英語はわかんないけど。

それが、罵倒だって事は

声色とかで、なんとなくわかる。




「 Ah.... Boy? 」



両親の父親側が気付いた様で

少年に声を掛けて来た。

第三者の介入によって

一度、声はピッタリと止んだ。



僕は、英語は話せないので

身振り手振りで、どうにか意思を伝えようとしたら

二人は、どうにか察した様で互いに少し話すと

僕を家の中へ招き入れた。






暫く、カタコトの英語と

身振り手振りを駆使して話していた。


要するに、事の全容はこうだ。


夫婦の息子は引きこもりで

一切、部屋に出る気配が無く。

食事や荷物の仕入れ運びだし等以外では

全く扉を開く事が無いそうだった。


心配した夫婦は

何度も説得を試みては居たものの

進展する気配はなく・・・と言った具合である。





・・・だが、少年は知っていた。

何か、そんな単純な事柄にしては

様子がおかしい事を。


周囲の目を確認しながら

家の中を散策した。

時には、トイレと偽り。

時には、解決の糸口を探すと言って。

目を盗んで、探索を続けた。









「(・・・やっぱりか)」





材料は、揃った。


何度も探していた為

若干、今日一日では諦めかけてはいたが

遂に、掴んだ。






それは、2枚の写真だった。

恐らく、大学やサークルの写真か何かだろう。

綺麗な笑顔の青年たちや少女たちが映っている。

仲も良さげだ。


だが、次の写真では

明らかに、暗がりが落ちている。

綺麗な地の髪色をしていた人物が

急に、似合ってもいないピンクや緑の色に染めあがっていたり

その笑顔も、鈍く、大きく歪んでいた。


たった二枚の写真だが

そもそも学校内でのサークルだ。

それほど長い期間の話じゃないだろう。


と考えると、何の前触れも無く

突然、こんな状況へと移り変わってしまったという事になる。

本当に、何の前触れも無く・・・。






「 BOY... 」





「(・・・しまった!?)」





















・・・・・・・








追い出されてしまった。

それも、唐突に。

支離滅裂に。

だけど・・・。


これで、ハッキリと分かった。




























放っておけない。




このままじゃ。


あの人たちも

他の人たちも

みんな、悲しむだけだ。

苦しいだけだ。






それから、何度も通った。

何度も、何度も、何度も通った。
















そして。

























「 ・・・本当に、行くんだね、ユメカ。 」


「 ・・・ 」


「 ・・・止めないよ。 」


「 ボクだって、君の立場なら

  ベストを尽くすから。

  助けたいって。

  救いたいって。

  そう、思うから。

  だから、止めない。 」









「 ユメカ 」


「 ・・・マリアさん。 」





















「 一つだけ、約束して。 」















































「 絶対に、帰って来なさい 」







































「 ・・・! 」









少年は扉を開けて

外へと飛び出した。


























『 姉さん 』



『 そっちはお願い 』




『 うん、分かってる 』








貴方はきっと

一人だとしても

必ず、救い出すでしょう。



でも、出来るかどうかじゃないんです。



私は。



貴方を助けたい。



立ち止まって何て、いられない。











メアリーは

机の下にひっそりと置かれたバッグ持ち上げ

それを開く。

中には狙撃用麻酔銃。


それと向き合い。

総てを救う、覚悟を決めると

バッグを閉じて。








『 行ってくる 』





少年の後を追う様に

外へ駆けだした。





























『(二人とも・・・)』




『(行ってらっしゃい!)』






















放っておけない。

そして、此処まで来た。

だって、放って何て置ける訳無いじゃないか。



このままだったら

あの人たちも

周りの人も

悲しんでいくだけだ。

悲しむ人がどんどん増えて。

苦しくなるだけだ。



そんなの。

そんなの嫌だ。

悲しいし。

苦しいもの。




そんなの、放ってなんて、おけないよ。















門の前に、男が一人。

髪は緑色。

コケの生えたような緑色。



殺しだ。

僕を殺しに来たんだ。









標的は、総て。

そう、総て。



立ちはだかるものさえも

総てを、救う為に。

僕は。




















『 何処行く気だ?、クソガキ 』





「 ・・・其処、退いてくれませんか? 」






殴りかかる暴漢。

瞬間避け、一撃必倒。

握った拳が相手の頬に突き刺さる。

怯んだ隙に、下から突き上げる様に正義の鉄拳。

男の頭を天高くカチ上げる。







奥に漂う気配には気付いている。

気配のする方向を見る。







100...、いや150は居るだろうか。

一体は、角材。

一体は、刃物。

一体は、銃器を持ち合わせ。

少年を敵視している。







少年は、飛び込む。































いざ、戦場へ。









































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