第10話 オタクのカフェ通い
「いらっしゃい。おや?」
モダンチックな古風な喫茶店。
マスターはいつも通り、日課であるコーヒーのブレンド研究を行っている中で
久方ぶりの客が姿を現した。
「こんにちはマスター。お久しぶりです」
「久しぶりですね、1か月ぐらいですかね?」
ボクの言葉にマスターはいつも通りの優しい表情を浮かべてそう答える。
「そうでしたっけ?まあここ1か月は缶詰め状態だったからなぁ…」
「コーヒーはいつものでいいですか?」
「あ、今回はカフェラテの方でいいですか?ラテアート始めたって聞いたので」
「わかりました。では出来るまでの間にこちらも試してみてください」
そう言ってマスターはテーブルに付いたボクの前にチョコケーキを差し出してくれた。
「マスター、ケーキも始めたんだ」
「取引先のパン屋さんからケーキも卸して欲しいと頼まれまして。
本格的に出すのはまだ先なんで所謂お試し期間って感じですかね」
カフェラテの準備をしながらこちらの問いに答えるマスターを見やりながら
ボクは一口ケーキをパクリと食べた。
ほのかな苦味と甘みがまるでカフェオレの様に溶け合う様な美味しさ。
コーヒーと共に食べる様に甘みを抑えながらも苦味を押し出してない丁度良い旨味を味わえるそんな感じだ。
「いけるよマスター。美味しい!!」
「気に入っていただけて何よりです。それで今日はお一人で?」
「ええ、所用で出かけてるんでボクだけ一人だけ家にいるのもアレなんでネタ出しも兼ねてという感じで」
苦笑しながらボクはマスターが出してくれたケーキとカフェラテを飲んで楽しく談笑を続けた。
「そういえばもうすぐ“平成”も終わりなんですよね」
「そうですね、早いものです…」
そう言いながらボクとマスターはふと思った。
平成も30年近く経ち、昭和の様に終わろうとしていることに若干自覚ができないっといった感じなのかもしれない。
ボクは昭和の終わり頃の生まれだからあんまりそういった感覚がなかったのもあるけども今は何故か何とも言えない。
新しい年号でどんなことがあろうとも多分ボクの生き方はそんなに変わらないのかもしれないとふと思う。
・・・湿っぽい空気になったので話題を変えるべくボクは口を開く。
「マスターはゴールデンウィークは休まず営業するんですか?」
「いえ、前半はいつもどおりで後半は少し羽を伸ばしに小旅行を企画してますね」
ボクの質問にマスターはそう答えながらおかわりは?とリアクションをしてきたのでそれに頷く。
コーヒーカップを下げながらマスターは話を続ける。
「平成の最後はいつも通りに過ごそうと決めてましたので。変に新年号に合わせるよりはいつもどおりの方がいいかなと」
「なるほど。確かに変に新年号に合わせて新しいこととかやると失敗しそうですよね」
おかわりのカフェラテを貰い、口に入れながら1人で納得するようにボクは頷き、ふと時計を見る。
「あ、もうこんな時間か。ごめんマスター長居しちゃって」
「いえいえ、またネタ出しの為などに伺ってくださればこちらは嬉しいですよ。あとこちらを」
マスターはボクの前に一つの箱が入ったビニール袋を出してきた。
「これは?」
「先程のケーキです。お持ち帰りも計画しているので奥様にも味を吟味していただければ幸いかと思いまして」
「ありがとうマスター。今度は二人で来ますね」
カフェラテを飲み干し、お代をマスターに渡すとボクはもう一度礼を言いながら店を出る。
外は桜も散り、春としては後半といった雰囲気といった空気を風が運んでいた。
「新しい年号か…まあ変わってもボクらはいつもどおりで暮らしているんだろうな~さて、買い物して帰ろう」
春の陽気に堪能しながらボクは終わりと始まりの時を感じながら5月の到来を待っていく。
春はまだまだこれからである。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます